君の愛を奏でて2
番外編
ストロベリー・ランチタイム
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…どうしよう。 どうしてこんなテーマになるわけ? 『先輩と一緒に食べるお弁当を作ろう(豪華デザート付き)』 おまけにその先輩ってのが実在の先輩でないといけないなんて、誰が言い出したんだよ…。 あ。ぼくは藤原彰久。聖陵学院中学の2年生。 ちなみに管弦楽部でフルート吹いてる……って、それはこの際関係ないや。 問題はこれっ。 どうして調理実習のテーマがこんな変なものになるんだよ〜! 「はぁぁぁ…。お前はいいよな、彰久…」 黒板に堂々と書かれた今年の調理実習のテーマを見て、ぼくの隣で盛大なため息をつくのは、今年同室になった神山寛樹(こうやま・ひろき)。 でっかくて成績がよくて面倒見のいい寛樹はぼくのクラスの委員長。 部活は剣道なんだけど、ぼくらはその部活以外の時間をほとんど一緒にいるもんだから、クラスのみんなからは『凸凹コンビ』って言われてる。 「なんで『ぼくは』いいわけ?」 ぼくも黒板を眺めて盛大にため息をつく。 「だってさ、どうせお前は管弦楽部の…それもフルートパートの先輩に作るんだろう?」 寛樹が言う『作る』ってのはやっぱりお弁当のことなんだろう…な。 「どーして勝手に決めるの」 「だってさ、お前いつも二言目には、浅井先…」 「わっ、いきなり何言い出すんだよっ」 ぼくは慌てて寛樹の口を塞ぐ。そして、辺りを見回す。 …よかった。誰にも聞かれてない。 「…ふは〜。苦しいじゃないか、お前こそいきなり何するんだよぉ」 わざとコワイ顔を作ってぼくを睨む寛樹。 でも全然こわくなんかないよ。寛樹が本気で怒ったりしないの、知ってるもんね。 「…いいの。どこで誰が聞いてるかわかんないんだから、不用意に先輩の名前、言わないで」 「どうしてだよ…って、まあ、わかるけどな、その気持ち」 寛樹は中2とは思えないほどがっしりした肩をひょいと竦めた。 「確かにふつーの先輩じゃねえもんな、管弦楽部のあの辺りの人たちは」 「でしょ?」 親衛隊だとかなんだとか、いっぱいいるんだ。浅井先輩には。 先輩は知らん顔してるけど、でもみんなそんなことお構いなし。勝手に騒いで勝手に盛り上がってる。 僕なんて、管弦楽部のフルートパートってだけで、なんだかんだと絡まれるもんね。 まあ、ただ言葉で絡まれるだけで済んでるからいいんだけど。 だから、音楽ホール以外の場所で、不用意に先輩の名前なんて口に出来ないんだ。 でないと、『ちょっと知り合いだからと思っていい気になってんじゃないよ』…なんて言葉が飛んで来るんだもん。 「でもさ、そうなると競争率も並みじゃねえよなあ」 へ? なんのこと? 「競争率?」 「そ。人気の先輩には手作り弁当が集中するってことだ」 「あ、なるほどね」 「でもさ、弁当作ってあげたい先輩がいるヤツはいいよな。俺なんかさ、食べてほしいヤツ、後輩だもんな…」 …ええっ。寛樹ってば中1に…? ど、どんな子だろ…どきどき……。 ![]() ぼくがいる、ここ聖陵学院は男子校だっていうのに年に1回調理実習があるんだ。 なんでも、今の院長先生が副院長になった時からのカリキュラムで、その理由っていうのが、『いい男は料理もできる』とかいう訳の分からない理念――ただの思いこみだ…って先輩方は言うけど――で始めたことなんだそうだ。 だいたい、年1回の実習で身に付くとは思えないしね。 でもって、恐ろしいことにこの調理実習はただの調理実習じゃないんだ。 なんと、中1から高3まで、それぞれ生徒の投票でテーマを決めて、実習をするんだ。 ちなみに中1のテーマは『とりあえずご飯を炊こう』。 これだけは毎年の『恒例』らしい。ご飯が炊ける子なんていないから。 毎年一人は『お米を洗って』って言われて、洗剤入れる子いるらしいし。 あ、ぼくはそれくらい知ってるよ。お米を洗うっていうのは、お米を水で研ぐことだって。 