2003年ホワイトデーSS

『Papa、I Love you』…?の後日談

〜幸せのピンクなトラ☆クス〜




 俺、聖陵学院の生徒。

 そうだな、仮にH…とでもしておこうか。
 あ、言っておくが、この『H』には特に色んな意味はない。

 それと、悪いが学年やクラス、部活なんかの詮索もやめてくれ。

 寮生だ…って事だけは言っておこうか。

 なにしろ全校生徒の9割が寮生っていうこの学校。かえって『寮生じゃない』って言う方が身元が割れやすいもんな。


 え? どうして俺が『仮名』なのかって?

 そりゃあ、俺が『秘めたる恋』をしているからさ。

 俺が入学以来ずっと恋い焦がれてるダーリンはあの人。

 現在高等部1年D組の担任にして、聖陵学院の看板『管弦楽部』を率いているカリスマ教師だ。

 身長181cm、体重69kg。
 マッチョでも貧相でもないバランスの取れた体型は、三つ揃いを着ているときも、上着だけを脱いでいるときも、ワイシャツの袖をまくっているときも、そしてノーネクタイのときですら…とにかくかっこいい。

 誕生日は6月13日。現在34歳。双子座・A型。

『総理大臣占い』によると、総理大臣になった場合は『グイグイ引っ張るワンマン総理』タイプらしくて、支持率は81%程度。

 さすがにカリスマ教師だよな。

『楽器占い』によると『トランペット』で、真面目で正義感が強くて負けん気が強い。

 うん、さすがに俺のダーリン。でもやっぱりトランペットより指揮の方が似合うと思うな。

 ああ、一度でいいからあの指揮棒でぐりぐりされてみたい…。


『アニメキャラ占い』によると『フラ○ダースの☆のネ※少年』だってさ。なんでも芸術的センスありってことだ。でも※ロ少年って絵描きだよな?

 芸術的センス…ってのは当たってるけどさ、それにしても笑っちゃうよな。

 だって先生が『パト○ッシュ…僕もう疲れたよ』な〜んて。……不気味だからやめよ。あ、俺がパ○ラッシュならいいけどさ。

 お。噂をすればなんとやら。

 HRに向かう先生だ。

 今日も渋めのスーツが決まってる。
 ネクタイは淡いクリーム色だ。

 いつもセンスいいよな。

 ネクタイとか自分で買ってるのかな? もしかして、誰かのプレゼントだったり…。

 でも、彼女がいるとか聞かねぇよな。

 ん〜。恋人が『彼女』とは限らねぇか。なんせここは天下の『聖陵学院』だもんな。

 そうそう、学院内での噂はもっぱら昇だけど、昇自体がいろんな先生と噂のあるヤツだから、俺はこれもガセじゃねぇかなと踏んでいる。

 だってさ、『顧問と生徒』『指揮者とコンマス』なんてあんまりにもお約束じゃん。そんな小説ネタみたいなカップル、そうそう転がってねーっつーの。



 おっと、考えごとしてたら肝心のチャンスを逃しちまうぜ。


「せんせっ、おはようございます!」
「ああ、おはよう」

 先生はこれでもかっていうくらい爽やかに微笑んで1−Dの教室へ入っていった。

 へへっ、口きいちまったぜ。今日も占いの通りだな。


『気になるあの人には思い切って声を掛けてみましょう。微笑み返してもらえたら、爽やかな一日になりそうですv』だぜ。


 けど、残念ながら俺、先生に担任をもってもらったことはおろか教科担当にあたったこともない。

 だからきっと先生は俺の名前を知らないんだと思う。

 それがちょっと辛い。でもいいんだ。先生、いつも優しい笑顔で返事してくれるし。

 さて、こんな風に入学以来ずっと先生を見つめてきた俺だけど、今年ついに積年の思いを形にしようと思ったんだ。

 そうだ! もうすぐバレンタイン!

 な、この浮き足だった学院の雰囲気をみてみろよ。

 片思いもヤツも両思いのヤツも、ここぞとばかりのお祭り騒ぎだ。

 え? 男子校でなにやってるって?

