「a queer fish」10万おめでとう!
桃の国からお礼参りお祝いに参上!
「a queer fish」 VS 「桃の国」
看板オヤジ対決再び!今回の勝敗の行方はっ?!
華麗なる看板オヤジ対決☆「バイキン社長のリベンジ」
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それは久しぶりに国内での折衝に会長自らが出向いたときに起こった。 今をときめく情報通信産業の旗頭、世界的企業MAJECの会長、前田春之は普段は海外にいることが多い。 起業した時と変わりなく、今でも自らの足で会社を大きくしている。 しかし、いくら何でも身体は一つ。ここのところ、国内の仕事はおおむね第1秘書の小倉和彦に任せている。 もちろん社長は存在している。が、MAJECは事実上秘書室が動かしていると言っても過言ではなく、その秘書室の長、小倉の力は絶大だった。 そして今日、小倉一人でも十分なところへいきなり会長自らが現れ、相手の度肝を抜き、そのまま交渉をこちらの思うがままに成立させてしまった。 特別難しい商談だったわけではない。 会長はたまたま近くに用事があったため、冷やかし半分で立ち寄っただけだったのだが…。 シティホテルのフレンチレストランから秘書を従えて出てきた会長は、ふと目を転じた先に見知った顔を見つける。 ロビーラウンジの奥まった席で、コーヒーを飲んでいる彼は…。 ニコッと………一見、人の良さそうな………笑顔を見せて、会長はその人物に近づいていった。 「やあ、久しぶりだね」 後ろに従う第2秘書の長岡淳は、声をかけられた人物を見て、頭の上に一つ「?」を浮かべる。 彼は確か某有名企業の名物社長・若干34歳にして『やり手』『大物』と噂される逢坂克哉氏である。 しかし、企業としての接点は薄い。 逢坂氏と自分のボスが知り合いだというのは聞いたことがなかったが。 逢坂氏がふと目を上げた。 なんか、・・・一瞬火花が散ったような気がしたのは何故。 もしかして、何らかの裏工作が始まっているとか…。 長岡はせわしく思考を巡らせる。 しかし、会長本人からも、第1秘書の小倉からもそんな話は聞いていない。 今や、自分を蚊帳の外に置くような話はMAJECには存在しないと思っていたのは思い上がりだったのか…。 長岡が不安を感じたとき、これでもかと言うほど眉をしかめた逢坂社長がコーヒーカップを置いた。 これはヤバイかも…。 この二人の関係が良好なものでないことだけは、今、わかった。 しかし、自分のボスは相も変わらず、一見人の良さそうな笑顔を浮かべている。 このまま側にいても構わないのだろうかと思いつつも、会長から指示があるまで勝手にこの場を離れるわけにもいかず、長岡は息を詰めて二人の様子を見守った。 「今日も日が悪い」 空耳かと思ったが、今、確かに逢坂社長はそう呟いた。 しかし、自分のボスは全く聞こえなかったらしく、表情に笑みを乗せたままで逢坂社長の向かいに…当たり前のように…腰を降ろした。 いや、自分に聞こえたのだから会長に聞こえなかったはずはないのだが。 「またしてもこんなところで君に会えるとはね。ふふ、久しぶりだな。あの麗しい品評会以来じゃないか?」 品評会?何の話だ…と長岡は眉をひそめる。 しかし、眉のひそめ方は逢坂社長の方が上だった。 いや、その瞳にはすでに剣呑な色が漂っている。 その様子に、長岡は不審に思うよりも先に、思わず感心をしてしまう。 28歳の自分よりもわずか6歳しか上でない彼が、嫌悪感を少しも隠そうとせずに『経済界の怪人』と呼ばれている自分のボスを睨め付けている。 普通の人間は前田春之という人間の前に立たされると、萎縮してしまうものなのに。 そう、先ほどのビジネスの相手がそうであったように…。 しかし、逢坂社長は全身からオーラを出している。 『私はこのオヤジが大嫌いだ』と。 何がそうさせるのか。 高速で自らの記憶をたぐってみて、長岡はハタと気がついた。 そう言えば何年か前…。 そうだ、シリコンバレーの一件で、バッティングしてきた企業を蹴散らしてしまったことがあった。 あの時のあの企業。確か、あれは逢坂社長の会社だった。 当時の彼はまだ一取締役であったとは思うのだが…。 それなら仕方がないな…と長岡は一人、心中で納得した。 