『抱き合う』ということ。

(お子さまは回り右〜!)


 やや落ち着いた葵の呼吸。

 最初の衝撃が去り、葵の身体が自身の与える圧迫感に馴染むまで、いつも悟は葵の頬や額に暖かいキスを降らせながら、じっと耐える。


 欲望のままに突き動かしたい。

 そんな思いももちろん、身の内には存在する。

 けれど、そんな身勝手な思い以上に、葵が痛みに耐える姿など見たくないから。



「さとる…。も、だいじょ…ぶ」

 葵が小さく言って、悟の首に細い腕を回す。

 軽く引き寄せられたのをきっかけに、悟はわずかに身体を進める。

 もう、これ以上ないほどの密着に――辛い体勢であるにもかかわらず――葵が一つ、幸せそうな吐息を漏らした。


「あおい…」

 ゆっくりと腰を引くと、葵の『中』は、まるで行かせまいとするかのように絡みついてくる。

「…んっ…」

 それでもまだ、悟は渾身の自制心で、今度はまたゆっくりと押し込む。

「……っ」

 敏感な部分に触れたのだろう、葵の全身に甘い痺れが走った。

「さと…る」

 震える腕できつくしがみつかれ、甘い声で呼ばれるともう、理性などと言う言葉は何の意味も持たなくなる。
 
 悟は葵の足を抱え直し、だがそれでもまだ、緩やかに、律動を始めた。

 あくまでも優しく。焦れったいほどゆっくり。

 そして、その緩慢な刺激に、先に音を上げたのは葵だった。


(…もっと……っ)


 内の葵はそんな声を上げる。

 けれど、まだそんな言葉を外に向かって投げられるほど、意識を飛ばしてはいない。

 だから、言葉にできない分の思いは、自然と身体へ向かい…。

「……っ」

 悟が小さく呻き、唇を噛む。

 予想外の締め付けにあい、危うく連れて行かれるところだった。


 今すぐにでも頂点を極められそうな状態を、悟は葵をきつく抱きしめることでどうにかやり過ごし、そして、そっと顔を上げて、薄く開かれた瞳を覗き込んだ。

 潤んでいるのは自分と同じ理由…?

 そうであってくれれば……いや、そうであるように。
 葵には苦痛など、一つとして与えたくない。

 葵が感じるのは、ただ……。

「……ん…っ」

 そう、こんな風に……。

「………あ…っ」

 快感だけでいいのだから。




 そして、葵もまた追い上げられ、すべてを悟に預けながら、切れ切れに言葉を紡ぐ。

「…さと…るっ」

 頭の芯まで痺れてくる。

「僕の中を…、」

 すべてを覆い隠すかのように、霞みがかかり始め…。

「さとるで…いっぱい、に……っ」




 もう何も考えられない。悟も、葵も。

『抱く』のでも『抱かれる』のでもなく、ただ、抱き合って。

 あとはただ、精一杯の高みを目指して、二人、満たしあうだけ。