君の愛を奏でて 3

「裏・十日夜」

ぬるいですが、一応R-18です(^^ゞ





「土曜の夜、泊まりにおいで」

 渉にそう告げたのは、桂。

「土曜の夜、渉、こっちに泊まらせていい?」

 和真にそう聞いたのは、直也。

 渉は頬を赤くして、うつむき加減で『うん』と言った。小さな声で。

 和真はほんの少し目を瞠ってから、『渉がうんって言ったらね』と、にこやかに答えた。





 土曜の夜。

 休日前夜の開放感からか、消灯点呼後の移動は密やかだが多い。

 だが消灯点呼から1時間後にはそんな移動もある程度収まって、みなそれぞれの場所で一夜を過ごすために腰を落ち着ける。

 話し込んで夜明かしするものもいれば、一晩中ひっそりと遊んでいるものもいる。

 もちろん、恋人の元で過ごす者も、少なくない。


「部屋に入るまで、見ててあげるから」

 目的地が真向かいとは言え、人気のない廊下に渉をひとりで出したくない。

 そう思った和真の言葉にありがとうと応えて、渉はひとつ、小さく息をついた。

「緊張、してる?」

「ちょっと」

「大丈夫。暑苦しくて鬱陶しいヤツらだけど、愛の深さは地球の裏側まで行けちゃうくらいだから」

 ちょっと茶化すと、渉は小さく笑いを漏らして、うんと頷いた。

 
 渉が部屋へと迎え入れられたのを見届けて、そっと閉じたドアにもたれて『ふう』と息を吐く。

「…なんか、娘をヨメに出した気分かも」

 およそ美少女の口から出る内容とは思えない言葉を落として、和真はそっと胸を押さえた。


 失恋で空いた穴は、渉が塞ぐ手段を教えてくれた。

 嘘みたいに泣いて、目も鼻も真っ赤になって顔もむくんで、『美人台無し』と渉に言われて。

 でもその後、顔が元通りになる頃にはなんだか少し、生まれ変わったような気分だった。

 忘れられたのかと言われたら、まだそこまで吹っ切れていない気もするけれど、少なくとも吹っ切れていない自分を自覚しただけでもなんだか前向きな気がする。

 ポッカリと虚ろに、寒々しく口を開けていた穴も、柔らかく閉じて少し温かい。

 だが、今夜渉を送り出したことで、また別の穴が空いてしまったような気もしている。

「この穴は、誰が埋めてくれるんだろ…」

 ポツッと呟いて、可笑しくなって、ひとりでちょっとだけ笑った。



                    ☆★☆



 小さくノックをしただけで、静かにドアは開いて渉は招き入れられた。

「あれ? 渉、シャワーしてきた」

「あ、うん」

 肩を抱いて、髪に顔を埋めてきた桂が『いい匂い』と呟く。

 それだけでも渉は顔が火照ってくるのを感じていて、ここでこんな状態で、本当に自分は大丈夫なんだろうかと不安になる。

「あ、ホントだ」

 直也も耳の後ろに鼻をくっつけて『くん』と、吸い込む。

 そう言う2人も、自分と違うボディソープの香りがして、それだけで目が回りそうになる。

「おいで」

 直也が手を取ってベッドへと誘う。

「大丈夫だから」

 緊張からどうしてもぎこちない動きになってしまう渉に、桂が柔らかく微笑みかける。

「今夜だけ、許して欲しいんだ」

 桂の不思議な問いに、渉が首を傾げた。

 自分に許しを乞わねばならないことなど、何もないのに。

「今夜だけ、2人で渉を抱かせて…」

 直也が頬に口づけて、囁くように告げる。

 最初の夜、だから。



                     ☆★☆



 それはまるで、儀式のようだった。

 左右の耳たぶを同時に優しく噛まれて、それは同じように頬を辿って首筋を巡り、鎖骨を柔らかく噛んだ後、淡い胸の先へとたどり着く。

 知らない感覚に、思わず竦んだ身体を温かい4つの腕がなだめて抱きしめる。

 少し安堵して力の抜けた身体を、また熱い唇が這い、胸先を甘噛みしたりキュッと吸い上げたり、自由に動き回りだす。

 もう、開けていられなくて、きつく目を閉じると、肌の感覚は一層鋭くなって、いたたまれなくなってしまう。

 けれど2人は、容赦ない優しさで渉の身体を高みに引き上げる。

 やがてひとつの手が、緩やかに変化を始めている渉の中心を捉えてゆるゆると追い詰める。 

 その、疼くような刺激に耐えているうちに、もうひとつの手が、密やかに閉じる奥地に触れて、指先が侵入を試みてきた。

 何か少しヒンヤリとしたぬるみのあるものが、指先の動きに合わせて時折『くちゅん』といたたまれなくなるような音を立てているが、もうひとつの手が休むことなく刺激を与えてくるので、次第に考えようとする意志を奪っていく。

