2008あーちゃん誕生日企画
君愛2から約4年後。さらにさらにさらに大人になった(?)あーちゃんをどうぞ(*^_^*)
〜あーちゃんの聖陵祭 3〜
あーちゃん、高3の聖陵祭
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またしても。 9月に入ってからというもの、僕の親友のご機嫌は下降線を辿る一方だ。 去年もそうだったんだけど、まさか今年もこうなるとは。 相変わらず本人には自覚がなさそうなんだけど、学内でも女の子たちが『浅井くんって秋になると機嫌悪いわよね』って、どことなく遠巻きに眺めてる。 それはそれで、静かで良いんだけど。 だって、2人で学内を歩いてると、どこからともなく女の子たちが現れて、何だかんだと取り巻かれてしまってナイショ話もできやしないから。 反対に、祐介が不機嫌でもお構いなしに僕たちに接する女の子たちもいるけれど、そんな彼女たちは、僕たちのことを『♂』とは見てなくて、『性別・仲間』って感じで普段から接してるからいつでも気楽なんだ。 で、学内では3割という少数派の男友達はと言えば、祐介のご機嫌なんて端から『恋人と喧嘩したに違いない』って決め付けてて、触らぬ神になんとやら。 そんな中、今年も勇気ある(?)数人の女の子たち――こう言うことに物怖じしないのは主に声楽科の子たちだけど――が、僕のところに来て『浅井くん、なんかあったの?』って聞くんだけど、当然本当のことを言うわけにもいかなくて、『秋は何だかもの悲しいんだって』…なあんて適当なこと言ったら、『浅井くんって繊細で素敵』なんて、とんでもない方向に話が転がって行っちゃった。 祐介には内緒だけど。 そんなこんなで色々あるけど、結局のところ、去年と一緒なんだ。祐介のご機嫌斜めの理由は。 10月初旬に行われる僕たちの母校の文化祭である『聖陵祭』。 その目玉である『演劇コンクール』で、よりによって…というか、今年限り的事情で、藤原くんがなんと………光安先生とコンビを組んじゃったんだ! 藤原くん、今年はちびっ子と組んで主演男優賞狙うんだって言ってたらしいんだけど、やっぱり世間――この場合は魑魅魍魎が跳梁跋扈する聖陵学院――がそんなこと許さなかったらしい。 それにしても、藤原くんと光安先生が組むって、どう言うことだろうと思ったら。 去年、初瀬くんと組んで『ゴールデンカップル』の名を欲しいままにした藤原くんは、なんと今年も初瀬くんと同じ縦割りB組でコンビが組める…ってことになったんだけど、今年は生徒会の発案で、教職員組のヒロインと生徒のヒロインのトレードっていう一年限りのイベントが組まれることになったんだ。 で、全校生徒の投票の結果、生徒のヒロイン代表は藤原くんになっちゃったってわけだ。 あ、いうまでもないけど、教職員組のヒロインは我らが翼ちゃんだ。 翼ちゃんと藤原くんがトレードと言うことは…。 そう、傑作なことに、今年の翼ちゃんの相手役は初瀬くんらしい。 これは盛り上がるだろうなあ〜。 でもって、そんな聖陵の情報を、今回僕らにあれこれとリークしてくれているのは、1年先輩で、守の親友・森澤東吾先輩。 聖陵は今年も今が教育実習の時期で、森澤先輩は社会科の実習生として母校・聖陵学院へ戻っているんだ。 そうそう。去年のスパイだったコントラバスの本山先輩は、結局今年度は聖陵の英語科に空きがなくて、理事長さんの息子さんの出身校へ就職した。 ちなみにやっぱり中高一貫の男子校。 本人は『女子校勤務でもウハウハかなあ』なんて言ってたんだけど、女子校はコワイからやめておきなさいって、いわれたらしい。 