Un Happy Birthday?
直クン、受難の11月5日
![]() |
*悪友・本間敦の場合 今日は11月5日。 中学時代からの俺の親友、まりの誕生日だ。 最近誰かさんのせいで、めっきり色っぽくなってきたまりだけど、俺にとってはいつまでも大事な親友だ。 当然、誕生日ははずせない。 まりは甘いものが好きだ。 高校時代も部活の帰りにみんなでコンビニ寄って、いろんなもん、買い食いしてた。 まりは華奢な外見に似合わず、4次元ポケット並みの胃袋を持ったヤツで、いつも智が心配するくらいおやつ食ってたよな。 と言うわけで、俺のプレゼントはケーキだ。 やっぱりバースディプレゼントっていったらこれが定番だよな。 家から大学への道の途中には、しょっちゅう情報誌やTVで取り上げられる有名なケーキ屋がある。 俺は今回大奮発して、『モンブラン18cmホール』ってのを予約しておいた。 18cmのケーキなんて、俺だったら絶対食えねぇけど、まりならちょろいもんだろうな。 早く喜ぶ顔が見たいぜ。 *自称恋人・麻野瞳の場合 今日はねぇ、直クンの誕生日なのぉぉ。 直クン、19歳になったんだよぉ。 どうみても15〜6歳ってところが可愛いよねぇぇぇ。 でぇ。 自称直クンの恋人の瞳としてはぁ、今日っていう日は絶対はずせないわけぇ。 智くんには負けてられないもんねぇぇぇ。 もちろんプレゼントはケーキよぉ。 4月に知り合ってから半年ぃ。瞳は毎日直クンを観察してきたんだけどぉ、直クンってばぁ、甘いものが大好きなのねぇぇぇ。 甘いものならなんでもOKみたいだけどぉ、特に好きなのはぁ、智くんが焼くホットケーキなんだってぇぇ。 これってぇ、ちょっと悔しいじゃないぃぃ! でもでもねぇ、いくら智くんが器用だからってぇ、所詮男の子が焼くケーキなんてぇ、限界があると思うのぉぉぉ。 だからぁ、瞳のプレゼントは『手作りケーキ』なのぉ! もちろんケーキは定番のいちごのショートぉ〜。 今頃ってぇ、いちごってないからぁ、温室育ちのいちごをわざわざ探してきたんだよぉぉ。 ふふっ。直クンが喜んでくれるのぉ、楽しみなのぉぉぉ〜。 でねでねぇ、直クンがはたちになったらぁ、瞳ぃ、お嫁さんにしてもらうのぉぉ〜! *いつまで経っても往生際の悪いまりパパ&イケイケまりママの場合 「ねえ、あなた。今日はまりの誕生日ね」 「そうだな〜」 「あれから1年も経ったのね〜」 「あの時はまさか嫁にいってしまうとは思わなかったなぁ…」 「…まだ言ってる…往生際が悪いわね」 「だって〜」 「そうだわ!私、今日まりのところまで行ってくるわね」 「え?」 「ふふっ、あそこ、駅前に美味しいケーキ屋さんがあるの。特大のバースデーケーキを買っていてやりましょ。まり、きっと喜ぶわ〜」 *長岡淳@秘書室…の場合 出社して、会長を会長室に送り込んだあと、まず立ち上げたパソコン。 すぐに表示される本日のスケジュールのTOP項目は、僕らにとって、とても大切な男の子の誕生日。 今日はまりちゃんが19歳になる日だ。 去年の今頃は、僕らはまだ『熱田直』と言う存在を、智雪くんの『親友』という認識しかしていなかった。 智雪くんの中にある思い…には気付いていたんだけれど。 ただ、その『思い』を智雪くん自身がどの程度自覚して、そして『これから』をどうしようと思っているのかがわからなかったので、僕らとしても見守ることしかできなかったっけ…。 その後、会長が勝手に決めた智雪くんの結婚相手が、彼――まりちゃん――だとわかったときにはそりゃあ驚いた。 でも、この話は長くなるのでまたの機会に。 あ、和彦さんからメールだ。 第1秘書で、秘書室長の小倉和彦さんは、今日は出張中。 この時間なら、多分まだシンガポールだろう。 『淳、おはよう。 変わりはないか。 昨夜そちらは寒かったようだが、風邪などひいていないか』 出張中のメールはだいたいこんな風に僕を気遣う文面で始まる。 嬉しいんだけど、いつまでも子ども扱いされているみたいでちょっと恥ずかしい。 『今日はまりちゃんの誕生日だな。 帰れなくて残念だが、おめでとうと伝えておいてくれ。 こちらで何かいいものを見つけたら買って行くが、今日のところのプレゼントは任せる』 和彦さんも、素直で可愛いまりちゃんが大のお気に入りだ。 もともと長男気質で、4人の妹を立派に巣立たせた人だから、まりちゃんは、今の彼にとって『弟』なのかもしれない。 さて、そのまりちゃんのプレゼントだけれど…。 きっと和彦さんが何かまりちゃんの喜びそうなものを買ってきてくれるだろうから、当日のプレゼントとしては…。 やっぱりケーキだろうな。 