 いや、もう何も考えない方がいいのかも知れないと思った。

 きっと今夜は、全てを委ねるしかないから。

「…やっ、あ…んっ」

 するっと潜り込んできた指の刺激に思わず漏れた声は、目だけでなく耳まで閉じたくなるほどの甘ったるさで。

「…渉…かわいい…」

 そう囁いたのがどっちなのかももう、わからない。

 繰り返し、浅く深く口づけを受け、胸先は熱い舌に翻弄され、育てられて張り詰めた欲望と2人を受け入れる部分とを一度に愛されて、渉は完全に思考を手放した。

 あとは2人の望むままに、濡れた声を細く上げ続けるばかり。

 だから、ふいに足を抱え上げられても、何の抵抗もなく受け入れてしまった。

「……っ」

 声にならない声を漏らし、無意識に両腕は覆い被さってきた身体にすがりつく。

 身体の芯までやってきた、壮絶な異物感。

 けれど、不思議とどこにも痛みはなく、身体の中心から、じわりと熱が広がっていくのを感じた。

「大丈夫? 辛い?」

 右の耳元の心配そうな声は、桂…のようで。

 大丈夫と答えたかったのだけれど、声を出せばきっと、言葉にならないものしか出てこないと意識の遠いところで感じたから、首を少し振るだけになった。

 それが『辛い』なのか『辛くない』なのか、ちゃんと伝わるかどうかなんて、やっぱりもうわからない。

 ゆさ…と、身体が揺すられる。

「…わたる…」

 左の耳に囁かれたのは、熱っぽく緩んだ声が呼ぶ、自分の名前。
 直也…だと思った。

 自分の中を満たしていたものはやがて堪えきれないように動き出し、突き上げる強さはどこまでも渉を翻弄して、先が見えないほどの深みへ連れて行く。

 けれど、初めてのことばかりの中で、快感を拾うにはまだ渉の身体は慣れていなくて、ギュッと自分を抱きしめた身体が小さく震えたこともよくわからないまま、ただ圧倒的な存在が身体を抜けていく感覚に皮膚までがキュッと縮まって、胸の中まで締め付けられる。

 けれど、自分を取り戻すより前に、渉の身体はまた温かい腕に抱かれて、再びやってきた体の中を拓かれていく感覚に、思わず小さな悲鳴をあげてしまった。

 体中の神経が、ピリピリと鋭くなったまま、まだ戻れていないから。

「ごめん、きつい?」

 気遣わしげな、声。

「…へい…き」

 それだけはどうしても伝えたかった。

 我慢なんて、させたくないから。絶対に。

 そして、自分も嬉しいから。

 大好きな直也と桂に求められて、こうして身体の奥深いところまで許して、愛されて、これ以上の幸せはきっとない…と、追い詰められる身体の真ん中で、渉は笑った。


 ――愛してる…。

 そう言ったのは、直也なのか桂なのか自分なのか。

 もう何にもわからなかった。

 やがて、激しく揺さぶられ続ける中で、突然身体の中心に集まってきた締め付けるような感覚がいきなり渉を高く放り上げて、一瞬の快楽を拾った瞬間に頭の中がホワイトアウトして、意識はふいに失墜した。



                    ☆★☆



 頂点を見た瞬間に、腕の中の渉の意識が切れたことに2人は少し慌てた。

 けれど、その顔はふんわりと微笑んでいるように見えて、無理をさせたと思いつつも、頬が緩むのが押さえられない。

 2人で渉の身体を綺麗にして、交代で、眠る渉の身体を膝の上に横抱きして、幸福な疲労感の中で少しだけ眠った。

 目を覚ました渉が、どんな顔を見せてくれるのか、楽しみで仕方がなかった。


END

さて、どっちが先だったんでしょうか?
それは永遠の謎?

