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〜9〜 |
今日は卒業式だ。
俺もこの学校へ入ってから、これで4回、先輩方を送ってきた訳なんだけど、やっぱ毎回しんみりしちまうもんだな。
特に部活やってるとそう思う。
怒られたこともあったし、厳しすぎるって反発したこともあったけど、でも、どの先輩も面倒見がよくて、ここ一番って時に頼りになって優しいんだよな。
それにほとんどが寮生だろ?
朝から晩まで一緒ってのは大きいよな。
だって、家族と一緒にいる時間より、圧倒的に長いんだからなぁ。
あ、もちろん、管弦楽部の先輩たちは卒業してもよく遊びに来るし、ついでに指導までして行っちゃってくれるんだけど、それでも同じ制服を着た先輩を見るのはこれが最後…。
そう思うと、俺でもなんだか感傷的になっちまうくらいだから、全校生徒が見守る卒業式では、講堂のあっちこっちでグスグスと鼻を鳴らす音が聞こえてきたりして……。
特に、先輩と「そういう関係」になってる奴らはみんな、それこそ『生死の分かれ目』みたいな顔してるし。
そんな『卒業式』を終えると、校内では至る所で送別会が始まる。
式のしんみりした雰囲気をぶっ飛ばそうとするかの勢いで、どの部活でも派手にやるんだ。
しかも、部員以外立入禁止。
それこそ秘密結社の集会みたいに、こそこそと…それでも大がかりにやっちゃうわけなんだ。
で、我らが管弦楽部には昔からある掟がある。
それは…。
『送別会における卒業生のリクエストは絶対に実行すべし』…っていう恐ろしいものだ。
もちろん、学校や部の品位を下げるようなリクエストは御法度。
当然、法に触れる行いや公序良俗に関わるようなものもダメ。
だって、光安先生も参加だしな…。
で、今年、その厳しい条件をくぐって先輩方から提出されたリクエストは…。
もちろん、『ティンパニとヴァイオリンのデュエットが聴きたい』とか『卒業生をたたえる曲をフルオーケストラ編成で作れ』とか、真面目なんだか不真面目なんだかわかんないものもあったんだけど、思わず在校生も目の色を変えるものがでたんだ。
まず一つは…。
『昇と葵のデュエット。曲は「キ○キ・Kidsのフ○ワー」。当然振りつき』
これはマジで見物だと思う。
だってビジュアル的にも最高だし、昇先輩の歌は聴いたことないけど、奈月は聖陵祭のクラス対抗ライブコンサートで熱唱したから、めっちゃ上手いのわかってるし。
本家にも負けないと俺は思うな。昇先輩が音痴でない限り。
で、もう一つあって、それは…。
『悟のソロ。もちろんピアノなんかではない。曲はド○カムの『未来○想図U』。あ、○和ちゃん風にお願いね』
悟先輩の歌…。しかも、女性ボーカルの名曲…。
き、聞きたいような、聞きたくないような…。
言い出しっぺの3年の坂口先輩によると、悟先輩もすごく綺麗な声してて、めっちゃ上手いんだそうだ。
たまたま、悟先輩がソルフェージュ*のレッスンを受けてるときに通りかかってきいちまったそうなんだ。
でもな…上手い下手はともかくとして、悟先輩がドリ○ムって…。
それにしても、3年の先輩方も、これが最後とばかりに悟先輩を指名してくるよな。
去年までそんなことなかったんだぜ。
だって、神聖にして侵すべからずの『管弦楽部の聖域』悟先輩に、宴会芸をさせるだなんて、誰一人として思いつかなかったはずなんだ。
けど、この1年で悟先輩は変わった…と思う。
そう言うことに疎い俺ですら感じるくらいだから、それはよほどの変化なんだろうと思う。
相変わらず成績が良くて、優しくて、面倒見が良くて、格好良くて、とんでもなく『ヒーロー』であることには違いないんだけど、何となく、俺たちと同じ『高校生』って感じがしてきたんだよな。
今までは『別世界の人』っぽかったもんな。
