怪奇聖陵学院

闇夜に響く謎の声!
声の正体を探るべく立ち上がった412号室の面々。
謎を探る彼らが見たものとは!
(リクエスト&サブタイトル By まつさま)





 その声を、彼、奈月葵は、音楽ホールから一人で寮に向かう帰り道に聞いた。
 消灯前の点呼も近い時刻のことだった。

「なんだか、すすり泣いてるみたいだったんだよ〜」

「風の音かなんかじゃないのか?」

 ベッドに寝そべっていた陽司がむっくりと起きあがる。


 412号室に戻るなり、楽器を胸にギュウッと抱きしめ、怯えた表情で報告する葵の可愛らしい姿は、それでなくとも煩悩直撃だ。


「だから言ったじゃないか。僕が帰るときに一緒に帰ろうって。なのに、まだ頑張るって言うから…」

 一足先に戻ってきた祐介が、葵の背中をさすってやる。

「うん…」

「ま、葵はちょっと根を詰めすぎだからさ。明日からは祐介と一緒に早めに戻って来いよ」

 涼太が念を押す。

「うん…」





 その声を、彼、早坂陽司は、裏山の雑木林からの帰り道で聞いた。
 夕食後から消灯までの間、一番自由に行動できる時刻のことだった。

「枝の間から漏れてくる感じで、なんかこう、ブツブツ言ってんだよ〜」
「お前、それこそ風の音だってば」

 ベッドに転がって「花と○め」を読んでいた涼太が、顔も上げずに言う。

「でも、陽司、どうして日が暮れてから裏山なんかに行ってたの?」

 葵がキョトンとした顔で訊ねてくる。
 涼太と祐介の視線がぶつかる。

「どうせ一人じゃなかったんだろ…?」
「葵…野暮なこと聞くなって…」
「…あらら…」





 その声を、彼、中沢涼太は、第1体育館からの帰り道で聞いた。
 寮での夕食時間が始まる頃、当然日はとっぷりと暮れている。
 部活後、すべての部員が引き上げてからかなりの時間が経っていた。

「なんだかさぁ、地面から這い上がってくるようなうなり声で…」
「それは…風の音…ってのは乱暴か」

 祐介が机に広げた参考書から顔を上げた。

「でも、涼太、エライね。そんな時間まで一人で残って練習してたんだ」

 葵が可愛い笑顔を振りまきながら言う。
 陽司と祐介の視線が絡まった。

「その時間、第1体育館のコートの照明、落ちてたぞ…」
「…なるほどね。噂の秋…」
「わーーーーーーーっ!!」
「え? 何々? 噂って…」
「いいっ、葵っ忘れろっ」






 その声を、彼、浅井祐介は…。

「わっ、びっくりするじゃねーか! 祐介っ」

 乱暴にドアを開けて飛び込んできた祐介に、部屋にいた3人が振り返る。
 時刻は午後10時、消灯点呼まであと25分だ。

 1時間ほど前のこと、中学生徒会の会長と副会長が喧嘩を始めたと言って、他の役員が前会長に仲裁を求めてきた為に、祐介は中学の寮へ行っていたのだが…。

 喧嘩が収まったかどうか…を聞こうにも、祐介は顔色を変えている。


「雑木林の方から…、へ、変な声が…」
「え…?」


 こうなっては放ってはおけない。
 完全就寝時間も過ぎた午後11時30分。
 412号室の面々は、その声の正体を掴むべく立ち上がった。







「あおい…おんぶしてやろうか?」

 ヒソヒソ声で陽司が聞く。

「何で?」
「コワイだろ?」
「背負われてたら、逃げづらいじゃない」
「お前なぁ、もしかして、俺を置いて逃げる気なんだな」  
「あったりまえじゃない」
「冷たいヤツめ」



 パジャマ姿の4人組が、こっそりと寮を抜け、闇の中を雑木林方面へと向かう。

 葵を中心に、右腕には祐介、左腕には陽司がぶら下がり、涼太は後ろから葵のパジャマの裾を掴んでいる。


「ねぇ、まさかと思うけど、3人とも、怖いの?」
「まっ、まさかっ」

 葵よりもはるかにデカイなりをして、どうしてそんなことが認められようか。

 …その時、梢の間から…。


「みぎゃぁぁっぁぁっ」


「うわーーーーーーーーーーーーーー!」

 蜘蛛の子を散らすように、3人が走り出した。 

 葵一人を残して…。



                   ☆ .。.:*・゜



「ささ、葵さま、上着でございます」
「あ、葵さま、おカバンお持ちします」
「葵さま、はいっ、お靴どうぞ」

 翌朝、やたらめったら甲斐甲斐しく世話を焼く長身3人組の様子を、寮生たちはポカンと眺めている。

「祐介は練習室の場所取り。陽司は掃除当番変わってね。涼太はお昼ご飯の確保。それぞれぬかりなくよろしくね」

 王様・葵はふんぞり返って先を行く。

「ははーっ」

 ひれ伏してついていくのは、前生徒会長と前運動部会長と前代表委員長のそうそうたる面々。

 その光景を見て、何も知らない可愛い中学生たちは思った。

『やっぱり新入生総代は格が違う』…と。








「で、結局なんだったわけ?」

 朝の様子を面白がってみていた守が、部活の時間に声をかけてきた。

「あのですね…」

 葵は背伸びをして、守の耳にヒソヒソポーズを取る。

「え? 猫が○っ○してた?」

 守の目がまん丸く開かれる。
 葵はなぜか神妙な顔で頷いた。

「で、葵はどうしたんだ? 置き去りにされたんだろ?」

 暗いところに取り残されて、さぞかし怖かったのでは…と思う。

「はい。でも、珍しかったんでしばらく見てました

「え? 見てたって…その、にゃんこの行為…を?」

 …よもや葵がそんな行動にでようとは。

「僕が側でじーっと見てるのに、何だか二匹とも必死で、周りなんか目に入ってないんですよ。で、彼らも子孫を残すために必死なんだなぁって…」

 にっこりと笑う葵は、まるで、何も知らない天使のようでもあり、何でも知ってる小悪魔にも見えたりする。

 そんな頭の中では、(雑木林で赤ちゃん生まれないかな〜)などと、思っていたりもするし。

 そして、守はというと、(こいつ、やっぱ大物かも…)な〜んて思っていたりして。
 
 

『声』の正体は『にゃんこ』でしたv
発情期のにゃんこはうるさいんです。
一晩中窓の外で励まれて、寝られなかったことも一度やに二度じゃ…(笑)


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