超SS
まりちゃんの甘々デート




「え?今から?」
「そう、今から」

 春休みのある日、午前中のことだ。
 掃除、洗濯…と、よく働く智の後ろを、手伝おうとしてウロウロするだけの俺に、すべてを終えた智が『服、買いに行きたい』って言いだしたんだ。

 俺なんか、今まで服はお袋任せだったから(おかげで酷い目にあうこともあったけど)自分で買いに行ったことなんか、ほとんどない。

 でも智はお母さんがいなかったから、自分の身の回りのものは全部自分で揃えていたんだ。

「いいよ。いこ」

 智って結構お洒落なんだ。

 制服の時も、『これが俺と同じ制服なんだろうか?』って思っちゃうほどかっこよかったんだけど、私服だと、これがまた異常にかっこいい。
 智がいつもどんなところで服を買うのか、すっごく興味もあるし…。


 電車で駅3つ。
 智が入った店は、デザイナーのものでもなんでもない、結構カジュアルなところだった。

 そうか…かっこいいヤツは、何着てもかっこいいってことか…。
 ちょっと悔しい俺だ。

 あれ?でも、よく見てみるとどこかで見た服が…。

 そっか、智と、智のお父さんが揃えておいてくれた俺の服って、ここのだったのか。

 確か、今着てるピンストライプのシャツもここのだったかも…。
 ただ…細くて目立たないとは言え、ストライプは『ピンク』だ…。

 あれ…?智は…?

「俺、試着してくる!」

 す、素早い…。

 智は何かをひっ掴んで、試着室に消えた。
 そして…出てきた智は…。



 げっ。何着てやがるんだっ!!
 ああっ、財布出して…買いやがったっ!!!
 まさか、お前っ、それ着て帰るってかっ…?!


「お待たせ、直」
「そそそ、それ…」

 目にした事実が信じられない俺に、横から店員のねーちゃんの脳天気な声がかかった。

「あらー!ペアですね」


 …そうなんだ…。
 智が着ているのは、俺と同じピンストライプのシャツ。
 色違いのブルーだけど、誰がどう見ても、これ以上ないってくらいにペアルックだっ!

「彼もすっごくかっこいいけど、彼女もめちゃめちゃ可愛いわ〜。お似合いね〜」

 か…彼女…。

 打ちのめされた俺は、『またよろしく〜』と手を振るねーちゃんに見送られ、しかも智に手を引かれて店を出た。



 春休みの午後、街は俺たちくらいの歳のヤツらで賑やかだ。


「おいっ、こらっ、智っ」
「何?直」
「お前、もしかして最初から…」 

 智のヤツ、絶対最初から俺とお揃いを買う気でいたに違いない。 

「いいじゃないか、お似合いだって、俺たち」

 男同士で似合ってて何が嬉しいんだ〜。
 そりゃまあ、似合わないよりいいけどさ…。


「ほら、直しっかり持って」

 ぶつくさ文句を垂れてる俺の目の前にいきなり現れたのは、ソフトクリームだった。

「あ、うん」

 俺、ソフトクリーム大好きv
 一気にご機嫌モードになる、現金な俺だ。

「直はこれで懐柔できるからな」

 ち、ばれてるぜ。

「ふん」

 でも、一口舐めると…。

「あ、これめっちゃ美味い」
「だろ?北海道・牧場指定の生乳使用だってさ」
「ふぅん」

 俺は一生懸命舐めるのに専念してたんだけど…。

「くすっ」

 くすっ…?
 見上げると智の顔が近くにあって…。

「なお…。鼻…」

 え?

『ぺろっ』


 ととと、智が、俺の、鼻の頭を、な・め・た…。

「うわーーーー!と、智っ、何すんだよっ」

 こ、こんな人通りの多いところでっ。

「だって、鼻のてっぺんにソフトクリームつけてたから」
「だったら教えてくれりゃいいじゃんかっ」
「なんだったらベタベタの口も舐めてあげるよ」

 う…こいつは、マジでやりかねない…。

「そ、そういうことは…」
「家に帰ってから?」

 あうううう…。



☆ .。.:*・゜



 なぜかちゃっかりペアのシャツを着込んで、春休みの街を堂々とデートすることになった俺と智。

 高校の頃のように、ゲーセンに行ったり、映画を見たりした後は、いつもと違うコースになる。

 俺と智は高校3年の秋までずっと親友同士で、その後たったの4ヶ月ちょっとを婚約者同士になって、あっと言う間に新婚さんになってしまった。

 というわけで、デートの最後は新婚さんらしくスーパーでのお買い物だ。

 俺は今まで自分のおやつはコンビニ誂えで、スーパーなんかに行ったことなんかほとんどなかった。
 そりゃあ、小学生の頃は別だけど。

 でも、智は高校になってからのほとんどを一人で過ごしてきたから、こんなのもお手のものの様だ。

「ね、これ何?」

 俺はへんてこなイボイボのでっかいきゅうりを見つけて智に聞く。

「これ、ゴーヤってんだ。ニガウリとも言うな。沖縄の野菜だよ」
「へー。美味いの?」
「苦いよ。食べてみる?」
「う…。苦いのやだ」

 そう、俺は苦いのが大の苦手。

「直はお子さま用の甘い野菜がいいんだろ?」
「お子さま用とはなんだよ。失礼な」
「あ、これこれ」

 智は真っ赤なトマトを手にした。ちょっと小さい。

「トマトじゃん」
「これ、シュガートマトって言って甘いんだよ」
「え?甘いの?」

 俺、甘いの大好き。

「食べてみる?」
「うん」

 俺がそう言うと、智はシュガートマトとやらを1個とってかごに入れる。
 ふ〜ん。こんなちっこいトマト1個だけとは…。智のヤツ、自分は食べない気だな…。

 俺は黙ってもう一個、かごに入れた。

「あ、直。1個でいいってば」
「ダメ。智も食べなさい」
「え…。お、俺は…」
「好き嫌いはいけません」
「う…」

 智って実は好き嫌いが多いんだ。


「直のお母さんの得意料理ってどんなのだった?」

 ふふっ、可愛いヤツ。必死でトマトから気を逸らそうとしてやがる…。

「ピーマンの肉詰めと椎茸の肉詰め」
「う゛…」

 へへっ、智はピーマンと椎茸もダメなんだ。

「心配しなくても、俺、そんなの作れないから」
「な〜お〜」

 でもさ、智の好き嫌いはしっかり直していかなくちゃなんないよな。
 ふと気がつくと、智がさっきのトマトを1個、棚に戻そうとしている。

「智〜。食べなきゃダメ」
「だって〜、俺、トマトは〜」
「じゃあさ、1個ちゃんと食べられたらなんかご褒美やるからさ」

 そう言った瞬間、智の目がきらり〜んと光った。

「ご褒美?何でも?

 ……。何でもとは言ってないぞ、俺。

「ちょ、ちょっと待て、智」
「待たない。今ご褒美くれるって言ったな。じゃ、トマト1個と…よし、ピーマンにも挑戦するからこれで今夜のご褒美は2個な」

 おいっ、何でそうなるんだっ!
 だいたい『今夜の』ってのはなんだっ!!

「明日は椎茸、明後日はキャベツ…」

 やばい…智のヤツ…浮かれまくってやがる…。

「さ、直、帰るぞ〜!!」

 いやだ〜、俺、帰りたくない〜(涙) 



END


その夜、直クンがどうなったかは、皆さんのご想像にお任せいたします(笑)

葉月瑠璃様のリクエストでしたv
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