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フランクフルトへの往復は、軍事演習によるルート変更もなく、平和なフライトだった。 向こうに着いたときには、前島から『またね』と言われて嬉しかったし、ステイ中にクルー全員で行った『キャプテンお墨付きのレストラン』は今まで知らなかった超穴場だったし、母親から頼まれていたチョコレートも手に入ったし――雪哉の分を買うのはいつものことで――ともかく順調に羽田へ帰着した香平に、思わぬニュースが飛び込んできた。 頼りにしていたノンノンが、おめでたで地上勤務になると言うのだ。 喜ばしいには違いないが、いきさつ上、信隆には手放しで頼り難くなってしまった香平にとって、上級チーフパーサーで、香平が属するチームのチームリーダーであるノンノンの存在は非常に大きなウェイトを占めているから、なんとも複雑な気がしてしまい、そんな感情を持つことに少しばかりの罪悪感を覚えたところでばったりと当の本人に出会ってしまった。 「藤木さん…」 「あ、香平くん、お帰り。お疲れだったね」 迎えてくれる笑顔は変わらない。 「地上勤務になるって…」 「うん、『妊娠発覚!』ってやつよ。仕方ないね、こればっかりは」 妊娠判明、即、乗務停止…になるのは、当然母体と胎児を守るためだ。 気圧や重力の変化がもたらす弊害は、すでに広く知られている。 しかもキャビンクルーは不安定な機内での立ち仕事だ。 「おめでとうございます」 「って、泣きそうな顔で言うんじゃないって。ふふっ、可愛いなあ、もう、香平くんってば」 雪哉ならば頭をなで回すところだが、香平は雪哉よりも15cmほど長身なのでそうも行かず、ノンノンは香平の脇腹に肘でぐりぐり攻撃をお見舞いする。 「いや、本心ですよ、半分は」 「あはは、なにそれ、半分って」 正直に言ってしまう香平が面白くて、ノンノンはまた笑ってしまうが、そう言うしかない香平の気持ちはもちろんよくわかっているし、頼りにされて嬉しいとも思っている。もちろん。 「いえ、本当におめでたいなって思ってるんですよ。次世代のパイロットかキャビンクルーの誕生ですし」 「え? 私、子供は芸能人にするつもりだよ?」 「ええっ、マジですかっ」 「嘘に決まってんじゃん」 「藤木さ〜ん」 いつものように手のひらでコロッと転がされて、香平は脱力するしかない。 「ま、ダンナは『男でも女でもパイロットだ』なんて言ってたけどね。ワタシ的にはどっちでもキャビンクルーかな? いやいや、イケメンならキャビンクルー、そうでもなかったらパイロットか」 ちょっぴり『酷い』ことをさらりと言って豪快に笑うノンノンは、やっぱりいつもと変わらない。 「ま、さっさと産んでおかないと、ぎりぎりで高齢出産だからね。でも、絶対帰ってくるから。香平くん、『国際線:藤木チーム』、私が帰るまでしっかり守ってね」 絶対帰る…と言う言葉に、香平は目を見開き、それこそ花が綻ぶように笑った。香平の一番の笑顔だ。 「はいっ、藤木チームのクルー全員の全力でチームを守りますから、絶対帰ってきて下さいねっ」 「うん、約束するよ」 今までノンノンが約束を違えたことは一度もない。 「でね、退職ならチーム再編も…ってところなんだけど、私が必ず乗務に戻るって言う意志を会社が尊重してくれてね、華さん…牛島教官が、乗務はしないけれど、代理としてチームを纏める相談役になってくれることになったんだ」 「牛島教官…ですか?」 キャビンクルーの間でも人気者のキャプテンの妻であり、伝説の…とまで言われた優秀なチーフパーサーが10年以上のブランクを経て、乞われて復職した話は香平も聞いていた。 あの『都築クラウンチーフパーサー』が『絶対的存在』と崇め奉る『牛島華』という人に、出来れば会ってみたいなとは思っていたのだが、残念ながら華は『新人訓練課』――つまり、新入社員の訓練生を一人前の客室乗務員に育てる部署にいるので、香平とは接点がなかったのだ。 「そう、香平くんも聞いてると思うけど、うっしーの奥さんで、伝説のチーパーだよ。私もぺーぺーの頃にはお世話になりまくったんだけど、ホントに『サービス』『気配り』『クレーム対応』『緊急対応』…何やっても完璧な人だったわけ」 「…凄いですね…」 かく言うノンノンも、信隆の右腕と目されて久しいのだが。 「まあ、産休に入るまでまだちょっとあるし、無事に産めたらすぐにでも地上勤務には復帰するつもりだから、希望的観測ながら、完全留守は半年程度で留めたいところだけどね」 乗務復帰までには時間がかかるとこはノンノンもわかってはいるのだが、ともかく少しでも現場に近いところまでは戻ってきたいと願っている。 「そうそう、うちのチームのチーパーで華さんと会ったことないの、香平くんだけだから、一度会いに行ってみる?」 「可能ですか?」 「うん、訓練部で華さんのクラスを見せてもらえばいいよ。そうしたら、華さんがどういう姿勢で取り組んでるかもわかるし、その後時間もらってゆっくり話せば良いし」 華の在職中を知る人間は皆、なかなか『牛島教官』と言う呼び方に慣れることが出来ず、気を抜けばすぐに『華さん』になってしまうことにノンノンも気づいてはいるのだが、やっぱり華さんと呼んでしまう。 それほど彼女は慕われてきた。ずっと。 「それ、お願いできると凄くありがたいです」 表情を引き締めて見つめてくる香平に笑顔を返し、ノンノンは右手の親指をキュッと立てた。 キャビンクルーがドアをクローズした時に、確認のために他のクルーに送る合図と同じだ。 「roger。セッティングしといてあげる」 「お願いします」 ペコリと頭を下げ、戻した香平の視線には気遣わしげな色が浮かんだ。 「あの…」 「なぁに?」 「くれぐれも、身体、気をつけて下さいね」 気遣う言葉に、ノンノンは少しはにかんだ様子でそっと自分のお腹を撫でた。 「ありがと。無理かなと思ってたけど、なんとか授かった命だからね。大切に育てるよ」 そう言った柔らかい笑顔に、香平は『なんだかもう、お母さんの顔だな』と、気持ちがほんのり温くなった。 そうしてノンノンと別れて、着替えてロッカールームから出てきたところで、今度はばったり信隆に出くわした。 ここのところ、信隆は国内出張が多く、福岡だ大阪だと飛び回っている。 ちなみに信隆が業務で移動するためにデッドヘッドすると知らされた便のキャビンクルーは一様に『これは大変だ』と緊張するのだが、当の本人はずっと寝た振り――香平は『本当に疲れてるんじゃないかな』と心配しているのだが――をしていてくれるので、いつも通りのサービスにいそしめるという話だ。 逆に『都築教官の寝顔が美しすぎてヤバイ』なんて話まで出てくる有様で。 「お帰り、香平」 「あ、お疲れさまです。出張ですか?」 そう尋ねたのは、信隆が制服ではなくてスーツだからだ。 乗務以外の業務の時は必ずスーツで、最近増えている『スーツ姿』に、『カッコ良すぎて目が眩む』と、男性クルーたちにまで言われる始末だ。 