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『奇跡のエメラルド』

〜5月の扉絵の『ぼく』に寄せて〜





「ねえってば、ちょっとぉ」
「うるさい、俺は忙しいんだ」

 標高4000m。
 谷をたどり、崖をつたい、河を渡り、道なき道を10日間。

 漸く辿り着いた、ここ『碧の洞窟』には『幸福の石』があるはずなんだ。

 俺の仕事はトレジャーハンター・・・って言うと聞こえはいいが、要は金目のものをみっけては、それを売りさばいて日々暮らしてる・・・ってことだ。

 まあ、俺の場合は金を稼ぐよりも、冒険そのものが楽しくってやってんだけどな。

 んー、白状すると、冒険の軍資金のためにお宝探しをやってるっていった方がいいかも知れない。

 そんなそんなこんなで、俺はまた新たな冒険の場所にここを選んだ。

 いくつも町を越え、村を越え、大陸の奥の方に位置する高地に存在すると言われている『碧の洞窟』。

 ここには青緑色に輝く石があると言われている。

 しかもその石、幸福を招くって言われていて、その名もズバリ『幸福の石』ってんだそうだ。

 ちょっと安易なネーミングだなとは思うんだけれどな。


 で、洞窟そのものの存在も謎に包まれていて、実際洞窟までたどり着けたヤツってのはほとんどいないんだそうだ。

 前回辿り着いたヤツは・・・ええと、67年前って言ってたっけか?
 麓の村の長老は。


 ちなみにその時は『幸福の石』は見つけられなかったんだそうだ。

 そして、ついに俺は『67年ぶりの男』になった。

 ここは『碧の洞窟』。



 なのに。



『碧の洞窟』にあったのは、青緑色の石でもなんでもない。

 どういうわけか、そこにいたのは、ただの・・・子供だった。


 洞窟はさほど広くない。

 隅々まで隈無く探したところでせいぜい2時間。

 怪しげな所を掘ってもみたんだが、石が出る気配はない。

 これは俺のトレジャーハンターの経験からの感想なんだが、だいたい地層からしてそう言う類の石が出そうな感じじゃない。

 こりゃまったくの『伝説』だったかなと、がっくり来たところでいきなり声を掛けてきたのがこのチビだった。

 なんでこんなところに子供がいるのか最初は不思議だったが、そう言えば、このあたりには(っていっても歩けば数日は軽くかかるだろうけど)山岳民族の集落もなくはない・・・って話だったから、きっとそのあたりの集落のガキが足を伸ばしでもしてたんだろうと、俺は安易に考えた。

 だいたい、山岳民族のガキっておっそろしいほど足は丈夫だし、高地に生きてるから心肺機能も達者だしな。



 ・・・ってなわけで、おおいに期待はずれとなった今回の俺の冒険行だが、とりあえず今夜はこの洞窟で一晩を明かして、明日の朝早く下山することにしたんだ。

 で、何はなくともまずは腹ごしらえだと火をおこしたんだが・・・。



「なあ、お前、とっとと帰れよ。いっとくけどな、俺はまた時間をかけて下山しなくちゃなんねぇんだ。余計な食料は持っちゃいねーよ」

 どこからともなく現れたチビは、ちょろちょろと俺の周りをうろついていて・・・。


「うん、食べ物の心配はいらないよ。ぼく、別に食べなくても平気だし」

「ああ?んなこと言って夜中にぴーぴー泣かれちゃたまんねえからな。いいからとっとと帰れ」

「帰れったって、ぼく、ここに住んでるんだもん」

「・・・なに〜?お前、言うに事欠いて、よくもまあ平気でそんな嘘を・・・」


 ・・・ったく、呆れるぜ。

 洞窟は確かに人が住むにはいい環境だが、洞窟の中にもその周囲にも、見渡したところ人が住んでいるような形跡は皆無。


「嘘じゃないって」

「ンじゃ何か?そのうちお前の父ちゃんや兄ちゃんが現れて、俺は身ぐるみ剥がれて谷底へポイってか?」


 うーん・・・。その方がありそうな話か。ちょっとヤだな。っつーか、ぜってぇヤダ。


「やだなあもう、何考えてるの。ぼくはここに一人で住んでいるんだよ?」



 ・・・それも思いっきり不気味な話じゃねぇかよ。

 こいつ、どう見ても・・・そうだな、いいとこ13歳って感じだ。

 ええい、面倒なことになったな。しかたないか。おいて帰るわけにもいかねぇしな。


「ああ、もう、わかったよっ。ちゃんとお前の村まで連れてってやっから、大人しくしてろ」

「ぼく、迷子じゃないよ」

 ・・・おいおい・・・。いい加減に・・・。


 けど、チビは妙に真剣な顔つきで俺の顔を覗き込んできた。


「だいたい考えてもご覧よ。あなただってここまで来るのに大変な苦労をしたでしょう?」

「・・・あ、ああ。確かに」

「大人の、しかも冒険に慣れたあなたでも手こずる山の洞窟で、普通こんな子供が迷子になってる?」


 普通の子供ならあり得ねぇけどな。


「けどさ、この辺には山岳民族もいるって話しだし」

「こんな山岳民族、このあたりにはいないよ」


 そう言って、チビは自分の頭を指した。

 ・・・そういえば、このあたりの民族は大概黒髪だ。

 けれどこいつの髪は、なんて表現していいんだろう。
 灰色がかった銀・・・とでもいうのか、確かに不思議な色をしている。



「ね、納得した?」

 ああ、納得・・・って、するわけねぇだろ!