去年ぼくたちもご飯炊いたけど、結構上手に出来た。 …まあ、実際炊いてくれるのは炊飯器だけど。 でも、ちゃんと炊けたご飯をおにぎりにしたんだよ。梅干し入れて、海苔巻いて。 なんだか美味しくて、たくさん食べたっけ。 で、とりあえずご飯が炊けたら、中2からはいろんなテーマに挑む…ってわけなんだけど。 それにしてもいきなり『デザート付きのお弁当』は高度すぎるよねぇ…。 そうそう、今年の中3のテーマは『中国四千年の歴史に挑む』。 なんて大それたことを…と思ったら、要はラーメンが食べたいだけのことらしい。餃子チームもいるらしいんだけど。 で、高1は『ドイツの家庭料理』。 これは言うまでもなくアニー先輩の影響。 アニー先輩、『日本食の方が絶対美味しいのに…』って言ってたんだけど、ほんとかな? 高2は『古都・京都のおばんざい』。 これも言うまでもなく絶対に奈月先輩の影響。 去年は抹茶料理だったし。 でも奈月先輩は『沖縄料理がいいのに〜』って文句言ってた。 『どうして沖縄がいいんですか?』って聞いたら、『長生きできそうだから』って言ってたっけ。 あと、高3は『納豆百珍』。 これは昇先輩の主張なんだって。そうじゃないかと思ったんだけど。 先輩、『苦節6年。やっと主張が通った』って泣いてたっけ。 そりゃあ、納豆嫌いな人、多いもんね。 でも昇先輩の納豆好きは有名なんだ。 みんな入学して最初に『金髪のお人形みたいな人がいる』って驚いて、次にその人が学食で嬉々として納豆かき混ぜてるのを見て『現実の厳しさを知る』んだ…って先輩方は言うけど。 そうそう、『百珍』ってなんだろうと思って、寛樹たちとパソコンルームへ行ってネットで検索してみたんだ。 そしたら『豆腐百珍』って言うのが出てきた。 これは江戸時代のお豆腐料理のレシピ本なんだって。 で、100のレシピが入って『百珍』。すごいよね、お豆腐だけで100品だよ? ぼくだったら、冷や奴と湯豆腐と揚げ出し豆腐くらいしか思いつかないけど。 それにしても納豆で100品もキツイよね。 ぼく、普通に食べる以外は納豆スパゲティと納豆オムレツと…ええと…納豆チャーハン、それくらいしか食べたことないなあ。 あ、ぼく納豆は大丈夫。お母さんが『何でも食べられる子に育てたわ』って胸を張るくらい、好き嫌いはないんだ。 あ、牡蠣はちょっと苦手だけと。 ちなみに講師は食堂のおばちゃんたち。 超ベテラン揃いだから、失敗しても最後にはなんとかしてくれるって、先輩たちが言ってた。 でも、おばちゃんたちは通常の仕事で忙しいから、調理実習は中1から順に週1回のペースなんだ。 だから、高3の実習が終わるのは1ヶ月半後。その間は結構調理実習の話題で持ちきり…かな? ![]() 「ねえ、聞いた?」 消灯直前。 もうすぐ点呼って時間に、僕と祐介はベッドでゴロゴロしながら話をしてる。 「何が?」 「ほら、調理実習のテーマ」 中1はいつもと同じらしくて、高2はまったくもって不本意ながら『京都のおばんざい』。 あ、『おばんざい』って言うのは『お総菜』の京言葉なんだけど。 「ああ、なんかいつもに増してユニークなテーマが多いよな」 「だよね。昇なんて、ついに主張通しちゃうしね」 「でも、あれは納豆嫌いには地獄だよなあ」 「あはは、ほんとほんと。でも、もしかしたら納豆の魅力に気付くかも。安くて栄養たっぷりなんだから、好きでいた方がいいもんね」 「そりゃあそうなったらいいけどさ、なんてったって昇先輩の発案だからなあ。なんかとてつもない落とし穴がありそうでさあ」 「落とし穴って?」 「ほら、普通納豆嫌いを克服するのに、匂いを消してみるとか、粘りを取ってみるとかいろいろあるじゃないか」 「うん。あるね」 「あれをさ、昇先輩の場合、『何言ってんの。納豆の醍醐味はこの匂いと粘りじゃん!』とか言って、匂いを増幅するようなことしたり、粘りをさらに強くするようなことしそうじゃないか」 「……否定できない……」 「だろ? 