「そう、2日で伊丹と関空と福岡回ってきたよ」 「…それは…大変でしたね」 恐らく、『羽田―伊丹―福岡』『福岡―関空―羽田』という2日間だろうと想像はついたが、とにかくトップになってからの信隆の忙しさは並ではない。 クルーたちのスケジュールは乗務管理課によって完璧に管理されているが、信隆のスケジュールはすでにその管理を離れていて、自身で組み立てから管理まですべて行っているから、無理をしているのでは…と、雪哉も心配していた。 クルーの審査や査察日程も、信隆から提案されたスケジュール優先で組まれているので、乗務管理課もオーバーワークを懸念して、時折進言もしているらしいと聞いている。 進言された時には素直に言うことを聞くらしいのだが、やはり心配なものは心配だ。 ただ、本人曰く『あそこに任せると、乗務を減らされるから』と言うことらしく、飛ぶことにこだわった信隆らしい話ではあるが、そうなるといっそのこと乗務だけにしてもらって会社任せにしてもらった方がクルーとしては安心なのだが、そうはいかないのが『クラウンチーフパーサー』なのだ。 「で、もしかして明日は成田ですか?」 「その通り。でも国内出張は正直辛いよ。公休つかないから」 「あ、そう言えばそうですね」 クルーの乗務以外の業務は基本的に『9時から5時』なので、『5勤2休』が原則だ。 だが、信隆の場合は乗務と業務が混在しているので、勤務体制はさらに変則的になってしまう。 「まあ、明日は午後だけだし、それから2日間の国内線審査も福岡への2レグずつだからね、まだマシか…」 「って、もしかして公休はその後ですか?」 「そうだよ?」 「身体壊しますよ」 「あれ、心配してくれる?」 少しおどけた様子で目を見開く信隆に、香平は少し不服そうに言った。 「当然じゃないですか。都築教官は全クルーの心の支えなんですから、元気でいていただかないと」 「ふふっ、嬉しいね、香平からそんな言葉が聞けるなんて」 「茶化してる場合じゃないですよ。教官は忙し過ぎるって、皆も心配してましたから」 そう。そもそも忙しすぎて、スケジュールが公開されているにも関わらず『捕まえられない』とクルーたちから言われている『都築クラウンチーフパーサー』なのに、香平は何故か遭遇率が高いのだ。 今日も思わぬところでばったり出会ったわけだが、香平的には『ばったり』だが、実は信隆的には『ばったり』ではない。 今頃の時間なら、まだオペセン内にいるだろうと思って、急いでロッカールームまで戻ってきたのだ。 それは、ノンノンの話をするためでもあったし、香平の顔を見て、2日間の疲れを癒したいと、本能的に思ったからでもあり…。 「で、ノンノンに会ったって?」 自分のことはもういいから…とばかりに信隆は話題を変えた。 「はい」 「じゃあ、牛島教官のことも聞いた?」 「聞きました。今度、会わせていただけることになりそうです」 「あ、そうなんだ。それは良かった」 肩を抱いて歩き出すと、香平は素直について来る。 相変わらず薄い肩で、体力は大丈夫かなと心配になるが、雪哉も小さくて頼りなさげな身体つきなのに――しかも小食だ――至って元気で健康体なので、見た目で判断するのは早計と言うものなのだろう。 「ノンノンのことも、無事産まれるまでは心配だけれど、やると言ったら必ずやる子だからね。きっとパワーアップして戻ってくるよ」 「そうですね。でも…」 香平が気遣わしげな視線を送ってきた。 「ん?」 「都築教官も藤木さんのこと、凄く頼りにされてましたから…」 そう、『右腕』と言うのは周りが言うだけでなく、信隆自身が強く感じていることだ。 「そりゃあね。でも、みんないろんな事を乗り越えて空に関わり続けているし、これを乗り越えたらまた新しい景色が見えてくる…と信じて頑張るわけだ」 ふと立ち止まり、香平を見つめて柔らかい声で言った。 「香平もそうだろう?」 そうだろうと言われて、その中に色々含まれることが多すぎて、そうですねとは素直に答え難く、香平は少しばかり沈黙してから小さな声で『はい』と頷いた。 そんな様子に、肩を抱く手に思わず力が入り、そのまま抱き込んでしまいそうになるのを寸でのところでとどまった。 人気がないとは言え、取りあえずここは職場の共有スペースだ。 けれど、このまま離してしまうのは余りにももったいなくて、気分ままに声を掛けた。 「送ってくよ」 「えっ、そんな、いいですよ。教官もお疲れなのに」 慌てて遠慮する香平を、信隆は抱いた肩を少々強引に引き寄せることで黙らせた。 「どうせ通り道じゃないか。ひとりで運転して居眠りしても困るだろ? 一緒に乗ってってくれるとありがたいんだけど」 確かにルートによっては通り道だし、疲れて居眠り運転などされては大変で。 「…ええと、それじゃ、お言葉に甘えて…」 「そうそう。素直な香平は大好きだよ」 そう言われて、瞬間心臓が跳ねた。 そして思う。この人の言葉は破壊力がありすぎる…と。 何気ない一言に潜んでいる『色々』が香平には少々辛い。 辛いと思うようになったのは、やはり雪哉の一件でみっともない姿を見せてしまってから…だと思うのだけれど、それを気にしているのもすでに自分だけに違いないと思うと、いつまでもウジウジしている自分もやっぱり嫌になる。 嫌になったついでに、大人しくついて行く事にした。 出退社ゲートを越えて、警備員の『お疲れ様でした』の声に笑顔で応え、オペレーションセンターの前の駐車場へ向かう。 信隆の車は、本人の見た目に反したごく普通のセダンだったが、シートの仕様などは相当高級そうで、座り心地はとても良い。 香平も免許は持っているが、運転する必要が余りなくて、ほぼペーパードライバーだ。 そもそも家にある車は母親が通勤に使っているから。 オーバーナイトバッグを後部座席に積んでもらい身軽になると、やはり車は楽だなと思う。 雪哉はあの小さな身体でさらに重いフライトバッグも一緒に持って通勤しているから、大丈夫かなと見る度に心配になるのだが。 「教官はずっとマイカー通勤ですか?」 何気ない世間話のつもりで振ってみた。 「そうだよ。通勤が楽って言うだけじゃなくて、色々と便利だからね。密室は」 「みっ、密室っ?」 どういう意味かと一瞬狼狽えたのだが、信隆はしてやったりの風で、嬉しそうに笑った。 「心配しなくても、変な意味じゃないよ。誰かを連れ込んだりとかね」 「だ、だれもそんなこと思ってませんけどっ」 「そう? なんだ、残念」 「残念ってなんですか〜」 「ちょっと期待してもらえたかなと思ってね」 「何の期待ですか〜もう〜」 破壊力もへったくれもない、これはもう遊ばれてしまっただけだ。 「いやいや、冗談はさておき。色々とね、クルーたちの相談事を受けるには車って便利なんだよ。人目につかないし、空間が狭いと、何となく話しにくい内容も言葉に出来るようになってくるんだ。不思議な事にね」 慣れた手つきで滑るように走り出し、車は空港の広大な敷地を抜けていく。 「それはそうと、711便に以前の職場の顧客が現れたって話を聞いたんだけど」 突然切り出された内容に、香平が目を見開いた。 