2004祐介Birthday企画
君愛2から約2年後。果たして祐介に幸せは訪れたのかっ?!
〜幸福のクマ柄の合い鍵〜
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5月5日。 言わずと知れた『端午の節句〜こどもの日』である。 『Happy Monday』と称して移動祝日が増えた中、4月29日、5月3日、そして5月5日はゴールデンウィーク(GW)の要として不動のままである。 春の穏やかさと初夏の爽やかさが同居した、この心地よい時期に休日を得た者は、家族や友人、または恋人などと楽しい時間を過ごすのだが…。 さて。 ここに本日誕生日を迎えたひとりの大学生がいる。 第一子である姉から遅れること10年。 漸く――しかも端午の節句に授かった男の子に、19年前の今日、彼の父親は狂喜したものである。 そんな父親の影響で、幼い頃からピアノやフルートを嫌々習わされ、しかしそれが高校1年の時のある出会いをきっかけに大きく向きを変え、彼――浅井祐介は現在音大のフルート科に学ぶ1年生になった。 そして今日は、大学入学後、初めて迎えたGWの最終日なのである。 「…はあ…」 しかし彼の口から漏れでるのはため息。 しかしこんなことをしている場合ではないと楽器を構え…。 「…ふう…」 しかしやはり口をついて出るのはため息ばかりなのである。 ここは帰省中の彼の自宅、彼の部屋である。 ほんの一月半ほど前まで高校の寮に暮らし、そして4月からは大学生活に合わせて一人暮らしを始めた彼にとっては、もやは気分は『お客さん』であるのだが。 大学のGW休暇は長い。面倒だから一人暮らしのマンションにいてもよかったのだ。 ただ、なんにも予定がなかったから…。 学校のある日はほとんど一日中行動を共にしている親友の葵は、休暇の開始と同時に兄たちに拉致されて、今は遥か遠く海の向こう。 明日あたりには帰ってくるはずなのだが、大学で顔をあわせるまではわからない。 その他、仲のよい友人たちもバイトだデートだと忙しい。 もちろん祐介だって引く手あまたではあるのだ。 なにしろ彼の在籍する音大と言えば、男女比はおおよそ3:7。 圧倒的に男子学生が少ない上に、祐介はそのルックスだけでも十二分に女子学生たちの意識を引きつけられるのだ。 いや、例え男女比が9:1でも祐介は明らかに『勝ち組』入りだろう。 『浅井くん、GWの予定は?』 『浅井くん、どこかへ行かない? 一日でいいの、つき合って』 あからさまな誘いに、 『いや、GWはちょっと基礎練習に力を入れたいと思ってるから』 などと答えると、今度は、 『浅井くん、伴奏させてくれない? GW中いつでもOKよ』…と、今度は練習絡みで迫られるという有様だ。 けれど、そのあまたの誘いのどれも、祐介の心を捉えることはない。 彼の心を占めるのは、今はすでにあの子だけなのだから。 彼がこの春卒業した私立聖陵学院は、今日まで校内合宿期間になっている。 祐介が在籍していた管弦楽部は聖陵でも『看板』と言われ、学校を代表する部活動だったから、校内合宿のハードさも文化系の部活動とは思えないものだった。 けれど、毎日が充実していた。特に高校3年間は。 もちろん今の状態に不満はない。 不満どころか、私立としてはもっともレベルの高い部類に属する音大に入ってしまったものだから、日々の練習量は高校時代の比ではない。 そして、大親友の葵と過ごす大学生活は、それはそれは楽しくて充実しているのだが。 では何故彼は、今陰鬱なため息などついているのか。 理由は至極簡単。 GWだというのに恋人に会えないからなのだっ! 彼の恋人は、今まさに校内合宿中。 今日はその最終日だが、高校は明日からまた当然のように通常授業に戻るから、とてもではないが会う時間など作れない。 「あーあ。やっぱり帰って来るんじゃなかった」 実家は母校から遠い。 だが、大学へ通うために一人暮らししているマンションから母校はさほど遠くないのである。 