ようこそ、4月1日の桃の国へ

 


 この日がやって参りました。
 世間でいうところの『エイプリルフール』というヤツです。

 当桃の国では、今まで様々な嘘をついて参りました。

*極道小説連載開始。
*SFファンタジー巨編公開!
*もしも君愛がホストクラブだったら。
*百合サイト作っちゃいました!
*桐生家に五番目の弟!?

 等々。

 唯一つかなかった、王道の嘘は、
『サイト閉鎖します!』
 これだけです(笑)

 というわけで、今回がおそらく桃の国最後のエイプリルフール企画です。

 ネタ的には2009年のものと被るのですが、舞台が変わるので大目に見てやって下さい(笑)

 お楽しみいただければ嬉しいのですが、こういう企画ですので、野暮は言いっこなしってことで、マジな突っ込みは無しでお願いします(笑)

 あ、タイトルもあの名作のパロですのであしからず。

 消費税UPをぶっ飛ばせ!…で(?)、1週間限定公開です。

 では、どうぞv




☆ .。.:*・゜

2014 エイプリルフール企画

時をかける少年




「葵!」

 えっと…。

「葵ってば!」

 間近で声がした。

「どうしたんだよ。ボケッとして」

「あ…」

 肩を叩かれて、もしかして僕のこと…?って、初めて気がついた。

 ここは…そう、音楽ホールの中。
 もうすぐ合奏が始まるから…と、練習室からステージへ移動しようとしていたところ…だったはず。


「あの…」

 え…なんで? だれ…? …って、もしかして…でも、どうして制服?

「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」

 心配そうな表情を向けられて、僕は慌てて首を振る。

「あ、ううん、大丈夫」

「…なんか、変だぞ? 熱でもあるんじゃないか?」

 って、おでこに手のひらを当てられたところで、後ろからまた声がかかった。

「浅井〜!」

「あ、はい!」

 僕のおでこに手を当てたまま、振り返った先には、キラキラした髪と青い瞳の……。

「光安センセが呼んでる…って、どうしたの? 葵、熱でもある?」

 …やっぱり制服、なんだけど。

「や、なんか様子が変なんです」

「え〜、大丈夫?」

 覗き込んでくる青い瞳は、僕には馴染みのものではあるんだけど…。

「あ、とりあえず浅井はセンセとこ行って。急いでるみたいだから。葵は僕が見るからさ」

「…わかりました、昇先輩。お願いします」

「うん、任せて」

 心配そうに僕を振り返りつつ去って行くその背中は、僕の見覚えより華奢で。

「葵、頭痛いとか吐きそうとか、ない?」

 あ、そんなことは全然…ないんだけど、でも、確かに変だ。

「あの、平気…」

「…やっぱり変だよ? 葵…」

「なにやってる? どうしたんだ?」

「あ、悟! 葵の様子が変なんだ」

「なんだってっ?!」

 えっ、ええと、ええと、もしかして、悟…って言った? 英、じゃなくて?

「どうした? 葵、何処か痛むか? 気分は?」

 もう、何が何だかわかんなくて、返事に窮した僕の目の前に、もうひとり現れたっ。

「おい、なにやってんだよ。葵によってたかって」

 ……パパっ!

 制服で、しかもその制服にぴっったりの若さだけど、紛れもなくそれは、僕のパパだった…。

 ってことはやっぱり、最初に会ったのはゆうちゃんで、青い瞳は当然昇くんで、僕を抱きしめているのは英ではなくて、悟くん!

 ……僕は、どこにいるの?

 もしかして、ここは、『今』じゃなくて、『過去』?
 僕、タイムスリップしちゃったってこと?

 ど、どうしよう…。

 ってか、葵ちゃんは、どこっ?!


 オロオロしてるうちに、僕はパパと悟くんと昇くんに拉致されて『保健室』へ連れて行かれたんだけど、僕がお世話になってる『保健棟』とはちょっと違う建物。

 同じ場所にはあるんだけど…。


「奈月か? どうした」

「様子がおかしいんです」

 あ、斎藤先生だ…。
 男前なところは変わんないけど、『あの渋さがたまんない』ってみんなに言われてる『あの渋さ』は……ほぼない。

 そりゃそうか。
 本当に僕がタイムスリップしたのなら、20年くらい前ってことだし。


 漸く『現実』を把握し始めた僕は、斎藤先生に何でも無いことを一生懸命説明したんだけど、ここに居るのは葵ちゃんそっくりの顔だけど、でも中身は全然違う僕…桐生渉だから、きっと話し方なんかが全然違うんだろう。

