七生くんの『日々是好日』


第6話
「七生、憧れの制服を着る。」



 今日はもう、朝からワクワクしてる。

 なんでって、部活の後に制服の採寸があるからだ!

 え?じゃあ今着てるのは何だって?

 制服だよ。制服。普段のな。

 俺、中学の時も思ってたけど、制服って結構汚えよな。
 毎日着てる割りには、そんなに洗濯しねえもん。

 シャツはともかく、ほら、ブレザーとかさ。

 聖陵の制服は、生地が丈夫で、汚れにも強いらしくて、しかも汚れの目立たない色だから、ぱっと見綺麗だけどな。

 実態はまあ、あんまり大きな声じゃ言えない。
 なにせ、暴れ盛りの中高生だもんな。

 でもさ、最近ほら『ファ○リーズ』とか『リ○ッシュ』とか匂いを消して除菌もしてくれる…なんて便利なもんあるじゃん。

 あれって、マジで男子校・男子寮の必須アイテムなんだ。

 多少洗濯しなくてもごまかせるもんな。

 けど、俺の場合、凪が結構几帳面で、『ほら、今日は枕カバーとシーツの洗濯!』なんて引っ張ってくれるから、ほかの一部のやつらみたいな汚部屋化はしなくてすんでる。

 や、部屋の点検は3日に1回あるから、概ねどの部屋も綺麗だけど、汚部屋にしちゃうヤツってのは、どんなに片付けてもたった数時間で元通りなんだな、これが。

 ま、それはともかく、制服のブレザーは洗うってわけにもいかないから、毎日寮に帰ってきたらシュシュっとやってるんだ。


 って、そのちょっと汚い制服じゃなくてさ。

 今日採寸する制服は、管弦楽部のステージ用制服なんだ!

 もう、マジで嬉しいったらない。

 だって、俺たち音楽推薦組は、これを着てステージに上がること目標にがんばってきたんだから。


 普段の制服は、シングルのブレザー。高等部は色が濃紺だ。
 胸ポケットのエンブレムは校章がデザインされてて、かなりカッコいい。

 管弦楽部のはダブルになって、色はほとんど黒。実は紺色らしいんだけど、見た目は黒だ。

 ボタンは金色で、胸ポケットのエンブレムは普段のヤツにさりげなくト音記号が紛れ込んだデザインになってる。

 ほんと、めちゃめちゃカッコいい。
 ちなみに中高統一デザイン。

 クラスのヤツらも、『管弦楽部の制服、ズルい』…って言うくらいの逸品だったりする。

 あ、『ズルい』って言われる理由のひとつに、『あれ着たら、それだけで2割増しいい男に見えるから』ってのがあるらしい。


 でもさ、運動部のユニフォームもみんなお洒落なんだ。

 剣道部は胴着に学校名と名前が刺繍されてるのがカッコいいし、テニス部のポロシャツもめっちゃカッコいいし、そもそも運動部全体が使ってる統一デザインのウィンドブレーカーが、校章と校名の入り方が絶妙だし。

