2001ホワイトデー企画
「まりちゃんのバレンタインデー、その後のシャワールーム」
*バレンタインデー、智くんにシャワールームに連れ込まれてしまった直のその後の運命やいかに?
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「智っ、智ってばっ」 俺を抱き上げたまま、智は器用に片足で脱衣室のドアを開けた。 「何?直」 「何ってなあ、お前いきなり…」 「いきなりでなきゃいいわけ?」 う…。こ、こいつはまったく、ああ言えばこう言う…。考えてみたら、口でこいつに勝てた試しは一度もない…。 「俺っ、腹減ったっ」 やけくそでそう叫ぶ。 智はにっこり笑って、俺を脱衣室の床に降ろしてくれた。 よかった…。思いとどまってくれたか…。 「お腹いっぱいになってからすぐに運動すると、胃に悪いからな」 は? 「いっぱい運動して、もっとお腹を減らせると晩ご飯が美味しいよ」 ななな、何だとっ。 「さ、直、無駄な抵抗はやめようね」 智は俺の制服のネクタイをスルッと解いた。 「ともっ」 その呼びかけに答えることなく、智は嬉々として俺の制服を剥いでいく。 カッターのボタンが上から順に外され、ベルトのバックルに手が掛かる…。 くそー、めっちゃ恥ずかしい。 だいたい普通は絨毯の上とか、ベッドの上に転がされてから脱がされてしまう。 こんな明るいところで、立ったままなんて…。 ベルトが引き抜かれたところで、俺はたまらず手を伸ばした。 「直?」 そう、智のネクタイに…。 黙ってネクタイを解く…って、これが結構難しい。 何で智は俺のネクタイを簡単に解いたんだぁ? 震える手でなんとか結び目を解こうとすると、智は自分の手を止めて、ジッとしていてくれる。 「あ…」 四苦八苦の末、やっとネクタイが抜けた。 けど、ここで手を止めるのも恥ずかしくて、そのまま俺の手は智のカッターのボタンに伸びる。 一個、一個、ゆっくりと。 さて、ボタンを外したのはいいけど…。 う゛。これからどうするよ、俺。 手を止めてしまった俺に、智が顔を近づけてきた。そして耳元で言う。 「ベルトは…?外してくれないの?」 …これって、もしかして『墓穴を掘る』ってヤツ? 自分のベルトを外されるよりも恥ずかしい事態に陥ってしまったんだけど、ここでやめるともっと恥ずかしいかも…。 俺は意を決して、智のベルトに手をかけた。 『カチャ』 バックルが僅かな金属音をたてて外れる。 手の震えは最高潮だ。 ベルトを抜こうとした手が…止まる。 もう…ダメだ。 俺は思わず智にしがみついた。 「直…」 智がギュッと抱きしめてくれる。 そして降りてくる暖かい唇。 何度か軽く啄まれてから、やんわりと、そして、次第にギュッと密着する。 時折、智の舌が俺の唇を掠めるように撫でていく。 ゆっくりと、長いキスが終わったら…。 あーーーーーーーーーーーー! 俺、しっかり脱がされてるっっ。 こいつってヤツは、いったいどういう手をしてるんだ。 俺があれだけ意識を集中してもろくに出来なかったことを、易々と、しかもキスまでしながらやってのけるとはっ。 すっかり俺がパニクっている間に、頭から温かいお湯が降ってきた。 いつの間にやら、智もすっかり脱いでしまって、場所もシャワーの下に移動していた。 俺って…ううっ、情けない。 でも、冷えた身体に暖かいシャワーは、眠気を誘うほど気持ちよくって…。 「なお…好きだよ」 智が呪文のように低く呟いて、俺の首にキスをする。 それは、首から肩、腕の付け根、そして胸へと降りて…。 「ん…」 俺から漏れたのは、鼻を抜けるような甘い声。 智はしばらく俺の胸に執着して、それからまたキスを下へ降ろしていく。 俺の方は…そろそろヤバイ。 目の前が霞んで、足から力が抜けていく。 いつものことなんだけど…。 膝の力が抜けた瞬間、俺はきつく智に抱きしめられた。 何処を…って、腰を…。 智はいつの間にか跪いていて、かろうじて立っている俺の腰をしっかりと抱き留めていた。 「なお、もうちょっとがんばってて」 こ、こらっ、そんなところで喋るなっ。 そして、そのまま…。 「…と…も…」 目の前はすっかり霞んでしまっているんだけど、俺の感覚は猛スピードで一点に集中していく。 