え?誰にって? 院長センセと理事長さんからステレオで洗脳されたって言ってたけど。 で、今年も上手い具合に森澤先輩が藤原くんのクラス担当かと言うと、そうじゃないんだ、これが。 高3は受験期なので、クラス担当も教科担当も実習生は配属されない。 つまり森澤先輩と藤原くんに接点はないんだけど、ここに一つの落とし穴(?)が。 そう。森澤先輩は、高2の初瀬くんのクラス担当だったりして。 で、それがどうして祐介の不機嫌に繋がるかというと――ま、去年と同じことだけど――こういうことだ。 つまり、森澤先輩曰く。 『翼ちゃんの写真とかムービー撮って、古田に送りつけたらさぞかし喜ぶだろうなあと思って実践してたんだけど、それを知った光安センセがさー、藤原の写真やムービーを浅井に送ったら喜ぶぞって言うんだ。 どう言うことだろうと思って守に聞いたらさあ、そう言うことだって言うじゃん? 俺全然知らなかったから、びっくり…ってか、浅井のヤツ、ちゃっかり校内で恋人作ってたんだなあ…なんて感心しちゃったんだ』 ってことで、『当時中学生だった後輩に手を出してたなんてさあ。浅井もやるなあ』…なんて、えらく感動してたっけ。 森澤先輩は、僕と悟の『正しい関係』を知る数少ない人の1人で、守のとこにもよく遊びに来るし、僕と陽司が仲良いから、僕と先輩も自然に仲良くなった。 優しくて、お茶目で可愛い人なんだ。陽司がぞっこんなのもわかる。 ちなみに2人は今、同じ大学同じ学部の先輩後輩で、しかもラブラブ同居中。なんと、陽司の実家で。 というわけで、森澤先輩は現在、古田くんと祐介の2人から、恨まれているというか、ありがたがられてるというか…つまり、複雑な立場なわけだ。 でもさ、光安先生もやってくれるよねえ。 昇によると、『あれはマジで『浅井が喜ぶ』って思ったみたい』って。 つまり、先生はよかれと思って森澤先輩を唆したわけだ。 祐介も僕たち同様、管弦楽部の『指導OB』だから、しょっちゅう聖陵には行ってる。 だから、藤原くんとも顔を合わせることも頻繁だけど、必ず周囲に誰かいるから、会話だって当たり障りないものだし、ましてや、あれやこれやなんて絶対できない。 つまり会ったところで満ち足りるわけではないんだ。 いつも何だか思いを残して帰っていくことになる。 ま、片想いのうちは、顔を見られるだけで十分だったりするけれど、思いが通じ合ってしまった後は、それだけじゃあダメ…ってのが人間の常というか、それで当たり前というか、それでこそというか…。 つまり、そんなわけでの光安先生的プレゼントなわけ…なんだけど。 そうそう、それに、演目がこれだもん。なんと『マイ・フェア・レディ』。 正直、きわどいシーンはない。原作に忠実に作っていれば…だけど。 聖陵の場合、脚色がコワイ…ってところがあるんだけど、昇情報によると、ちゃんと原作に忠実に、どういう風の吹き回しだか、超真面目にやる気なんだそうだ。ま、一応教職員組だもんね。 となると、先生が森澤先輩を唆したってのも納得。 イライザを演じる藤原くんの可愛い姿を祐介に…って思ったんだろうね、きっと。 ところがまあ、先輩が祐介に送ってくる写真やムービーと来たら、これがまた去年以上に過激なんだ。 いや、くどいようだけど、シーン的にきわどいものは何もない。 じゃあ、なぜ? ヒギンス教授を演じるのはもちろん光安先生なんだけど、長身の先生の、超絶カッコイイ紳士的大人っぷりと、ノーメイクで素の藤原くんが衣装だけ着けてるっていう幼い可愛らしさの間にギャップがありすぎて、肩を抱いてるだけで、まるでそう……援助交際みたいなんだ、これが。 