君の愛を奏でて2

番外編

『Life is sweet』
後編




「葵!」
「悟!」


 約束の場所。
 何とかジャストタイムで辿り着いた悟はその笑顔を確認しながら、誰よりも大切な恋人の元へと駆け寄る。


「ごめん。待った?」

「全然。だって悟、時間通りじゃない」

 見上げてくる可愛らしい笑顔が眩しい。

「でも葵は早くに着いていただろう?」

「ううん。学校を出たのは早かったけど、ちょっと寄り道してたから、ここへ来たのは3分前くらいだよ」

「何処へ寄ってたの?」

 葵の事なら何でも知りたい。

 悟はさりげなく葵の腰に手を添えて歩き出す。行く先は決まっている。


「えっとね。CD、見に行ってきた」

 だが買い物はしていないようだ。手ぶらだから。

「目的のものはなかった?」

「うん。ほら、赤坂先生の新譜が出るじゃない? もう出てるかなあと思ったんだけど、残念ながら明日の入荷なんだって」

 よりによって父親のCDとは。


「あのなあ、葵。そんなのわざわざ買うことないって」

「え〜、どうして?」

「葵が一言『ちょうだい』って言えば、あの人のことだ、友達にもあげて…とか何とか言って、段ボールいっぱいに送ってくるよ」

「まさか〜」

 あははと笑ってみせるものの、まんざらない話でもなさそうなので、やっぱり自分で買おうと葵は密かに思い直す。


「さ、着いた」

「…わあ…!」

 悟にリードされるままについてきてみれば、そこは観葉植物に囲まれたオープンテラスを備えたお洒落なカフェだった。

 熱くもなく冷たくもない、爽やかな風が吹き抜けて、揺れる緑が目に眩しい。
 開け放したテラスから店内の賑わいが聞こえてくる。


「ここ、チョコパがお薦めなんだって」

「ほんと?!」

 葵の目が輝く。
 そう、これを見たいがために、悟は情報を集めたのだ。


「さ、行こう」

「うん!」



 一際明るいテラス際の席に案内されて――最初は表通りに面したテラス席に案内されたのだが、万一に備えて少しだけ屋内寄りにしてもらった――メニューを開くと、葵のキラキラは更に一層輝きを増し、悟はそれだけで顔を綻ばせる。





「でも、悟は甘いもの苦手なのに、よくこんなお店知ってたね」

 運ばれてきた特大の『スペシャルメイドチョコパ』を頬張りながら葵が尋ねると、悟もまた『スペシャルブレンドEX』という大層な名前のコーヒーを口にしながらニッコリと笑う。


「調べたんだよ。いろいろね」

「いろいろって?」

「最近はNETで検索もできるだろう?」

「あ、じゃあ、わざわざパソコンルームで?」

 まあね、と答えながら、悟は『それだけじゃなくて…』と、カップをソーサーに戻し、葵の瞳を覗き込む。

「ほら、僕たちの周りにはいるだろう? 甘いもの大好き人間が」

「…あ!」

 そう、誰あろう、彼らの兄弟だ。

「NETの評判だけじゃ判断がつかないなと思って、昇や守に聞いてみたら、二人ともここはお薦めだって言うから」

「やっぱり、昇と守はこういう情報早いねぇ」

「昇は先生と一緒に来たことがあるらしい」

「ほんと? あ、でも先生って甘いものあんまり食べないよねえ」

 そもそもそんな現場に遭遇したことがない。

「さあ、どうかな。そう言えば生クリームこってりはちょっと苦手って聞いたことあるけど、焼き菓子だったら大丈夫なんじゃないかな。いつも先生の部屋に置いてあるところを見ると」