『おまけのオマケ〜ヤツらの生々しい事後。』

☆ .。.:*・゜

「なんかさあ」

「うん」

「ヤバいことない?」

「ヤバい。とんでもないくらいハマりそう」

「お前さ、3人目じゃん。正直どうよ?」

「ん〜? いや、身体だけ気持ち良くてもダメなんだなって、改めて思い知ったって感じ?」

「心が通ってこそってか?」

「そう、それ。オトコってさ、愛しいって想いが身体に直結するよな」

「だよなあ」

「そう言うお前はどうなんだよ。女子しか抱いたことないんだろ?」

「しかもお前と違ってひとりだし」

「ま、数じゃないからさ、ひがむなって」

「あのなあ」

「や、それはいいからさ、どうなんだよ」

「どうって、そりゃ比べものにならないさ。前のなんて、遠距離でめったに会わないし、会えば『しよ?』って言われて流されるままって感じでさ、とりあえず子供出来ないように気をつけなきゃだし、あんまり楽しいって思ったことないなあ」

「…それ、ある意味悲惨な経験だな…」

「まあな。素敵な経験だとはこれっぽっちも思ってないよ。でも好きな相手とするのって、こんなに嬉しいんだって、やっとわかったかな」

「だよな。それに、渉だったら妊娠してくれても嬉しいのになあ」

「けどそれってさ、難しい問題になるぞ」

「なんで」

「俺の子かお前の子かDNA鑑定しなきゃわかんないじゃん」

「あ、そうか」

「ま、一緒に育てりゃいいことだけどさ」

『くしゅん』

「わああ」

「渉、寒いんじゃないか」

「毛布取って」

「ほい」

「それにしてもさ、ベッド狭くね?」

「そりゃ、お一人様用だからな」

「3人で暮らせるようになったら、デカいベッドにしような」

「当然」

「そう言やお前さぁ、中学時代って、どこで悪さしてたわけ?」

「悪さってなんだよ」

「や、それはいいから、ともかくどこでいたしてた…って話。4人部屋なんて、絶対ムリじゃん」

「我が校の広大な敷地には穴場スポットが数え切れないくらいあるんだよ」

「…それ、真夏とか真冬、キツいよな」

「真夏は虫だらけだし、真冬は遭難レベルだな」

「みんな命懸けで遊んでんだ」

「10代男子は見境ないからねぇ」

「コワいねえ」

「そろそろ交代」

「ん、起こすなよ。せっかく気持ち良さそうに寝てんだから」

「わかってるって」

「それにしても、渉、軽いよなあ」

「ちょっとびっくりだよな」

「でもこれなら騎乗位も楽勝だな」

「それ、渉には難易度高過ぎると思うぞ」

対面座位の方がいいかな」

「あ、確かにソレの方がいいかも。密着度高いしさ」

「それにしても…渉、気持ち良かったのかなあ」

「初めてだからな、もしかしたらキツいばっかりだったかも…」

「目もぎゅっと閉じてたしなあ」

「恥ずかしいってのもあったんだと思うけど、いずれにしても、早く気持ち良くなれるようにしてあげたいよな」

「だよな。…となると、やっぱ経験だな」

「と言うわけで、今後のスケジュールだけどさ…」

 自分の預かり知らないところで、『経験値アップ大作戦』が計画されていることも知らず、渉は2人の腕の中ですやすやと眠っていた……はず。





 耳元で小さく響く話し声にゆっくりと僕の意識は浮上した。

 今僕を抱えてくれているのは桂。
 目を閉じていても、声でわかる。

 今、何時だろう…。

 途中でわけわかんなくなっちゃったんだけど、ちゃんと最後までできたのかな…。

 って思ったら。

 ヤバいとかハマりそう…なんて話が聞こえてきて。

 目を開け損ねた僕は、そのまま2人の会話を聞いてしまうことになってしまったんだけど…。

 なんだかすごく面白い。

 2人だけの時って、こんな話してるんだって、すごく新鮮で。

 前に付き合ってた人の話なんて、きっと僕には話してくれないだろうし、ついうっかり聞き入ってしまったんだ。

 でも、途中で吹き出してしまいそうになって、我慢してたらくしゃみがでちゃった。 

 だって、いくらなんでも子供は産めないってば。

 産んであげたいのはやまやまだけど。


 …そう言えば、途中でよくわかんない単語が出てきたんだけど、アレ、なんだろ?


おしまい


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