でもって見つめ合おうものなら……なんでこんなにエッチくさく――ぶっちゃけかなりロリっぽくて倒錯的だ――に見えちゃうわけ?…って感じ。 先生も、相手が慣れた(?)翼ちゃんじゃない上に、しかもすごく近しい生徒とあって、最初はちょっとやりにくかったらしいんだけど、今や結構ノリノリらしくて、今年は真面目に作品賞を狙おうかな…なんて言ってるらしい。 ちなみに初瀬×翼ペアはミュージカルの名作『王さまと私』。 ところが肝心のダンスシーンで翼ちゃんが全然踊れないらしくて、初瀬くんの足、踏みまくりだって。 その初瀬くんの『王さま』は、超かっこいいらしい。見事なガタイだもんなあ。顔つきも精悍だし。 う〜ん。楽しみだな〜、聖陵祭。 ☆ .。.:*・゜ いやー、ほんと、面白い学校だよな、聖陵って。 卒業して3年半。 すっかり社会復帰したつもりだったけど、こうして教育実習に戻ってみれば、改めてここの自由奔放さというか、柔軟さというか、そう言うものを思い知らされる。 俺、森澤東吾は社会科の教育実習生として、2週間の予定で母校に戻ってきたわけだけど、今、聖陵は年に一度のお祭り騒ぎのまっただ中。 在学中は俺も聖陵祭をたっぷり楽しんだけど、『演劇コンクール』だけは鬼門だった。 高1の時は危うく女装させられそうになったところを仮病で乗り切り――ただし、共犯を頼んだ相手が悪くて、後々いろいろ大変だった。ちなみに共犯者は守だ――これからもこの手でいくぞと思っていたのに2年目は可愛がってくれた先輩の泣き落としでどうにも身動きが取れなくなって、屈辱の女装を晒した。 しかも相手役は守で、『去年の貸し、返してもらうぞ』とか何とか言いやがって遣りたい放題の触りたい放題。 舞台袖で、ハイヒールで陽司にケリを入れた瞬間は、新聞部のパパラッチにキャッチされて、未だに同窓会でネタにされる始末だ。 …で、3年の時は、悲しいことがあった。 あの時は、親友・守にとって試練の時で、俺はただ見守るしかなくて悔しい思いをしたっけ。 ただ、その守がすでに一児の父ってのがなんだか恐ろしいけどさ。 ちなみに奈月から仕入れたネタによると、麻生もすでに『パパ』らしい…。 …なんか因縁感じるよな。2人とも同じ時期に親になるなんてさ。 しかもまだ21と20だぞ? そうそう、遊びに行ったときに抱っこさせてもらったけどさ、ほんと小さくて可愛くて、てっきり女の子だと思ったら男の子でさ、パーツの一個一個が昇や奈月によく似てて、遺伝って面白いなあって思った。 守や浅井に全然似てないってのも笑えたし。 俺の初恋の人、香奈子先生――これ、陽司には絶対ナイショだけどさ――は、40代でおばあちゃんになっちゃった…って、最初はかなりショックだったみたいだ。 それを聞いた、相変わらず年齢サバ読んでるうちの母親に、『私はおばあちゃんになる可能性はないからよかったわ〜』なんて言われて、俺はおもいっきりビビったわけだけど。 だって、陽司とのことは母親には言ってないしさ、一応。 でも、バカ陽司の、バレバレの丸出しのデレデレ状態だと隠してることにならないのかもな…。ったく、あのバカ。 ただ、俺は高校を出た時から諸事情により陽司の実家――早坂家で暮らしてて、陽司のご両親とお兄さんからはまったく家族同然に可愛がってもらっていて、一年後に陽司が卒業して実家に戻ってきてからは、はっきり言って……ヨメ扱いだ。 んっとに、芸術家の家庭って、オープンっていうか、開けっぴろげっていうか…。 ま、ありがたいんだけどさ…。 って、俺の事なんてどうでもいいんだ。 