2004年クリスマス企画
君の愛を奏でて
「イブのため息」
おまけ
あーちゃんサイドのショートストーリー
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「おつかれ〜」 「お疲れさまです〜」 中1から高3まで、6学年分の挨拶が飛び交う中、舞台袖や控え室は本番終了直後の充足感と安堵感の入り交じった、独特の雰囲気に包まれている。 今日12月24日は毎年、聖陵学院管弦楽部の定期演奏会の日と決まっていて、僕たちはこの日を終えて漸く明日から冬休みになるんだ。 「藤原先輩、お疲れさまでした」 「あ、初瀬くんもお疲れさま〜」 「ソロ、すごく綺麗でした」 「ほんと? ありがと〜」 初瀬英彦くんは僕の一つ後輩。 去年は中等部の生徒会長と管弦楽部長を兼任して大忙しだった彼も、高等部へ上がった今年はちょっと時間に余裕もできて、首席と言いつつもなかなかいろんなことに気の回らない僕の助けになってくれている。 「でも、残念でしたね」 「…え?」 「あの…先輩、来られなかったんでしょう?」 どうして知ってるんだろう…って、ちょっと不思議に思ったんだけど、僕は初瀬くんを見上げて、うん…と頷いた。 「仕方ないよね。奈月先輩の代わりなんて、他の人にはそうそうつとまらないから」 「それは確かにそうですけど…」 同意しながらも、まだもの言いたげな初瀬くんに、僕はわざと明るい声で言ってみる。 「さ、明日から楽しい冬休み。これで課題さえなかった言うことないんだけどね〜」 「ほんとですね。中学とは比べものにならないくらい課題が出て、ちょっとうんざりしてます」 な〜んて言ってるけど、初瀬くんの成績って必ず1番か2番なんだよね。 だから、課題なんかもきっとあっという間に片づけちゃいそうなんだけど。 でも、僕にはこの課題の量は結構深刻な問題。 だって、僕ってば、いつも学年30番くらいをウロウロしてるし…。 ま、がんばるしかないよね。 できるだけ年内にやっちゃって、お正月は遊びたいし。 「あ、初瀬くんはまっすぐ帰るの?」 「はい、そのつもりです。先輩、よければ…」 「うん、一緒に帰ろ〜」 「はい」 初瀬くんちと僕のうちは、最寄りの駅が同じ。 だから、帰省の時はいつも一緒なんだ。 それから、後かたづけや打ち上げを終えて、僕と初瀬くんは学校をあとにした。 ![]() 2年生になってようやく、『もちろん休暇中だけしか使っちゃダメよ』…と、お母さんが携帯を買ってくれて、先輩との連絡は随分取りやすくなった。 っていうよりは、それまでは先輩に一方的に不便を掛けていた…って感じだけど。 僕はうちに帰ってすぐに――あ、うがいと手を洗ったあとだけど――部屋の机の中においてあった携帯を、充電器に乗せて電源を入れた。 でも、先輩のバイトは結構遅くまでかかるみたいだから、電話があるのはきっと夜。 待ち遠しいな…。 だって、この前電話で話したのは1週間前で――僕が定演前で忙しくて、電話の取り次ぎ時間内に寮に帰れなかったから――、会ったのはもう1ヶ月も前。 でも、でも、もしかしたら、明日は…。 「ねえ、お母さん」 「なあに? あーちゃん」 お父さんが事務所の忘年会で遅くなるから、今夜は僕とお母さん、二人で晩ご飯。 ラッキー…って言ったら、お父さんに悪いんだけど、でも、ちょっとお父さんの前では聞き難いから…。 「あのね、明日の晩、泊まりに行ってもいい?」 「あら…。もしかして」 「うん。先輩のところ」 お母さんは先輩のこと、すごく気に入ってて、先輩がうちに遊びに来てくれた時なんて、ずっとそばから離れなくて困っちゃったくらい。 でも、僕が先輩と遊びに行くときは、いつもすんなりOKしてくれるから助かっちゃうけど。 それに、去年も今年も、夏には先輩のお祖母さんのところにも泊めてもらったりしてるから、もうすっかり慣れっこで。 「明日って、クリスマスじゃないの」 「うん、そうなんだけど…」 「クリスマスまであーちゃんの子守だなんて、可哀相だわ〜」 ……ちょっと、それってあんまりじゃない? 「彼、恋人いないの?」 ……ええと、いるにはいるんだけど…。 「…さ、さあ?」 とりあえず僕にはしらばっくれるしかなくて…。 「あら、知らないの? あーちゃん」 「あ、うん」 「こんなに仲良くしてるのに?」 「ええと…」 お願いお母さん、これ以上突っ込まないで…。 「わかったらお母さんにもちゃんと話してね」 にっこりと微笑まれて、僕は言葉なく頷くだけ。 あー、ドキドキしたー。 ![]() 次の日。 僕が約束の時間より少し早く駅に着くと、先輩はもう来て、僕を待っていてくれた。 それから二人で買い物をして、二人で晩ご飯作って、たくさんのこと話しながらゆっくり食べて。 昨夜の電話で、『課題見てやるからもってこいよ。たくさん出てるだろう?』…って言ってくれた通り、ちゃんと課題も見てくれて。 お風呂に行くと、ちゃんと『クマ柄のお子さま用歯ブラシ』があって。 で、二人で温々と潜り込んだベッドの中、僕が昨夜のお母さんとのやりとりを話すと、先輩はちょっと難しい顔をした。 「…もしかして、お母さん、気付いてるのかも…な」 …え? 「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」 でも、驚いて飛び起きた僕を抱き込んで、先輩はにっこり微笑んで、こう言ったんだ。 「大丈夫。『彰久くんを僕に下さい』って言う覚悟、ちゃんとできてるから」 |
END |
なんだかんだとラブラブです(笑)
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