 僕が努めて普通であろうとすればするほど、みんなが怪訝そうな顔になる。 

 そうこうしてるうちに、ゆうちゃんと直人先生までやって来た。


「あの、ほんとに大丈夫…です」

 どこを調べても何ともなくて――だってどこも悪くないんだから――結局僕は『具合が悪くなったら我慢するんじゃないぞ』って斎藤先生に念を押されてから、釈放になった。

 それにしても……。

 僕は今高校1年だけど、葵ちゃんは何年生なんだろう…同じかなあ。

 あ、でももし同じ高1だったら、葵ちゃんはまだ、グランパと再会してない…とか?

 …どうしよう、これは大変なことになったのかも…。

 直人先生にも『具合が悪くなったらすぐ言うんだぞ』って言われて、昇くんも心配そうにしてくれてるんだけど、『ま、悟と浅井がいるからね』って、直人先生のお手伝いに行っちゃった。

 この頃からもう、ラブラブだったのかなあ。
 だって、直人先生が昇くんを見る目が、今と一緒だもんね。

 で、パパはと言うと…。

 なんか、可愛い子がいっぱいくっついてるんだけど。
 もしかして、親衛隊がいたっての、ほんとだったのかな。

「ん?どうした葵。そんなに見つめたら、俺に奪われるぞ?」

 あのね……。

 そりゃパパはカッコいいし、確かに決まってるけど、葵ちゃんはパパの弟で、僕はパパの息子なんだけど−。

 って、後ろで可愛い子がきゃーきゃー言ってるし…。

 …なんか、やんちゃしまくりだったのって、納得できるかも…。


                    ☆★☆


 それから僕は、ゆうちゃんと悟くんに付き添われて寮へ帰った。

 部屋の前までついてきてくれた悟くんは、これでもかって言うくらいにゆうちゃんに『葵のこと頼むな』って言い倒してて、やっぱりこの頃からブラコンだったんだなあ…って感心しちゃったんだけど…って、あれ? 悟くん、葵ちゃんが弟だって、もう知ってるのかな?

 ってことは、1年生じゃない?

 でも寮へ帰ってみれば、部屋は4人部屋。やっぱり1年生だ。
 2年から2人部屋だったって聞いた事あるし。

 しかも僕が今いる寮とは場所が違う。ここは、今は中学寮の場所だ。


「具合悪いって聞いたけど、大丈夫か?」

 部屋へ入るなりかけよって来てくれたのは……もしかして、中沢先生?

「葵がヤバイって聞いたけど、なんかあったのかっ?!」

 ドアが開くなり飛び込んできたのは……あああ、これはもしかしなくても早坂先生だ〜。

「いや、どこも悪くはないみたいなんだけど、様子がさあ…」

 ゆうちゃんが言葉を切って僕を見る。

 ゆうちゃん、やっぱりカッコいいなあ。

 って、ぼんやりゆうちゃんを見上げて見つめてたら、『やっぱ変だ』『どうしちゃったんだ?』なんて声が背後から聞こえてきて。

「あ、あの、大丈夫…だから」

 って頑張って言ったんだけど、3人とも眉間に皺寄せちゃった…。


 それから僕は、ゆうちゃんと中沢先生と早坂先生と一緒に晩ご飯食べたんだけど、この頃の寮食も今と同じで凄く美味しい。

 って、なんでみんなして僕が食べるのじっと見てるんだろう。

「…おい」
「…ああ」
「…やっぱ、めちゃくちゃ変だぞ」

 え?何が、変? 食べ方? 
 今までそんなこと言われたことないんだけど…。

「あの、ええと、なに?」

 仕方ないから聞いてみたんだけど。

「「「葵が…にんじん食べた……」」」

 ……わあああっ、そう言えば葵ちゃんってにんじん大嫌いだったっけ!