今日も張り切ってムービー取らないとな〜。 生徒会の思いつき的お遊びの所為で、今回生徒の身でありながら教職員組の主演女優になった藤原って、俺は在学中はほとんど知らなくて、『奈月や浅井が可愛がってる後輩で、中等部管弦楽部の中ではピカイチに上手いヤツ』…ってくらいの情報しかなかった。 4つ離れてるから、見かけることもほとんどなくて、管弦楽部のコンサートとかで舞台に乗ってるの見て、ああ、可愛いのがいるなあ…って程度だったんだ。 だからもちろん浅井とデキてるなんて、これっぽっちも知らなくて、まあ、驚いたのなんの。 けど、今回藤原と接するようになって、なるほどなあ…って思った。 見かけも可愛いけど、中身もすごく可愛いんだ。 そのくせ結構…いや、かなりのしっかり者で、案の定校内でもダントツの人気を誇っているらしい。 それは、藤原が奈月の卒業以降、『ポスト奈月』って言われてるのが物語ってる。共通点多いもんな。美少女系なとことか、小柄で華奢なとことか、素直で可愛いとことか。 あ、もちろん『フルーティスト』って共通点が一番大きいんだろうけど。 でも、本人はそのことにあんまり気付いてないみたいだ。 その点に関しては、『守護霊』とか『SP』とか言われてる初瀬の鉄壁のガードの賜物だ…って、奈月が言ってたな。浅井は複雑だと思うけど。 「あ、森澤先生〜」 お。噂の藤原だ。 この、『素顔に女装』ってのキケンだよな。こいつの場合、可愛らしすぎてシャレにならねえって感じ。 この状態見て、高3男子って誰が思うだろう。 ほんとは中3女子?…って言いたいところだけど、百歩譲って高1? けど『女子』ってところは譲れない。 可愛い子うさぎって感じだ。 奈月も未だに美少女だけどさ、さすがにもうちょっと大人っぽいよな。でも大学3年には見えないけど。 「どした?」 「あの…B組の練習、どんな感じですか?」 「やっぱ、気になる?」 「はい。気になります」 本来縦割りB組のヒロインをつとめるはずだったんだもんな。そりゃ気になるだろう。 「松山先生、初瀬くんの足、踏みまくってるって聞いて…」 藤原にとって、このコンビは『担任』と『守護霊』。どっちのことも心配そうだ。 「いや、そろそろ大丈夫っぽいけど? 昨日あたりからちょっとマシだって、初瀬が言ってた」 うるうるお目目があんまり可愛いんで、ついうっかり頭を撫でながら言っちまったんだけど。 「よかった〜」 撫でられ慣れてるのか、藤原はその事に関してはなんとも思ってない風で、ホッとしたように微笑んだ。 「…ってか、そもそも初瀬ってなんであんなに踊れるわけ?」 ほんと、かなり上手いんだけど、まさか、社交ダンスやってましたってわけないだろうし。 …と思ったら。 「叔父さんが、ソシアルダンスの元学生チャンピオンなんですよ。で、特訓してもらったんだそうです。元々彼、リズム感は抜群ですし」 あ〜、そりゃそうだよな。管弦楽部だもんなあ。 「そっか。いや、ガタイもいいしさ、男前だし、姿勢もいいから見栄えがするんだよなあ」 「ですよね〜。ほんと、カッコイイですよね、彼」 …って、おい。 そんな可愛い顔で嬉しそうにそんな危険なこと言っていいわけ? 浅井が聞いたら噴火するんじゃねえ? だって、ただでさえ、普段べったりなのは自分じゃなくて初瀬なんだからさ。 けど、そんな俺の心配を余所に、藤原はニコニコと嬉しそうに『そっか、よかった〜。ちゃんと踊れるようになったんだ〜』なんて笑ってた。 ☆ .。.:*・゜ 森澤先生って可愛いな〜。 教育実習生だから、もちろん大学生なんだけど、とってもそんな風には見えない。 