「まりちゃんのお初」〜直サイド

*これは、連載第3話「まりちゃんの恋人」で、
智と直が初めて結ばれたときのお話の、直くん
シリアス視点です(ありえね〜/笑)。


お子さまは回れ右なのよう〜v





「俺も…智のことが…大好きだ…って気づいた…」

 そう言った時の智の表情を、俺は一生忘れないだろう。
 ただでさえ甘系ハンサムが、さらに甘く優しく微笑んだんだ。
 とてもとても、幸せそうに。

「いつ?」
「…今朝…ううん、昨夜…かな?」

 あまりに正直すぎる告白にも、智はただただ、嬉しそうで。

 
「俺は…もうずっと前…。直に初めてあった日から…だ」

 …それほどの深い思いに、俺はずっと気がつかなかったんだ。
 ただ、その優しさに甘えるばかりで…。

 
「黙っていようと思ってた。だって、ずっと一緒にいられる予定だったから」

 俺だって、ずっとずっと智と一緒にいるつもりだったよ。
 離れる事なんて、一度も考えたこと、なかった。

「でも…」

 息がかかる。
 智の、熱くて甘い息が…。
 そしてそのまま…。

 微かに触れた智の唇は、その息と同じくらい熱くて、触れた部分から溶けていきそうだ。

 一昨日までは『親友』だと思っていた。
 だから、智とこんな事をするなんて、夢にも思わなかった。

 そして、昨日。
 俺は自分の中にずっと隠れていたんであろう、その想いに気がついた。
 けれど、そんな想いをまさか受け入れてもらえるとは思わなくて、やっぱり、智とこんな事をするなんて、夢にも思えなかった。

 智と……キス、なんて…。

 今していることを改めて認識した瞬間、俺の身体は面白いくらいにビクついた。
 けれどその瞬間、息も出来なくなるほど強く抱きしめられる。
 智の、力強い腕に…。


 …ああ…。気持ちいい…。
 智の腕の中、暖かくて…。

 一度離れた唇が、また触れる。
 軽く、優しく…。何度も何度も。

 そのうちに唇全体が覆われて、そこから溶けてしまいそうなほどひっついてしまった。
 
 …息が…できないよ…智…。

 そう思って、無意識のうちに開いてしまった唇に、もっと熱いものが触れてきた。
 しっとりと濡れた、智の…。

 智は、口の中まで侵入してきた。
 余すところなく舐められて、そしてどうしていいかわからずに縮こまっていた俺の舌先を捉えて、キュッと吸う。

 途端に身体を走り抜ける痺れ。

 …キスって、こんなこと、するんだ…。 

 この歳になっても何の経験もなかった俺は、もう、智のなすがまま。
 されるがままに、熱いキスを受け続けて、だんだん息が上がってくる。


「…は、ぁ…」

 漸く離された口。俺は大きく息をつく。


「直、既成事実を作ろう」

 怖いくらい真剣な眼差しの智。

「既成事実…?」

 なんの?
 
「先に俺と結婚するんだ」

 …結婚?
 
「と…智…何を…」
 
 いくらこの話の発端が『結婚話』だからって…。

「好きだよ…直」

 これ以上ない甘い囁きが耳に流れ込んでくる。

 そして、その言葉と一緒に智の手が動き始めた。
 俺の背をしっかり抱いていたはずの手…。
 それが、腰を撫で胸のあたりを彷徨い、そして足の付け根へ…。

「とも…っ、智っ…!」

 これから何が起こるのか。智が言う『既成事実=結婚』とはなんのことなのか。
 俺だって、男女が結婚したら何をするのかくらい、知ってる。
 でも、俺たちは…。

「し…っ」

 智は長い人差し指を、そっと俺の唇に当てた。

「静かに…、な・お…」

 もう一度優しいキスが降ってきて、俺の身体はふわりと浮いた。




 初めて入った智の寝室。
 
 枕元のスタンドだけがぼんやりと灯された中で、俺はベッドに横たえられ、そして智の甘くて優しい囁きを聞きながら、一つ一つ、着ているものをはがされていく。

 寒さのせいなのか、それともこれから起こる事への不安からなのか、素肌が空気に触れた瞬間、俺の肌はあわだった。


「直…、綺麗だ…」

 智の息が胸に触れる。
 そして、熱い唇が触れる。
 時折、きつく吸われてチリッとした痛みが走る。

 なんだか自分の身体が自分のものではないような感覚に囚われて、その度に俺は智を見る。
 
 そして、その度に俺は、智の瞳の中に滾る熱を目の当たりにして、身体を熱くしてしまう。
 
「なお…なお…」

 何度も俺を呼ぶ声。
 いつもの智の落ち着いた声とは違う、少し掠れて上擦った声。 

 呼ばれるたびに、俺の熱も上がる…。
 そして、さらにそれを追い立てるようにまた、智の唇が俺の身体を辿る。

 
「なお…我慢できる…?」

 ふいにそんなことを聞かれ、俺はふと引き戻される。
 
「直の中に入りたい…」

 俺の…なか?

