Happy Birthday!!

ある日のちょっとした光景


届かない想いは
けれども 決して消えることはないのだろう

できるならば
かたちを変えて
いつまでもこの胸の中に......

by ふくらうさま

☆ .。.:*・゜




「ん?」

 信じられないくらい種々雑多な…それも「騒音」としか言いようのない音の鳴り響く中、それでも訓練された耳は自然に違う音を感じてしまうのか。

 祐介は様々な電子音楽が唸りをあげる中で、たった一つ、異質な音を感じ取る。

「葵」
「…」
「葵ってば」
「なに? …ちょっと待って、今……」

 葵は手元に神経を集中させているためか、生返事しかしてこない。

「ふふっ」

 やがて葵が小さく笑う。
 
『それ』は緩やかに降りていき、大きく腕を広げて獲物を狙う。
 
 若干目測を誤ったか。
 僅かに頭の方を掴んで『それ』はまた上昇を始める。

 固唾をのんで見つめる葵。
 しかし、祐介は音が気になって仕方がない。

「葵…」
「よーし! いけー!!」
 
 獲物は揺れながら宙を行く。

 やがて…。

「やった〜!! 7つ目ゲット〜!!」
 
 葵は転がり落ちてきた『クマの○ーさん』を拾い上げた。

「葵…」
「はい、これ祐介の分」
 
 葵は上機嫌で『○ーさん』を差し出した。

「あ、ありがと」




 3月20日。
 高校1年を修了して、現在春休み中の葵と祐介は、それぞれの帰省先がかなり離れているにもかかわらず、待ち合わせて遊びに出掛けていた。

 今日は葵の誕生日だから、どこへでもつき合うよ…と気分はすっかり『デート』な祐介に、葵は可愛らしい笑顔で言ったのだ。

『ゲーセンいこ〜』…と。


 学校の生徒たちは休日に遊びに行ったりもしているようだが、管弦楽部員はそのほとんどが休日も個人練習に当てている。
 もちろん、部活があることだって多い。

 だから、普通なら高校生らしいであろう『ゲームの話題』など、今まで一度も葵の口からは出なかったのだ。

 だからなのか、葵がゲーム…というのもなんだか腑に落ちなかったのだが、それでも二人で対戦…なんて楽しいかな、と思っていた祐介だったのだが…。



 葵のお目当ては『UFOキャッチャー』だったのだ!
 しかも、本日の獲物は『○ーさん』限定。
 
 それも、ここまで1000円に満たない投資額ですでに7個目をGETしているというテクニシャンぶりだ。

 葵曰く、『UFOキャッチャーって、市販されてないぬいぐるみ入れてるからね〜』…なのだそうだが。 

 それにしても『○ーさん』が干支の着ぐるみを着てるようなものまで集めなくても…と、祐介は思う。

 ともかく葵は上機嫌で、今取ったばかりの『○ーさんのティッシュカバー』を祐介にくれたのだ。

 もちろん嬉しいのだが…。



「葵…もしかして、携帯鳴ってない?」

 先ほどから気になって仕方がない『異質な電子音』。
 最初は本当になんなのかわからなかったのだが、春休みの間だけ…と、葵が携帯を持たされていることを思いだしたのである。

「携帯?」
 
 一瞬葵は不思議そうな表情になってから、大きく目を見開いた。

「うわあ! 大変!」

 慌ててパーカーのポケットに手を突っ込む。

 そして…。

 どれほどの時間鳴っていたのか、葵が手に取った途端にそれは静かになってしまった。

「…切れちゃった…」
「長いことお待たせモードだったからな」
「え? そうなんだ」

 どうやら祐介が呼びかけたわけも、まったくわかっていなかったようだ。

「着信表示みてみろよ」
「うん」

 祐介に促され、慣れない電話の操作をすることしばし…。

「公衆電話から…って…」

 葵は少し青ざめた。

 時間もちょうど頃合い。
 自由行動中だろうか。

「あ、悟先輩か」

 祐介もピンときたようだ。

「葵〜、どうする? 電話に出なかったって、悟先輩に怒られたら」

 悪戯っぽい瞳で覗き込んでくる祐介に、葵はギクッと身体を強張らせた。


 悟の葵への執着。
 それはもう、修学旅行中の悟が、葵に電話をかけてよこした回数を聞けばわかろうと言うもので…。

 しかし、葵が『どうしよう』と思ったのは、ほんの数分だったようだ。
 
 取れなかった電話は仕方ない…とばかりに、葵はまた新たな獲物に狙いを定めている。

 今度の獲物は『かごを抱えた○ーさん』だ。




『立ち直り早いよな』

 そんな風に内心呟いてみても始まらないのだが、呟かずにはいられない。

 どうせ、またすぐに電話は鳴るだろう。
 運ばれてくるメッセージは多分『Happy Birthday』。


 そして、それに幸せな顔で答える葵も…容易に想像できちゃうところがちょっと悔しいが。

「8個目ゲット〜!!」

 葵の歓声があがる。

「うそだろ〜」

 どうやって持って帰るんだよ…と、祐介は頭を抱えた。




END


文頭の素敵な詩は、
『私にとっての「君愛」とは、祐介の『愛と青春の物語』です』と仰って下さる
ふくらうさまからいただいたお宝ですv ふくらうさま、ありがとうございました〜!

祐介、愛されてるね〜。がんばるんだよ〜。
いつか幸せがくるかも知れないからね〜(笑)

☆ .。.:*・゜

以上、誕生日のちょっとしたお遊びでしたv

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