オレさまはネコである。




 オレ、ねこ。
 ちなみに野良。
 もちろん名前はまだない。

 あ〜、腹減った〜。

「もう、おっぱい出ないわよ」と宣言したかあちゃんに、オレたち兄弟が「独り立ちよっ」って放り出されたのは3日前。

 他の兄弟たちは逞しくも『自由に生きるぜっ』と言い放って繁華街方面へ散っていった。
 そっちだとエサが豊富だからってさ。

 でも、オレはそんなのヤだ。
 だって兄弟たちの中でも、オレってばピカイチのルックスなんだ。
 鼻は高くて目はぱっちり、そしてポイント高いのがこれ、『ピンクの肉球』。
 熱いアスファルトの上とか歩かないように気を付けてたからな、生まれて4ヶ月目だけど、まだプニプニだぜ。へへっ。

 そんな美形のオレにぴったりの目標はこれ。
 可愛い女の子に拾われて、毎日ごろにゃんと甘えてぬくぬく暮らす!



 ってわけで、オレは今日もピンクの肉球を傷つけないように気を付けて歩きながら、可愛い女の子を物色してるんだけど。

 昨日辿り着いたこの辺りはなんだかデカイ家が多くて、いかにもお金持ちの街って感じがする。

 この辺りで可愛い女の子をGETできると……。


 お、噂をすれば…!


 コンビニから女の子が一人、出てきた。

 ひや〜、めっちゃ可愛い女の子〜。

 ショートヘアにスラッと長い足。パンツスタイルも決まってる、ちょっとボーイッシュだけどすんごく綺麗で優しそうな…。

 あんな子は絶対見かけ通りに優しい子に決まってるんだ。

 しかも、お金持ちで…。

 へへへ、きっとふかふかの寝床と美味しいご飯と…そしてオレのこのイケてるルックスにぴったりのゴージャスな名前が待っているぞ〜!



 オレは足取りも軽く、その子の後ろを付いていった。

 よくよく見ると結構な荷物だ。

 背中にはリュック、肩からは何だか黒いカバン。これがまた妙に横長なんだけど。

 おまけに手にはコンビニ袋。中身は…と。うわ、お菓子ばっか。
 えへへ、これはおやつには苦労しないぞ〜。



 …でも、…この子、結構歩くの早い。

 オレってば、兄弟の中でも大きい方なんだけど、それでも一応まだ生後4ヶ月の子猫だ。

 ううう、置いて行かれそうだ…。

 仕方ない、ここは一発ナンパするか。


「にゃお〜ん」(訳:そこの可愛いお嬢さん、お茶しない〜?)

「…?」


 やった、立ち止まったぞっ。

 女の子は辺りをきょろきょろっと見回した。
 でも、足元に追いついたオレには気がつかないで…。

 また歩き出そうとしたから、オレは慌ててその子の足に鼻先をすりつけた。


「うわっ」
「にゅ〜」(訳:ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったんだ)
「…あれぇ〜」

 へへっ、気づいてもらえたぜ。

「うわ〜! 可愛い〜!」

 だろ〜?

「君、捨て猫?」
「みゅ〜」(訳:いや、捨て猫じゃなくて、独立したての野良なんだけど)
「可愛いな〜」

 よっしゃ、もう一押し。

 オレは頭を撫でてきたその子の手に、思いっきりすりすりした。


「うわ〜、人懐こいんだ〜」

「にゅう〜」(訳:お嬢さん限定だけどね)

「…連れて帰ったら怒られるかなぁ…」

「みゅっみゅっ」(訳:そんなことないって。大丈夫大丈夫っ)

「でも、香奈子先生、ネコ好きっていってたもんなぁ…」

「みゅうう〜」(訳:おっ、ネコ好き?やったね〜)

「…ね、君、僕んち来る?」

「みゃおう〜〜〜〜〜〜〜!」(訳:行く行く行く!)


 …ってさ。今なんつった?

 もしかして。僕…?

 うわぁぁぁぁぁっ、男の子かいっ?! ひえ〜、信じらんないっ。


 って、泡食ってるうちに、オレはひょいと抱き上げられた。

 …ま、いっか。可愛いし。




 そして…。

 へへっ、やったね。予想通りのでっかいお屋敷。
 お手伝いさんまでいるんだぜ。

 で、オレは野望通り、可愛い子に(♂だったのが予想外だったけど)拾われて、お金持ちの家の飼い猫になった。



 ちなみにここんちの家族は5人とお手伝いさんがひとり。

 オレを拾ってくれたのは、末っ子の葵ちゃん。

 葵ちゃんと一緒にオレの世話をしてくれてるのは、お手伝いの佳代子さん。

 佳代子さんはいつもオレをブラッシングしてくれるんだけど、丁寧で上手いんだ。
 めっちゃ気持ちよくって、ついうとうとしちゃう。

 あ、葵ちゃんも上手にブラッシングしてくれるんだけどな、ただ、油断ならないんだ。
 だってさ、オレがうとうとし始めたら、いきなりオレの両足掴んで『大股開きっ』…なんてやるんだぜ。

 ったく、いっつも自分が似たようなことされてるからってさ〜、オレに仕返ししなくっていいじゃん。




 で、いつも優しくて綺麗なのが香奈子ママ。

 それと、葵ちゃんの兄貴ってのが三人。

 悟と昇と守ってんだけど、こいつらがまた、ルックス自慢のオレもたじろぐほどのハンサムなんだ。

 だけどさ、悟と守って性格悪いんだぜ。

 悟はさぁ、オレと葵ちゃんがふかふかのベッドで昼寝していたらオレだけ追い出すしさ、守は葵ちゃんがオレにくれようとしたおやつを横取りするしさ。

 昇とは結構ウマがあってる。

 なんでももうケッコンしてるらしくて(って、オレ、ケッコンってなんなのかよくわかんないんだけどさ)、ダンナって相棒がいるらしい。
 でもダンナは時々しか現れないからオレはイマイチなついてない。

 でも、昇はオレと同じような金茶の毛並みだからさ、なんか親近感覚えちゃうんだ。
 いつも遊んでくれるしな。



 ってなわけで、オレは毎日幸せだなんだけど…。




 でもさ、オレ、葵ちゃんのこと、世界で一番好きだけどさ。
 これだけはどうかと思うわけ。

 だって、せっっかくママや悟や昇や守が、ユンディだとかニコロだとかミーシャだとかヘルベルトだとかのかっこいい名前を考えてくれたのにさ、葵ちゃんってば、「うーん」ってたったの3秒ほど唸ったあと「猫八がいいよ!」って、言ったんだぜ。

 信じらんない。
 なに、このダサダサの名前。

 ママも悟も昇も守も呆然としてたよな。もちろんオレもだけど。


 でもさ、大学から帰ってきた葵ちゃんに「猫八〜、ただいま〜」って言われるだけで、溶けちゃってるもんな、オレ。


 …ま、いっか。


 よしっ、今夜こそ悟を追い出して葵ちゃんのベッドで寝てやるぞっ。


END

さあ!葵の愛猫『猫八』はこちらから〜!


あ、今さらですが、タイトルも出だしも某文豪のパロです、すみません(笑)
ちなみに「ユンディ」はピアニスト、「ニコロ」はヴァイオリニスト、
「ミーシャ」はチェリスト、「ヘルベルト」は指揮者の名前です(^^ゞ

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