幸いまりちゃんは甘いものが大好きだし…。 「「淳くん、おはよう〜!」」 あ、春奈さんと睦美ちゃんが出社してきた。 何処のケーキが美味しいか、聞いてみよう! *ダーリン・前田智雪の場合 今日は直の誕生日。 高校2年までは、他の友人たちと一緒にゲーセンで遊んだあと、ファーストフードでお祝いして終わりだった。 普段遊びに行くときは2人だけということも結構あったんだけど、誕生日ともなると、人気者の直のことだから、誰ともなく『みんなでまりの誕生祝いしようぜ〜』って言い出して、結局大勢でがやがやと…って事になってしまってたっけ。 で、去年はちょうどこの日が日曜で、俺は直に電話で『おめでとう』を伝え、そして、直の様子がおかしいことに気がついた。 翌月曜にはまた例年のように、大勢でゲーセンで騒ぎ、ファーストフードでお祝い…っていうパターンが、敦たちによって計画されていたんだけれど……。 その夜、思いもかけなかった急展開で、俺と直は両思いになり、そして…。 だから今日は、初めて二人きりで過ごす「直の誕生日」になるわけなんだ。 幸い俺は、本日講義は全休。 直はレポートを提出しに大学へ行った。 きっと昼過ぎには帰ってくるだろう。 いつもなら、ついて行くんだけど、今日は俺にもやらなくちゃいけないことがある。 直が帰ってくるまでにケーキを焼くんだ。 この日のために、数日前からワイン漬けにしてあるのは、直の大好きな『ラ・フランス』。 これを薄くスライスしてスポンジの間にたっぷり挟んで、デコレーションは北海道から送ってもらった乳脂肪分たっぷりの生クリーム。 直、きっと喜ぶだろうな。 そうそう、シャンパンも必須だな。 直はある程度以上のアルコールが入ると、クタッとなるんだ。 目がとろんとして、ピンク色のほっぺになった直はいつもに増して可愛いくて、そのままベッドに…。 おっと、妄想に浸ってる場合じゃないな。 さ、がんばろっと。 *怪人・H・M氏の場合 「ああ、午後6時に自宅へ頼む。3月には用意してやれなかったのでな。その分も盛大にしてやりたいんだ。いくらかかってもかまわない。最高級のものを頼むよ」 *そして、哀れな子羊・直くんの場合 あ〜あ、こんなことなら一昨日の晩、寝ちまわないでがんばって仕上げりゃよかったよな。 そうすれば、わざわざ休みの日にレポート提出にだけ出てくるなんて面倒くさいことしなくてすんだのにな〜。 でも、一昨日の晩、俺が寝ちまったのは智のせいだからな。くっそ〜。 ちゃんと起きて仕上げるつもりだったのに、全然ベッドから出してくれないし…。 な〜んて、つい先日の『夜』をうっかり思い出しちまって、一人赤面しながらもとりあえず無事レポートを提出して、俺はさっさと帰るべく正門に向かっていたんだけれど…。 「お〜い!まり〜!」 「まりじゃねぇっつってんだろ!」 声をかけてきたのは悪友の敦だ。 「お前なぁ、19になったんだから、いい加減諦めて、素直にまりって呼ばれろって」 「なんで19になったからって諦めなきゃなんねぇんだよっ。19にもなったんだから、まりなんて呼び名、いい加減にやめろってんだ!」 …って、そうか、今日は俺の誕生日だっけ。 「いいからいいから、ほれ、まりにプレゼントだ」 敦が差し出した箱は、最近ブレイクしている有名なケーキ屋の箱。 「え?くれるの?」 「おうよ、学食でミルクティ奢ってやるから食え」 「やった〜!さんきゅ〜!」 敦が俺にくれたのは、今が旬の栗をたっぷり使った濃厚なモンブランの18cmホール。 ムース部分に練りこんであるのは丹波栗のペースト。そして表面を飾るクリームにはフランス産の栗を使ってるっていう凝ったモンブランは、見た目の通り、大満足の食べ応えだ。 敦と二人で食べたんだけど、実際は95%俺が食ったかな? へへっ、めっちゃ美味かったv で、敦と別れたあと、今度は瞳ちゃんに掴まった。 「直くぅぅん!お誕生日おめでとうなのぉぉぉ!」 「え?俺の誕生日どうして知ってるの?」 「いやぁぁぁあん。恋する乙女の情報網を侮っちゃだめなのぉぉぉ」 そして、瞳ちゃんも俺にプレゼントをくれた。 「え?いちごのショート?」 「そうなのぉぉぉ。瞳ぃ、がんばって作ったのぉぉぉ」 「うわあ、美味そう〜。でもいちごって今の季節売ってないよな?」 「うん〜、でもぉ、直くんのためならぁ、瞳ぃ、地球の果てまでいちご探しにいくのぉぉ」 地球の果てまで行かれても困るけど…。 結局、またしても俺は学食へ逆戻りしてケーキを食べることとなった。 でも、女の子っていいよなぁ、こうして手作りケーキなんてくれるんだもんな〜。 ただ『はい、直くん、あ〜んして』ってのは勘弁だけどさ〜。 