「…情報早いですね」 「まあね。そこは統括チーフパーサーだからね」 どういった経緯で知ったかを香平に言うつもりはないので、信隆は少しはぐらかす。 「で、どう? 大丈夫?」 「え? 大丈夫といいますと?」 何のことだろうと首を傾げてみれば、香平にとっては意外な言葉が返ってきた。 「つきまとわれたりすることはない?」 意外ではあったが、クルーの最高責任者の立場では、確認するのは当然かも知れないな…と思い、香平は素直に話した。 「あ、それは大丈夫です。本当に、単に可愛がってもらってただけなので。まさかこっちに乗って下さるとは思ってなかったので驚きはしましたけど」 「…そう。ならいいけど」 香平の様子からして、今回は問題なかったようだと、信隆は一応胸をなで下ろした。 ヘッドハント組の他のチーフパーサーたちにも多少はそう言う話はあるのだけれど、香平は特に多いと聞いて、信隆は少し内部調査を掛けていた。 単に、こちらにとって上得意客になってくれるだけならいいのだが、万一香平の乗務の妨げになるようであれば、対策を取らねばならないと思ったからだ。 711便のファーストクラスに搭乗した客は、医療機器分野で成功した若き経営者で、少しその分野を調べればすぐにわかるほどの有名人だった。 医学部を出て一度は医師になったものの、病院の医療機器取引の不誠実な現実に嫌気が差し、自身で会社を立ち上げて、適切な医療機器を適切に納入する経営が、同じ思いを抱いていた医師たちの支持を受けて大きくなった…と言うところまでは調べがついた。 つまり、人としてはかなり信頼の置ける人物のようだ。 予約の際、お気に入りのチーフパーサーの便を指定出来るようになるには――それでも『急な変更もございますので、その節にはご了承下さい』と念を押されるのだが――少なくとも月に数回のファーストクラス利用が継続的にある『上得意中の上得意』でもそうは叶わないほどの高いハードルなのだが、件の実業家は香平がこちらへ移ってからずっと、月平均のファーストクラス利用が4〜5回という状況で、しかもいつの間にか相当数の個人株を有しているのがわかり、これは注視する必要があるなと感じていたところで、711便に予約が入った…というわけだ。 ついに香平に接触できる状況になったということで、信隆はこれからも目を離さないでおかねばならないと感じている。 そう、職務の上でも、そうでなくても。 それともう一つ。信隆は気になる情報を掴んでいた。 敬一郎と雪哉が属する『乗員室77課』に他社から移籍してきた外国人機長が配属されると言うのだ。 余程優秀な人材でない限り中途採用をしない『パイロット生え抜き』主義で、しかも外国人パイロットは日本語でコミュニケーションできることが条件の『ここ』だから、言うまでもない逸材ではあろうが、問題はその機長の前の職場だ。 そう、香平がいたエアラインなのだ。 ただ、本国ベースだったと聞いているので、6年在職の内、後の2年間は成田ベースだった香平とどこまで接点があったのかは現時点では不明だが、どうしても偶然とは思えなくて、こちらも気をつける必要が有りそうだと思っている。 社内のことなので、本当ならそんな『心配』は要らないはずなのだが、信隆には何故か気になって仕方がなく、どうしてそこまで気にするのか…と言う点を、今のところ自身で追求するつもりはない。 本能のままに行動している部分もなくはない気がしていて、それは信隆らしからぬことではあるのだが。 ともかく、近日中にはその機長と会えることになっているので、すべてはそれからだ。 「そう言えば、雪哉が喜んでたよ。香平がいつもチョコを差し入れしてくれるって」 「それ、ほんとに喜んでました?」 香平が笑いながらそう応えるには訳があった。 「僕がチョコを差し入れすると、いつも変なお返しが入ってるんですよ」 香平の一人称が仕事モードの『私』から『僕』に変わった。 仕事の姿を脱いで、リラックスし始めた証拠だ。 信隆は、この瞬間の香平をとても可愛いと思うようになっている。 いつの間にか。 「変なお返し?」 「はい。『ごちそうさま。美味しかった』ってメッセージはついてるんですけど、そのメッセージと一緒に入ってる物が色々と問題で…」 問題という割りには、香平は楽しそうだ。 「この前は、ダイオウグソクムシのリアルなぬいぐるみが入ってて…」 「ダイオウグソクムシ…って、水族館とかにいる、甲殻類の? ダンゴムシみたいな?」 「そう、それです。15cmくらいなんですけど、ふわふわのぬいぐるみなのに足とか妙にリアルに出来てるんですよ。それがメールボックスから顔出してて、僕はびっくりだし、周りは大笑いだし…」 その時の騒ぎを思い出して、勝手に笑いが漏れ出てしまう。 「その前は『インフルエンザウィルスのぬいぐるみ』で、その前はペンケースだったんですけど、『アジの干物』の格好をしていて、ファスナーを開けると『アジの開き』になるって言う凝った造りで、その前は『大腿骨のボールペン』でした」 これくらいの…と、15cm程度を両手の人差し指で示して、『また骨がリアルで』…と、やっぱり思い出しただけでも笑ってしまえる状態だ。 「それ、雪哉が?」 「そうなんです。とにかく自分では絶対買わないような可笑しなものばっかり入ってて、しかもアジの干物のしっぽとか、骨がチラッと見えるようにボックスの口からはみ出して入れてあって、みんなにも大ウケしちゃって…」 犯人が雪哉だというのがまたウケているのだ。 『ゆっきー可愛い〜』と。 「どうも復讐の一環みたいなんですけど、あんなのどこに売ってるのか、探すのも大変だろうと思うと、なんだか可愛くて…」 雪哉が『復讐してやる』と言ったというのは、当の雪哉からも聞いていて、敬一郎に『ブラック雪哉も可愛いですね』と言ったら、『いや、これは小悪魔って言うんだろ』と、全然違う方向性を見出されてしまって、フォローに困ったものだ。 その後、2人が中学の同級生だと知れるに至っては、どういう経緯なのか『女王様と下僕』という構図が成り立っていて、『雪哉が女王さまなら、下僕は幸せですよね』と笑える冗談のつもりで言ったら、敬一郎に『確かに俺は幸せだな』と真顔で言われ、『あなたはいつから下僕になったんですか』とツッコミたいところを必死で堪えたのだ。 まあ、いずれにしても――天使だろうが悪魔だろうが女王様だろうが関係なく――雪哉にメロメロだという事実があるだけだ。 そして、今目の前で、香平が雪哉を思い出して幸せそうに笑う姿は、信隆に少々複雑な感情を起こさせる。 例え失恋したところで、雪哉を想えば自然に顔が綻ぶのは信隆とて今も同じだからよくわかるのだが、それでも、香平がまだ雪哉に想いを残しているのであろう様子を目の当たりにしてしまうと、そろそろ新しい出会いに目を向ける気になってくれれば…と、思う。 ただ、誰に…と思うと、そこでいつも『まあ、無理に恋をする必要もないか』と思ってしまうのも事実だ。 だいたいもう少し自分に甘えてくれればいいのにな…と思うのだが、雪哉の一件で大泣きして以来、香平は信隆の前ではどこか遠慮がちで、なかなか本音を晒してくれないような気がしている。 けれど、信隆もまた、簡単に本音を吐くには大人になりすぎていて、今日もまた物わかりのいい上司を演じてしまう。 「雪哉と良い関係になってきたようだね」 本当はそんな話がしたいたいわけではないのに。 「そうですね。普通の同級生らしい感覚になってこれたかなあ…とは思います」 普通の同級生になりたかったわけではないのに、普通の同級生になれただけでも良いとしなくてはいけないのは、やっぱり香平にはまだ少しだけ辛い。 その想いがほんの少し言葉に透けて見えた香平の頭をくしゃ…と撫でて、信隆は穏やかに微笑んだ。 |
