『Rainbow Wing』
IN THE BED


 

 手を伸ばし、香平自身を優しく握りこんで緩く煽る。  

 ついさっき、バスルームで中途半端に追い込まれていたから、あっという間に抜き差しならないところまで追い上げられてしまった。

「我慢しないで。いっていいよ」

 耳元で甘く囁かれて、それだけでも危ないのに、囁いたその唇は少し移動して胸の粒を含んでしまった。

「…んっ…」

 腰を捩って無意識に逃れようとした時、一層強く刺激され、含まれた粒を吸い上げられて、頭の中にキンと甲高い音が響いた途端、香平の意識は高く放り上げられた。

「可愛いな、香平は」

 その言葉に我に返った時、すっかり自分がいかされてしまったことに気づいて、いたたまれない。

 でも、こんな事では済まないことはもちろん知っている。

 覆い被さっていた信隆がベッドに横たわり、香平の左側を下にして横抱きにする。

「大丈夫?」

 まだ少し息が乱れている香平は頷くしかない。

 するとまた優しいキスが繰り返されて、背中を撫でていた手のひらがするりと後ろに忍び込んでくる。

 少し硬くなる身体を宥めつつ長い指が狭い入り口を柔らかく撫でて、やがて指先が、つぷ…と、沈んだ。

 香平の右手がキュッと信隆の肩を掴んだ。

 少ししっかりしたその感触に、信隆は『やっぱりベッドでリハビリもいいかも』…なんて爛れたことを考える。ついさっき、ためらったことなどすっかり彼方に放り投げて。  

 熱い内壁をゆっくりと刺激しながら、ゆるゆると侵入し、敏感な部分にたどり着くと、香平の身体が跳ねた。

 幸か不幸か、経験だけは豊富なので、どこをどうすれば身体が喜ぶのかはよくわかっている。

 それこそ、敬一郎にレクチャー出来るレベルには。

 けれど、経験だけが豊富で、実は愛することには不慣れだったのかも知れないと、今更ながらに気がついた。

 傷つくことが怖くて踏み込めなかった…なんて、乙女な事を言うつもりはないが、どこかで自分を縛り付けていたのかもしれない。『理想』と言う、便利な言葉の下に。

「…っ、ぁ…はぁ」

 必死で閉じ込めようとする声が零れ落ち、次第に甘さを帯びてくる。

「香平、声、我慢しないで」

 と、言ったところで聞きはしないだろうから、香平の頭を抱いている右手の指を後ろから少々強引に唇に差し込んだ。

「…あっ、んっ」

 その指を噛むわけにはいかなくて、少し緩んだ口から濡れた声が出てしまう。

 香平の内側を苛む左手の指をそっと、ぎりぎりまで抜いた後、2つに増やしてまた深く差し入れて、大きく掻き回すと声は次第に抑えられなくなってくるが、優しく話す時と変わらない、柔らかい音色に心も身体も強く揺さぶられる。

「香平…俺のものだ…」

 独り言のように呟いて指を引き抜くと、またそっと仰向きに寝かせて足の間に割って入り、そのしなやかな両足を抱え上げた。

「…信隆さ、ん」

 濡れた瞳が見上げてくる。

「大好きだよ…」

 何故か、愛していると言うよりも、好きだと言いたくて、心のままに告げると香平は嬉しそうに笑って『うん』と頷いた。

 硬く張り詰めた欲望を押し当てて、少し含ませると身体が強張る。

「大丈夫だよ。力、抜いて」

 優しく言って、また香平自身に手を伸ばし、気を散らせるように煽り立てる。

「っ、やぁ…っ」

 可愛らしい悲鳴を上げた隙に、深く押し込んだ。

 のけぞる身体を抱き締めて、一気に奥まで奪うと、無自覚に締め付けられて、信隆も危うく声を漏らしそうになる。

 もちろんすぐには動かずに、少し腰を揺らしながら啄む口づけを繰り返し、髪を梳き、何度も好きだと繰り返す。

 そして、香平の中が緊張だけでない動きを見せたその時に、信隆も堪えきれなくなって腰を使い始めた。

 浅くゆっくりと。

 香平は、身体の中に信隆を受け入れて、その圧倒的な存在感に意識を飛ばしそうになっていた。

 圧迫感はとんでもないが、不思議と痛みはない。

 それどころか、ゆるゆると揺すられているうちに妖しい感覚を拾い集め始めてしまい、浅くゆっくりとした動きが次第にもどかしくなってきた。 

 もっと、好きなようにしてくれていいのに…と、信隆の首に腕を回して引き寄せて、そう言おうと思ったのだけれど、結局声になったのは『もっと』の一言だけで、その瞬間身体の中で膨れ上がった信隆の欲望にまた悲鳴を上げる羽目になり、そこから先はもう、何も考えられなくなった。

 狭い体内を擦られて、突き上げられて、どんな声を上げているのかも、もうわからなかったけれど、耳元に堕ちてくる信隆の甘い息遣いがとても幸せで、切羽詰まった声で『香平…』と呼んだ口に耳朶を甘噛みされた瞬間、一際強く、刺し貫かれそうなほど突き上げられて、頭の中が爆ぜた。

 と、同時に身体の奥でも何かが爆ぜて、そのまま意識も身体も堕ちていった。

「…香平?」

 少し身体を離してみれば、香平はほんの薄く口を開いて意識を飛ばしていた。

 けれど、その頬は紅潮して、少しばかり微笑んでいるようにも見えて、信隆はホッと息をつく。

 今までだって、遊びのつもりで抱いた相手はひとりもいない。

 けれど、最後だと思った相手は香平ただひとり。

 もう、香平しか抱けないし、抱かない。

 しかし、香平にはまだまだ群がる輩がいる。

 それこそ、有象無象含めると、追い払ってもキリがないくらいに。

 でも、自分は全力で護っていくし、香平もきっと、自分だけを見てくれると信じている。

 まあ、多少の嫉妬は蜜の味…ということで。


「俺に抱かれてる香平が、一番可愛くて綺麗だよ」

 傲岸不遜にも、耳元で小さくそう言い放ち、信隆は幸せそうに笑った。



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