けど、思いっきり泣いたり笑ったり怒ったり困ったりもするんじゃないかな…って気がするんだ。最近の先輩は。
だから、3年の先輩方も、悟先輩にこんな事をさせる気になったんじゃないかと思う。
ま、俺たちにとっても嬉しい話ではあるけれど。
だって、悟先輩も来年は送られる立場だから、こんなチャンスはこれが最後だしな。
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桃の国的雑学講座
*ソルフェージュ
主に、聴音(音を聞き分け、聞き取り、楽譜として正しく理解する為の科目)、視唱(自分の声で正しく唱う為の科目)、楽典(音楽理論)の3つからなる音楽を学ぶ上での必須科目。
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「あ、いたいた、羽野〜!」
もうすぐ送別会が始まろうって時間、俺は2年の先輩から大きな声で呼ばれた。
「はい? なんすか?」
「ちょっとこいっ! 先輩の飛び入りリクエストだっ」
「はぁ?」
有無を言わせず引っ張られて行った先は、音楽ホール内の生徒準備室。
部員はもう、ほとんどがホールに集まって送別会の始まりを待ってるってのに。
「おいっ、羽野連れてきたぞっ」
「よっしゃっ、急げっ」
俺を取り囲んだ先輩方の手には、筆…だとか、ブラシ…だとか…。
何事かとあたりを見回すと、2年の先輩に混じって、やたらと目をキラキラさせた、麻生と茅野が立っていて…。
「僕と羽野って、ほとんどサイズは一緒だもんね」
何だ?
「俺の方が少しでかいと思うけど…」
いったい何の話だ。俺は訳も分からず麻生に返事をしたんだけど…。
「こら、羽野、黙ってろ、口紅がはみ出すっ」
へ?
「目、閉じてろっ、ライン引くからな」
は?
「麻生っ、鬘っ」
「はいっ」
ななななな、何だよ〜!!!
「茅野っ、シャツ脱がせろっ」
「はいっ」
おいっ、ちょっと待てーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
「か、茅野っ、バカッ、やめろっ」
茅野の手がいきなり俺のシャツのボタンに掛かって、俺は焦って両手をばたつかせて抵抗したっ。
「こらっ、大人しく剥かれろっ」
「やだー! せ、せんぱいっ、何の冗談ですかっ」
聖陵学院のいいところは、こんな虐めのないところだと思ってたのにー!
「羽野、3年の先輩のリクエストなんだ」
麻生がまたしてもニコニコしながらいう。
「先輩の…?」
「そう、ほら、これ着て」
俺はシャツを脱がされて、上からひらひらしたものを被せられた。
こ、これって…。
「やっぱり、ぴったりv」
「うお〜、めっちゃ可愛いじゃねえか」
麻生の言葉のあとに、2年の先輩が口々に『可愛い』だとか『そそられる』だとか『知らずにいて今まで損したよな』とか言う声が耳に入って…。
「先輩、今更気付いてもダメですよ。羽野は俺のもんですからね」
はぃ〜?
「か、茅野っ、てめぇ!」
言うに事欠いて何を…!
「ほれ、羽野。ぐだぐだ言ってないで、事実をちゃんと確認して見ろ」
俺は、先輩に肩を抱かれて、姿見(楽器をかまえるフォームチェックのために置いてある)の前に…。
こ、これは…。
もしかして…。
去年…。
「ジュリエットの衣装、とって置いてよかったよ〜」
「羽野、惜しくも次点だったもんな」
「先輩方がさ、どうしても最後に一目、羽野のジュリエット姿を拝みたいからって」
お、俺が…じゅ、じゅ、じゅ………。
「相手はちゃんと悟がしてくれるからな」
さ、さ、さ………。
「羽野?!」
「おいっ、どうしたっ?」
「羽野ってばっ!!」
お…俺はのぁまるだぁぁ…・…・・(フェードアウト)
もも♪:ね、その後の羽野くんどうなったの?