「あ、それ、多分…」

「多分?」

「翼ちゃんのだと思うよ」

「松山先生の?」

 葵の担任である松山翼は、悟も高1の時に教科担当だったからよく知っている。

「うん。翼ちゃんてば、甘いもの大好きでね。空き時間が重なったらいつも光安先生のとこでお茶してるんだよ。だから、焼き菓子の買い置きは翼ちゃん用だと思う」

「あの二人、接点なさそうに見えて仲がいいな」

「ほんとだねー」

 葵が小振りの口でパクッとアイスクリームを頬張る。

「葵、鼻の頭にクリームついてる」

「…えっ?!」

 慌てる葵の鼻の頭をペーパーナプキンでそっと拭いてやり、悟は幸せそうに、笑った。



                   ☆ .。.:*・゜



 は〜、やれやれ、やっと終わった。

 ったく、顧問の都合だかなんだか知らないけどさ、何も日曜に会議なんてしなくていいのになあ。

 こんないい天気の日曜日にわざわざ制服着てさー、電車に乗ってさー、2校も回ってさー、気ィ使ってさー。

 ほんと、疲れたぜ。

 さて、さっさと帰って…。


 …そうだ。真路にケーキ買ってってやろう。

 今日は別件でお留守番だからな。
 昼前から生徒会室に詰めっぱなしだろうから、きっと相当煮詰まってるだろう。

 そうそう、確かこのあたりに昇御用達のカフェが…。



 お。あったあった。あれだな。
 イートインならチョコパ。テイクアウトならシンプルないちごのショートがお薦めだって昇のヤツ言ってたっけ。

 真路もいちご大好きだからな。きっと喜ぶぞ…………って、あれは…。


 悟っっ?!


 あいつ、なんでこんな所に…。もしかして、昇と一緒か? それとも守? 

 うわあ…なんて明るい顔で笑ってやがるんだ…。

 そりゃあ、去年あたりから悟のヤツ、変わったけどさ。
 なんてーの? 表情豊かになって、更にいい男…って感じなんだけどさ。

 それにしてもあの笑顔は、昇や守、それに俺たちに向けてるモノとはちょっと感じが違うよな。

 なんだかめちゃめちゃ幸せそうで…。



 …おい、もしかして昨夜悟が眠れなかった原因って、これかっ?!

 所謂一つの…でえと…ってヤツなのかっ?

 くっそう…でっかい鉢植えが邪魔で相手の顔がわかんねえ…。

 うわあ、悟っ、デレデレじゃねえかっ。

 あ、しかもなにっ? 紙なんか持って、手なんか伸ばして、口でも拭いてやってるのかよっ?

 相手は誰だっ?



 …………………………はっ。
 …………………………もしかして、あの人?

 この春から、講師で聖陵に来ている、悟の元カノ…。

 やっぱり、ヨリ戻ってたのか…? 

 よっしゃっ、こっそりあっち側へ回って確かめてやるっ!


 俺は『今度こそは』と固い決意に拳を握りしめ、腰を落としてまずは近くの植え込みに身を潜めた。

 が。

「おや、横山くんじゃないか」

 そんな俺の肩をポンッと叩いたのは、さっきまで出向いていた高校の、生徒会顧問の先生。

「どうしたんだい? 気分でも悪いの?」

「あ、いや、大丈夫ですっ」

「いや、顔色が悪いよ。せっかくの休日だというのに遠くまで来てもらって疲れたんだね。申し訳ない。そうだ、ちょうどいい。僕はこれから出かける所だから聖陵まで送っていくよ」

「いえ、滅相もありませんっ」

 邪魔しないでくれー!

「遠慮することはないよ。さ、すぐそこに車を止めてあるから」

 いやだー! 俺はこれから悟の彼女を確かめるんだ〜!

「そんなに遠慮しないで」

 誰も遠慮なんかしてねえ〜!

「いやいや、本当に聖陵の生徒は奥ゆかしいねえ。さすがに名門校だ」


 …こうしてとんでもない誤解を背負い、俺は拉致され、聖陵へと強制送還されたのだった……。



                   ☆ .。.:*・゜



 日曜の所為かいつものようなラッシュではないけれど、それでも沿線にデートスポットが多いこの路線は、この時間帯、そこそこの混雑を見せている。

 結局ちょっと遠出になり、祐介と彰久は予定より遅い時間の電車に揺られていた。


「大丈夫か? 藤原」

「はいっ、平気ですっ」

 返事は元気いっぱいなのだが、祐介にとっては余裕の吊革も、彰久にとっては若干厳しそうなのは事実だ。

 だがここで中途半端に手を貸しては、『可愛いプライド』に障るかもしれないな…と祐介は苦笑して彰久を見下ろす。

 が、そんな彰久の視線がスルッと流れ…。

「あ、れ?」

 真っ黒な瞳を大きく見開いた。

 自然、祐介はその視線を追ったのだが…。


 ――…おい。出かけるときはあれだけ気配りして、帰りはこれってか?


