君の愛を奏でて
〜超SS 『制服』〜
このお話は、管理人の「制服フェチ魂」に火を付けた、TENさまのイラストがメインです〜v
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「新しい制服?」 「いや、あれは制服…って言うほどたいそうなものじゃないな」 僕が、祐介の持ってきた情報を聞いたのは、2年生になってすぐの、4月の中旬のこと。 なんでも新しい制服ができたとかで、近々お披露目があるとのことだ。 聖陵学院の制服は、冬服はブレザーにスラックス、そしてカッターシャツにネクタイ。 夏場はカッターシャツが半袖になってスラックスが夏素材になるだけ。 至ってシンプル。 ただ、素材はとても上質だし、胸ポケットのエンブレムは大層凝っていて、OBたちも、制服は処分してもこのエンブレムだけは大切に残しておく…らしい。 そうそう、あと、僕たち管弦楽部はコンサート用の制服を持っている。 ほとんど黒に見える濃紺の、普段の制服と違ってダブルのそれはボタンが金色でちょっとよそ行きの感じ。 あと決められている服装といえば…体操服くらいかな? これは校章以外には特に他の学校と変わりはない。 あ、運動部のユニフォームはかなりかっこいい。 特に陽司が所属してるテニス部のポロシャツは、背中と胸のロゴマークがお洒落でちょっと羨ましいかな? 「で、どんな制服なわけ?」 「ベストらしい」 …ああ、なるほど。 「そういえば、ベストってないよね」 「そうなんだ。ブレザーを脱ぐと寒いし、着ると暑い。そんな時にベストがあればいいのにな…って言う声は結構前から上がってたんだ」 「そりゃあ、あれば便利だね」 「だろ?」 祐介が、我らが2−Aの委員長・古田くんから入手した情報によると、某大手アパレルメーカーの社長がここのOBで、新素材開発のモニターを兼ねて全校生徒分のベストを寄付することになったんだそうだ。 「なんでも『保温しながら湿気を逃す』…っていう優れモノらしいぞ」 確かに僕ら中高生は一日中動き回って汗かいてるもんね。 ☆ .。.:*・゜ そして、その話からほんの少し後に、そのベストはやって来た。 ちゃんとブレザーのサイズに合わせて一人ずつに用意されたそれは、朝礼の時間に担任の松山先生から配られて…。 「へ〜、手触りいいじゃん」 「あ、ほんと、気持ちいい」 そんな声が教室のあっちこっちから聞こえてくる。 うん。確かに気持ちいいや。 「葵、着てみるか?」 そう言えば、今日は天気が悪くてちょっと肌寒い。 周りを見ると、ほとんどのクラスメイトが早速腕を通そうとしているし。 「うん」 そう言ってベストを頭から被った僕の、カッターの襟やネクタイを丁寧に直してくれて、祐介は『似合うぞ』って言ってくれる。 「祐介も着てみれば?」 「そうだな」 祐介のベストは僕のより2サイズも大きい。ちょっと悔しい。 でも…。 「祐介、かっこいい」 「そうか?」 僕の言葉に、祐介がちょっと照れたように微笑む。 …悟も、もう着てるのかな…。 悟のはきっと、祐介と同じサイズだろう。 僕のよりも肩幅があって、丈が長くて…。 早く見てみたいな…。 その手触りの良さでいきなり大好評となった新しい制服――ベストは、淡いブルーのニット素材で左胸にマークが縫いつけてある。 それは、ブレザーの『S』と違って、漢字の『聖』。 これがまた、今までの指定服にはなかったことで、かなり新鮮で、いつの間にか面白いことが流行り始めたんだ……。 ☆ .。.:*・゜ 廊下を歩く僕の左胸、『聖』のマークの下でカサッと小さな音がする。 入っているのは、小さく折り畳んだメモ。 その中に書かれているのは、僕が一番好きな人……の、名前。 『聖の字の内側に、好きな人の名前を書いた紙を入れておくと、思いが叶う』 いつの間にか、どこからか、流行り始めたのはそんなこと。 もちろんそんな話に乗ってこない生徒もいるけれど、『伝統と古い慣習』に支えられ、『迷信』や『言い伝え』が当たり前のように生活の中に居座っている『祇園』という花街の中で生まれ育った僕は、多分他の生徒よりももっと『そういう話』には弱くて…。 でも、悟にばれないようにしなくちゃね。だって恥ずかしいもん。 きっと悟は――もちろんバカにするようなことはないけれど――『そんな話』には乗ってこないタイプだと思うから…。 「葵」 待ち合わせしていた『練習室1』。悟のお城。 時間通りに現れた僕を、悟はそれは優しい微笑みで迎えてくれて。 悟のベスト姿はやっぱりかっこよかった。 僕と違って、もう大人になっている身体を綺麗に包み込んで、思わずしがみついてしまいたくなるような…。 …って思っている間に、僕はすっぽりと悟の腕に包まれて、その暖かい胸に顔を埋める。 その時…。 僕の耳元で、カサッ…と小さな音がした。 …わ、やばい…。今のはきっと、僕の…。 そう思ってちょっと慌てたとき、悟がほんの少し、咳払いをした。 「…悟?」 「…あ、ええと、ごめん」 珍しく言い淀む悟。 そして、その左手は、まるで隠すように『聖』の上に当てられていて…。 もちろん、それは僕のじゃなくて、悟…の。 悟、まさか。 そう思ったのが顔にでたのかも知れない。 悟はちょっとバツの悪そうな顔をして、それから観念したように苦笑いした。 「…ほら。今流行ってるだろ? この中に…」 もう一度、悟の手が同じ場所に触れる。 「もう、思いは叶っていると信じてるけれど、でも…」 そう言った悟の右手をそっと取って、そして僕の左胸へ導く。 「葵…?」 触れると僅かに聞こえる小さな音。 それを耳にして、悟は、それは嬉しそうに微笑んでくれた。 「悟…」 そっと触れて、そして徐々に深くなる熱いキス。 重なり合う僕らの胸からはまた、カサッ…と小さな音が、した。 |
END |
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