『抱く』ということ。


 「……は、あ…っ」

 葵の息がだんだんと上がっていく。

 フルートを吹くために鍛えられているはずの呼吸も、僕の腕の中では呆気ないほど簡単に乱れる。

 そして、熱を帯びていく身体。

 白い肌はほどなく桜色に染まり始め、そして今夜もまた、僕はその色に煽られて我を忘れる。


「さと、る…っ」


 思わず漏れ出たような声で切なげに呼ばれ、堪らなくなった僕は、もう一度その身体を抱き直し、そして…。


「あおい…」


 出来るだけ優しい声で呼んだつもり…だけど、それは自分でも驚くほどに掠れていて。


「…んっ、あ…」


 狭い身体を拓かれる――僕にはわからないその圧迫感に、身体を反らせて耐えようとする葵。

 その時いつも、僕は心の中で葵に『ごめんね』と囁く。


 細くて白い指が、ギュッとシーツを掴み、淡い桜色に染まったしなやかな喉元が晒される。

 誘われるように、そこへキスを埋める。

 宥めるように、あやすように、何度もキスを埋める。

 ごめんね、葵。
 苦しい思いをさせてごめんね…。


 だから僕は、出来るだけ優しく、出来るだけ静かに、葵と一つになる。

葵バージョン:『抱かれる』ということ。…もあるよ。