 少し離れたところに見え隠れしているのは、これでもかと言うほど一目を引く二人連れ。

 背の高いハンサムと、その腕の中に守られるようにして立っている美少年…だ。

 なかなかどうして、二人きりの世界に浸っているようで、チラチラと流される周囲の視線などものともしていない。


「あ、あのっ、あれ、って…悟せんぱ…んぐっ」

「藤原、お前は何も見ていない…」

「む〜?」

 大きな掌でいきなり口を塞がれて、大きな目を白黒させながら彰久は祐介を見上げてくる。


「そうだ、眠くないか? 中等部の朝練、1時間早かったろ? 眠いだろ、な?な?」

 にこやかにそう言いながら手を離してくれた先輩に向かって、彰久は暗示にかかったように、小首を傾げる。


「そ、そう言えば、眠いかも…」

「よし、寝ていいぞ。ちゃんと抱えててやるからな」


 そう言って祐介は片手で吊革をしっかりと持ち直し、もう片手で彰久をしっかりと抱きしめた。もちろんその視界は自分の身体で塞いでしまう。

 実は、そんな姿も車両中のお姉さま方の注目の的なのだが。

 そんな視線に気付きもせず、眠りを誘うように片手でトントンと彰久の背をあやしながら、祐介はため息をつく。


 ――ったく、気配り損ってやつだな。


 でも。

 こうして小さな後輩を抱きしめているのも悪くないけれど。



                   ☆ .。.:*・゜



 そして、その夜。

「おいっ、昇!」

「なに? 大貴、どうしたのさ、慌てちゃって」

「お前、今日悟が出かけたの知ってるだろっ」

「あ?」

「お前のご推薦の店で悟を見かけたんだっ」

「あ……。ああ、あれね」

「悟のヤツ誰と一緒だったんだっ? お前、知ってるか?」

「誰も何も。僕じゃん」

「はあ?」

「今日、悟と僕はチョコパを食べに行った。もっとも悟はコーヒーだけどね」

「…それ、嘘だろ」

「どうしてさ」

「だって、悟のヤツ、めちゃめちゃ幸せそうな顔してたんだぞっ」

「なにさ、大貴。僕が相手じゃ、不幸だっての?」

「そうじゃなくてっ、メロメロのデレデレで…」

「悟も可愛い弟と出かけられて嬉しかったんだろ〜?」

「……………………」

「なにさ、その反応」

「…不気味なんだけど」

「酷いっ、大貴のバカ〜」

「あ、そそそ、そう言う意味じゃなくてっ」


 慌てる大貴から見えないところで、昇が『だって、本当に弟とデートだったんだも〜ん』と舌を出していたことなど、純情単純大貴にわかろうはずもなかった…。



END


100万をGETしてくださったうららさまからいただきましたリクエストです。
リクのお題は…。

『悟と葵のラブラブ♪♪』をお願いします。
できれば、見てるこっちが思わず赤面するくらいラブラブでお願いいたします。
テーマは『打倒祐介!!』です。
どうか祐介くんに葵と悟はラブラブということを見せ付けてやって下さいm(_ _)m




すみません(滝汗)
未だかつてないほどテーマがどっかに吹っ飛んじゃいました(^^ゞ
これというのも、あーちゃんと大貴が出てきたからで(笑)
いやあ、祐介的にはこれが『幸せ』なんです(力説)
大貴的には…ま、これが王道でしょう(おい)
え? 悟と葵ですか?
あそこはもう、勝手にさせておきましょうね(笑)

うららさま、リクエストありがとうございました&遅くなってスミマセンでした〜。

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