2004年エイプリルフール企画

「もしも『君の愛を奏でて』の舞台がホ☆トクラブだったら」



清々しいほど『ヤマ』も『オチ』も『意味』もありません(笑)
ご理解の上、お楽しみ下さい〜(^_-)





 ここは都内某所。所謂『歓楽街』である。

 その片隅に、特に宣伝など打っていない、店構えも至ってシンプルな会員制ホストクラブがあった。

 その名も『ピーチカントリー』。

 名前の由来は定かではない。
 オーナーの後ろで糸を引いている人物が個人的趣味で付けた名前だという節もあるが、誰も確かめたわけではない。

 だがこのホストクラブ、マニアの間ではホストたちの質の高さで鳴らした超有名店なのである。

 容姿はもちろん、教養の高さもウリで、ホストたちのほとんどが都内の名門男子校の卒業生だという噂もあるくらいだ。

 もちろん、その噂も確かめたものはいないのだが。


 そして、このホストクラブには秘密があった。
 ここはただのホストクラブではない。
 ここのホストたちはみな『商品』。

 そう、『買うこと』ができるのである。

 お客は女性でも男性でもいい。女性なら『抱いてくれる』ホストを買うし、男性なら『抱ける』ホストを買う。…もっとも、男性の場合は『抱いてくれる』ホストを買うことも珍しい話ではないのだが。 





 夕方5時。
 そろそろ開店準備が始まる頃だ。


「オーナー、お話があります」

 きちんとノックをして返事をもらってから入ったというのに、この光景はいったいなんだ。

 まあいつものことだが…。

 深くため息をつくのは、自身もかつて人気ホストとして名を馳せた、佐伯隼人。現在はホストたちの教育係をしている。


「どうした、遠慮はいらん。話せ」

 これ見よがしにため息をつく隼人もなんのその。
 オーナーの光安直人は相も変わらず金髪の美形ホストを膝に乗せたまま――しかも向かい合わせだ――表情一つ変えやしない。


「…あんっ、直人…っ、離してってばぁ」

 金髪のホスト――昇には若干の羞恥心は残っているらしい。

 背後に現れた隼人の視線を感じて、必死で身を捩る。

 デスクに隠れて見えない部分は…おそらく、どうせ、何にも着ていないのだろう。

 だってほら…。

「離していいのか、昇。今離されても困るだろう? お前の制服はあっちの床の上に転がってるからな。そこまでこの姿で取りに行くか? ん?」

「いや、だめ、そんなの恥ずかしい…」

「だったら大人しくしてろ。な?」

「…直人ってばあ…」



『商品には手を出すな』



 これは『こういう店』での基本中の基本――鉄則である。

 なので、これでもオーナーの直人は一度は悩んだらしい。
 だが、いつの間にやら昇とこういう仲になってしまい、なったからにはと開き直ったようだ。

 以来、他のホストたちにもバレバレで、示しがつかないことこの上ない。

 だから、こんなことが起こるのだ。


 隼人はもう一度、今度はかなり投げやりにため息をついた。


「オーナー、あの二人、何とかなりませんか」

「あの二人? ああ、あいつらか。まだ性懲りもなくやっているのか?」

「はい。今日も出勤するなり始まっています」

「で? 当の葵はなんと?」

「…彼はあまり気にしていないようですが」

「なら暫く放っておけ。悟や祐介がどんなに騒いだところで、お客には勝てん。今夜にも会長がお見えになるからな。そうなったら、あの二人がどんなに取り合ったところで、葵は会長のお持ち帰りだ」

 言いながら…どうやら密かに昇を攻めているらしい。
 昇が頬を上気させて喘ぎ声を殺している。

「…わかりました」


 言って隼人はとっととオーナールームを後にする。

 相談する時刻を誤ったようだ。

 オーナーも、血流が下半身に集まっている間はまともな答えが返せないだろう。


 だがしかし、ロッカールームでまたも始まった小競り合いは何とかしなくてはいけない。

 隼人はまた深くため息をついて、ロッカールームへと足を運んだ。



                    ☆ .。.:*・゜



「ねえ、2人ともやめて」

 甘えた声で懇願しているのは葵。

 このホストクラブでもっとも稼いでいる人気ホストだ。
 才色兼備の甘え上手。
 若いOLからおばあちゃんまで、幅広い客層に絶大な人気を誇っている。
 当然、男性の贔屓客数もナンバー1だ。


