2010 ハロウィン企画

君の愛を奏でて2

〜葵のクマ物語〜




 僕がそいつを初めて見かけたのは、その現場に、とある音楽イベントの作曲と監修を依頼されて下見に訪れた時のことだった。

 誰もが知る、巨大テーマパークであるその現場には、たくさんのレストランやショップがある。

 その中でも小さい部類に入るであろうカントリー風のその建物の中は、そいつ一色に染まっていて、どこを見てもそいつしかいない。

 大きさは様々で、種類も色々とあるようだが、とにかくここは、「そいつ」を売る専門店なのだ。

 今はまだ、開店前だから、従業員の姿しかないけれど、ひとたびオープンすれば、閉店まで女性客で一日中ごった返すのだという。

 繁忙期には、入店制限があるらしい。
 NETで入店予約が出来るらしいと聞いたのは、もう少しあとの事だったが。

 しかし、確かにそいつは可愛らしい。

 一目で…そう、僕の愛しい彼に、買って帰ってあげようかなと思うほどに。

 けれど、その愛おしい彼も、高校を卒業してからは、さすがにぬいぐるみの数を増やしていない。

 退寮した時の荷物の3分の2がぬいぐるみだったというのは、彼の、彼らしいエピソードとして今でも語り継がれているとか。

 とにかく、買って帰ったものの、『やだなあ。いくら僕でも、もうぬいぐるみは卒業したよ』…なんて言われたら、立ち直れないし…。


 とにかく、彼に関しては僕も色々と臆病になってしまう部分もあり、それから暫く、そいつの事も忘れていたのだが。




 音楽イベントもいよいよ発表間近となり、最終打ち合わせに訪れたそこで、僕の目にまた、そいつが飛び込んできた。

 色が、鮮やかなオレンジだったからだ。

 そう。季節はハロウィン。
 そいつは、ふわふわとした茶色のボディーに、鮮やかなカボチャの衣装をまとい、ご丁寧に頭の上にもカボチャを乗せて、小首をかしげて座っていた。

 大きさはそう…生まれたての赤ん坊くらい…だろうか。


 そしてついに、僕はそいつを買ってしまった。
 優しい葵のことだから、きっと、『本当はいらないのにな』…と思っていても、嬉しげに受け取ってくれるんじゃないかなと思って。



 僕が家に戻った時、葵はまだ帰っていなかった。

 演奏会で地方に出かけていたのだが、飛行機がキャンセルになったので、翌朝の帰宅になるらしい。

 心配だったが、電話口の声に疲れを感じなかったのでひとまずホッとして、僕はそいつを、葵のベッドの枕元に座らせた。


 今、大人気であるらしいそいつ――クマのぬいぐるみは、キョトンとした顔で、枕にもたれて新しいご主人様のお帰りを待っていた。



 そして翌朝。
 帰ってきた葵が、部屋に入るなり大きな声を上げた。

 そして駆け寄り、抱き上げ、振り向いた。

「悟! どうしたの、これ?!」

 喜色満面とはこのことか。

 クマを抱きしめて、ありがとうと何度も繰り返す葵の目が、心なしか潤んでいる。

 …本当に、嬉しかったらしい。
 …よかった…。



 それから。
 クマのそいつは、とんでもない衣装持ちだと言うことが判明した。

 定番衣装の他に、季節ごとにイベント衣装も出るらしい。
 正月用の羽織袴まであるのだと聞いた時には、さすがに驚いたのだが…。


 何故か今、葵のクローゼットの中には、全長20cmほどの羽織袴がぶら下がっている。

 普段着はもちろん、パジャマにレインコートまで持っている。
 当然タキシードも燕尾服もある。
 イベントごとに発売される限定衣装ももちろん揃っていて、今年のクリスマスの分も、手に入れる算段はすでに済ませているようだ。
 
 さらに、色々なキャラクターのコスプレ衣装もあるらしいのだが、葵はコスプレはさせない主義(?)らしい。

 そもそも、『着せ替え』と『コスプレ』の線引き自体、僕にはよくわからないんだけど。


 ともかく。
 成人男子の趣味としては、いかがなものかと思わないでもないが…。


 ま、いいか。葵だから。



 END



 すみません(--;)
 ひねりの一つもない、クマネタでした(汗)
ただ、最後の一言が、君愛における悟と葵の関係のすべてのような気がしますが(^^ゞ

しかし、この頃の桐生家には、赤ん坊がひとりいるはずなんですが…。
葵は赤ん坊にも着せ替えして楽しんでいそうです(笑)

ちなみに、このお話は一部を除いてフィクションです(*^m^*)

というわけで。
クマのモデルは、あのダッ☆ィーちゃんでございました。


ダッ☆ィーちゃんの、クリスマス限定コスが欲しい〜!
でも、パークでしか売ってないのです(涙)

2010.10.30 限定UP
2013.10.27 再UP


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ちなみに、ハロウィン衣装のクマちゃんはこんな感じです(*^_^*)