京の町屋のひそひそ話

「待ち人来る」で、葵と悟が脱走した後、栗山家に残された京娘たちは…?





「…ったく、二人ともどこに行ってしもたんやろ」

 煎餅をバリッとかじりながら、真奈美が言う。

「まんまと取り逃がしてしもたなぁ」

 ズズッとお茶をすすりながら晶子が言う。

「けど、ほんまにあの二人、仲ええなぁ」

 わらび餅をつつきながら博子が言う。

 3人娘が顔を見合わせた。


 ここは京のど真ん中。繁華街にほど近い、昔ながらの町屋の座敷。

 くつろいでいるのはこの家の人間ではない。
 この家の子とそのお客はいつの間にかいなくなった。
 玄関に靴がないのだ。



「なんかのはずみに、目が合うと…」
「そうそうっ、なんかこう…」
「瞳で会話してるって言うかぁ」
「微笑みあったりなんかしちゃってるしぃ」
「えーっ、それって、やばくないー?」
「いいじゃん、どっちも綺麗だしー」
「そう言う問題―?」
「そうやでー。美しければ許される」
「でもさ、あんた葵のこと好きやったんとちゃうのー?」
「えー、今でも好きやけどぉ、相手があんないい男じゃぁねぇ」
「勝ち目ないって?」
「うーん、なまじ、しょーもない女に持って行かれるよりいいかもー」
「あー、それって言えてるぅ」
「でっしょー」
「最近流行ってるもんねー。美少年同士のレ、ン、ア、イ」
「はぁぁ…男子校で男子寮だもんねぇ」
「やっぱ、同室同士ってあるのかなぁ」
「あの2人って同級生とちゃうやん」
「1年先輩だよね」
「そうそう」
「じゃ、どこで密会とかするんやろ」
「同室者を追い出して、とか」
「やーだー。追い出される方もまぬけー
「ねーっ」
「やっぱりキスとかしてるのかなぁ」
「まじー?」
「それ以上のことはー」
「えー? それ以上って、何すんのぉ」
「ちょっとぉ、なにかわいこぶってんのぉー」
「決まってるやん、何といえば、ナニ
「どうやってするん?」
「そんなん、したことないからわからへんわ」
「んじゃ、何? やっぱ、あの二人もそう言う関係…とか?」
「あんた、アブナイ本の読み過ぎちゃうー?」
「けどさー、朝、起こしに行っても、ぜったい先に起きてるやん」
「うんうん。あの寝ぼすけの葵がなぁ」
「でさー、昨日さー、二人が練習中に、葵の部屋の掃除に行ったんやんかー」
「…ま、まさか、なんか不審なことあったん?」
「…布団がね…」
「……………」
「………ゴクッ」
乱れてないの、片方だけ
「………………えっーーーーーーー!!!!!」
「ど、ど、ど…」
「どういうことだと思うっしょ?」
「う、うん…」
そう言う事やないのぉ」
「片っぽは使ってない…てこと?」
「あんた鈍いわねー」
「わーわーわー」
「うるさいっ」
「何悶えてんのよ」
「だってぇぇ」
「…で、どっちの布団が使ってないの?」
「…悟さん…」
「ぎゃーーーーーーーっ!」
「やかましいっ」
「だってぇ、それって悟さんが葵の布団に…
「やーん! もう言わんといてーっ!」
「なんでよー」
「今晩寝られへんーっ」
「…な、今晩押入に隠れてよっか…」
「え?」
「マジ…?」


 授業中でも見せないような真剣な顔をつきあわせる、花も恥じらう女子高生3人組。

 その夜、彼女たちが押入にいたかどうかは、神のみぞ知る…。


END


4月23日「桃の国日記」に掲載。
若干の訂正を加えてあります。

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