 いいじゃん。好きなもんは好きなんだ。
 人を愛して何が悪い。愛は地球を救っていうじゃねーか。

 俺は先生を愛してるし、毎日がこんなにも楽しいのも先生のおかげだ。
 感謝の気持ちを表して何が悪いってんだ。

 …でもさ。実際チョコってのは芸がないよな。

 どのみち『その他大勢』で埋もれちまうにしても、なんかこう、インパクトのあるっていうか、俺のこの情熱をストレートにドカンと伝えられるものってないかなぁ。

 …そんな風に悩んでた俺は、ある日いいものを見つけた。

『下着占い』だ。

『大好きなあの人に幸運をもたらす下着を占っちゃいます〜』…だってよ。

 幸運をもたらす下着か〜。
 うん、俺、先生には幸せになって欲しいし。

 ってなわけで、俺は早速先生の生年月日や何やのデータをインプットした!

 そして、出た結果は…。



 


 ふ〜、ほんっと探すの苦労したぜ。先生の『幸運の下着』。

 何てったってピンク地に黒のハートのトランクスだもんな〜。

 …って、待てよ?
 先生、トランクスでいいんだっけ?

 うーん、見たことねぇもんなぁ…。

 先生はほとんど自宅に帰ることがなくって、学院内の私室に住んでるようなもんだ。

 でも、そう言う先生って他にも結構いるし、何てったって学院長もほとんどここに住んでるから(花の独身だからな)教職員用の風呂って俺たち寮生とは別に完備されてるんだ。

 だから、もちろん、先生の…その…ほら、何だ…『艶姿入浴シーン』って〜の? 見たことねぇし。

 ん〜、でも、確かめる方法ってねぇよな。

 ま、占いで『トランクス』って出たんだから、きっとこれでOKなんだろう。


 こうして俺は、俺から先生への愛の証し…『ピンク地に黒のハートのトランクス』をバレンタインの放課後に、先生の机の上にそっと置いた。

 へへっ。他は全部チョコでやんの。

 このチョコの山の中なら、トランクスは絶対目を引くぞ。

 あ〜、先生がはいてくれたとこ、見てみたい……。

 だって、そうすれば、俺…。






 え? どう言うことだ?
 どうして昇が俺の紙袋を抱えてるんだ?

 先生が帰ってくる姿だけ拝んで行こうと思って、物陰に潜んで先生の部屋の様子を伺っていた俺の前を、昇が鼻歌を歌いながら通り過ぎる。

 両手になにやらいっぱい抱えているんだけれど、あの茶封筒の上からちょっぴり覗いているのは確かに俺のプレゼントが入った紙袋だ。

 当然俺は昇のあとをつけた。
 もちろん帰る先は寮なんだけど…。

 お。あれは守の部屋だ。

 何だ? ケーキの箱をみたいなのを渡したぞ。守もめっちゃ幸せそうな顔で受け取ってやがる。

 ま、まさかあいつら兄弟でプレゼントのやりとりしてるのかっ?
 ったく、美形ってのはナルちゃんだから困るよな。

 そして、昇が次に足を向けたのは、悟の部屋だ。

 昇はそのまま悟の部屋へ入って行ったんだけど、出てきたときにはもう、何にも持ってなかった。

 …ってことは?

 ん〜と、俺はこの事態をどう分析すりゃあいいんだ?

 そしてその後、俺は『幸運のトランクス』の消息を知らないままに悶々と数日を過ごした。





 そしてある日の夜。

 ………………あれは、俺の『幸せのトランクス』じゃねえか…?


 信じられないことに、俺は寮の風呂場でそれを見た。 

 な、なんであいつがはいてるんだ?



 …それにしても、あいつってあんなにかっこよかったっけ?

 なんか、笑顔もやたらと爽やかじゃん。

 肩とかも逞しいし…。

 そういや、あいつって成績もよかったよな。

 それに、何てったって…。





 俺は、今さらながらに占いの偉大さを痛感した。

 よおしっ、こうなったら『叶わぬ恋』より『身近な恋』だ!

 今日からお前が俺のダーリンだからなっ!

 相手にとって不足ナシ!

 行くぜっ、生徒会副会長! 横山大貴っ!



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 〜恋の下着占い〜
☆ピンク地に黒のハート柄のトランクス☆

この個性的なトランクスが似合うのがあなたのダーリンですv
はいてるところを見ることが出来たなら、あなたに訪れるのはきっと
Happy End…です
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END


トランクスの流れのおさらいです。
センセの机の上→昇の手に→悟の手に→百年の恋もさめると言われて、大貴の手に(合掌)

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