羽野クンの憂鬱(笑)





 それは寒い2月の午後だった。

 ホールの掲示板に『重要なお知らせ』がでるってことで、俺は茅野と二人、掲示板へとやって来た。

「へ〜。クリニックか〜」

 茅野がそう言い、俺が張り紙の下を見ると…。

「おい、赤坂先生だって」

 マジかよ〜。
 去年の秋、聖陵祭に顔を出してくれたマエストロだけど、あの時は各パートに少しずつアドバイスをくれただけだったよな。

「すげ〜な〜。楽しみだな〜」

 茅野が目をキラキラさせながら言う。
 うん、こんな時の茅野はすごく可愛いヤツだ。

 さて、俺たちがそれぞれのパート練習に向かおうと階段を上がっていくと、そこには…。

 がっちりと浅井に肩を抱かれた奈月の姿が…。

『げっ』

 うわ、俺ってば、なんて声だしてんだよ。
 まるで、カエルが踏みつぶされたみたいじゃんか…。

「よう。熱々じゃん」

 慌てる俺の横で、茅野がニヤッと笑って浅井にそう言った。

 た、確かに熱々に見える…。

 奈月ってば、頬は紅潮していい色だし、浅井もやたらと幸せそうで…。

 やっぱり、こいつらってこうだったのか…。

「おかげさまで」

 浅井が余裕をこきまくった声でへーぜんと答えると、あろう事か茅野のバカがっ…!

「羽野〜。当てられちゃったな〜。悔しいから俺たちも見せつけてやろ〜ぜ〜」

 な〜んて言いだして、いきなり俺の肩を抱いてきやがったっ!
 しかも、思いっきり強く…っ!

「あっ、何しやがるっ! こらっ、茅野っ、離せってばっ」

 引きずられ、暴れる俺がチラッとみた奈月の表情は…。

 おいっ、まさか「君たちもお幸せにね」な〜んて思ってねぇかっ?!

 な、奈月っ、頼むからそんな目で見るなっ。

 俺と茅野はなんでもないっ!


「じゃあな」

 じゃあな、じゃねぇっ、離しやがれっ、茅野の馬鹿力野郎っ!!

 ジタバタ暴れる俺たちの後ろから、浅井の楽しそうな声が聞こえてきた。


『身体で払ってくれていいよ』


 え…? もう、そんなとこまで進んでるんですか…、お二人さん…。

 固まった俺の顔を茅野がにんまりと覗き込んできた。

「そう言えば羽野。この前のメロンパン代…」

「ば、バカ言うなっ、あれはお前のおごりだっていうから…っ」

「……そうだったっけ? ま、いいや、どっかそのあたりにしけこもうぜ〜」

 い、いやだぁぁぁぁぁぁっ!
 離せっ、茅野っ!! 

 俺は、俺は…ノーマルなんだぁぁぁぁぁぁ!! 


お・わ・り

ホントに終わりだよ〜v


羽野くん、貞操の危機(笑)

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