「とも…?」

 何のことかわからなくて智を見つめると、智は酷く切ない表情をした。

 優しい指先が、俺の額にかかる髪をすくい、額にひとつ、暖かいキスが降りてきた。

 
「と、も…?」

 何を考えているんだろう…。
 俺の目を捉えたまま、その表情には切なさの他に、不安の色まで見え始める。

 とも…どうしたの?

 やがて智は、ふうっと一つ息をつき、そして言った。

「直…俺を信じてくれる?」

 それは、優しい優しい、問い。

 智…俺は今までもずっと、智を信じてきたよ。
 だからきっと、好きになった。

 そして、それはこれからもきっと、変わらない。

 でもね、智。
 智も約束してくれるよね。

「智が、離さないでいてくれるなら…信じる」

 これからも、いつまでも。

「何をしても?」

 たたみかけるように尋ね返す智に、俺は小さく頷いた。

「智が…何をしても…」

 智が好きだから。
 …でも…。

「でも…とも…」

 それでも、心のどこかで未知への恐れを抱いてしまう俺を、助けて…。

「怖いのは…ちょっと、やだ…」

 言葉と一緒に、智の身体にしがみついた。

 そして、そんな俺に与えられるのは、限りなく暖かい抱擁と、優しい言葉。

「怖いことなんかなんにもないよ」 
「ホント?」

 智はニッコリと笑って、そしてまた、目眩がするほど熱いキスをくれた…。

 熱くて、気持ちいい…。

 けれど…。

 そのままの姿勢で、ふいに智の右手だけが動いた。
 そして、それは俺自身に及び…。

 キュッと握り込まれた瞬間、喉を突いて飛び出そうとした声は、智の唇に吸い取られてしまった。

「…んっ…」

 何度かそれを繰り返しているうちに、俺の足は開かれていて、すっかり大人の体格になっている智の身体が間に割って入ったきた。

 けれど、そんな恥ずかしい状態をどうこうする間もなく、俺はとんでもないところに智の指先を感じて…。

 とも…っ。

 ギュッと目を閉じた瞬間、それは壮絶な異物感を伴って俺の中に入ろうとしてきた。

 …いた…っ。

 そんなつもりはなかったのに、俺の目は勝手に濡れ始めた。

 そして、それに気がついたのだろう、智は慌てて手を退けた。 

「なお…辛い…?」

 ううん、辛いんじゃないんだ…。ただ…。
 
「ちょっと…びっくり…しただけ」

 もう、わかった、智…。

「直の中に入りたい」

 うん、こういうことだったんだ…。

 …俺、これから智に抱かれるんだ…。

「痛いかもしれない」
「…うん」
「それでも…」
「いい…」 

 智と一つになれるのなら…。

 俺はゆっくりと目を閉じた。
 




 それからの俺は翻弄されるばかりで。

 かなり時間をかけて準備されたにも関わらず、俺の身体はなかなか智を受け入れられなかった。

 でも、苦しそうな声を出したり、辛そうな顔を見せると、智はすぐにやめてしまうから、俺は出来るだけ息を詰めて耐えた。

 どれほどそうしていただろうか。
 智が俺の耳元で小さく囁いた。

「直、ごめん」

 まさか諦めてしまうんじゃ…と思った瞬間、俺は折れそうなほど強い力で抱きしめられ、そして…。
 
「………!」

 衝撃があまりに強すぎて、叫びは声にならなかった。
 痛いと言うよりは…強烈な痺れ…。

 けれどそれも程なく快感に凌駕される。
 智が、俺自身に手を伸ばし、愛し始めたから…。

「は、ぁ…」 

 自分の息が、熱い……。

 智がゆっくりと腰を引いた。

「と…も…」
 
 その間感覚についていけず、思わず智を呼ぶと、今度はグッと突き入れられた。
 
「…あ…んっ」

 また引かれ、そして突かれる。

「なお…好きだよ…大好きだよ…」

 智の動きが激しくなる…。

 もう、何が何だかわからない…。

「とも…と、も……」
「なお…俺はここにいるよ…」

 ああ…智なんだ。今、俺の中にいるのは…とも……。

 智だから…こんなにも…。

 智だから……。


 大好き…。


END



2001.3月に「まりちゃんの新婚旅行」の裏ページとして掲載した「智くん視点」の直くんバージョンでした(*^_^*)。(2003.11.4up)

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