僕らの学年に混じっても違和感ないと思う。 身長は多分僕と同じ…165cmくらい。一見華奢なんだけど、でも、スポーツマンだから、動きも機敏でかっこいい。 かっこいいけど、でも可愛くって、走り回ってる姿なんか……そうそう、子リスって感じ? 先生の在学中は、接点が全然なかったんで知らなかったんだけど、ずっとテニス部のエースだったんだそうだ。 現在僕の担任の松山先生がテニス部の顧問なものだから、森澤先生もしょっちゅう3−Bに顔を出してて、それで自然に話をするようになった。 さっきなんて僕の頭、撫でてくれちゃったんだけど、僕も思わず撫でそうになっちゃった。 でもそれはいくらなんでも失礼だよね。実習生とはいえ、先生だもん。 実習生と言えば……去年は酷い目にあっちゃった。 だって本山先輩――実習中は先生って呼ばなきゃだったけど――ってば、いつのまにか、しかも大量に写真とかムービーとか、浅井先輩に送りつけてるんだもん。 おかげで聖陵祭の代休の二日間、大変だったんだから。 代休明けの授業で居眠りはしちゃうし、部活でも合奏中の長い休符で意識が飛んじゃうし。 その本山先輩は、結局聖陵の英語科に空きがなかったので、他の男子校に就職されたんだそうだ。 それを聞いた時…ええと、ちょっと残念だったけど、かなりホッとしたっけ。 それにしても。 ヒロイン交換の人身御供にはされちゃうし、トトカルチョのネタにもしょっちゅうされるし、僕ってそんなに遊ばれキャラなのかなあ…。 学年で一番ちっこかった頃ならまだしも、今はもう…なんとか…だけど、165cmあるし、そんなにつつきやすいようには思えないんだけどなあ。なんでだろう? ☆ .。.:*・゜ 件名『今日のは凄いぞ!』 そんなメールが祐介の元にやってきたのは聖陵祭まであと数日に迫ったある日の夕方のこと。 もちろん差出人は森澤先輩。 眉間に深い皺を刻んだ祐介が、ずいっと僕に携帯を差し出して、無言で何かを促す。 はいはい、見てくれって言うんだね。 去年と同じで、祐介の許容量はもう一杯一杯。 あと数ミリで堤防決壊って感じなんだけど、どうにか踏ん張ってるってところ。 それにしてもこの件名。 今日のでなくても十分凄かったんだけど、それに輪を掛けてスゴイとなると……ちょっとわくわく? で、メールを開いてみれば…。 「…うわっ……なんかエロくさ〜……」 現れたのは、衣装やメイク、鬘などを整えた本番仕様の画像の数々なんだけど。 ほんと、先生と藤原くんのコンビで、どうすればこんなにエロエロになるんだろ? あ、ロリエロ…かな? 僕の見方が腐ってるのかなあ。 …や、違うよなあ。だって、悟も守も、『どこがどうとは言えないけど、妙に危ない画像だなあ』って言ってたし。 でもメイク担当の先生(毎年美術部の顧問の先生が担当してるんだけど)、これ絶対わざとだな。 去年のジュリエットで証明されてるように、藤原くんだってメイク次第で凄く大人っぽくなる。 なのに、これはわざと幼い風に作ってるとしか思えない。 もあしかして、『マイ・フェア・レディ 援交風』にしようなんて思ってるんじゃ…。 …って、数枚の画像の後、最後の画像を開いてみれば…。 「なにっ、これっ」 思わず大声出しちゃった。 だって、最後の画像と来たら、藤原くんの衣装がセーラー服に替わってるんだもんっ。 あ。森澤先輩のメッセージがついてる。なになに…。 『めっちゃ可愛いだろ? 当日のサプライズで、藤原の登場シーンの衣装がセーラー服になったんだ。あんまり可愛いんで、衣装担当の先生たち、『白い目で見られながらセーラー服を探し回った甲斐があった』って泣いて喜んでたし〜。 