でも、18cmモンブランを95%食って、20cmホールのいちごのショートを丸ごと食ったら(だって瞳ちゃん自身は『ダイエット中なのぉぉぉ』っつって、一口も食わねぇんだもん)、さすがに昼飯はいらねぇ…って感じだよな。 ま、これくらいで動じる俺じゃねぇけど。 で。今度こそ俺は大学の正門を出た。 すると…。 「まりちゃん!」 あ!長岡さんだ〜! 「長岡さん〜、こんにちは!」 うーん、いつみても可愛いなあ、長岡さんって。 「どうしてここに?」 「智雪くんに電話したら、今日はまりちゃんが一人で大学へ行ったって聞いたのでね。迎えに来たんだ」 「え?お仕事はいいんですか?」 「今、休憩中。それより、いいところに連れていってあげるよ」 こうして俺は、長岡さんの運転する車に乗せられて、いいところ…へ連れて行かれた。 そこは、都内の有名フルーツパーラー。 「ここ、春奈さんと睦美ちゃんに教えてもらったんだ」 運ばれてきたのは、まるで宝石箱の様に色とりどりのフルーツがたっぷり乗せられたショートケーキ、バースディ仕様。なんと23cmホール…。 「はい、お誕生日おめでとう。小倉さんからも『おめでとう』って」 「わ〜、覚えててくれたんですか? ありがとうございます〜」 「もちろんだよ。でね、ケーキでも…と思って」 にこっと笑う長岡さんは、やっぱりすごく可愛い。 俺、かなり腹一杯だったけど、長岡さんと小倉さんが俺の誕生日を覚えててくれたことが嬉しくて、一生懸命、全部、食った。 長岡さんにもすすめたんだけど、会社に戻ったら、春奈さんや睦美さんのお相手をしながら自分も食べなきゃいけないんだって、秘書室用の差し入れを指さしながら苦笑してたから、無理にとは言えなくってさ。 そのあと、長岡さんが家まで送ってくれたんだけど、俺の胃袋の内壁は、いくら鉄で出来ていると言われようが、すでに生クリームで厚塗り状態で…。 「まり〜、お帰り!」 うちへ帰ると何故かお袋がいた。 「あれ?どうしたんだよ、急に」 「お母さん、直にケーキを持ってきて下さったんだよ」 智が思いっきり物わかりの良さそうな笑顔で言う。 けけけ…けぇき…? 「まり、19歳ねv おめでとう」 「あ、ありがと…」 「さ、お腹空いたでしょ?食べましょ」 で、どか〜んと出てきたケーキはなんと25cmホールのバースディケーキっ! しかもチョコレートだっ! ちょ…ちょぉっと待った…。 で、でも、お袋のニコニコ顔をみてると、いらないとは言えなくて…。 そういえば、誕生日ってのは、本来産んでくれた母親に感謝すべき日…って誰か言ってたよな…。 うう…仕方ない。俺も男だ。ここはグッと耐えて…。 …食った。ほとんど俺が…。 智とお袋が16分の1ずつ持ってったけど、この期に及んでは、ほとんど意味ナシって感じだ。 ま、お袋が大満足で帰っていったからいいとしよう…。 「直、どうした? 気分悪そうだけど」 鉄壁の胃どころか、食道までもが生クリームとチョコクリームで厚塗りになった俺がぐったりソファーに沈み込んでいると、片づけを終えた智が心配そうに聞いてきた。 「風邪でもひいたんじゃないか? 薄着で大学へ行ったりするから…」 「な、なんでもねぇ、だいじょうぶだから…」 「ほんとに?」 なおも心配そうに尋ねてくる智に、俺は今日一日ケーキ責めだったことをうち明けようとしたんだけど…。 「あ、俺もケーキ焼いたんだ。直が好きな、『ラ・フランス』と生クリームたっぷりのケーキ。それ食べたらきっと元気になるよな」 …………………げ。 …、ま、マジっすか? 「お母さんが買ってきてくれたケーキもたくさん食べたけど、直の4次元胃袋はあれくらいびくともしないもんな」 ニコッと笑った智の幸せそうな顔。 「我ながらすごく良い出来なんだ。『ラ・フランス』の浸かり具合もばっちりだったし、スポンジもしっとり焼けたし、生クリームもわざわざ取り寄せただけあって、すごく濃厚でいい味だし」 た…確かにお袋のケーキだけならなんともないんだけど、俺はその前に18cmモンブランと20cmいちごのショートと23cmバースディケーキを食ってるんだぁぁぁ! で、でも、ここでいらないなんて言えないよな…。 智が一生懸命作ってくれたんだし…。 ええいっ! こうなったら死んでも全部食ってやる〜!!! 智特製のバースディケーキを前に、決死の覚悟を込めてフォークを握りしめる俺。 その時、来訪者を告げるチャイムが鳴った。 『前田春之さまよりお届け物で〜す!』 …………ま、まさか…。 …やって来たのは、俺の身長よりデカイ、5段重ねのウェディングケーキだった…。 |
合掌 |
バックで戻ってね〜v