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半月ほど経ったある公休日。 約束通り、ノンノンがセッティングしてくれて、香平は客室乗務員訓練センターへ出向いた。 「中原くん、久しぶり」 「ご無沙汰してます。その節はお世話になりました」 「活躍してるって聞いてるわよ?」 出迎えて、華のクラスまで案内してくれたのは、香平が国際線移行訓練で世話になった教官で、ファーストクラス資格訓練を担当している、超ベテランだ。 かつて信隆を一人前のクルーに育てた人で、信隆曰く『訓練部のお母さん』だ。 「いえ、まだいっぱいいっぱいで、助けてもらいながらどうにか…と言ったところです」 アシスタントパーサーとチーフパーサーの責任の差は、予想はしていたが、実際はそれ以上だった。 アシスタントパーサーはそれぞれの受け持ちクラスの責任者なのに対して、チーフパーサーはキャビンの先頭から最後尾まで統括し、しかも自分の担当クラスのサービス、コックピットとの連携、パイロットたちのお世話、機内アナウンスなど…、やることは満載で、フライト時間中に気を抜く間は一時もない。 トラブル対応は当然だし、コックピットから連絡が来る前に予期せぬ乱気流で揺れたときには、クルーへの指示と同時に自分の判断でアナウンスを入れなくてはならないし、ゴーアラウンド――着陸復行の時などは、コックピットは対応に追われてすぐに状況説明できない場合も多々あるから、やはり自分の判断でアナウンスし、乗客の不安を収めなくてはならない。 周りは精一杯助けてくれるけれど、最終的にはすべてチーフパーサーの技量と度量に掛かっているのだ。 そんなチーフパーサーとしての色々を、まだ『難なくこなせている』にはほど遠いと感じている香平に、『訓練部のお母さん』は目を丸くして笑った。 「あら、そんなことないわよ? 女性陣はみんな『頼りになる』って言ってるし、都築教官もべた褒めだから」 「え? そうなんですか?」 意外だった。 信隆に色々と気遣われているのはわかっていた。 『ヘッドハント同期』で同じベースの健太郎は『都築教官とはメールでやりとりするのがほとんどで、会える機会は少ない』と言っているし、他のチーフパーサーたちもみなしかり…なのに、自分には直接…しかも頻繁に状況を確認してくるところみると、まだかなり危なっかしいのだろうなと、少し凹んでいたのだ。 いや、凹んでいる場合ではなく、頑張らねばならないのだが。 けれど、香平のリアクションもまた、『お母さん』には意外だったようで、『あら、どうして?』と聞き返されてしまった。 「いえ、都築教官がたびたび様子を聞いて下さるので、きっと危なっかしいと思われてるんじゃないかなあと感じていたので」 思うところを正直に話した香平に、返ってきたのはあまりにも意外な言葉だった。 「それは単に中原くんの顔が見たいから…じゃないの?」 笑いながら言われたが、一層わからなくなった。 まだ、危なっかしいと思われている方が分かり易い。 「あの子はね、ああ見えて寂しがりの甘えん坊だから、中原くんのこと、弟分とでも思ってるんじゃないかしら?」 まさに『お母さん』のような言葉に、香平の目が一杯に見開かれた。 『あの子』とか『寂しがり』とか『甘えん坊』とか、ともかく今の『都築クラウンチーフパーサー』を形容するには真逆の言葉の数々に、『誰の話をしてたっけ?』などと思ってしまう始末で。 「きっとあなたと話すと楽しいのよ。最近かなりハードなスケジュールのようだから、息抜きさせてあげて」 ファーストクラスに長く乗務して、数多くの顧客から惜しまれながら『降りて』、訓練教官になった『お母さん』は、包み込むような穏やかさで香平に言う。 そう言われて、信隆にとって自分はきっとさぞかしからかい甲斐があるんだろうなあと情けなくなるが、それで少しでも疲れが癒えるのなら、それはそれでいいか…と、香平は無理やり自分を納得させた。 小さく『そうですね』と答えた香平の背中をそっと押して、『お母さん』は歩き始める。 「牛島教官は、いつもは優しいけれど、エマ訓(エマージェンシー/緊急救難訓練)の時はめちゃくちゃ怖いって訓練生たちのもっぱらの評判なのよ」 「そうなんですか?」 その牛島教官もまた、『お母さん』の教え子なのだと聞いている。 「で、今日がまた上手い具合にエマ訓なのよね」 茶目っ気たっぷりに肩を竦めて、『お母さん』は、香平も幾度となく訓練の為に通ったドアを開けた。 中は煙が充満していた。 香平にはもちろんわかる。 火災が発生し、緊急着陸の後にシューターを使って緊急脱出が行われる想定だ。 モック――実物大に作られた旅客機の客室部分の模型――の中では何やらゴニョゴニョと可愛い声がしていたが、ほんの少しの後に、ひときわ大きな声が上がった。 「声が小さい! 何のために乗ってるのっ! それじゃあ誰ひとりとして助からないわよっ」 凜としながらも上品さも備えた声。 姿は見えないが、恐らくこれが牛島教官の声だろうと思った。 指摘に、少し大きな声が聞こえてきたのは、恐らく男性の訓練生だ。 「そこっ、姿勢が高いっ! 煙に巻かれる!」 すでに機内は電源が落ちていて薄暗い。 訓練生が『こちら側のドアへ』と叫んで、乗客の誘導を始めたのだが、香平はそれを見て思わず顔をしかめた。 ドアを開ける前に必ず窓から外の状況を確認しなくてはいけないのに、それをせずにドアを開けようとしている。 もしエンジンからの出火なら、そちら側を開けてしまえば何もかもおしまいだ。 客室内は間違いなく、入り込んだ炎に征服されてしまうだろう。 「外の確認はっ!?」 言われて慌てて外を見るが、その時すでにドアは少し緩んでいた。 「荷物を置いて!」「ハイヒールを脱いで!」と訓練生たちが繰り返し叫ぶが、喉だけで叫んでいるせいか、少し離れてしまえば何を言っているのかわからなくなる。 あれでは緊急時の緊張下ではまともな声は出せないだろう。 だからといって、火事場の馬鹿力に頼るわけにはいかないのだ。 何度も何度も、このギリギリの訓練を重ねることによって初めて、いざという時に冷静に行動できるのだから。 香平の隣で『お母さん』が肩を竦め、ポツリと言った。 「この厳しい訓練に体力が追いつかなくなった時が、クルーとしての『降り時』なのよね」 新人だけでなく、空を飛んでいる限り、パイロットもキャビンクルーも緊急救難訓練を定期的に受け続けなくてはならない。 