その3





 再び…葵。


 翌朝、目覚めてみれば見知らぬ部屋。

 そういえば…。
 昨日はさんざんだったっけ…。

『コンコン』

 遠慮がちなノックの音に、ビクリと背筋が反応する。

『葵…起きてる?起きてたらここを開けて』

 そうだった、昨夜は鍵を掛けて寝たんだった。

 びくつきながらベッドを降り、そっとドアへ歩み寄り、鍵を開ける。
 そこにはホッとした表情の兄がいた。

「朝ご飯出来てるよ。食べられる?」

 言われてみれば…。
 腹減ってる…。
 





『がちゃん』

 …うわ、またやっちまった。

 ただでさえ家事は苦手なのに、緊張のせいで余計に手が動かない。

 それにしても、葵は優しい見かけの通り、こう言うことが上手ならしい。
 金髪碧眼の兄が、『葵、一緒にやろう』と誘うので、自家製のチョコレートパフェを作り始めたのだが…。

「うわ、葵、どうしたんだよ。やっぱ変だぞ」
「あらあら、葵さま、大丈夫ですか?あ、触ってはいけませんよ、私が片づけますから」

 住み込みらしき家政婦さんは、落ちて割れてしまったコップを手早く片づける。

「あ、あの、ごめん…なさい」

 謝ると、フランス人形のような兄と、佳代子さん…とかいう家政婦さんは、ニコッと笑ってくれる。

「葵さま、やはりお疲れなのですよ。お願いですから今日のところはお休み下さいな。あ、もちろんいつもお手伝い下さって助かっていますけれど、お食事のお片づけも今日はお休みですよ」

「そうそう。昨日の今日だもんな。できあがったらリビングへ持ってってやるから座ってて」

 二人に言われてすごすごとリビングへ戻り、大きなソファーに腰掛ける。

 …どうしよう…。
 今頃、あっちはどうなっているだろう…。

 暫くすると、大きなグラスに目一杯デコレーションされたチョコレートパフェが現れた。

 チョコレートパフェも好きだけと、俺はやっぱ、ホットケーキの方が好きだな…。





 再び…直。
 

 翌朝、目覚めてみれば見知らぬ部屋。

 そういえば…。
 昨日はさんざんだったっけ…。

『コンコン』

 遠慮がちなノックの音に、ビクリと背筋が反応する。

『直…起きてる?起きてたらここを開けて』

 そうだった、昨夜は鍵を掛けて寝たんだった。

 びくつきながらベッドを降り、そっとドアへ歩み寄り、鍵を開ける。
 そこにはホッとした表情の兄がいた。

「朝ご飯出来てるよ。食べられる?」

 言われてみれば…。
 お腹ペコペコだぁ…。






「あ、やる…から」

 そそくさと直が食器を片づける。

「直、危ないよ」

 直が食器に手をつけると、犠牲がでることが多い。

「へ、平気」

 いつもやってたから…とは言えなくて。

 そういえば、直はこんなこと苦手そうに見えた。
 見かけと違って、その気性はどちらかというと『やんちゃ』そうで。

 危なげない手つきで食器を洗おうとすると、横から兄が手を出してきた。

「直、そんなの食器洗い機にいれればいいから」

 いいながら、さっさと片づけていく。

 あ、こんなところにそんなのが隠れてるんだ。
 マンションって初めてだから、何処に何があるのかよくわからない。

「ほら直、ここは俺がやるから、そっちで休んでて。おやつにはホットケーキ焼いてあげるから」
「あ、ありがと…」

 消え入りそうな声でそう告げ、すごすごとリビングのソファーへ向かう。

 …どうしよう…。
 今頃、あっちはどうなっているだろう…。

 暫くすると、ホットケーキを焼くいい匂いが漂ってきた。

 ホットケーキも好きだけど、僕はやっぱり、チョコレートパフェの方が好きだな…。
  



 そして恋人たちの夜がやってくる……。



☆ .。.:*・゜


SIDE:葵


「捕まえた」

 バスルームから出てきたところをいきなり『兄』に抱きしめられた。

「う、うわぁっ」
「葵〜、なんて色気のない声を〜」
「だ、だってっ」

 どーして『兄』に色気のある声を聞かせなきゃならんのだ〜!!

「ま、いいよ、そのうちいやでも可愛い声になるからね」

 ななな、なんだとっ?!