茅野:それがさぁ、ぱちっと目を開けた瞬間に、悟先輩にお姫様抱っこで『大丈夫か?羽野』って言われて、またひっくりかえっちまったんだ。
もも♪:あらら。せっかく美味しいシチュエーションなのにねぇ。
茅野:俺的にはちょっと妬けちゃうけどな。
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特別付録〜送別会その後【1】
異色対談〜茅野剛vs藤原彰久+ちょこっと葵 |
つよし:お、藤原。お疲れ〜。
あきひさ:あ、茅野先輩〜。お疲れさまでしたv
つよし:どうだった? 送別会初体験は。
あきひさ:びっくりしました〜。
つよし:だろうな〜。なにせ、高3の先輩方のリクエストだからな。おこちゃまには刺激がキツイかもな。
あきひさ:あ、ひどい。ボクおこちゃまじゃありません〜。
つよし:あっはは、悪い悪い(撫で撫で)。
あきひさ:(平気で撫でられている@お子ちゃま)でも、先輩方のとんでもない姿が見られてすっごく面白かったです。
つよし:だろ? 奈月と昇先輩のコンビなんて、絶品だったよな。
あきひさ:はい! そう思います! めちゃめちゃ可愛くて、上手で…(うっとり)
つよし:それにしても、ああやって並ぶと、あの二人ってなんだかよく似てると思わねぇか?
あきひさ:…そういえばそうですね。なんとなく、目元とか口元とか…。
つよし:そうそう、それに全体の雰囲気もだ。昇先輩と悟先輩って全然兄弟に見えねぇけど、奈月と兄弟っていわれたら納得しちまいそうだよな。
あきひさ:ボクもそう思います〜v
つよし:悟先輩にも驚いたよな。あんな事が出来る人だとは思わなかったぜ。
あきひさ:やっぱりそうなんですか?
つよし:ん? あ、そうか。おまえ、以前の先輩って知らないんだもんな。
あきひさ:はい。先輩方はみなさん、『悟先輩は変わった』っておっしゃいますよね。
つよし:ああ。まさか宴会芸が拝めるようになるとは思わなかったからな。
あきひさ:でも、悟先輩の歌は宴会芸の域を超えてましたよ。
つよし:そうだよな〜。何せ、『どうせやるなら』って弾き語りだもんな。めっちゃ格好良かったぜ。
あきひさ:みんな隠れてこそこそデジカメでとったり、MD録音に走ってましたよ。
つよし:やっぱりな。
あきひさ:そうそう。昇先輩と奈月先輩の時、光安先生がビデオ回してたってウワサを聞いたんですけど…。
つよし:なにっ、マジかよ、それっ。
あきひさ:はい。かなり確かな筋の情報だって。
つよし:センセ…・どっちが目当てなんだろ…・。やっぱり…。
あきひさ:…・は?
つよし:あ、いや、おこちゃまには関係ねぇ。
あきひさ:おこちゃまじゃないですっ(ぷーっ)
つよし:あ〜、ごめんごめん。…ところでさ、おまえ的にイチオシだった芸ってなんだ?
あきひさ:…えっと…。浅井先輩の…・。
つよし:ああ? 浅井のあの「変人芸」が? わっかんねぇな〜。
あきひさ:え〜、すごかったじゃないですか。だれもあんなコトできませんよぉ。
つよし:あれはな、できないんじゃなくて、バカバカしいからやらねえの。
あきひさ:そんなぁ。
つよし:ま。でも確かにあれは難しいと思うけどな。
あきひさ:でしょ? 一人でデュエットなんてできませんよ、ふつう。
つよし:そうだよな。やれって言われてもできねえと思う。
あきひさ:ボク、挑戦してみようかなぁ?
つよし:あほ。やめとけ。『リコーダーの2本同時吹き』なんて。
あきひさ:うう…。
つよし:ところで、芸じゃないけど、おまえも何かさせられてたみたいだな?
あきひさ:あ、えっと…コンバスの本山先輩が…。
つよし:『お膝抱っこさせろ』っていわれたんだろ?