納豆嫌い、増えたりしてな」 そう言って笑う祐介。 でも、マジで否定できないところがコワイよねえ、昇の場合は。 って。 納豆にかまけてる場合じゃないんだ。 「ね。中2のテーマ、聞いた?」 「中2って…。ああ、『お弁当に挑戦』…だっけ?」 「微妙に違うって。『大好きな先輩と一緒に食べるお弁当を作ろう』だよ」 「え? そうなのか?」 「そうそう」 いやいや、本当はこれも微妙に嘘。 正しくは『先輩と一緒に食べるお弁当を作ろう』であって、『大好きな』って部分は僕の創作。 でも、きっとこれは隠されたテーマに違いない。うん。 「えらく大胆なテーマだな」 「中2に気になる子のいる連中は、気もそぞろ…ってとこだよねえ〜」 と、僕はさりげなく祐介に話を振ってみる。 「まあ、そうだろうな」 な〜んて、祐介は関心なさそうなんだけど…。 「そういえば、藤原くんは誰に作るんだろうね」 えへへ、いきなり核心突きすぎかな? そう思ったんだけど、案の定、祐介の表情はあっさりと『不機嫌モード』に変わった。 「……どうせ葵に…だろ?」 「え? 僕?」 それに『どうせ』って何。 まったく、祐介って、わかりやすいったらありゃしない。 「だって、藤原は葵のシンパだからな」 そりゃあね、僕は面と向かって『奈月先輩は僕の憧れなんです!』って言ってもらってるけどね。でも、『本当に好き』なら、そんなこと言えないんだよ、祐介。 「ふうん。じゃあ、もし藤原くんが僕にお弁当作ってきてくれても、祐介には見せてあげない」 「えっ?! なんでそんなイジワル言うんだよっ」 鈍い祐介クンにお仕置きのためですー。 「ふふっ、嘘だよ。それに藤原くんは、僕には作ってこないよ」 「なんでそんなことわかるんだよ」 「藤原くんはね、『本当の思い人』は心に秘めるタイプだから…」 そう言って僕が意味深に笑うと、祐介はかなり複雑な表情になった。 そうそう。そうやってちょっとは気にしなさい。 藤原くんが誰を見つめてるか…じゃなくて、自分の心が本当は誰を見ているのか…をね。 ![]() いよいよ実習の日がやってきた。 時間は土曜日の5時間目。もちろん普段は授業のない時間。 聖陵は進学校だから、たとえ正規のカリキュラムである調理実習でも、普段の授業を削ったりしないんだ。 でもって、原則として『調理即消費』。 実習は学食の厨房であるんだけど、出来上がったらそのまま学食で食べちゃうことに決まってる。 いくら衛生管理は完璧でも、作るのが大勢の『素人』――しかも子供だから――万が一ってことがあるしね。 とういうことで、問題が発生したんだ。 ほら、ぼくたち中2のテーマだと、どうしても持ち出したいと言う子がでるから。 だから、講師である食堂のおばちゃんたちはいろいろ考えてくれて、ご飯は「寿司ご飯」って事になった。ほら、お酢が入ると腐敗が押さえられるでしょ?(って、おばちゃんが教えてくれたことだけど) なので、メインは『ちらし寿司』。 あと、生ものを使わないというのと、おかずはよく火の通ったもの3品まで。 デザートもクリーム類を使わないと言う約束になった。 しかも調理後1時間以内に消費と義務づけられて、それが守られたかどうか、名前入りのお弁当箱の回収をするという徹底ぶり。 でも、そこまで手間をかけてでも、ぼくたちのテーマを尊重してくれるおばちゃんたちに、ぼくたちはみんな大感激しちゃったんだ。 で、その問題の『ぼくたちのテーマ』は、上級生たちの間ですごく話題になっちゃって、中2の中に気になる子がいる先輩たちは、みんなそわそわしてる…って、寛樹が言ってた。 いいなあ…そわそわしてもらえたら…。 なんて思ったとき。 『人気の先輩には手作り弁当が集中するってことだ』 寛樹の言葉を思い出した。 やっぱり浅井先輩にはいっぱい来るんだろうか…おべんと…。 でも、いいや。 作るのは勝手だよね。 誰に作ったのか…は、ぼくの心の中にしまっておけばいいことだから。 「彰久、がんばろうぜ!」 「うん!」 