「さ、いこうか、葵」

 言うなり抱き上げられた。

 ちょっと待てーーーーーーーーーーーーーっ!!
 こ、この兄弟まさか…まさか兄弟で『デキてるのかっ』

 昨夜は一人で寝たキングサイズのどでかいベッドにポンッとおろされる。

「葵…愛してる…」

 熱を帯びた唇が、吐息が、近くなって…。

「やだやだやだっ、やめろー!」

 この際、ここの兄弟が、兄弟で出来てようが、何しようが、ナニしようが知ったこっちゃない。

 知ったこっちゃないが、智雪以外の人間に抱かれるなんて、とんでもない。

 智っ、助けてっ!

「葵…?」
「やだっ、俺は…っ!」
「…俺…?」





SIDE:直


「捕まえた」

 バスルームから出てきたところをいきなり『誰か』に抱きしめられた。

「う、うわぁっ」
「おとうさんっ、何やってるんですかっ?!」

 おとうさん?!この人がっ?…めっちゃかっこいいけど…どこかであったことがあるような…。

「直から手を離して下さいっ」

 ひったくられて今度は『兄』の腕の中へ。

「だいたいいつのまに帰ってたんですか?ドイツへ行ったはずじゃなかったんですか?」
「まりちゃんに会いたくて、トンボがえりだよ〜ん」

 またひったくられて『父』の腕の中へ。

「まりちゃん、愛してるよ」 

 あああ、あい、あい、あい〜?!第一、まりちゃんって誰っ?!

「お父さん、いい加減にして下さい…。直は俺のですっ」

は、はいぃぃぃ?!  

「智雪のケチ」
「『ケチ』じゃありませんっ」

 またひったくられて抱き上げられた。

 ちょっと待てーーーーーーーーーーーーーっ!!
 こ、この家族まさか…まさか親兄弟で『デキてるのかっ』

 頭が真っ白になっているうちに、寝室に連れ込まれた。
 昨夜は一人で寝たキングサイズのどでかいベッドにポンッとおろされる。

「直…愛してる…」

 熱を帯びた唇が、吐息が、近くなって…。

「やだやだやだっ、やめろー!」

 この際、ここの親兄弟が、親兄弟で出来てようが、何しようが、ナニしようが知ったこっちゃない。

 知ったこっちゃないが、悟以外の人間に抱かれるなんて、とんでもない。

 悟っ、助けてっ!

