葵と悟〜誘ってる…?





 肩にひんやりとしたものを感じて、葵はうっすらと目を開けた。

 部屋の中は暗い。枕元の小さなステンドグラスのスタンドが、ほんのりと小さな灯りをともしているだけ。

 時刻を確かめようにも、慣れていない桐生家の客間の中、いったいどこに時計があったかも定かではない。

(あ、エアコン入れっぱなしなんだ…)

 静かに風の音がしている。

(どうしよう…)

 部屋の中の温度はかなり下がっているようだ。

 しかし、エアコンのリモコンが何処にあるのかもわからない。

 僅かに身を捩ってみると、自分を包んでいるものが僅かに声をあげた。

「ん…」

 慌てて動きを止める葵。

(起こしちゃった…?)

 包まれている腕の中からそっと様子をのぞき見る。

 悟は落ち着いた息で、眠りに落ちているようだ。

 ジッとその顔を見つめる。
 目を閉じていても、端正な美しさは少しも損なわれることがない。

(悟って、本当に綺麗な顔してる…)

 そっと指を伸ばして、その唇に触れてみる。

 ほんのりと暖かいそれに、今度はそっと唇を近づけてみる。

 僅かに触れると、身体に甘い疼きが起こった。

 もうほんの少し、唇を押しつけてみる。

 いつものキスの時と違い、頼りないほど優しく柔らかい悟の唇に、葵は何だか嬉しくなって、さらにキスを重ねる。

 そして、ふいに起きる悪戯心。

 葵は小さな舌先でペロッと悟の唇を舐めてみた。

 …瞬間。


「うぐっ…!」


 いきなり強い力で悟に拘束され、唇を深く合わされる。

 夢中で悟の背中を叩き、漸く離されたときには葵の息は完全に上がっていた。

「葵、お誘いありがと」

 悟はこれでもかと言うくらい嬉しそうだ。

「酷い…起きてたんだ、悟…」

 涙目で睨みあげてもちっとも説得力はない。

「葵、もう一度、キスして」
「ね、いつから起きてたの」
「いいから…キスして」
「やだ、教えてくれなきゃしない」
「キスしてくれたら教えてあげる」
「……」



 葵はほんの少し俯いて、小さな声で言った。

「じゃ…目、瞑って」

「葵の顔、見ていたいのに」
「ダメ。キスの時は目を閉じて」

 しようがないな…と呟いて、悟は目を閉じた。

 ややあってから、僅かに触れる暖かい息と…。



「約束だよ。教えて、いつから起きてたの?」

 悟は葵をがっちりと抱きしめてから、告白した。

 そうでもしないと葵はきっと、怒って暴れるだろうから…。 



Ryanさまからいただきましたリクエストです

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