なんだかんだ言いつつも、みんなして盛り上がって調理実習は始まった。 ♪ 「え。お前のめっちゃ可愛いじゃん」 「ほんと?」 メインがちらし寿司に統一されてる以上、勝負は飾り付け…ってわけで、ぼくはせっせと海苔を切っている。 なんの形かというと…。 ほら、4分音符! 8分音符だと、シッポがついてちょっと難しくなるけど、4分音符なら簡単簡単。 後はにんじんを花形の金具でくり抜いて…。 ぼくは、『花のワルツ』っていう曲をイメージした飾り付けにしてみたんだ。 『花のワルツ』は、ぼくと先輩の思い出の曲。 今年の誕生日、先輩に楽譜を買ってもらって、一緒にコンサートにも出た。 だから、ぼくはこの曲が大好きで…。 ええと、ワルツだから3拍子。 3拍子だから、4分音符に切った海苔を3つずつに分けて並べて、その回りににんじんのお花。隙間はピンクの『さくら田麩』で埋めてみる。 デザートはいちごのチョコがけを作ってみた。これ、すっごく簡単だった。 「お。綺麗だな」 後ろから覗き込んできたのは担任の光安先生。 誉められて照れるぼくの肩を抱いて、どうしてだかニヤッと笑ったのが気になったんだけど…。 でも、綺麗って言われて自信がついちゃった。 これ、部活に持ってこ。 フルートパートには先輩がたくさんいるし。 みんな、ぼくの大好きな先輩だし。 『先輩たちと一緒に食べるお弁当』…でもいいよね? あ、後輩だけど、ちゃんと初瀬くんにもあげようっと。 ![]() 実習を終えて音楽ホールに行くと、もう部活は始まってた。 でも、今日はフリータイムのパート練習だけだから、みんな結構のんびりしてて。 「おっ。これがおばちゃんたちを悩ませた、いわく付きの弁当だな」 ぼくが抱えているお弁当箱をみてそう言ったのは、高1の紺野先輩。 「えらいぞ、藤原。ちゃんと持ってきたんだな」 って、ぼくの頭を撫でてくれるから、どういうことかな?…と思ったら、みんなして、待っててくれたってことらしい。 えへへ、嬉しいな。持ってきてよかった。 「うわ、めっちゃ綺麗だヨ〜」 目を見開いて誉めてくれたのは、中3の谷川先輩。 「食べるのもったいないね〜」 そう言ってくれたのは奈月先輩で、初瀬くんは切れ長の目を丸くして『すごい…』って絶句してくれた。 そりゃまあ、『とりあえずご飯を炊こう』に比べると格段に高度だもんね。 佐伯先輩にも見て欲しかったなあ。 先輩は今、文化部会の真っ最中らしいけど。 「藤原、ちゃんと写真撮ってもらったか?」 「はい、光安先生がデジカメで」 「あ、そうか。お前んとこの担任、顧問だったよな。誉めてくれただろ?」 「はい、綺麗だって」 浅井先輩にも声を掛けてもらえて、ぼくは幸せいっぱい。 「それにしても海苔で音符とは考えたねえ」 「フルートはちょっと表現できないもんなあ」 「あ、管体はかんぴょうでやってみるとか」 「それいい! で、キーは小粒のアサリなんてどう?」 奈月先輩と浅井先輩の掛け合いに、みんなバカ受け。 ぼくが持ってきたお弁当で、みんながこうして楽しんでくれて、なんだかほんとに嬉しいな。 お弁当を囲んでまだまだ盛り上がる最中、ぼくは何気ないフリをして浅井先輩を見る。 こんな時だったら、誰にも遠慮しないで見つめていられるから。 先輩は、どうしてだかお弁当をジッと見つめて考え込むような顔になった……。 それから不意に顔を上げてぼくを見た。 そして……。 先輩は、なんだかものすごく嬉しそうに笑って、そして、大きな掌で僕の頭をくしゃっとかき混ぜた。 |
END |
1000001GETのぽたっちさまからいただいたリクエストです。
お題はズバリ、『あーちゃんの調理実習(さり気に祐介×あーちゃん)』。
『ここは聖陵だし、お金持ちだろうし(笑)、多少贅沢も許される?かもしれないので、
「先輩と一緒に食べるお弁当を作ろう(+デザート付き)」…いかかでしょうか』
さり気に祐介ってところがミソですね( ̄ー ̄)
ラストシーン、「さりげ」すぎるでしょうか?