「直…?」
「やだっ、僕は…っ!」
「…僕…?」





 そして…。
 智雪と悟は、腕の中の恋人にこう言った。

「「君、誰?」」



☆ .。.:*・゜



「落ちてくる葵くんを抱き留めたまでは普通だったんだ」

 葵…いや、葵の姿をした直…がいうと、隣では直…いや、直の姿をした葵…がうんうんと頷いている。

 翌日、とるものもとりあえずスタジオへ行った。
 そして、休憩時間中に4人はこそこそと話し合いを始めたのである。

「でさ、一瞬気を失ってたんだけど、次に目を開けたら…」
「僕の目の前には僕がいて…」
「俺の目の前には俺がいたんだ」

 そして、このとんでもない事態を認識できずにオロオロしているうちに、引き離され、それぞれの家へ連れ帰られてしまったのだという。


「どうしよう、智」
 そういって切ない顔で見上げてくるのは葵…。

「どうしよう、悟」
 そういって潤んだ瞳で見上げてくるのは直…。

 表向き兄…の恋人たちは頭を抱えた。

 きちんと話してみればすぐわかる。その心は確かに自分が愛した人のもの。
 だが、見つめる先には、可愛いけれど、違う顔。

 そして何よりも、愛しい人の瞳が他人に向いているのがたまらない。 

 心はここにある…。
 だが、心と身体、両方揃ってこその『恋人』だから…。

 直と葵は、それぞれ恋人の胸にポフっと顔を埋めた。
 とにかく一昨日の夜から、知らない場所で不安のうちに過ごして、心細くて仕方なかったのだ。

 だが…。

 抱きしめていいのだろうか…。

 智雪と悟は、困惑に満ちた表情で視線を絡ませる。

 向こうの腕の中に、自分の恋人…。
 頭ではわかっているのだが、目に入る光景は到底許し難いもので…。




「直くん、葵くん…」

 控え室のドアをいきなり開けたのは、勝手知ったるここの親玉。ディレクターの神崎氏だ。

「わお。こんなことになってるとは〜」

 ヒュ〜っと脳天気に口を鳴らすその目に映る光景は、どうみても恋人同士の親密さ。

「それぞれ相手役のお兄ちゃんとくっついちゃうとはね〜」

 そう、悟の腕の中に直。智雪の腕の中に葵。
 慌てて身体を離す4人は、煩悩まみれの大人には初々しく映るだけで。

「休憩終わるよ、スタンバイして」
「あ、はいっ」
「はいっ」

 あたふたと部屋を出る4人を見送ると、神崎氏はニヤリと笑う。

 なかなかどうして艶っぽい表情だったじゃないか。
 清純派路線の二人も、恋をすると花開くってわけだ。

「ふふっ、演出変更だな…」

 もちろんその呟きは恋人たちには届かなかった。







 ガクラン姿の直が本を片手に緑の木陰に座っている。
 その背後へ真っ白の羽を背負った葵がそっと忍び寄る。
 そして、その耳にそっと何かを囁く…。

 突然言い渡された変更は、こんな演出だったはずなのだが…。



「直くん、振り向いて!」

 急に指示を出され、ハッと顔を上げて振り向く直。

 間近には葵の顔があって…。

 そのとき、カメラ枠の外から手が伸びた。そして、天使の背中をトンっと押した。

「え?」
「あ?」

 バランスを崩す天使。慌てて抱き留めた男子高校生。

 そして…。


 二人の唇が、重なった。


「あっ!」
「ああっ!」

 撮影中にもかかわらず(どうせCMだから音は別録りなのだが)、大声を上げたのはむろん、例の二人だ。

 見るとスタッフは全員ガッツポーズをしているではないか。

「神崎さんっ」
「どういうことですかっ、これはっ」

 詰め寄る『兄』たちに、神崎氏はチッチッチと指を振ってみせる。

「まあまあ…。おかげでとんでもなくいい絵が撮れたよ」
「何が、おかげですかっ」
「話が違うじゃないですかっ」

 なおも詰め寄るラバーズ。しかし、神崎氏は今度は目を丸くしてある一点を指さした。

 見れば…。

 直と葵が唇を重ねたままで固まっているではないか。

「直っ」
「葵っ」

 たまらずに駆け寄って引き剥がす。

 もちろん智雪は直を、悟は葵を…だ。
 しかし、腕の中の恋人は、別の…。

「葵くんっ」
「直さんっ」

 引き剥がしたはずの二人は、またヒシッと抱き合った。

 そしてそれは、直は直の姿と声で、葵は葵の姿と声で発した言葉だった。

「「戻った〜!!!」」
 


☆ .。.:*・゜



 怒濤の撮影が終わった。
 衣装を解き、メークを落として今は可愛い素顔の二人なのだが…。

 隣には不機嫌モード120%の『兄二人』。

「いいじゃんかっ、とにかく戻れたんだからっ」
「そうだよ、このままだったら大変だったじゃないか」

 必死で言い募ってみるのだが、二人の不機嫌は直らない。

「でも…」
「キスした…」

 二人の表情は怒っているのだか、拗ねているのだかよくわからない。

「でもっ、直さんとキスしたのは直さんの心を持った僕で…」
「そうだよっ、葵くんとキスしたのは、葵くんの心を持った俺じゃんかっ」

「だから?」

「だからっ…」

「ともかく唇は触れたわけだ」

 こりゃダメだ。

「う…」

 為す術もなく立ちすくむカワイコちゃん二人。

「これは…」
「もう…」

 そんな二人に…

「「お仕置きだね」」

 見事にハモったラバーズであった。



 
めでたしめでたし(めでたかねーよっ/by 直)


88888GET、nekoさまからいただきましたリクエストです(*^_^*)

リクエスト内容は
『直と葵、身体が入れ替わっちゃった?!どうする、智と悟!!』
…ということで…(^^ゞ

おもしろそうだなーと思ったのですが…。二人が出会うきっかけがなかなか掴めずに苦しみました。
ところが、パパがひょっこり顔を出して…(笑)
あとはもう怒濤の展開でしたv

2大看板息子夢の競演、お楽しみいただけましたでしょうか?
あ、パラレルということで、夢の競演は『夢でのこと』にしておいて下さいね(笑)

nekoさま、リクエストありがとうございました!!

*Mr.Xさまから拝領の超美麗イラストガクランvs天使へ*

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