「じゃあ、お前はどっから湧いて出たんだよ!」

 おもわず怒鳴っちまったんだけど、チビは少しもへこたれた風でなく、むしろ呆れたように肩を竦めた。

「だから、ここに住んでるっていってるじゃないの。もう、わかんない人だなあ」


 ・・・あのね・・・。

 思いっきり脱力してしゃがみ込む俺。


 しかし、こいつはやっぱりそんなことも気にせずに、俺がささやかに用意している『今夜の食料』を眺めて、そして言った。


「へ〜、ぼくがちょっと昼寝してる間に食べるものも随分変わったんだねぇ」


 ・・・。


「えっと、この前、ここまで辿り着いた人って、どれくらい前か知ってる?」

 この前って・・・。

「確か、麓の長老は67年前くらいだった・・・って言ってたけど・・・」

「え〜、そんなに経っちゃってるの? うわ〜、ちょっと昼寝し過ぎちゃったなぁ」


 おい・・・。


「そうそう、この前来た人は、こんなにすぐ火がつく道具、持ってなかったよ」


 この前来た人って・・・。


「雨が降り始めててすごく湿ってたせいかなぁ、なかなか火が起こせなくて苦労してた」


 まさか・・・・・・・・・。


「手伝ってあげたかったんだけど、何しろ向こうにはぼくが見えてなかったから」


 なん、だって?



 チビの口から繰り出される『理解不能』なことばに、俺が呆然としていると・・・。


「ぼく、久しぶりに会えたんだよ。ぼくが見える人に」

 ヤツはこれでもかってくらい、可愛らしく微笑んだ。

「3回ほどちゃんと眠って、2回くらい散歩に出かけて、5回くらい昼寝しちゃったから、うーん、もしかして600年くらい経ってるのかなぁ」



 ご、ご冗談を・・・。

 俺は引きつる顔面をどうにか誤魔化そうと、情けなくも震える手で水筒を口にした。


「ぼくはね、本当に純潔な人でないと見えないんだって」

「ぶっ」

「いや〜ん、吹かないで〜」



 正面からモロに水飛沫を浴びて、チビはプルプルと頭を振った。

 あたりはもう暮れ始めているというのに、その雫は髪に弾けて光を放つ。


「お、お前、言うに事欠いて『純潔』たあ、なんだよっ」

「純潔は純潔でしょ?」

「あのなあ、どこの町や村へ行っても、俺さまみたいな男前は女にもモテモテなんだぜ? そんな俺が純潔なわけねーだろうがっ。だいたい、この歳で純潔なんて、そっちの方がいかれてるぜっ」

「ん〜、そう言う意味じゃないと思うんだけど」

「じゃあ、どういう意味だよ」


 ああ?・・・っとばかりに身を乗り出してヤツの顔をにらみ付ける。
 いや、もちろんマジで威嚇する気はねぇんだけど。


「純粋で潔い・・・って意味だよ」

 俺の様子に怯むこともなく、落ち着いた風情でさらりとそんなことを言ってのけるこいつ・・・。

 ・・・・・・そういや、こいつの瞳って青緑色じゃないか。

 それも、とびきり綺麗な・・・。



 


 こうして俺は、なんだかんだといって、結局こいつを連れて下山することになった。

 そして、結局俺が、こいつの言うことをすべて信じる気になったのは、麓の村にたどりついたときだった。



 本当に、こいつの姿は俺以外の誰の目にも、写らなかったから。

 確かにこいつは一切飲み食いってものをしないし、眠ることもしない。

 本人曰く、その気になれば100年くらいは眠らなくても平気なんだそうだ。

 その代わり、しっかり眠ると150年くらい目覚めないこともあるそうで・・・。



「お前・・・俺を放っておいて眠ったりするなよ?」

「もちろん!ぼくはあなたが生きている限り、ちゃんと起きてあなたの側にいるよ」



 結局「幸福の石」は見つけられずじまいだったけれど、その代わり、同じ色・・・いや、もっと深く美しい青緑色の瞳を持つ少年を、俺は手に入れた。



 不思議なんだ。

 こいつといると、なんだか身体に力が漲ってくる。

 明日もがんばるぞって気持ちと、・・・そして、こいつをずっと手の中で守っていきたいと思う、なんだか甘酸っぱい気持ち。



「あ、そうだ。お前、名前は何てんだ?」

「あなたの好きにつけてくれたらいいよ」






 ぼくは『奇跡のエメラルド』。

 本当に純粋な心を持った人にだけ見える、希望の源。


 ぼくは、その人が心の一番奥底で本当に望んでいるものの形を取って、その前に現れる。

 その人が本当に『石』を望んでいるのなら『石』の形で、もし美しい女性を望んでいるのなら、好みの美女となって。

 そして今回600年ぶりにぼくが取った形といえば・・・。


 ええと・・・どういうわけだか『めちゃくちゃ可愛い男の子』。


 彼、確か『どこの町や村へ行っても、俺さまみたいな男前は女にもモテモテなんだぜ?』って豪語してたような気がしたんだけれどなぁ・・・。

 ま、こればっかりはぼくが深く考えてもしかたのないことだから。



 ともかくぼくは『奇跡のエメラルド』。
 あなたの命のある限り、ぼくはその幸福を守る。



END

ペロさま、いつまで経っても20回目のお誕生日、おめでとうございます〜!(爆)

 さて。お話のモデルはもちろん5月TOPの『エメラルドのぼく』。(あくまでも、ぼくv)

誕生石としてのエメラルドは『幸福』の象徴だそうなので、
 早々にお持ち帰りして皆様に恨まれてしまいました『エメラルドのぼく』に、
『幸福』をつけてお返しいたします(笑)

そうそう。
『妖精さんだと 相手の趣味で性別が変わるなんてのも良いかも(笑)』
と仰った、ペロさまのナイスなレスを参考にさせていただきました(*^_^*)

この1年がペロさまにとって幸せな1年になりますようにv

ももより、いっっぱい愛をこめてv

2003.5.4