それはもちろん、命を守るため…だ。 その『命』を守れなくなった時に、クルーは地上に降りるのだと、『お母さん』は改めて香平に教えてくれて、その背中をポンポンと優しく叩いて出て行った。 その姿を一礼して見送ると、訓練が一段落した。 モック内からは煙が排出され、明るく電気が灯る。 訓練生たちは訓練用のつなぎを着ているが、その中にひとり、クルーの制服で、背筋のスッと伸びた、立ち姿も一際美しい女性がいた。 先ほどとは打って変わった静かな声が、息を弾ませている訓練生たちに語りかける。 「みなさんは、本気で生きて戻る気はありましたか? 私には、残念ながらそうは見えませんでした。もし、クルーが死んだら、誰がお客様を助けますか?」 誰も答えを返せない。 「みなさんの職場は、ほんの一瞬の判断ミスが命取りになる現場です。今なら間に合います。怖くて自分には無理だと思ったら、地上職への異動をお薦めします」 やはり、誰も何も言わない。唇を噛んで、視線を落とすばかりだ。 「まだ頑張れるのなら、今日の反省点をレポートにして明日の朝、提出して下さい。本日の訓練はこれで終わります」 そう告げると、一斉に『ありがとうございました!』と声が上がる。 ひとつ頷いて、美人がこちらを見た。 そして、華やかに笑った。 |
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「はじめまして。藤木チームのチーフパーサーを務めさせて頂いております、中原香平です」 「はじめまして。新人訓練課の牛島華です」 教官室横のミーティングルームで、華と香平は初めて向き合った。 美人とは聞いていたけれど、『嘘、マジ、これで40過ぎ?』というレベルの美しさで、つい緊張してしまった香平に、華はコロコロと笑って見せる。 「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。取って食ったりしないから。でも美味しそうだけど」 「……」 この時香平の頭に過ぎったのは、『さすが、うっしーのヨメ』という言葉だったりしたのだが、その一言でスッと肩の力が抜けたのは確かだ。 そう、やっぱり『うっしーのヨメ』なのだ。 相手の緊張を解すツボを、ダンナ同様、これでもかというくらいに心得ている。 そして、緊張とは違う意味で固まってしまった香平に、華はうふふ…と笑った。 「可愛いわあ。そうそう、雪哉くんと同級生なんですって?」 「あ、ご存じだったんですか?」 今やクルーの間では知らぬ者はいないけれど、ここまで知られているとは思っていなかった。 そして、華の答えはやっぱりちょっと『爆弾』だった。 「夫と雪哉くんはそりゃもう仲良しだもの。ステイ先で一緒に寝るくらいにね」 「……」 ウィンク付きで言われてしまい、更に固まったのだが、『ステイ先で一緒に寝た』という『ネタ』はうっしーが新人には必ずと言って良いほどお見舞いする『定番』なのだが、真偽のほどは香平も知らなかったのだ。 だからこの際聞いてしまおうと思った。 「あの、そのネタなんですけれど、事実なんですか?」 「ええ、事実なのよ」 華は嬉しそうに笑って、『事実』を教えてくれた。 あの『ホノルルステイ』の怪談話を。 香平はと言えば、それを聞いてちょっと…いやかなり後悔していた。 怖い話は大の苦手なのだ。 しかも、まさかの『ホテルの怖い話』で、しまった…と思っている。 「…それ、本当に出るんですか?」 以前のエアラインにはホノルル便がなかったので、香平はここへ来て初めてホノルルへ飛ぶようになったのだが、クルーはずっと新館に宿泊していて、幸いなことに旧館とは縁がない。 「私は幸いなことにその部屋に泊まったことがないのよ。でも、見た…って言う人は、そうね、私が知ってる限りでは…浦沢キャプテンとか、杉野くんとか、77のキャプテンは半分くらい見てるんじゃないかしら。ああ、大橋キャプテンと来栖くんは見てないわね。大橋キャプテンは『待ってたのに出なかった』って残念そうだったし、来栖くんは、枕元に立たれても気づかないタイプだと思うから」 あははと笑う華に、香平も思わず笑ってしまった。 確かにそんな気がするからだ。 雪哉のことがあったから、初めて来栖キャプテンのシップに乗る時はかなり緊張したのだが、まるで何事もなかったかのように、ごく自然に、『これからよろしく』と言ってもらって、しかも『同じ機材でマニュアルが違うのはキツかっただろう? 大変だったね』とねぎらいの言葉までもらったのだ。 だから、来栖敬一郎という人の『男気』に惚れたのは、なにも健太郎だけではないのだ。 そして思った。雪哉は本当に、良い人に巡り会えたのだな…と。 あれ以来、来栖キャプテンとは親しくしていて、その『人となり』もかなりわかってきた。 だから、『枕元に立たれても…』と言われて『それ、わかるかも』と思ってしまったわけだが。 「そう言えば、都築教官も見たって言ってたわね」 「えっ、そうなんですか?」 「あんまりにも好みのタイプの美人でうっかり口説きそうになった…なんて言ってたけど」 またコロコロと笑う華に、香平はがっくりと脱力だ。 こんな怪談話まであの人らしいなと思い、そして、もし、また何かのアクシデントで旧館に泊まることになったら、その時は自腹で別のホテルに行こうと固く誓ってしまった…のだが。 その思いを見透かしたかのように、追加情報がもたらされた。 「でもね、もし泊まることになったとしても心配いらないわよ。浦沢キャプテンは『彼女はあの部屋を気に入っているだけだから害はない。そっとしておいてやれ』って仰ってたから」 「…そ、そう、ですか…」 浦沢キャプテンが『オーラが見える人』という噂を小耳に挟んだことはあったが、あの『浦沢キャプテン』だからこその意外性を狙った受け狙いの都市伝説もどきだと思っていたが、どうもそっち方面の話は本当のようで、ということは本当に『出る』ということで、やっぱり別のホテルだな…と決意を新たにしてしまった。 「でね」 華が笑顔のまま、少し改まった。 「ノンちゃんから、香平くんのことをくれぐれもよろしく…って」 華の言葉に、香平は神妙に『はい』頷いた。 「お世話になります。出来るだけ、お手を煩わせないように頑張りますので、よろしくお願いします」 また少し表情が硬くなった香平だが、華はそんな香平の様子も嬉しげに見つめる。 「ノンちゃんは、香平くんのことをとても頼りにしているわ」 「そう言っていただけると嬉しいです。でも、僕はそれ以上に藤木さんに頼っていますから」 見た目は美人で性格はキュートで中身はかなり『男前』…な、ノンノンは、上司としてもクルーとしても、そして友人としても香平の支えだ。 「彼女はね、結婚する少し前の健康診断で少し問題が見つかって、もしかしたら子供を望むのは厳しいかもしれないと言われていたの。