あれだけ踏みつぶされれば恨みの一つや二つ残るだろうと。 そして、それを知りながらにこやかに近寄っていく自分のボスはやはり恐ろしい人なのだと。 「あ、君。私には紅茶をくれないか」 勝手に同席を決め込んだ会長はボーイにそう伝えると、逢坂に向き直る。 「あれ以来どうだね?少しは修行を積んだのかな?ビジネスとはまた違った視点が必要だからね、ああいうことは。 まぁ、こっちの方でも私は君を見込んでいるんだがね」 ビジネスと違う視点?何の話だ? 長岡はまたしても話を見失う。 糸口を求めて逢坂を見ると、彼はどうもテーブルの下で拳を握り締めているようだ。 「恐れ入ります。私は前田さんと違って、不調法な男ですのでね」 つとめて平静にそう返してくるが、それを聞いて会長は嬉しそうに笑い声を上げた。 「不調法ね。そう言いながら、うちの第2秘書にしっかりチェックを入れている君は実にいい。そういう男が大好きだよ私は」 はぁぁ? 長岡がいきなり話の俎上にあげられてポカンと口を開けたとき、ボーイが会長の紅茶を運んできた。 するとコーヒーのお代わりを頼みながら、逢坂社長はボーイににっこりと笑いかけた。 そのついでに長岡に目を転じ、こちらにもニコッと笑いかけてくる。 な、なんなんだ、この人は…。 どういう反応を示していいものか、決めかねている長岡を後目に、会長は小難しい顔になった。 「おいおい。少しは学んだかと思っていたが…相変わらず趣味が悪いな。今のボーイは中の下だ。長岡にチェックを入れるくらいだから、あれ以来審美眼の方も養ったかと思ったんだがな。まだまだのようだ」 またしても引き合いに出された長岡は、完全に話を見失っている。 会長は言いながら、懐のあたりをごそごそすると、一冊のポケットアルバムを取りだした。 これだけは肌身離さず…という一品だ。 それを視線に捉えると、逢坂社長は僅かに口の端をあげた。 それは、ほくそ笑んだようにも見えたのだが…。 だが長岡は、『どうしてここでアルバムが〜』と内心でムンクの叫びを演じている。 「ほう…新作でしょうか?」 逢坂社長の声に、僅かに余裕が生まれたように聞こえる。 「君も好きだということは、前回でわかっていることだからね」 会長の余裕はもちろん、ぶっ飛ぶと言うことなど絶対にない。 手渡されて逢坂社長が開いたアルバムには、俯き加減の少女…いや、そんなはずがない…少年が映っている。 はにかんで、若干唇を噛んでいる表情がなんだか嗜虐心をそそってしまう。 そして、その格好たるや…。 メイド服である。 その姿に思わず、かつて愛した…ただしプラトニック…子猫ちゃん、岡本佑を思い出した逢坂社長の表情の変化を、長岡は目の当たりにした。 このメイド服写真を見てあんな表情をする逢坂社長…。 ま、まさか、もしかして…同類なの、か…。 開いた口が塞がらないとはこのことか。 呆れる長岡の耳に、会長の嬉しげな声が流れてくる。 「ふふ。どうかね。本場イギリスの最高級品、フルオーダーメイドのメイド服をこうも着こなせる子はそうそういないよ。 まあ、私の次男だから当然といえば当然かも知れないがね」 『次男』と聞いて逢坂社長の目が驚きに見開かれた。 そしてその瞳は語っている…。 『この、ケダモノオヤジっ』と。 *逢坂克哉氏、「ケダモノオヤジ」発言の中身はこう* 『じ、次男だとぉぉ…? 我が子にこんな格好をさせて写真に撮るなんて、この変態っ、腐れ外道っ! だいたい、こんな変態オヤジにこんな可愛い子ができるなんて嘘だっ、詐欺だっ!』 しかし、それだけでは終わらなかった。 逢坂社長はニヤッと笑うと自らの上着の内ポケットに手を入れたのだ。 リベンジ!…である。 「ふ。あなたがそこまでおっしゃるなら、私も手のうちを明かさないわけにはいきませんな」 言いながら逢坂社長は、1枚の写真を取り出すと、会長の目前にすべらせた。 そう、逢坂社長はこの瞬間を待っていたのだ。 実は、密かに…! 会長が、あからさまな驚愕の表情を浮かべる。 「き、君。こ、これは」 うちのボスが絶句する写真…! 長岡が驚きと共に、その様子を固唾をのんで見守る。 逢坂社長は『勝負あったな』とばかりにほくそ笑む。どうやら内心笑いが止まらないようだ。 さて、逢坂社長が出したのは、一人の青年の写真である。 そう、これが彼の最終兵器なのだ。 どことはなしに古風さの漂う美しい顔立ちに、それに見合う繊細な体つき。 