両親が帰ってこいとうるさく言うし、恋人は合宿中でデートの時間などとてもではないが取れないし…。 そんなわけで帰省してきたのだが、やっぱり少しでも近くにいればよかったかな…と激しく後悔しているところなのである。 先輩面して合宿を覗きにいってもよかったのだ。 大勢の先輩が今までそうやってきたのだから。 だが、祐介の恋人はほんの一ヶ月ほど前に、1年生にして首席奏者となり、かなりの緊張の中で合宿期間を送っているから、出来るだけそっとして置いてやりたかった。 でも、それも要は『物わかりのいいフリ』をした『やせ我慢』なのだが。 本当は毎日でも顔を見に行きたいし、出来ることなら抱きしめたい。 ついでにキスくらい出来ると万々歳なのだが、まあそこまで欲張っては罰が当たるだろうかと諦める。 祐介はちらっと時計を見遣った。 午後3時過ぎ。 まだ陽は機嫌良く照っているが、雲が多くなってきている。 朝の天気予報では夕方から天気は崩れると言っていた。 「やっぱ、帰ろ」 雨の中を不用意に楽器を持ち歩きたくもないし、どうせ、明日の3講目は出なくてはいけないのだから……と、自分に言い聞かせるように立ち上がったが、なんのことはない、少しでも近くにいたいだけなのだ、恋人の、近くに。 「あら、祐介。もう帰っちゃうの?」 母が不満そうに尋ねてきた。だが、 「うん。雨が降ると厄介だから」 と、楽器ケースを示してみれば、 「それなら仕方がないわね」と、あっさり納得して頷いた。 『葵くんによろしくね』といって、手作りチーズケーキを託され、リュックに楽器や楽譜をしまい込むと、祐介は実家を後にした。 一人暮らしのマンションまでは約1時間。 時間と共に怪しくなっていく雲行きをどうにか振り切って、5時前にはマンションへ辿り着いた。 けれど、今にも空は泣き出しそうだ。 ――今頃何してるかな…。 空を見ても思い出すのは可愛い恋人のこと。 もう合宿もすべての予定を終え、きっとホッとしている頃だろう。 ――今夜にでも電話してみようかな。 学校の寮にいる恋人への電話は不便極まりない。 何しろ携帯電話は全面禁止。電話は呼び出しオンリー。学校のパソコンへのメールという手段もあるが、あちらの接続時間が限られているし、それにやっぱり『声』が聞きたい。 未だに恋人関係に慣れることが出来ず、電話口でそれはそれは恥ずかしそうに、蚊の鳴くような声で返事をしてくれる可愛い恋人の声は、いつでも祐介の気持ちを晴れやかにしてくれるから。 電話をしようと決めると、何故か急に心が晴れた。 出来ることなら、会いたいけれど。 可愛い恋人の笑顔を思い浮かべながら、エレベーターを降りた祐介は、自室のドアの前に人影があることに気がついた。 それは、見慣れた…、つい数ヶ月前まで自分も着ていた制服姿で立っていた。 「先輩…!」 突然の、思いもよらなかった出来事に、祐介は一瞬言葉をなくす。 だが、掛けられた声と、嬉しそうな、でも恥ずかしそうな笑顔に、一気に心の芯から暖かくなっていくのがわかる。 「あ、あのっ」 何も言わない祐介に、つぶらな瞳が不安げに揺れる。 「突然来て、ごめんなさ…」 けれどその言葉を最後まで聞くことなく、祐介は走り寄り、自分より遥かに小さいその身体をきつく抱きしめた。 彼の手には小さな箱。 新緑の季節に似つかわしい爽やかなライムグリーンのリボンがかけられたそれは、恐らく祐介へのプレゼント。 「会いたかった」 「……せんぱ、い…」 「会いたかった。すごく、すごく…」 「…ぼく…も…」 果たしてこの小さな後輩が、その夜の門限に間に合ったのかどうかは定かではない。 そして数日後、恋人が暮らす高校寮の郵便受けに書留がやってきた。 差出人は『浅井祐介』。 中身は…可愛いクマ柄プリントの『合い鍵』。 名刺サイズのメッセージカードにはこう書かれていた。 『いつでもおいで』 |
END |
2004.5.5期間限定UP
2013.11.24再UP
ま、年に一回くらいはいい目を見させてやろうかと(笑)
これも作者の愛です、愛 V( ̄ー ̄)