2017 ハロウィン小ネタ
あの子も大好き、フルーツサンド
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とある日のコックピット。 新千歳へ向けて順調に航行しているシップだが、コックピットには奇妙な緊張感が満ちていた。 コ・パイは雪哉の3年先輩で、昨年エアバスから77へ移ってきたのだが、『憧れの77課』には、そう、この人がいた。 社内一の堅物、査察機長の浦沢周一が。 話は通じるが冗談は通じないと言われる彼は、今日もムスッとした顔つきのまま、完璧に乗務をこなしている。 本日は査察乗務ではなく通常乗務なので、『浦沢キャプテン、ご機嫌よ』…と、チーフパーサーから聞いていたのだが、この人の『ご機嫌』『不機嫌』は全くわからない。 気まずいコックピット。 いや、気まずいと思っているのはコ・パイだけなのだが、あまりに静かな状態が続くと、人間はつい、饒舌になってしまったりするものだ。 「あの、キャプテン」 「なんだ」 「第2ターミナルの地下に、フルーツサンドイッチってのが売られてるのご存じですか?」 「ああ」 「実は、最近雪哉があれにハマってて、しょっちゅう食ってるんですよ」 「ほお」 機長の口調が少々軽くなった。 そう、雪哉のネタなら絶対安全なのだ。 だからつい、調子に乗ってしまった。 「ま、ぶっちゃけめっちゃ可愛くて似合ってるんで、ついコ・パイ仲間でからかっちゃうんですよね。甘い生クリームとフルーツいっぱいのおやつサンドなんて女子供の食いもんばっか食ってるから、お前はちっとも大きくなれねえんだぞって」 あははと笑うコ・パイに、まっすぐ前を向いたまま、いつもと同じ、少々ドスの効いた声で機長が応えた。 「『あれ』は俺も大好物だが」 瞬間、コックピットの温度が外気並みに下がった。 ちなみに現在の外気温は『マイナス45度』だ。 いや、凍えている場合ではない。 「…す、すみませんっ!」 「謝ることはない。食い物の好みは千差万別、十人十色だ」 「は、はいっ」 ちらりと伺った横顔は、やっぱりいつもと同じムスッとした強面で、それで真意を測ろうなんてことは到底無理なお話なのだが、そのとき堅物機長の思考はすでに、雪哉に向いていた。 ――そうか、雪哉も『あれ』が好きか…。 それなら今度、スタンバイ中にでも差し入れをしてやろう。そうだ、メロンジュースもつけてやるか…と、取締役待遇の査察機長は、表情筋をぴくりとも動かさないまま楽しげに微笑んだ。 |
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おしまい。 |
2016年7月に『桃の国日記』に掲載したものを転載しました。
ちなみにこのフルーツサンドとメロンジュースは羽田空港に実在します。
これです!大変美味しいのですv
あの超有名かつ超高級老舗フルーツ店、千☆屋ですのよ(*^m^*)
画像提供はまつさま!
ありがとうございました(^^)v
それにしても、ハロウィンとはなんの関係もない小ネタで失礼しました(汗)。
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