でもいいんです。あーちゃんが幸せなら(笑)
ね、ぽたっちさま☆
それにしても。
お話の冒頭で、あーちゃんってば、ぽたっちさまのお題をボロクソ言ってますが(笑)
ぽたっちさま、リクエストありがとうございました&遅くなってスミマセンでした〜!
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余談だけど。
高3の「納豆百珍」の時、食堂に先生が大勢詰めかけたんだって。
『ビールがないのが残念だよな』なんて言ってたらしい…。
でも、噂によると、こっそり熱燗を持ち込んだ先生もいたとか……。
by あーちゃん。
あーちゃん&寛樹の 『After Strawberry Lunch time』 |
☆ .。.:*・゜ |
彰久:おつかれさま〜! 寛樹:ほんと、疲れた〜。 彰久:改めてみなさんに紹介します。ぼくのルームメイト…、 寛樹:剣道部の神山寛樹でっす! ヨロシク! 彰久:で、寛樹は結局どうしたの? お弁当は。 寛樹:うん、部活に持ってった。 彰久:あ、じゃあ、ちゃんとお目当ての後輩に? 寛樹:…うにゃ。先輩たちに食われた…。 彰久:…それはご愁傷様……。 寛樹:ま、みんな美味いって喜んでくれたからいいけどさ。 彰久:部活のある子はだいたい部活に持ってったみたいだね。 寛樹:お前もだろ? 評判どうだった? 彰久:うん。みんな、綺麗で美味しいって言ってくれた。 寛樹:みんな? 浅井先輩だけじゃないのか? 彰久:うん。 だってみんな大好きな先輩だし。 寛樹:そっか。そうだよな。 で、結局さ、一番弁当が集中したのは悟先輩あたりだったみたいだな。 彰久:え? どういうこと? 寛樹:ほら、管弦楽部の有名どころも、それぞれ『パートの後輩』っているじゃないか。昇先輩はヴァイオリン、守先輩はチェロ…ってさ。 彰久:うん、そうだね。 寛樹:だから、同じ理由で浅井先輩や奈月先輩にも殺到しなかったんだと。 彰久:っていうと。 寛樹:そう。『どーせ、パートの後輩が作っていくだろうから』って理由で、みんな諦めたらしいんだ。 あと、守先輩なんかは『手作り弁当』には慣れてるらしいしさー。 彰久:す、すごいね、それも。 寛樹:ったく、羨ましい話だぜ。 で、悟先輩なんだけどさ。先輩は管弦楽部だけど、指揮者じゃん? 彰久:そうだね。楽器はピアノだし。 寛樹:ってことで…。 彰久:なるほど〜。特定の後輩がいない…ってことだね? 寛樹:あたり! …ってわけでさ、あの時間、悟先輩は文化部会に出てたそうなんだけど、会議室前の廊下、弁当箱抱えた中2でごった返してたらしい。 彰久:うわあ。 …で、どうなったの? 寛樹:それがだ。文化部会は議題がたまってて、時間が大幅延長。でもさ、弁当の賞味期限は1時間って決められてたじゃん。 彰久:ってことは…。 寛樹:そう。みんな自分で食べるはめになったんだとさ。 彰久:…なんかちょっと可哀相…。 寛樹:でも、悟先輩はホッとしただろうなー。 渡された弁当いちいち食ってたら、腹壊すぜ。 彰久:そりゃまあそうだけど。 寛樹:もてる男は辛いよなー。 |
すみません。これといったオチはないのです(おい) |