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 お・ま・け


まりちゃんの初体験



「ほら…なお…こっち来て」
 智がとろけそうな笑顔で俺を呼ぶ。

「…うん…」
 何だか恥ずかしくって、俺の顔は勝手に熱くなる。

「さ…見ててあげるから…自分でやってごらん」
 その言葉に、俺はジッと智を見る。

「ほ…ホントに俺がやるの…?」

 言外に『許して』と匂わせてみるけれど、智の表情は変わらない。
 優しく微笑んでいるけれど、その奥には『ダメだよ』…という表情が隠されている。


「さ、両手を出して…」
 そっと差し出したおれの両手を智がふんわりと包んでくれる。

「可愛いね…直の手、ちっちゃくて」

『ちゅっ』っと音をたてて両方の手のひらにキスしてくれる智…。
 可愛い…って言われること、あんなにキライだったのに、智に言われると、何だか…。
 そんな風にされたら…俺、ますます出来なくなるよ…。

「さ、そっと手にとって…」
「怖い…智…」
「大丈夫だから」

 優しく言って、俺に『それ』を触らせる。
 触ったことがない…なんてことはもちろんないけれど、こんなコトするの初めてだから…。

「直…ホントに自分でしたことないの…?」

 智がほんの少し呆れたような声を出す。
 ううっ…。18にもなってそれは確かに、恥ずかしいことかもしんない…。
 でも、俺は、仕方なく頷いた。

「じゃ、俺が手伝ってあげるから」

 智は俺の後ろにピッタリと密着した。
 背中一面に、智の体温を感じる…。暖かい…。
 俺よりも、一回り大きい智は、俺の肩越しにその長い手をまわし、俺の手を『それ』ごと包む。 

「直…震えてる…?」

 だって、恥ずかしいじゃないか…こんなこと…。2人で…。
 智が耳元で『くすっ』と笑った。

「と、も…」
「ごめんごめん…さ…続けるよ」

 智の頬が俺の頬にピッタリとひっつく。
 時折唇が、俺の頬を啄んでくる。

「とも…っ、そんなコトしたら…」
 俺は思わず手に力を込めてしまう。

「こら、直…そんなに力入れちゃダメだ」
「だって…」

 俺の声にはすでに『泣き』が入っている…。

「ほら、そっと指をたてて…」
 絶妙の力加減で、智の指先が俺の指先を導く。

「そう…ほんの少し力を入れるよ…力を入れるのは、指先だけでいいから…」
「あ…っ」

 何の脈絡もなく、いきなり首筋を舐められて、俺はとんでもない声を上げてしまう。

「ともぉ…」
「あ、こら、爪なんか立てちゃだめだ」

 思わず爪を立ててしまった俺の手を、智がやんわりと離す。

「もう一度…」
「も…やだ…壊れちゃうよぉ…」

 小さく震える俺の身体を、後ろからギュッと智が抱きしめてくれる。

「な、お…。いいよ、壊れたって…あとは俺がちゃんとしてやるから…」
 けれど、俺はなおも小さく首を振って拒否を続ける。

「いつまでそうやってるの?直…。こっちはもう熱くて待ちきれないよ…」

 そう言いながら、智は俺の耳に『ふっ』と息を入れる。
 とたんにびくんと跳ねる俺の身体…。

「とも…ともっ、お願いだから…智が…して…」
「ふふっ、直ってば、甘えんぼなんだから…」

 そう言いながら、再び俺の手に、その綺麗な長い指を添えてくる。

「いくよ…っ」
 軽く力が込められて…。

「あ…」
 とたんにふわっと沸き上がる熱。

「大丈夫、かな…?」
「上手にできたじゃないか。いい子だね、直」

 俺はそっと覗き込む。
 そんな俺を、智は後ろからギュッと抱き込んで…。

「ほーら、もう焦げ付きそうなほど…」 
  
 智はさすがに慣れた手つきだ。

「さ、出来た。食べよ」
「やったっ」

 こうして俺の「卵割り」初体験は、智の指導のもと、大成功に終わった。 

 俺があんまりもたもたするので、フライパンが焦げ付きそうだったのは、この際目をつぶるとして…。

 そう!俺たちが2人で迎えた初めての朝のメニューは、「ベーコンエッグ」だ! 

「ホントは直を食べたいんだけどね」

 こらっ、制服に着がえてからそんなこと言うなっ。


お・わ・り


だから、コメディなんですってばー。

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