でも、藤木くんはそれでも良いってノンちゃんにプロポーズしたわけ」 ノンノンの夫であるコ・パイの藤木昌晴は、香平とわずか2週間違いの誕生日で、しかも話してみれば同じ大学の同級生だった。 何万人も学生がいる私学で、理系の学部と文系の学部だったからまったく接点はなかったが。 そんなこともあって、初めて一緒に飛んだパリ便でステイ中に意気投合してしまい、以来、パイロットの中ではもっとも頻繁に連絡を取り合う間柄だ。 その人柄に触れた時、なるほど雪哉がずっと頼りにしてきただけのことはあるなと感じたものだ。 だから、ノンノンのおめでたを聞いた後には、もちろん祝福のメッセージをすぐに送っていて、返ってきたメールが『お前もさっさと良い人見つけろ』という、余計なお世話だったりしたのだが、今聞いたようないきさつはまったく知らなくて、ノンノンと昌晴もまた、深い愛情で結ばれているのだなと改めて嬉しくなった。 「おまけに、隣の敷地に住んでるノンちゃんのお兄さんのお嫁さんってのがまた肝っ玉母さんでね。今、小学生と幼稚園の男の子の子育て中なんだけど、『2人も3人も一緒だから、まとめて面倒見て上げるから、好きなだけ飛んでおいで』って」 「…そうだったんですか」 すぐ復帰したいという話を聞いて、赤ちゃんは誰かが見てくれるんだろうなあと、漠然とは思っていたのだが、まさか兄嫁さんだとは思っていなかった。 「ノンちゃん、最初はちらっと退職も考えたみたいなんだけど、せっかくそう言ってもらったから、この際とことんまで頑張ってみるって。それを聞いて私も嬉しくて」 「そうですよね。僕たちも藤木さんの義理のお姉さんに足向けて寝られませんね」 「ほんとよね〜。お中元送っちゃおうかしら」 笑い合うと、もうすでに最初の緊張感はどこにもない。 やっぱりさすが『うっしーのヨメ』…いや、大橋キャプテンはうっしーのことを『華ちゃんを攫って行った人類の敵第1号』と呼んでいるけれど。 「そうそう、のぶちゃん…って言っちゃだめか。ええと、都築教官とは仲良くやってるみたいね」 あの人を愛称で呼んでしまえるとは、やっぱり大物だ。 「いえ、仲良くとかではなくて、お世話になりっぱなしです」 「あら、都築教官は、香平くんとは仲良しだって言ってたわよ? それに、香平くんの話すること多いのよね」 「…え? そうなんですか?」 やっぱり、まだまだ独り立ち出来ていなくて頼りないと思われているという事だろうか…と、嫌な方向へ思考が転がったのだが、そんな香平の様子に、華が『ふふ』と笑いを漏らした。 「多分、香平くんが思ってるような理由じゃないと思うけどね」 自分が思っている理由を見抜かれているとしたら驚きだが。 「ヘッドハントした自分の目に狂いはなかったって自画自賛するほど、香平くんは優秀だって喜んでるんだけどね。だから仕事とは違う、もっとプライベートなレベルで気にしてるみたいなのよ」 「プライベート…ですか?」 プライベートと言えば、雪哉の一件くらいしか思い当たらない。 そう、過去の幼稚な自分と、現在のあの無様な姿を晒したくらい…だ。 つまり、やっぱり良い事は何もない。 「だから私、香平くんとは初対面って感じがしないわ。都築教官が話していた通りだったから」 どんな話をされているんだろうと、背中が少し冷たくなったが、あの人は陰で悪口を言う人ではない…と、どこかでしっかり信用してしまっていて、これも『教官同士の情報共有の一環』として受け入れなくては…と勝手にまとめたところで、また次の燃料が投下された。 「彼もね、ああ見えて結構寂しがりだから」 先ほどベテラン教官――『お母さん』――から聞いたのと同じ言葉を聞いて、これはもしかしたら、本当にそうなのかも…と思ったが、やっぱりこれっぽっちも想像できない。 「クラウンチーフパーサーって、名前はかっこいいし、年収も多分相当上がってると思うけど、ともかく孤独な立場だと思うのよ」 それは香平にも理解が出来た。 『本当はみんなと一緒に乗りたいのに』とはっきり口にする信隆だから、尚のこと。 仕事というのは、恐らく立場が上がれば上がるほど、孤独になっていくのかも知れないな…と、チーフパーサになったことで、ほんの少しだけわかったような気がする。 「やりがいもあるだろうし、なんてったって、男性クルー増員計画を『上』に上げたのも彼だから、今が踏ん張り時だとは思ってるはずなのよね。後々の客室乗員部のことを考えたら、ここで手を打っておかないと…って言うのもよくわかるし。でも、本人としては、キャビンでみんなと一緒に働きたい…って思ってるんだろうなって、手に取るようにわかっちゃうわけなのよ」 それを聞いてなんだか少し、嬉しくなった。 信隆が『飛んでいたい』と、確かにそう思っていることと、それをちゃんと自分も、華も理解していることが。 「だから、ヤツが甘えてきたら、面倒だと思うけど、ぜひ香平くんにはお相手をお願いしたいわけよ」 「…ええと、転がされてばっかりですけど…」 「だから、甘えてるのよ、香平くんに」 「……ええと、今ひとつ理解できてませんが…」 「そのままで良いのよ、香平くんは」 「……じゃあ、まあ、このままってことで…」 「やだ、もう、可愛いんだから」 ここでも簡単に転がされてしまった気がもの凄くするけれど、でも、華と話をするのはとても楽しくて、気分が上がるな…と、香平は意識のどこかでしっかりと感じていた。 「ところで香平くん」 「はい」 「見てもらった通り、4月生には男子が3人いて、7月生と10月生にはそれぞれ5人ずつ男子の訓練生が入ってくるの」 ということは、今年度は13人の採用ということだ。 思っていたより少ない。 1番早くても、クルーへの昇格はまだ少し先で、国際線に来るのはまだ更に先だ。 なかなかに遠い話で、自分たちが引き抜かれてきたのが今さらながら良くわかったと香平は思った。 実際、この秋にはまた数人、ヘッドハンティングがあるかも知れない…とも聞いているし。 華が少しだけため息をついた。 「男性の訓練生って、女性に比べると最初の頃がより大変だなって痛感してるところかな。だから現役の男性チーフパーサー陣には、交代で…そうね、ひと月に一度くらいでいいから新人訓練に顔出してもらえたらなあとは思ってるところよ」 「相談相手…のような感じですか?」 「そう。まだまだ訓練生は『ほぼ女性』だし、教官も、訓練センターの専任教官は女性ばかりだし、どういうことに悩んでるとか、行き詰まってるとか、話し相手になってもらえたらありがたいのだけれど」 確かにそうだと香平も強く思った。 「それはとても良くわかります。僕はフランスで訓練を受けましたけれど、あっちは男性もかなりいるので、話を聞いてもらう相手はたくさんいましたし、その都度助かりましたから」 香平の言葉に、華は嬉しそうに頷いた。 「いずれ、都築クラウンチーフパーサーに正式に申し入れするつもりだから、是非よろしくね」 「はい。お役に立てるように頑張ります」 「も〜、やっぱり可愛いわ〜」 いきなり頭を撫でられて、思わず照れてしまった香平だった。 |
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おまけSS
