君の愛を奏でて

愛の嵐(?)〜祐介編
――祐介、高校1年の終わり頃――





 3月。
 1年が終わろうとしている私立聖陵学院では、学年末の成績が発表になった。

「結局年間通して全教科TOPだぜ」

「え? 体育だけは違うだろ?」

「だよな。2学期の後半は見学だったもんな」

「ああ、退院してから後のことな」

「それに、スポーツテストは総合一位じゃないだろ? いくら奈月でもさ」

 昼下がり。1年D組の面々が騒いでいるのは、秋に2週間も入院したにも関わらず、やっぱりTOPを走り抜けたクラスメイト――奈月葵のことだ。

「ところがどっこい。2学期に実技が受けられなかった分、筆記で試験受けただろ? あれが大きかったらしい」

「もしかして…」

「そう、当然満点だ」

「まあ、それに関しては、奈月自身が『これって詐欺だよねえ』なんて言ってたからな」

「あとほら、保健体育の試験も凄かったろ?」

「ああ、あれ、酷かったよなあ。確か『喫煙の弊害』に『食品添加物の謎』に『サプリメント依存症』だろ? 教科書やプリントに載ってないことばっかで、わけわかんなかったよなあ」

「そうそう。学年平均点って45点だったじゃん」

「でもさ、斎藤センセは『全部、ちゃんと授業時間内に話した内容ばかりだ』って言ってたぜ」

「時間内ってさあ、全部雑談だったじゃん〜」

「あれ、葵ってば92点だったんだと」

「あの雑談オンリーのテストでかっ?」

「っていうか、奈月でも8点落としたんだ〜」

「そういや、浅井も75点くらいしか取れてなかったよな」

「ってことは、奈月はダントツだったわけだ」

「だよな〜」


 その噂の『奈月葵』は現在音楽ホールにお出かけ中でここにはいない。


「なあなあ。中学までは「全教科TOP」ってお前の専売特許だったもんなあ、浅井」

 ふいに話を振られ、祐介は譜読みを始めていた楽譜から視線を上げた。

 昼休みは大概、葵とは別行動だが、周囲は『どうせ部屋に帰ったらラブラブなんだろうし』と、勝手に納得しているようだ。

「なんかさ、一つくらい奈月に勝てるのねえの?」

 そう言えば、どの教科も、一度も葵の点数を上回れたことはない。

 あるとしたら、スポーツテストの成績くらいだ。

「別に勝ちたいとは思ってないけど?」

 勝ちたいとしたら…そう、『恋人の座』を勝ち取りたい…というくらいだ。

 だが周囲がすでにその『恋人の座』は祐介のものだと信じて疑っていない以上、愚痴もこぼせず、このどうしようもない立場に甘んじるしかないのだ。

 表面はクールに装ってでも。


「んじゃ、キスのテクとかどう?」

「はあ?」

 何のことだと眉間に皺を寄せてみても、周囲はお構いなしだ。

「なるほど! そっちのテクだったら、絶対祐介の方が上だろう?」

「葵ってそのあたり奥手そうだもんなあ」

「そうそう。葵がテクニシャン…とかちょっと考えにくいもんな」

「あなた任せ…が可愛いんだよな、ああいうヤツは」


 ――…勝手に盛り上がってやがる…。


「で、そのあたり実際どうよ?」

「実際って?」

「またまた〜。隠さなくっていいって。そりゃ今は四人部屋だからそうそうチャンスはないかもだけどさ、やることはやってんだろ?」

 やることって、何だよ…とはもちろん聞かない。

 そんなことを聞けば、巨大な墓穴を掘ってしまうことくらい、賢い祐介クンにはお見通しなのだ。 

「二人部屋になったら好き放題だよなあ」

「いいなあ〜」

 妄想逞しく、勝手な想像にうっとりと目を泳がせる男子高校生の群れに、祐介は『アホくさ…』と、そっぽを向いて、疲れたため息を落としたのであった。



END

というわけで、やっぱり単に祐介が不憫なだけの話でした(笑)


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