あきひさ:えっ。茅野先輩、どーして知ってるんですかっ?
つよし:浅井が言ってた。
あきひさ:……え? …………えええっ! あ、浅井先輩がっ?
つよし:190に近い本山先輩の膝に乗っかった藤原って、ホントにペットみたいだったって、言ってたぞ。
あきひさ:…がぁ〜ん。
つよし:でさ、『嫌がってるなら助けてやろうかと思ったんだけど、楽しそうだからそのままにしておいた』って。
あきひさ:………………ショックかも…。
あおい:あ、いたいた、茅野くん。
つよし:おお、奈月。なんだ?
あおい:写真が出来たんだけど見る?
つよし:写真? なんの?
あおい:やだなぁ。羽野くんのジュリエットに決まってるじゃない。
つよし:ま、マジっ? 見せてくれ!
あおい:はい、どうぞv
つよし:………こ、これはっ…・・。
あきひさ:あ。お姫様抱っこだ〜。
あおい:羽野くん、可愛かったよね〜。
あきひさ:はい〜。パタッと気を失った瞬間、先輩方が『可愛すぎる』って呻いてらっしゃいました。
あおい:悟先輩ね、あとからみんなに恨まれたって。一人で美味しいことやりやがって…・ってv
つよし:俺も恨む〜。
あおい:よしよし(なでなで)
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特別付録〜送別会その後【2】
嬉し恥ずかし兄弟対談v |
あおい:ねぇねぇ、守。 守はどうして何にもやらされずにすんだわけ?
まもる:ん? 俺は『送別会実行委員会』の委員長さまだからな。色々忙しくて自分が芸人やってる場合じゃないんだ。
あおい:え〜。それって、なんか、もったいないって言うか、ずるいって言うか…。
のぼる:ぜったいずるい。
あおい:ねえ、昇もそう思うよね。
のぼる:もちろん、思う。しかも守は自らすすんで実行委員長を引き受けてるんだからね。
あおい:え? どうして? これって大変でしょ?
まもる:あのな、俺だって『B’○』とか『ミス○ル』とかやれっていわれるんだったら喜んで芸人やるぜ。もともと俺はサービス精神旺盛だからな。
あおい:え? 違うの? 守だったら『B’○』とか『ミス○ル』似合いそうだし。
のぼる:あのさ、葵。サマになるのがわかってるのに、先輩方はわざわざそんなかっこいいことさせないって。
あおい:…ってことは…。
まもる:そういうことだ。先輩方は毎年何故か俺に『落ちキャラ』を要求して来るんだ。
あおい:落ちキャラ…。
まもる:そ。 だから今年も予防線を張って、最初から『運営が忙しいんで、芸人はパスさせていただきま〜す』ってことにしてるんだ。 ったく、もてる男は辛いぜ。
あおい&のぼる:…………。
まもる:それよか葵。悟が羽野のこと『お姫様抱っこ』してたのに、余裕じゃんか。
あおい:だって、あれは羽野くんが気分が悪くなってひっくり返っちゃったからだしね。それに、羽野くんは茅野くんの恋人だから。
のぼる:え? そうなんだ?!
あおい:あれ? 知らなかった?
まもる:ああ、茅野が羽野にくっついてるのはわかってたけど、羽野もその気とは知らなかった。な、昇。
のぼる:うん。茅野が一方的に追いかけてるんだと思ってた。
あおい:そんなことないと思うよ。だって僕が入院してるときも、二人でお見舞いに来てくれたし。その時も茅野くんが羽野くんの肩を抱いて、そりゃあ仲良さそうに帰っていったもん。
まもる:そうだったのか。
のぼる:羽野狙いのトランペットの連中、失恋確定なんだ。
あおい:可哀相だね。
まもる:しかたないさ。こればっかりはな。
あおい:うん、そうだよね。好きになっちゃったら、もう誰にも止められないもんね。
のぼる:そうそう。
こうして羽野くんの『外堀』は埋められていくのであった…(合掌)
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