細く白い指は器用そうであり、また、優しそうである。 そして、その細い手首を飾っているのは、白いレース。 しなやかな体を覆うのは、黒地のモスリンのミニ丈ワンピース。 それを宝物のように包むのはレースの白いエプロン。 さらさらの髪を彩る白い髪止め。 …白いレースのガーター&フリルのガーターベルト…は、見えてはいないが(笑) 「なんてことだ…この壮絶な色香は…」 思わず呟きを落としてしまった会長を、してやったりと逢坂社長は鼻先で笑う。 そう、前回だって、この写真さえあれば勝てたのだ。 会長の美少年コレクションも確かに絶品だが、この若枝のようにしなやかな青年が持つ、瑞々しい香りと芳醇な密の危ういバランスは、けっして『少年』には持ち得ないものなのだから。 魅入られたように青年のメイド服写真を見つめる会長の姿に、すっかり気をよくした逢坂会長はつい………。 「彼は川島隆士…と、言いましてね、若くして腕のいい仕立屋なんですよ。もちろん高級品しか扱っていませんが、私などはもう、彼の作るものしか着られませんね」 得意満面とはこの事だ。 「ほう…。確かにいいスーツだとは思っていたが…」 感心する会長の横で、長岡もまた心中で頷いていた。 確かに逢坂社長のスーツは、一分の無駄もなく身にピタリと添って、しかも持ち主の動きにしなやかについてくる。 これがかなりの高級品だということは容易に見て取れる。 「さぞかし名のある店なのだろうね」 そう言って、会長が人を安心させるように柔らかい笑顔を浮かべる。 そして見事リベンジを果たした喜びに浮かれまくる逢坂社長は、それにつられてついつい、微笑みを返して答えてしまう。 「いえ、『テーラー川島』といって、中身は超一流ですが、彼が一人で切り盛りしている小さな店なんです」 「なるほど…一人で、ね…」 その時の会長の表情を見て、長岡は思った。 あ、この人、何か企んでる…と。 「社長。車の用意ができております」 声がして振り返ると、逢坂の秘書にして甥っ子でもある有藤南が立っていた。 有藤は会長に軽く会釈をすると、「先日は…」と、前回出会ったことを口にしようとしたのだが…。 「しゃ、社長!!!これはいったいっ!!」 その視線は会長が手にする写真に釘付けだ。 「どうして、社長がこんなもの持ってるんですかっ」 「おや、これは君のものなのかな?有藤くん」 会長が、写真を有藤に差し出すと、 「写真は私のではありませんが…っ」 激高し、言葉に詰まりつつも、有藤は写真をひったくる。 「ふ〜ん。中身は君のものか」 「そ、そうですっ」 会長がニヤリと笑った。 そして立ち上がると逢坂に向かって言う。 「君もなかなかの審美眼を身につけたようだな、逢坂君。 ただし、秘書のものに手を着けてはいけないよ。 まあ、君ならわかっているとは思うがね…」 会長はそのまま逢坂に歩み寄ると、その肩をぽんと叩いて笑いながら悠々とその場を離れていく。 長岡は逢坂社長と有藤に会釈をすると、慌ててその後を追っていった。 「ふふっ、ついに勝ったぞ。隆士君のメイドは天下無敵だっ。南、でかしたっ」 そう言い、バンバンと容赦なく有藤の肩を叩きまくると、逢坂社長はスキップでもしそうな勢いで歩き出す。 「隆士さんが天下無敵なのはわかりますが、どうして社長が隆士さんの写真を持ってるんですかっ」 「あははっ、南、細かいことをいちいち気にするなっ。そんなことじゃ隆士くんに嫌われるぞ」 これのどこが細かいことだー!とぎゃあぎゃあ騒ぎたてる秘書に、逢坂社長は満足そうに笑うばかりで応えなかった。 こうして彼の頭の中は今、『リベンジ成功』という名の美酒に酔いしれていて、自分の犯してしまったミスにまったく気がついてはいなかったのだ。 そう、翌日の『テーラー川島』に、会長の姿があるなどとは…。 人生、酸いも甘いもかみ分けるにはまだまだ青い、逢坂克哉、34歳であった。 |
END
「a queer fish」さまの10万Hitsお祝いにお贈りしたお話です。
「a queer fish」さまで公開していただいていましたが、現在閉鎖中ですので、
こちらで公開させていただいております。
また、さんぽさまからいただきました、第1作を下敷きにしていますので、
そのまま表現を使わせていただいたところが多々あります。
ご了承くださいませ。