 ま、さすが名門私立…って感じなわけだ。


 で、普段の制服は、よほど規格外の特注でない限り、いくつかのサイズがあらかじめ用意されてて、自分の体型に1番近い物に手を入れるんだ。
 袖丈出したり詰めたり。

 でも管弦楽部の制服は、ダブルで生地がしっかりしてるから、特に腕周りとか細かく採寸してもらって、楽器を弾くのに不自由ないようにしてもらえるんだ。

 だから、高い。普段の制服の1.5倍もする。

 俺は、1着で3年間いけそうな気がするからいいけど、この3年間でまだまだ成長しそうなやつはちょっと怖いよな。

 
 ってわけで、いよいよ採寸。

 俺たち『正真正銘』の他に、先輩・後輩・同級生合わせて30人くらいが来てる。

 ほら、伸び盛りの中高生だから、サイズが合わなくなったら新調するしかないんだ。

 NKコンビも今回新調なんだって、俺たちと一緒に採寸してる。

 なんと今回2回目の新調だってんだ。
 背が伸びてどうしようもなくなったから、3年間に2回だってさ。

 ったく、親泣かせだよなあ。
 エラソーに180cmオーバーなんてなるからだぜ、ったく。

 そうそう、和真は未だに中1の秋に作ったので問題ないらしくて、『こうなったら卒業まで1着で行ってやる』とか強がってたけどさ。

 ちなみに中1は、入学時のオーディションでメイン入りしない限り、聖陵祭まで本番ステージがないので、作るのは秋なんだそうだ。

 今年は中1でのメイン入りがなかったから、中1のヤツらは誰も来てない。

 ってか、中1でメイン入りできるってのは、ヴァイオリンで10年にひとり、いるかいないか…らしいけど。

 そんな話で盛り上がってる時、直也が思い出話を聞かせてくれた。

 直也たちが中等部に入学したとき、桂だけが1年目でメイン入りして、夏のコンサートからステージに上がったので、ひとりだけ先に制服作ったんだって。


『あれ、マジで羨ましかったなあ』

 そう言った直也に、桂はちょっと肩を竦めて『俺はちょっといたたまれなかったけどな』…なんて返す。

 そりゃそうだろう。
 たったひとりの中1なんて、俺だったらビビりまくりだぜ。
 


 オケの人数は、これって決まりがはっきりあるわけじゃない。

 一般的なのが『2管編成』って言われるもので、これは、管楽器の数を言ってる。

 管楽器各2本って言うことだ。この場合、木管は2本ずつなんだけど、金管はホルンが2〜4本、トランペットは2本、トロンボーンはたいがい3本だ。

 で、管楽器が2管の場合の弦楽器は、『10型』って編成になるのが普通。

 これは1stヴァイオリンの人数のことだ。
 つまり、1stヴァイオリンが10人いるってこと。

 他に『12型』『14型』とかいろいろあるけど、これはやる曲によって変わってくる。

 で、『10型』の場合、1stヴァイオリンが10人、2ndは8人、ヴィオラが6人、チェロとコンバスがそれぞれ4人…なんだけど、聖陵のメインメンバーは『変形10型』になってる。

 ヴァイオリンは1stも2ndも10人、ヴィオラ8人、チェロ6人、コンバス4人…だ。

 
 ちなみに管楽器には『倍管』って技があって、管楽器にそれぞれアシスタントを付けて、各4本…ってこともある。

 この場合首席のアシスタントを『1アシ』、次席のアシスタントを『2アシ』なんて呼んだりするけどな。


 そうそう、打楽器は首席以外の席次はない。

 首席がティンパニを担当するのが主で、他の楽器は首席と先生が主になって決めてる。

 曲ごとにオーディションすることもあるらしくて、日々競争らしい。
 だからうちの打楽器はみんな我が強いんだよな。きっと。



 で、俺たち管弦楽部のメンバー割りはこんな感じ。

 オーディション上位の『メインメンバー』は、運動部で言うとレギュラーってやつだ。
 全部で60人弱。部員のだいたい半分だ。

 で、その次の順位の面子で構成されてるのが『サブメンバー』。

 どっちも学年関係無く、オーディションの順位で決まる。

 弦楽器は人数が必要だから、だいたいどっちかに入れるんだけど、管楽器はそうはいかない。

 木管だと、メインとサブで合計4人しかいらないから。

 でも、例えば今年のフルートは7人いて、3人はどっちにも入れない。

 だから、サブメンバーで『倍管』にして、全員乗れたりするように調整してるみたいだ。

 ともかく競争は激しい。 

 で、その他、中等部だけで構成されるのが、『中等部Aグループ』と『中等部Bグループ』。

 学年とオーディションの順位の両方を考慮して、浅井先生がグループ分けしてる、らしい。

 中等部の全員が、どちらかに属することになってるので、メインメンバーと中等部Aグループの両方に入るやつもいるってことだ。

 ちなみに、サブメンバーだけでステージに乗る時もコンマスは、メインのコンマス――つまり今なら桂――で、中等部だけでステージに乗る時のコンマスは、中等部1stヴァイオリンの中で1番序列が上のヤツが務めるそうだ。

 ってことは、桂は中1の時から中等部のコンマスやってたわけで、マジ実力者…ってことだよな。

 なんか、やっぱカッコいいな、桂って。
 普段はおちゃらけてるけどさ。

 で、そんな思い出話なんかをしながら賑やかに採寸してたら、渉がポツリと呟いた。

「僕、葵ちゃんのお下がりでもいいのにな」

『葵ちゃん』ってーと、あの奈月葵さんだよな。

 顔だけじゃなく、体型まで似てんのか?
 渉、相当細っこいぞ。

 そう思ったら、横から桂が口をはさんだ。

「え? 葵さんの方が随分背が高いだろ?」
「そうそう、葵さんの方が大きいって」

 直也も参戦してくる。 

 …だよなあ。
 俺も入学してからフルートコンチェルトのDVD見たけど、あっちの方がかなり高いと思うな。

 すると、見る間に渉がぷうっと膨れた。

「2cmしか変わんないんだけど」

「「「ええっ?!」」」

 NKだけじゃなく、他のヤツまで一斉に驚いて、渉を凝視した。

 その視線に渉はますます膨れてしまって、俺たちはそれからしばらくの間、渉のご機嫌をとるのに必死だった…。

 や、でも、膨れても可愛いんだ、渉ってば。


 ってわけで、『大人しいだけのカワイコちゃんに興味はねえ』なんて言ってた先輩が何人か、渉にすっ転んだ。

『膨れた顔もキュート』…だってさ。

 渉って、もしかして魔性?
 それとも周りが腐りすぎてるのか?

 どっちにしても、俺は転ばないけどな。

 
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