放課後、3−Dの教室





「そこで、佐助が春琴の手を取る」

 言われたとおりに祐介が動く。

「抱き寄せる」

 この程度なら、特に異存はない。
 しかし…。

「次、押し倒して着物に手を掛け一気にビリッと…」

 ……。



「先輩…。春琴抄にそんなシーンなかったと思いますが…」

 低い声で冷静に抗議してくる葵に、3−Dの委員長は至極真面目に返答をする。

「いいか奈月。これは俺たち、『聖陵学院オールD組』のオリジナル春琴抄だ。文芸大作相手に、いかに新しい風を吹き込んでオリジナル色を持たせるか。斬新な舞台を観客は期待しているからな」


 丸めた台本でビシッと葵の顔面を指す。


(斬新な舞台ねぇ…。結局ラブシーンの多いところが勝ち…とか聞いたけど…)



「いいか、みんなっ」


 内心あきれ果てている葵を後目に、委員長はそこにいる全員に向かって大声を上げた。


「今回A組の『ベルサイユのバラ』は、昇がオスカル役だとばかり思っていたんだが、さっき入手した極秘情報によると、昇はオスカルとマリーアントワネットの二役で笑いを取る寸法らしい」


(はぃ〜?)


 3−Dの教室がどよめく。  


「B組の守は、稀代の色事師・カサノヴァだが、なんでも相手役の数が25人。30分の上演時間で25人切りだ。教室中ハーレム状態と言う噂も聞いている」


(嘘だろ〜)


 教室内にため息が漏れる。



「さらに問題のC組だが、今回悟の気合いの入れ様は半端じゃないらしい。まるで何かを吹っ切ろうとしているかのようだ…と、密偵からの報告だ」


 葵がキョトンとした顔になる。

(そのわりには、隆也の気合いが入ってないよなぁ…)


 葵の不審をよそに、委員長は再び雄叫びを上げた。


「我々は、ゴールデンカップルと呼ばれている奈月と浅井を擁しながら負けるわけにはいかないんだっ!!気合いを入れて行くぞっ!」

「おーーーーーーーーーーっ!!」



(あほくさ…)
 

 奈月葵、15才。
 またしても、縁を切ったはずの女装の日が近づいていた。




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