『岡田くんの野望』
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「引き抜き?」 「そう、海外の優秀な人材を数人、ヘッドハンティングしたらしい」 「それって、俺たちの上に立つ人材って事だよなあ」 「そりゃそういうことだろ。何でも全員が現役アシスタントパーサーで、移籍1年後にはチーフパーサーに上げたいってことらしくて、だいたい28歳前後らしい」 「定期採用第1期生としては、ちょっと穏やかじゃない話だよなあ」 男性キャビンクルーのロッカールームで話し込んでいるのは、4年目になるクルーたち。 それまではなかった男性キャビンクルーの定期採用第1期生だ。 1期生は8名。 約30倍になった狭き門に挑み、最後に都築教官とアメリカ人の訓練教官の『英語面接』を突破して採用になった精鋭たちは、職務に対する誇りとプライドをしっかりと持っている。 そう、乗客はもちろん、職位の上位下位に関係なく、女性クルーを守るのは自分たちなのだと。 「僕はどんな人が来るのか楽しみだよ。だってあの都築教官が引き抜いてくるような人だろ? 優秀に決まってるしさ、僕たちにとっても、近しい年齢で経験豊富な人は目標になるから良いことだと思うんだけど」 そう言ったのは、同期の中で最も早く、現在ただひとりアシスタントパーサーに昇格している岡田悠理(おかだ・ゆうり)25歳。 身長179cmだが細身の彼は、現在第4期まで採用が進み、総勢47名に増えた『長身イケメン揃い』と言われる男性キャビンクルーの中でもピカイチの可愛らしさと評判で、女性クルーからも可愛がられている逸材だ。 属するのは、国際線の女帝・小野香澄上級CPが纏めている『国際線:小野チーム』。 得意の語学力を生かして、しかも人と接することの出来る仕事に就きたいと思っていた悠理にとって、エアラインの客室乗務員というのはまさにうってつけの職業で、しかも職場環境はとてもよろしくて、毎日張り切って飛んでいるところだ。 「なるほどな。そう言う考え方すれば良いんだ」 「そうそう。何事もポジティブにね」 そう、何事も前向きに考えないといけない。 経験豊富で頼りになり、目標となってくれる人が来てくれて、しかもそれが『好みのタイプ』だったりしたら言うことはないのだが、そこはまだ未知数だ。 さて、今日のフライトはフランクフルト行きで、コ・パイは大好きなゆっきーだ。 彼は、悠理が採用になったその年の12月にコ・パイに昇格したのだが、初めて会ったのは、悠理が訓練生から国内線クルーに昇格したばかりで、彼はまだ訓練生でOJT中のことだった。 初めてキャビンブリーフィングで彼を見たときには、あまりの可愛らしさにざっくりとハートをえぐられた。 そして思ったものだ。 ジャスカでキャビンクルーになって、本当に良かったと。 けれど残念なことに、大好きなゆっきーは、来栖キャプテンに取られてしまった。 あれだけちょっかい掛けたり抱き込んだり色々したのに、『岡田くん、可愛いなあ』と、まるっきり弟分扱いのままに終わってしまったのだ。 もちろん今でもそうだ。ゆっきーは、とてもとても『可愛がって』くれる。 こっちが可愛がりたかったのに。 多分、自分の見た目が可愛い系なことが裏目に出たとしか言いようがないが、いずれにしても告白するまでもなく失恋してしまったのは大きな誤算だった。 せっかく『そう言う意味』でも良い職場に来られたのに。 ☆ .。.:*・゜ 「チャイルドミール、ひとつキャンセルです」 巡航に入り、一回目のミールサービス中、1年後輩のクルーが報告に来た。 「お子ちゃま、寝ちゃったみたいです」 「完全にキャンセル? 時間ずらして…とかのリクエストも無し?」 「はい、2回目のミールで良いそうです」 「了解」 本日のフライトで、チャイルドミールの予約は3つ。お子様はひっくり返すことも多いので、ひとつ予備を搭載しているから2つ余るということになる。 その時、悠理はふと思い出した。 チャイルドミールがリニューアルした時の都築教官の言葉を。 『これ、雪哉が見たら喜びそうだなあ』 確かにそうだと思った。 雪哉が小食なのは、彼に関わるクルーは大概知っている。どうにかして食べさせようと周囲は躍起なのだが、無理強いするわけにも行かず、キャプテンたちの懸案事項になっている。 チャイルドミールなら、量は少しずつだが種類は豊富だし、栄養バランスはとても考えられているから、もしかしていいのではないだろうか。 『必ずキャプテンと違うものを食べる』という最重要事項も当然クリアだ。 ビジネスクラスのミールと同じ食材は使われていないから。 それに、見た目も超お似合いな気がする。コアラパンにりんごゼリーなど、まさに『雪哉っぽい』。 一口サイズの――もちろんお子ちゃまのお口のサイズだ――小さなミートボールなんて、『はい、あーん』なんて、やってあげたいくらいだ。 実際やったら彼はぷうっと膨れてしまいそうだけれど。 ともかくも…と、悠理はファーストクラスにいるチーフパーサーにインターフォンを繋いだ。 雪哉にチャイルドミールをサジェストしてはどうだろうかと提案するために。 悠理からの提案を受けて、チーフパーサーはあろう事かインターフォンの向こうで吹き出した。 『それ凄くいいけど、岡田くん行ってくれる? 私、ゆっきーの顔見たら絶対笑ってしまって言えないと思うから』 通常コックピットの世話はチーフパーサーの役目だが、チーフパーサーからアシスタントパーサーに振られることも良くある。 ただ、悠理はアシスタントパーサーとは言え、昇格して日の浅い新米で、まだファーストクラスの担当は資格がなく、ビジネスクラスかエコノミークラスにいるので、今までに指名されてコックピットにお伺いに行ったことは1度しかない。 ちょっと緊張してしまうけれど、コックピットにいる雪哉を見られる機会は滅多にないので、『了解です!』と、思わず元気に返事をしてしまった。 「なんでチャイルドミール?」 憮然と聞き返してくる雪哉の隣でキャプテンが転げ回らんばかりに笑っている。 悠理としては、結構真面目に『お薦め』しに来たので、ここまでウケるとちょっと困るのだが。 「美味しそうですよ。コアラパンはフカフカですし、りんごゼリーは艶々ジューシーで、ミートボールとか卵焼きとか」 「…え」 そう、雪哉はチョコの次に卵が大好きなのだ。 「量も少なめの一口サイズですよ?」 「…う…じゃあ、それ」 そう言った瞬間、キャプテンがまた呼吸困難を起こしている。 「了解しました」 可愛い笑顔でそう答え、つい頭を撫でてしまった。 ぷうっと膨れる雪哉が可愛くて、心底来栖キャプテンが羨ましいと思ってしまう、悠理だった。 それからほどなくして、噂のヘッドハンティング組が入社した。 総勢5名。 いずれも名だたるエアラインの国際線現役アシスタントパーサーを辞めて、ジャスカにやって来た逸材だ。 期間はとても短いとは言え、一通りの訓練とOJTをきちんとこなすと言う話で、悠理たちとの接点はもう少し先になると思われたが、客室乗務員部内は、その話で持ちきりだった。 ――ま、引き抜かれて来る人たちがみんな年上なのは良いけど、きっと『見るからに頼りになる系』だろうから、そう言う意味では期待薄かな。 恋愛対象にはなり得ないだろうけれど、取りあえず、クルーとして目標になってくれる人ならそれでいいや…と、結論づけて『彼ら』が国際線に出てくる日を待った。 そして。 ――えっ、マジでっ? めっちゃ美人! ああっ、笑うと超可愛い! 基礎訓練と国内線資格、そして国際線の地上訓練もあっという間に通過して、国際線OJTに出てきた彼に初めて会ったのはパリ便だった。 英仏独の3カ国語に通じ、未だに密かに人種差別が根付いていると噂の『あの』エアラインでアシスタントパーサーにまでなったと言う逸材は、悠理の予想に反して、それはそれは笑顔の可愛い『年上』だった。 そう、悠理の『好みのタイプ』は『年上可愛い系』なのだ。 「よろしくお願いします」 「いえいえ、こちらこそ、色々ご指導下さい」 悠理の本日の担当は、エコノミークラスの責任者。 可愛い彼――中原香平は、エコノミークラスでのOJTだ。 ちなみに『よろしくお願いします』と言ったのは、職歴も年齢も上の香平で、『いえいえ…』と答えたのは悠理で、言った端からお互いに可笑しくなって笑顔になってしまい、悠理的には『つかみはOK!』だ。 そして、パリ便往復の香平の働きぶりは、悠理を心底驚かせた。 国内線のクルーたちが、密かに『都築2世』なんて言ってることを小耳に挟んではいたが、『あんな凄い人の後釜なんて居やしないって』と、端から信じていなかったのだが、これはもしかしたら本当にそうかも知れないと思った。 サービスがこなれているのは職歴からして当然としても、目配り然り、気配り然り、辺りを丸ごと穏やかで居心地の良い空間にしてしまう彼の能力はもしかしたら『天性』とも言えるものではないだろうか。 ステイ中には、4年間暮らしたと言うパリの『穴場散策』に連れて行ってもらったのだが、明るい笑顔のふとした隙に思い詰めた表情になり、何かに揺れている様子の香平が気になって、思わずその肩を抱いて『訓練続きでお疲れなんじゃないですか?』と、当たり障りの無い声を掛けてみれば、『大丈夫だよ、心配かけてごめんね』と儚い笑顔で謝られて、一層心を掴まれた。 後から聞けば、当時彼は都築教官に辞表を出していたらしく、何があったのかは結局わからずじまいだったが、悠理がその話を聞いた時にはすでに辞表は撤回されていて、次の春、彼はチーフパーサーとなった。 ☆ .。.:*・゜ 「中原さ〜ん」 「あ、岡田くん。帰着?」 「そうです、フランクフルトから帰ってきました!」 「お疲れさま。頑張ってるね」 「ええ、そりゃもう、中原CPっていう目標がありますから」 そう言うと、彼は嬉しそうに、ちょっと恥ずかしそうに笑ってくれる。 ――あー! もう、可愛いっ。可愛すぎるっ! 思わずガシッと抱きしめたら、『苦しいよ、岡田くん』…なんて、腕の中で笑ってくれて、一層離せない。 残念なことに、彼は藤木チームに配属になったので、何かの事情が発生しない限り、一緒に乗れるチャンスはあまりない。 けれど、彼の乗務スケジュールは閲覧許可をもらってるから何時でも確認できて、こうしてオペセンでニアミス出来そうなときには必ず張り込んで捕まえる事にしている。 「中原さんはこれからロンドンですよね」 「うん、ここしばらくパリとフランクフルトばっかりだったから、久しぶりなんだ」 「ロンドン、この時期にしては日中の気温が高めのようですね」 彼が飛ぶ先の情報収集は欠かせない。 「そうみたいだね。1日の気温差がこれ以上開くと体調管理が面倒になるよね」 「無理しないようにして下さいね」 「うん、気をつけるね」 彼はとても素直だ。そして優しい。 「あ、そうだ、月末のフランクフルトでステイが重なるんですけど、その時にお連れしたいところがあるんです」 「え、何か見つけた? …って、もしかして」 彼が目を輝かせた。 「ええ、Apfelwein(アップルワイン)です」 「良いの見つけたんだ?」 現在ジャスカでは、フランクフルト線に搭載するアップルワインを探している。 アップルワインはフランクフルトの名物だ。 そして当然現地事情に最も詳しいのはフランクフルト線に乗務するクルーたちで、彼らにその『逸品探し』の指令が出ているところなのだ。 「はい。酸味と甘味のバランスが絶妙のものを見つけました!」 「わあ、やったね!」 「醸造所で販売や試飲もやってるので、一緒に行っていただけると…」 「うん、もちろん。楽しみだなあ」 嬉しそうに笑う彼の様子は、見る度に心が癒される。 悠理は現在ソムリエ資格取得を目指しての猛勉強中なのだが、先輩ソムリエの彼は、いつもどんな質問にも、丁寧に的確に、そして納得が行くまで答えてくれて、本当に頼りになる存在だ。 こんなに可愛い人なのに。 「価格も手ごろなんですが、ただ、小さな醸造所なので量の確保が出来るかどうか…は、ちょっと…」 「うーん、確かにそこは大切なところ…だけど、その辺りの交渉は上の人に任せるしかないよね」 「そうですよね」 いつまでもこうして話していたいけれど、彼はこれからフライトだ。 どんな下っ端クルーでも、ショウアップ以降、気を抜くことは出来ないが、チーフパーサーともなれば、その責任の重さは計り知れない。 「気をつけて行ってきて来て下さいね」 ついまた抱きしめてそう言うと、『ありがと。岡田くんはいつも優しいね』と、極上の笑顔を返されて、悠理の心臓が飛び跳ねる。 『中原CPは競争率高すぎだって。ってか、私も狙ってるもん』 以前、付き合ってと言われて、『ごめん、僕、女の子ダメなんだ』と素直に告白したら、それ以来違う意味ですっかり親密になってしまった同期の女性クルーに、『中原CPが好き』と言ったら、そう言われた。 確かにそうだ。 男女問わず、しかもクルーだけではなく乗客まで、彼に惹かれている人間はいっぱいいる。 あれだけ魅力的な人なのだから、ライバルが多いのは仕方ない。 でも、自分も頑張るだけだと思うのだが、周囲の輩があまりにも『好きです』と告白し過ぎている所為か、『本当? 嬉しいなあ、ありがとう』と、まるで本気にしていない――と言うか、向けられる好意の裏に潜む欲望に全く気づいてない――様子で攻めどころが見つからない。 まあ、そんな『良い意味で鈍いところ』も可愛くて仕方がないけれど。 だが、ここの所、悠理には気になることがある。 ――なんか最近、都築教官って、やたらと中原さんに触ってない? 万が一、あの人がライバルになれば、どんなヤツでも勝ち目はないだろう。 だが、ともかくも、次のフランクフルト・ステイでのデートは取り付けた。 あくまでも悠理視点のシチュエーションだが。 問題はそれから先だ。 どうしたものかと真剣に戦略を練る、悠理であった。 |
おしまい。 |
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