「離…せって…」 そう言って智の頭を押すけれど、そんなことで智が引いてくれるわけがないことを、俺は過去の経験でしっかりと学んでいる。 「ぁ…」 結局追いつめられて、俺は容易に自分のすべてを解放してしまう。 そして同時に崩れ落ちた俺の身体は、そのまま智の腕の中に堕ちて…。 「背中痛い?」 俺が寝かせられたシャワールームの床は、マンションだからなんだと思うけど、タイル張りじゃない。 しかも、ほんのりと暖めておくことが出来る床だから、固いと言う以外に不快な点はないんだ。 「ん、大丈夫」 そう答えると、智はニコッと微笑んで、また唇を寄せてきた。 「なお、可愛い…」 「…可愛いなんて言うな」 「どうして?」 どうして?と言われると、どうしてなんだろうと思う。 確かに、他のヤローどもに『可愛い』なんて言われた日には、全身鳥肌、むかついて大暴れってとこなんだけど。 ホントのこというと、智に『可愛い』って言われるのは嫌いじゃない。 でも、そんなこと教えてやんないんだ。 「どうしても…」 ほんのちょっぴりの後ろめたさから、消え入りそうな声でそう言うと、智は『クスッ』と笑った。 「意地っ張り」 けど、その声はすごく甘くて優しくて…。 そんな声で囁かれると、俺、身体の芯から溶けてしまう…。 「ふ…ぁ」 一つ突き上げるごとに、直の喉から艶めいた息が漏れる。 しなやかに反る身体に、降ってくるお湯が弾けて光りながら散っていく。 直が普段の顔を捨てて、本性を晒している…。 俺は直を抱くたびに、その思いを深くしている。 元気いっぱいで、やんちゃで、意地っ張りで、口の悪い直。 それは、直が中学に入って、男子校という特殊な環境におかれたために6年かかって築きあげてしまった別の顔なんじゃないかと。 その下に隠された、本来の直は…。 素直で優しい直の、さらに奥に潜んでいる直は…。 俺はふと思い出した。 初めてあった頃の直は、かなり内向的な性格だったような気がする。 大人しくて従順な直。それをどこかに隠したまま、直は今の直になったのかもしれない。 そして、俺の腕の中で意識を飛ばしている直は、俺だけが知る、俺だけの直。 「直、俺だけを見て」 そう言ってみるが、きっと直には聞こえていない。 今はそれでもいい…。けれど…。 「……」 息だけを浅く繰り返して、直がきつく閉じていた目を、ふと開けた。 余裕がなくなってきた中でも、ずっと直の顔を見つめていた俺と、視線がぶつかる。 直の瞳が笑った。 音のでない唇が、形だけで、「と」、「も」…と二つの言葉を紡いだ。 その瞬間、…俺は…その身体をきつく抱きしめて、上り詰めた…。 ずっとずっと、俺だけの直でいて…。 大きなバスタオルで、智が俺の濡れた髪を拭いてくれる。 なんだかやっぱり、ワケのわかんないまま終わっちまった。 身体の中心に疼くようなだるさがあるところをみると………そうなんだろう。 ただ、智の腕の中は天国のように気持ちよくて、すべてを任せても大丈夫なんだっていう気持ちが、俺の意識をぶっ飛ばすのに一役買っているようだ。 こんなんでいいのかなぁ…。 智、どう思ってるんだろ。 意識をぶっ飛ばしている最中の俺自身についても、気になるところだし…。 でも、こんなこと聞けやしないしなぁ…。 「直、少し慣れたみたいだな」 へ? 「な、何にだよっ」 「だってさ、この前は立てなかったじゃないか」 がぁ〜ん…。 意識は飛んでても、身体はしっかり慣れてきてるってことか? 俺っていったい…。 「俺もお前の髪、拭いてやるっ」 そう言って俺は智の手からバスタオルを奪う。 智は嬉しそうに笑うと、頭を低くしてくれた。 「これからも直がこんなに協力的だと嬉しいんだけど」 「ば、バカっ、俺がいつ、何に協力したってんだっ」 「また、脱がせて」 こここ、こいつってヤツは…。 よしっ、いつか俺が、智の意識をぶっ飛ばしてやるっ。 |
END |
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2001.3月に50000Hits&サイトオープン6ヶ月記念企画 「まりちゃんの新婚旅行」の裏ページとして掲載したものです。 |
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