メイドのまりちゃん、大ピンチ!
〜後日談〜





「まりちゃん!これはいったい何だねっ!!」

 ある朝、珍しく早起きしたお父さんの雄叫びが、部屋中を駆け抜けた。

「んあ?」

 俺が目呆け眼で寝室から出ていくと、玄関先でお父さんがフルフルと震えていた。
 その手には、クリーニングから返ってきたとおぼしき物体が。

 それは紺色で、フカフカの袖で、真っ白なエプロンが…。 

 ま、まさか…。智のヤツ、これをクリーニングに…?

「いつの間にこんなものを!」

 お、おとーさん、マジでキレてるよ…。

「あ、あの、それは…」

 俺が説明しようとすると、お父さんはニッコリと微笑んだ。

「もちろん、着て見せてくれるよね」

 はぃぃぃ〜?

「父さん、それは俺のです」

 後ろから智が現れた。
 ああ…また話がややこしく…。

「なに?まさか、お前が着るのか?許さんぞ、そんな不気味なこと」

 やめてくれ〜。

「当たり前です。気色の悪い。この可愛いメイド服は、俺と直がバイトでがんばった報酬です」

 ちが〜う!俺が恥をかいた報酬だってば。

「む。やはりメイド服か」

 やはり…ってなんだよ〜。

「まりちゃん、着て見せてくれっ」
「ダメです」

 横から智が即答した。

「智雪のケチ、減るもんじゃなし」
「減ります。第一…」

 第一…?

第、一…?」

 静まり返り、不気味な緊張感が漂う我が家の廊下…。


「これだけでは不十分です」
 智が勝ち誇った顔になる。

「必須アイテムのフリフリソックスとレースのヘアバンドは、俺が隠してますから」

 だぁぁぁぁ…。

「何をー!!生意気なっ。それならこっちにも考えがある!」

 そう言うと、お父さんは、クルッと振り返り、俺の顔を見てニッコリと笑った。

「まりちゃん、イイコで待っておいで」

 げ………。俺、ちょーイヤな予感が…。

 お父さんがバタバタと書斎に消えた後、智は俺の手を取った。

「さ、直、あんなエロバカ親父ほっといて、寝なおそう」
 
 手を引かれて俺は智の後をついていく。
 
 そして…。

『智クン、パパそっくりだね…』

 俺はその言葉を胸の奥の方で呟いた。

 何故かって?
 そりゃあ俺だって、今からもう一回、ちゃんと眠りたいからね。


 

 翌日からお父さんはまた、アメリカへ発った。
 そして、帰ってきたとき、その手には大きな衣装箱が…。

 秘書の長岡さんから聞いた話によると、お父さんはアメリカでの予定を一日早く切り上げて、イギリスへ寄ったそうだ。

「ふふっ、やはり本場のものは仕立てが違うね」
 
 お土産の紅茶を美味しそうに飲みながら、お父さんはニッコリと笑う…。

 …俺、これからこの家で、無事にやっていけるんだろうか…。



END

パパ、恐るべし


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