「いいや、今夜こそは決着をつける」
「望むところですっ」

 着替えもそこそこに小競り合いをしているのは、悟と祐介。

 葵には及ばないものの、こちらも桁外れの容姿と明晰な頭脳でお客を虜にする人気ホストだ。

 入店は悟の方が1年先。この店では一日であろうと先に入店したものが先輩になり、先輩には絶対服従なのだが、こと葵のことになると、祐介も譲らない。

 2人は葵が入店してきた瞬間に、惚れてしまったのだ。
 以来、ずっと取り合いを続けている。

 もちろん『商品』同士の恋愛も御法度。

 しかし、悟も祐介も、そんなこと知ったこっちゃない…とばかりに派手に取り合いを演じている。

 先日、店内で葵の制服のボタンを外そうとした男性客が、閉店後の店外でボコボコにされていたという事件があったのだが、ホストたちは、悟か祐介――あるいは2人揃っての仕業に違いないと信じて疑っていなかった。



 それほどまでに、2人は葵に執着していた。
 しかし執着しつつも、明確な答え――葵を得るのはどちらなのか――が、出るのを避けていた節があったのだが…。

 今日は少し様子が違う。

 何が何でも、今ここで、葵にどちらかを選ばせようとしているのだ。

 理由は一つ。
 葵が今夜、『お持ち帰りされる』という噂が立っているからだ。

 葵は今まで誰にもお持ち帰りをされていなかった。オーナーがよほど高い値をつけていたのだろう。

『お持ち帰り』はこの店のホストの宿命。
 
 それは悟にも祐介にもよくわかっているのだが、それならせめて、心だけでも自分のところに置いていって欲しい。

 そして、この腕に帰ってきて欲しい。


「葵、僕は君が好きだ」
「僕だって君が好きだ」

 2人に詰め寄られて葵は困惑する。

 そんなことを言われても、困るのだ。
 だって…。


「僕、2人とも好きだよ?」

 小首を傾げて言われてしまえば、いつもそれ以上は詰め寄れなくなる。
 だが、今夜は譲りたくなかった。


「「葵、ここでどちらかを選んでくれ」」

「さとる…ゆうすけ…」

 どちらかなんて、選べない。

 葵は困り果てて視線を落とす。

 だって2人とも好きなのだ。2人とも、いつも包み込むようにして葵を可愛がってくれるから。

 辛いときは慰めてくれて、嬉しいときには一緒に喜んでくれて、悲しいときにはその暖かい胸に抱きしめてくれる。

 …じゃあ、困ったときには?

 困ったときにはいつも助けてくれるのに…。



「…僕を、助けて…」

 僕を困らせないで。選ばせないで。

 だって、2人とも僕にとっては大切な人だから。


「「あおい…」」

 ――僕を助けて。

 潤んだ瞳でそう言われ、悟と祐介は大いなる誤解をした。
 そう、『葵は今夜の「お持ち帰り」を嫌がっている』…と。


「「葵っ」」

 二人して、その華奢な体を抱き込む。

「祐介…」
「悟…」

 2人は視線を絡ませあい、そして深く頷きあった。

 ――葵を連れて、逃げる。

「葵、何にも心配いらないからな」
「そう、僕たち2人がついているんだ」

 ――へ?

「行こう、僕たちだけの場所へ」
「誰にも知られないところで、3人だけで生きていこう」

 ――は?


『どうしてこうなるの?』と思ったときには、葵はすでに2人に連れられて店を後にしていた。


 でも、もしかしたらいいかもしれない。
 だって、悟も祐介も優しいから。僕を愛してくれるから。


 だがこの時、『お持ち帰り』の経験がないネンネの葵にはわからなかったのである。

『愛される』と言うことの『本当の意味』を。


                   ☆ .。.:*・゜


『…ふ…っ、ああ…っ』

 薄暗い室内に満ちる熱い吐息。

 狭いベッドの上、生まれたままの姿で絡み合う3つの影。


「あおい…」

 背後から悟に抱きしめられたまま、不自然に奪われる唇に、葵の息が上がる。
 そして、その手は葵の胸先で悪戯を繰り返し…。

「愛してる…」

 祐介に抱え上げられた両足が、与えられる刺激に耐えかねてつま先まで突っ張る。


「…や、あ…ん…もう…っ…だ、め…」


 昼なく夜なく、2人がかりでこれでもかと言うほど愛されて、葵は沈み込んでいく意識の中でふと考えた。


『お持ち帰りの方が楽だったかも』


 華奢な体で受け止めるには、2人の愛は重すぎたようである。



ちゃんちゃん♪

守が出てこなかったのは、守をホストクラブに使っても
当たり前すぎて面白くなかったからです(笑)


バックで戻ってくだされ。