Sponsored Link



『サクラサク』

『Peroのさんぽ道』さま 10000Hitsお祝い
〜3月の扉絵の彼に寄せて〜





「お〜い、何ぼんやりしてんだ〜、いくぞ〜!」

 3年間慣れ親しんだクラスメイトの声に、僕は振り返る。

「あ、うん。すぐ行くから!先に行ってて!」
「しょうがねぇなあ〜、場所ちゃんとわかってっか?」
「駅前の『Pero』だろ?大丈夫!」

 そう言うと、クラスメイトたちは口々に『さっさと来いよ』『お前が来るまで始めないからな』などと言いながら、正門をくぐっていった。
 誰一人、この学舎を振り返ることなく…。 

 進学校であるこの高校に入ったが最後。3年間のすべてをひたすら大学受験に捧げるのははじめからわかっていたこと。

 だから、僕らの高校生活は、『合格』を掴んだときに事実上終わりを告げる。

 今、僕らの手にある『卒業証書』はその付属物にしか過ぎない。

 そして、クラスメイトたちは皆振り返ることなく、春からの新しい生活への希望だけを胸にここを去っていく。

 こうして学舎に足をとどめるのは僕の他には誰もいない。

 どうしても立ち去ろうとはしない僕の足元から天をつくように立ち上がっているのは、学校が出来たときに植えられたという桜の樹。

 今年は去年ほど開花は早くなくて、僕らはこの桜の花に送ってもらうことはできなかった。

 まだ漸く淡いつぼみが膨らんできたか…と言う程度だ。

 けれど、こうして目を閉じると、去年の桜はまるで昨日の光景のように、鮮明に蘇る。

 あの人の姿、そして言葉と一緒に…。

 視界を覆い尽くす、桜、さくら、サクラ……。






『卒業おめでとうございます』
『ありがとう』

 僕の言葉に、彼はそう言って微笑んでくれた。

 満開の桜の下。

『お前もこの1年大変だと思うけど、身体に気をつけてがんばれよ』
『…はい!』

 同じ学校の先輩と後輩。
 それ以上でもそれ以下でもない僕らの関係。

 けれど、その僅かな絆で繋がっていることの出来た日常も『卒業』という言葉で解消してしまう。

 明日からは、もう僕らの間には何もない。

 あるのは、僕があと1年を過ごすこの学校と、先輩が進学する大学との間に横たわる『距離』だけ。

『先輩も、身体に気をつけて頑張ってください』
『ああ、そうしよう』

 遠くへ行ってしまう、先輩。

 その瞳にはもう、来るべき春への期待しか映っていない。



『僕を見て下さい』

 …そう言えたら、どんなに幸せだろう。



『来年も満開だといいな』

 先輩は高く見上げてそう言った。
 目も眩むほどの花の洪水。

『そう、ですね』

 他に返す言葉も見つからず、僕もただ、降り注いできそうな『白』を見上げるだけ。



『もし、来年桜が咲いたら…』

 見上げたままの先輩の言葉は少し聞き取りにくかったけれど…。

『先輩…?』

 先輩は、まだ見上げたままで、ため息を一つ、ついた。

『いや…なんでもない』 

 漸く戻ってきた視線はまた穏やかに微笑んで、そして、微笑んだその唇は最後の一言を告げた。

『元気でな』






『もし、来年桜が咲いたら…』

 もし――『if』――などありえない。

 だって、桜は毎年咲くのだから。
 遅かれ早かれ、必ず咲くのだから。

 あの時、先輩は何を言いたかったのだろう?
 僕は、この1年間、ずっとそれを考え続けてきた。

 春からの新しい四年間を僕が過ごすのは、先輩と同じ大学。

 ここにもたくさん大学はあるのに、わざわざ遠い、しかも超難関大学の受験を選んだことを両親は反対したけれど、でもどうしても諦めきれなかった。

 叶わないこの想いの代わりに、僕はまた、『先輩と後輩』という細い絆に縋ろうとしたんだ。

 そのためなら、がんばれた。

 けれど先輩の記憶にはもう、僕の姿はないかも知れない。

 一度も連絡を取ることのできなかったこの一年の間、きっと僕の想像など及ばないほど、先輩の周囲は変化したに違いない。

 きっと恋人なんかもできただろう。
 そんなこと、わかっているのに…。






『もし、来年桜が咲いたら…』

 もし――『if』――の意味は相変わらずわからない。

 もしかすると、桜が咲いたらまた会えるのだろうか?
 ここ数日は、そんな埒もないことまで考えた。

 けれど、今年の開花はまだ来ない。

 僕たちの間には『if』すら、ないんだ。

 一輪の花びらも見せてくれようとはしない樹を見上げ、僕は小さく息を吐く。

 さよなら、桜の樹。

 僕は最後にそっと、そのざらついた幹に掌を添え、撫でる。

 さよなら、僕の……。





 ふと視界が暗くなった。



「桜、咲いたな」

 …え?

「卒業おめでとう」

 …まさか…。



 いきなり痛いほど打ち始めた鼓動に、振り返ることも苦しい。

 けれど…。

「せん、ぱい…」

 そこにいたのは、彼だった。

「…どうして…」

 目を見開いたまま、それっきり言葉を継げなくなった僕の身体に触れるほど、彼は距離を縮めて来た。

 そして、また言った。


「桜、咲いたな」

 けれど、僕の頭上にあるのは蕾ばかり。
 先輩の、その言葉の意味を計りかねて、僕は狼狽える。



「去年ここで『もし、来年桜が咲いたら…』って言ったの、覚えてるか?」

 覚えているも何も、僕はずっとその『if』を追いかけていたというのに。

「もしかしたら、追いかけてきてくれるかもしれない…そんな淡い期待を持った。だから『来年桜が咲いたら』…そう言ったんだけれど」

「…あ」

「遅くなったけど、合格…おめでとう」

 先輩の照れくさそうな笑顔が、霞んだ。

 しっかりと見ていたいのに、熱くなってしまった瞼がそれを邪魔するんだ。


「迎えに来た……なんて、自惚れたことを言ってもいいか?」

 夢中で頷く僕の頬に、そっと触れてきた先輩の手は、暖かくて…。






『サクラサク』

 それは、今ではもう使われることのなくなった、
受験生に春を告げる言葉。


END

ペロさま〜!!10000Hitsおめでとうございます!

ペロさまには筆舌に尽くしがたいほどお世話になっておりますが、
全然ご恩返しが出来なくて本当に申し訳ないです(>_<)
きっとこれからもお世話になる一方だと思いますが(おい)、
どうぞよろしくお願い申し上げます〜!

そして!
『Peroのさんぽ道』さまのますますのご発展を心よりお祈り申し上げます〜!

ももより、いっっぱい愛をこめてv

2003.3.9