2007 同人誌おまけ本
君の愛を奏でて2
〜葵のハロウィン物語〜
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「羽炉右ぃん?」 「そ。破露鵜院」 「なんやそれ?」 「アメリカとかの風習で、十月三十一日にかぼちゃを食べる行事らしいわ」 「それ、冬至と違うん」 「冬至にかぼちゃ食べるんは日本。うちが言うてんのはアメリカのこと」 「ふうん。アメリカ人もかぼちゃ食べるんや」 「そら、パンプキンパイってのがあるやん」 「あ、そうか。あれかぼちゃやなあ。でも、かぼちゃなんてオンナ子供の食べるもんやし、僕は別にどーでもええけど」 「あんなあ、葵。あんたかてまだ子供のクセになに生意気言うてんねん」 「あ〜、何するねんっ、痛いやないか〜」 「へへ〜、あんたはまだ十一歳やけど、うちはもう十二歳やし〜」 小突かれたおでこを撫でる僕に、由紀は挑発的な流し目を送ってきた。 ここは京都。 祇園の一角にあるこじんまりとした京町屋。 僕の家。 小学六年の僕は、初めて『ハロウィン』って言葉を由紀から聞いたんや。 けど、由紀も本当のところはようわかってへんみたいやったから、僕はお母さんに聞いてみた。 そしたら。 「ああ、そう言うの、聞いたことあるなあ。高島屋の方へ行ってみたら賑やかに何やら飾ってあるし」 「へ〜」 「なんや、葵、見てみたいのん? それやったら今度のお休みに連れてったげるけど」 「あ、ううん。別に見たいわけと違う。由紀がなんや、かぼちゃを食べる日やとか何とか言うてたし」 「かぼちゃ、食べるて?」 「うん」 「そら違うんとちゃう? かぼちゃは食べるんと違うて、飾るもんやで」 「え、そうなん?」 「お母さんもあんまり詳しゅうは知らんけどな。…ああ、そうや。重ちゃんに聞いてみ? 何年もヨーロッパにいはったし、アメリカにも何べんも行ってるて言うてたから、よう知ってはんのと違うやろか」 そっか! 栗山センセや! 由紀を連れてセンセのところへ聞きに行こうと思てたら、ちょうどセンセがやってきて、僕と由紀はほんとの『ハロウィン』を教えてもろた。 正しくは『万霊節の前夜祭』。 万霊節ってのは死んだ人たちが帰ってくる日――つまりお盆みたいなもんらしい。 「それにしても、センセ、やっぱり物知りやなあ」 「そんなことないで? 西洋の知識はあっても、肝心の日本の古いことはさっぱりや」 「そんなん、お母さんに教えてもろたらええやん」 「そやな。綾乃に教えてもらうのが一番やな」 そう言うて笑うセンセはドイツ語も英語もぺらぺららしい。 僕らがせがんでも聞かせてはくれへんのやけど。 でも、中学の英語のセンセが言うてはった。 『栗山先生は、英語の先生よりも発音上手なんやで』って。 ええなあ。僕も英語とかドイツ語喋れるようになってみたい。 で、そうそう、ハロウィン。 かぼちゃを食べる日やなかったけど、お菓子がもらえるってことがわかった。 「なんや〜。お菓子もらえる行事かいな〜。それ、はよ言うて〜な〜」 って言うたら、センセが、ハロウィンパーティを開いてくれることになったんや。 ![]() 「あ〜面白かった」 いっぱいにお菓子を抱えてる僕の横で、センセが何故かぐったりしてる。 「あのなあ、葵」 「うん」 「『悪戯かお菓子か』…って言うたやろ?」 「うん」 お菓子くれへんかったら悪戯するで〜…って脅かして、お菓子をせびるんやって聞いた。 「なんで、両手いっぱいにお菓子もってて、しかも悪戯三昧やねんな」 …あ〜。ええと。 「そやかてセンセ。お菓子もらえへんかった時に備えて、由紀と悪戯の用意しててんもん。せっかく凝ったイタズラ用意してたのに、もったいないやん」 「もったいないてなあ…」 火の玉とか濡れた雑巾とか真っ白いさらしの着物とか賽の河原の再現とか。 結構準備大変やったんやし。 「葵と由紀のアレは、悪戯と違って『お化け屋敷』やろうが」 「だって、『お盆の前夜祭』やてセンセ言うやん。それやったらやっぱりお化け屋敷やん?」 「……お盆……」 センセが頭抱えた。 …なんか違ったんやろか。 ![]() 「ってわけで、これが僕のハロウィン初体験」 「ひでー。お菓子は強奪するわ、悪戯はするわ…ってか」 守がソファにひっくり返って大笑いしてる。 「や、だってせっかくのパーティだったし」 あんなこと、したことなかったし、すごく楽しかったんだもん。 あれから七年。 今の僕の生活は、あの頃にはまったく予想もしなかった状況で、桐生家のリビングは現在ハロウィン一色。 そもそもこの家は生活様式が洋風だし、香奈子先生もしょっちゅう海外へ行ってるから、特にハロウィンとクリスマスには気合いが入ってる。 西洋かぼちゃはもちろんくり抜かれて飾りになってるんだけど、僕のリクエストで栗かぼちゃがプリンになって登場することになっているし。 「いや、そう言えば昇も同じようなことしたことがあるな」 悟が僕を抱き寄せながら言う。 「え、ほんとに?」 昇を見ると、小さく舌を出して肩を竦めてみせた。 「幼稚園の時じゃん。悟も古いコト覚えてるんだから」 「いや、あれは今でも先生方の間で語り草らしいぞ」 昇ってばいったい何を。 僕が見上げると、悟が呆れた顔で教えてくれた。 「園庭に落とし穴掘ったんだ」 ………え〜! 「ひど〜い」 「だろ?」 「誰か落っこちたの?」 けが人が出てたら大変じゃない。 でも…。 心配した僕を見て、悟と守が指さしたのは、誰あろう、穴を掘ったその人――昇だった。 「こいつ、自分で掘って自分で落ちたんだ」 「あの〜、それってわざと?」 「まさかぁ。狙ったのは気にくわないセンセだったんだけどさー」 あ、確か昇の金髪をからかった先生がいたって話、聞いたことがある。 「掘った途端にバランス崩して自分で落ちたんだよな」 バカだろ〜…なんて言いながら、守が昇のおでこを小突いた。 「あ〜、バカって言ったな〜!」 昇が小突き返す。 二人の小競り合いは、だいたいいつもこんな始まりだ。 「…ったく、懲りないな、こいつらは」 呆れたように呟く悟だって、中学に上がる前には率先してとっくみあいをしてたって香奈子先生に聞いた。 そして、僕はと言えば、こんな風に喧嘩――じゃれあいとも言う――のできる兄弟なんていなかったから、何だか嬉しくなって…。 「あ、こら、葵!」 悟の腕を抜け出して、僕も参戦してしまったんだけど、いつの間にか悟も輪の中にいて…。 結局。 かぼちゃのランタンのいくつかに被害が出て、帰ってきた香奈子先生に、『大学生にもなって』…と、四人揃ってこってりと絞られたのだった。 |
END |
というわけで。
アホ話ですみませんでした(^^ゞ
ま、一種のお祭りということで、お許し下さい。
ほんと、アホな兄弟たちだ…。
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