「葵、ご飯ちゃんと食べられてるか?」

 あああ、悟くんがやってきちゃった。

「悟先輩っ、大変です! 葵がにんじん食べたんですよっ」

 ゆうちゃんがリークしちゃうし〜。

「なんだって?! 本当かっ!?」

「ちょっと目を離した隙に人の皿ににんじん移し替える葵がですよっ」

 …葵ちゃん…どんだけ子供なんだよ、もう〜。

「あ、ええと、つい、その、出来心…だから」

 ねっ…って、葵ちゃんの真似して小首傾げをしてみれば、みんな真っ赤っかになっちゃった…。

 そんなこんなで綱渡りのような時間を過ごして、漸く消灯になって、僕は疲れからかぐっすり眠ってしまったんだけど…。



                    ☆★☆



「渉〜」

「う〜ん、もうちょっと〜」

「こらこら、ダメだってば、起きて起きて」

「うにゅ〜」

 ものすごく寝たような気がするのにまだ眠くて堪らなくて、僕は、起こしてくれる和真を煩わせてる……って、和真?

「あ、れ? ここ、どこ?」

 和真がいる。
 ってことは、僕は戻ってこられたんだ!

「わたる〜、寝ぼけすぎだよ〜」

 呆れた顔で抱き起こしてくれる和真に、僕は思わずしがみついちゃったりして。

「どしたの、渉、なんか変だよ?」

「あ、ううん、平気平気。おはよ、和真」

「…おはよ、渉」

 って、怪訝そうな顔してる和真だけど、僕は凄くホッとしてて。

 …っていうか、そりゃ夢…だよね。うん。

 面白い夢みちゃったなあ。



                     ☆★☆



「…ってわけなんだけど」

 僕がこの秋に見た不思議な夢を葵ちゃんに話すと、最初は『うんうん』ってワクワクした様子で聞いてたのに、だんだん顔色が変わってきた。


「…思い出した…」

「なに?どしたの?」

「僕も高1の頃、不思議な夢を見たんだ」

 って、話してくれた葵ちゃんの夢はこんなのだった。

「校内で、悟を探したのに、どこにもいないんだ。悟どころか、昇も守もいなくて」

 …それは、心細かっただろうなあ。

「僕は、悟くん見て、英だと思ったよ」

「ああ、それあるだろうなあ。でも、喋ると全然違うだろ?」

「うん。全然違った」

 僕の言葉に頷いて、葵ちゃんは話を続けた。

「でね、そう言われてみれば、桂くんと直也くんがいたような気がするんだ。直也くんは誰かわかんなかったんだけど、桂くんは、栗山先生に似てるなあって感じた覚えがあってさあ」

 うんうん。それあるかも。

「あとね、翼ちゃんのちびっ子美少女バージョンがずっと側にいてくれたんだ。あれきっと、安藤くんだよ」

 ふふっと笑う葵ちゃんに、僕もつられて笑っちゃう。

 だって、それ、ものすごく良くわかるから。
 和真と翼ちゃん、よく似てるもん。

「で、もうひとつ面白いことがあったんだ」

「え、なになに?」

「管弦楽部の生徒がみんな、『浅井先生』って呼んでるんだよ。だから、その時に『もしかしてここは未来の学校かも知れない』って思ってさ、祐介は先生になったのかな…って一生懸命探したんだけど、会えずに目が醒めちゃったんだよなあ」

「え〜、残念〜」

「だろ〜?僕もさ、大人になってエラソーな顔してる祐介に会ってみたかったんだけどなあ」

「きっと『カッコいい!』って思ったんじゃない?」

「ふふっ、どうだろうね。ま、良い先生にはなってただろうけどね。今みたいに」

 顔を見合わせて笑い合う僕たち。

「もしかしたら、森澤先生とか早坂先生もいたかもね」

「ほんとだ〜。うーん、マジで惜しいことしちゃったな〜。もうちょと寝てれば良かった〜」

 なんて大笑いしたんだけど。

 でも、ふと真顔になって、葵ちゃんが言った。

「…って、もしかして渉が過去の学校に行ってる間に、僕が今の学校に来てたのかもね」

「…それ、僕もアリかな…って思ってた」


 そして僕たちは、『不思議なこともあるもんだねえ』…と、しみじみ感慨に耽ったのだった。



 その後。
 葵ちゃんが『僕の世界』で、自分のにんじんを和真のお皿に移し替えたらしいってことが判明した。

 ったくも〜。
 僕はちゃんと、にんじん食べられるの!


END

本当は渉の高3の担任も登場させたかったんですが、
渉は3年になるまでその先生を全然知らないので、叶いませんでした。残念〜。
 え、誰って?○○部の※※先輩ですよ( ̄ー ̄)


君の愛を奏でて 目次へ君の愛を奏でて2 目次へ君の愛を奏でて3 目次へ
Novels Top
HOME