桂と渉のお初物語。

『桂とにゃん!』




 あの最初の夜の、次の土曜日。

「どした? なんかガチガチだよ?」

 ちょっと笑いを含んだ声で、桂が言う。

 その左手は渉の肩をしっかり抱いていて、2人は桂のベッドに腰掛けている。

「えと、なんかちょっと…」

 何のことはない、渉は緊張しているのだ。

 もしかしたら、この前の『初めての夜』よりも緊張しているかも知れない。
 理由は多分、2人きり…だから。


「わあっ」

 桂の右手がいきなり渉の膝裏を掬い上げて、膝の上にその華奢な身体を抱いた。

「身体、ちょっと冷えてるけど、大丈夫?」

 尋ねる唇は耳から頬を辿っている。
 そしてその腕は渉をしっかり抱きしめる。

「あ、うん、平気…」

 こうして抱きしめられるのは好きだ。
 暖かくて、安心出来て…。

 渉の返事に笑顔を見せて、桂は渉の淡いピンク色の唇に小さくキスを落とす。

 触れるだけの小さなキスを。

 それだけでも渉は少し、身体を震わせる。

 漸く思いを遂げてからまだ1週間。
 慣れていないのは当然として、もしかしたら2度目の方が羞恥心は大きいのかもしれない。

 初めての時はきっと、わけのわからないままに終わってしまっただろうから。

 けれど、それではいけないのだと、桂も直也も思っている。

 渉にとっても気持ちのいい行為でないと、愛し合うとは言わないから。

 けれど実際のところ、桂も少し緊張はしている。

 ないとは言わないけれど、片手で足りる程度の経験しかなくて、しかも男の子の身体は初めてだったから、万が一にも渉の身体を傷つけてはいけないと、一応、自分よりはかなり経験豊富な直也に『最初』を任せた。

 なにしろヤツの今までのお相手は2人とも、男子だ。

 しかも、結構場数を踏んでいることも、親友としては当時から把握していたから。

 まあ、首尾良く直也はやってくれたし、とりあえず初夜はなんとかやり遂げた。

 翌朝の渉も、身体のダメージはなかったようだから、あれはあれで良しとしている。

 何より、幸せだったから。

 そんなわけで、直也は『今夜』=『初めての2人きりの夜』を桂に譲ってくれた。

 嬉しいけれど、ちょっとだけ荷が重い。

 渉の調教…ではなくて、躾…でもなくて、ともかく渉のスキルアップ計画の初日を担うわけだから、少しのミスも許されない…と思っている。

 もう一度優しく口づけで、抱きしめたままに2人でベッドに横たわる。

 キスを解かずにいると、渉の身体から少し、力が抜けた。


「わたる…」

 キスの隙間で名前を呼ぶと、『かつら…』と、呼び返してくれた。
 しかも、目を合わせて。

 どうやらキスは好きみたいだ。
 それは直也も気づいている。

 けれど、それ以上の行為には、まだまだ身体がついて来ない。

 気持ちはあるのだと、もう確信はしている。
 それは、嬉しいことに、触れただけでもわかるようになってきたから。



 キスを途切れなく繰り返しながら、パジャマのボタンを開く。

 現れたきめの細かい肌をそっと撫でると小さく震える。

 温めるようになぞりながら、解いた唇を頬から首筋へと、肌から離さないまま舐めていくと、渉が逃がすように息をついた。

 そんな様子も愛しくて、桂の身体も熱くなる。

 細い身体を押さえるように抱きしめて、淡い胸先を唇で摘まんだ。 
 
 敏感に反応する身体を確かめながら、舐めて、吸って、優しく噛むと、渉はその腕で桂の頭を抱いてきた。

 嬉しすぎて、勝手に顔が緩んでしまう。

 しばらく楽しんでから顔を上げてみれば、渉はキュッと目を閉じていた。

 桂は身体を戻して、また渉の唇にキスを贈る。


「大丈夫だから、渉、こっち見て」

 優しい声を掛ければ、渉はおずおずと見上げてきた。
 染まる目尻が可愛らしい。

 その目元にキスを落としながら、そっと後ろを探った。

 途端にビクつく身体を反対の手でしっかり抱きしめて、もう一度『大丈夫だから』と繰り返す。

「ひとつに、なろ?」

 囁くと、渉は『うん』と頷いた。

 それからは、怪我をさせないように、慎重に渉の狭い身体を開くことに、しばらく時間を費やした。

 キスで気を散らすことはしたけれど、渉自身の欲望にはわざと触れなかった。
 それは後に取っておくつもりで。


 少なくとも3ラウンドは軽くいけそうだから、1度目はとりあえずとっとと自分の快感を追って、2回目以降は渉のスキルアップために、自分のことはさておき、渉に思いっきり感じてもらおうと思っている。 


「…いい?」 

 何がとは言わず尋ねたが、渉は小さく頷いた。

 それを確かめて、そっと覆い被さると、渉の足の間に身を置いて、頼りないほど細い足を抱えこんで引き寄せた。 

「渉…好きだよ」

 耳に優しく言葉を埋めて、押し当てた欲望を潜り込ませる。 

「…ん、や…あ…」

 押し出されるように漏れる声はどこか艶めいていて、うっかり連れて行かれそうになったのを息を詰めて堪えた。

 ここでイかされてしまっては、情けないにもほどがある。 

 渉の身体は狭くて熱い。  

 繋いだ身体を思うさま動かしたいと思うのを押しとどめて、ゆっくりと揺する。

 気持ち良すぎて目眩がしそうだ。

 しがみついてくる渉が愛しくて、今ここで世界が終わってもいいくらいで。

 直也は怒るだろうけど。


 
 ぎゅっと抱き合ったまま、桂は動きを強めて快楽を追い、ほどなく欲望を解放した。

 渉はまだ受け入れるだけで精一杯の様子だが、それでも身体は反応していて、嬉しくなる。

 渉の身体を驚かせないように、そっと抜け出て、渉自身を口に含んだ。


「…っ、やっ、かつら」

 初めてではない――身体を繋ぐほんの少し前に経験させていた――のに、相変わらず渉はこの行為には拒絶を示す。

 今も、桂の頭を引き剥がそうと必死で腕を突っ張ってくる。

 けれど、そんな抵抗も桂にとっては何でもないことなのだが、今までは直也が上半身を拘束してくれていたので、集中できた。

 だからなのか、今夜はやけに抵抗が激しい気がする。

 仕方ないので、ちょっと予定を繰り上げて、口で愛しながら後ろに指を入れてみる。

 小さく悲鳴のような声があがった。

 渉は自分であげた声に驚いたのか、慌てて両手で自らの口を覆う。

「大丈夫だから、渉…、好きなように感じて…」

 と言いつつ、好きなように触りまくっているのは自分だけれど。

 弱いところを中心に少し責めたら、ほどなく渉は身を震わせて、堪えていたものを解放した。


「…可愛い…わたる」

 少し意識を飛ばしかかっているのを、抱きしめて引き戻す。

「もうちょっと、頑張ろうな」

 間を置かずにまた身体を繋ぐ。


「…かつら…」

「ん?」

「……気持ち…いい?」

「も、最高」


 桂の言葉にあどけない笑顔を見せて、渉は小さく息をつく。

 ――ヤバい…。

 もうこうなったらスキルアップもへったくれもない。

 それはまた今度と言うことにして、取りあえず、思うさま愛し合うしかない…と、自分に言い訳をして、桂は渉に溺れていった。



                     END


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