あ、これオフレコでよろしく!』 ……腐ってる…。 腐ってるけど……確かに可愛い。 や、可愛いどころか……これは非常にマズイ。犯罪的にマズイ。 ってか、先生たちって真面目に作品賞狙ってたんじゃ……。 「…と、祐介、見る?」 僕がエロくさいだの、なにこれだの言うたびに、顔が引きつってた祐介だけど、一度も携帯返せとは言ってこなかった…んだけど。 「……いい」 あらま。やせ我慢しちゃって。 「ほんとにいいの?」 「いい。だってどうせ、ロクでもないのに決まってる」 憮然とそう言う祐介に、僕は『じゃあ、画面閉じておくね』…と言いつつ。 つい、出来心でセーラー服姿を待ち受け画面に設定してしまった。 「はい」 「……ん」 そんなことともつゆ知らず、祐介は、ぶすくれたまま携帯をポケットに突っ込んで…。 それから1時間ほどあと。祐介の携帯にメールが着信した。 学内オケの弦楽器メンバーとミーティングの約束があったので、その待ち合わせの件だろうと思ってみれば。 …しまった。忘れてた。 画面を凝視したまま硬直してしまった祐介の魂は彼方へ行ったきりになってしまい、その夜のミーティングはお流れになったのであった。 え? 今年も聖陵祭の代休の二日間、祐介が音信不通になったかって? 電源切ってたとこ見ると、そうみたいだね。 藤原くん、ご愁傷様。 |
END |
おまけ
教師と元生徒の不毛な放課後。
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「森澤〜」 剣呑な声で翼ちゃんに呼ばれて、俺は慌てて振り返る。 「はい?」 「お前、俺の恥ずかしい姿、古田に送りつけてるらしいな」 …え? なんでばれた? 「や、だって、センセ〜」 「だってじゃないっ」 現に古田は喜んでくれてるんだけど。 だって、いつも『もっとお願いします』って返信来るもん。今度御礼に昼飯奢ってくれるらしいし。 「おかげで俺がどれだけエライ目に…」 「エライ目?」 なんで? と思って翼ちゃんを見れば、心なしか顔が赤い。 これって、ええっと〜……。 「いや、ま、許してやらないでもない」 コホンと一つ咳払いをして、真面目くさって翼ちゃんが言う。 「え? ほんとに?」 「その代わり、ちょっと頼まれてくれ」 「なんですか?」 「俺、これから職員会議なんだけど、ちょっと長引きそうで、劇の練習に出られそうにないんだ。でももう大詰めだし、俺がいなかったらみんな困るしな」 そりゃそうだけど。 「というわけで」 翼ちゃんがニヤリと笑った。 ……嫌な予感が……。 「俺の代役を任命する」 ………。 「えーーーーーーーーーーーーー!!」 ちょ、ちょっとっ、それだけは〜! 「B組の連中には伝えてあるからなっ、がんばれよ!」 無責任に言い放って翼ちゃんはくるりと踵を返して走り出した…と、突然振り返る。 「そうだ、森澤っ。お前、絶対に最終面接パスしろよ!」 「あ、はい」 もちろんできればそのつもりなんだけど。 ここの先生になるのは夢だったし、社会科は定年の先生いるし…。 「教職員組のヒロインはお前に譲った〜!」 は? 「……え〜! せんせっ。絶対お断りですっ」 なんで俺がそんなことをっ! 「やかましいっ。他の私立なんか行ったら承知しないからなっ!」 俺は、走り去る翼ちゃんの背中を呆然と見送った。 そしてその日、俺が初瀬の足を踏みまくったことは……言うまでもない。 |
ちゃんちゃん♪
というわけで、次回は
『翼vs東吾、同僚になったかわいこちゃん、聖陵祭仁義なき闘い』をお送りします(嘘)