『君愛』&『I have!』
コラボ企画

be happy



 漸く秋の気配が感じられるようになるこの時期。
 僕の母校は3日間のお祭り騒ぎに湧いている。

 2日目3日目はオープンにされるので、家族やOBだけでなく、近隣の人たちや周囲の中学や高校の生徒たちもやってきて、それはそれは賑やかだ。

 僕は卒業して4年目になるOB。音大の4年生だ。

 お祭り騒ぎの1日目は、一般公開されていなくて、たとえOBでも入ることはできないんだけど、僕たち管弦楽部のOBはちょっと特別。
 期間限定だけど。

 大学・大学院の間は、後輩たちを指導する『指導OB』として登録される。

 その指導OB登録期間は、1日目も入校できるんだ。
 3日目に行われるコンサートの練習も佳境だから。


 そして、その1日目の乱痴気騒ぎといえば、『演劇コンクール』。

 高校1年から3年まで、同じクラスの縦割り対抗で、持てる『妄想・技術・コネ』を総動員してぶつかり合うんだけど、僕は3年間大変な目にあった。

 2回も女装させられて、3年連続主演賞。
 1回だけでも男役があったのが救いだけど、ほんと、僕的黒歴史だ。

 まあ、それも4年も経てば時効…とまでは行かなくとも、ま、良い思い出にしてあげてもいいけど…って感じ。


 さて、今日はその『演劇コンクール』の日だ。

 僕は来年、大学院へ進学することに決めたから、まだあと2回はこの『演劇コンクール』を見ることが出来る。

 あ、録画は全部残されているから、OBでも予約しておけば図書室のAVルームで見ることは出来るんだけど、やっぱり舞台の醍醐味は『ライブ』だからね。
 

                     ☆★☆


 今年も演劇コンクールは盛り上がった。

 僕は在校当時、同室の親友とのコンビで『ゴールデンカップル』なんて言われていたけど、ちゃんとどの年代でもそういう『カップル』はいて、『伝統』ってコワいなあなんて思っちゃう。

 そして、今年1番の注目カップルは、高3と高1のコンビだった。

 高3の生徒は、僕にとってとてもとても大切な部活の後輩で、中1の頃から年齢らしからぬ落ち着きと包容力を見せていたけれど、さすがに18歳にもなると貫禄までついちゃって、しかも長身男前ときているから、もうどうにでもして…ってくらい格好いい。

 おまけに成績も一番で、目指すは医学部だって話。納得だけど。

 で、親衛隊の数がもの凄いらしいんだけど、それも頷ける。
 本人は全然お構いなしらしいけど。

 まあ、そんなところも彼らしい。
 ちなみに、任期も間もなく終わりだけれど、現管弦楽部長だ。


 そして、そのお相手をつとめるのは高1の子。

『正真正銘』で、今年の総代だそう。
 直人先生にちらっと聞いたんだけど、とんでもない知能指数の天才くんらしい。

 さらに、僕の高3の時の担任で、現在その天才くんの担任をしているクマ先生が『ナイショな』と言いつつ、『僕だから』ってことで特別に教えてくれたネタに僕は驚いた。

 彼は『A特待』なんだそうだ。

 そう。親権者に収入がないことを条件に、『学費・寮費全免除』ってやつだ。

 僕は高1の途中でお父さんが見つかって、その特待生を返上したけれど、僕のお父さん自身、実は一人目の『A特待』だったんだ。
 中学時代に両親をなくしていたから。

 で、高1の天才くんはと言うと、やはりすでに両親を亡くしているらしく――詳しいことはもちろん教えてはもらえないんだけど――天涯孤独の身の上らしい。

 そして、本来なら『A特待』を受けるには『音楽推薦』か『スポーツ推薦』が必要なんだけど、彼はそのどちらでもない、さらに『特例』なんだそう。

 それもこれも、中3の時の全国模試が、失点無しの第1位だったから。

 そんな出来のいい坊やって、どんな子なんだろうって、僕は興味津々だった。

 だって、頭が良いだけでなく、『奈月以来の『スーパーアイドル』って言われてるぞ』って、クマ先生ってば、にやけてたから。

 ってわけで、僕はその『今年度最も話題のゴールデンカップル』の登場をワクワクしながら待っていたんだけど…。


 演目はオーソドックスに白雪姫。アレンジ勝負の定番ネタだ。

 現管弦楽部長は当然王子様役。白雪姫は天才くん。

 王子様はもう完璧。原作より大幅に出番が増やされたのも頷ける。
 もう格好いいったらない。


 で、白雪姫はと言うと。

 正直な感想を言ってしまうと…。
『ここって男子校だったよね?』って話で。

 本当に女の子かと思ったんだ。
 小柄で華奢で、髪は鬘だからなんとも言えないけれど、色の白さと言い、大きな目と言い、小さな口と言い、もう縦から見ても横から見ても『女の子』。

 しかも、TVに出てるアイドルなんて目じゃないってくらいの可愛らしさ。

 遠目だからちょっと自信ないけど、もしかしたら、瞳がちょっと茶色いんじゃないかな。

 僕のすぐ上の兄はアメリカ人とのハーフで、瞳の色が茶色いんだけど、そんな感じ。

 彼女…じゃないな、彼もハーフなのかな?

 慣れてない感じがありありなんだけど、それでも一生懸命やっている姿が初々しくて、これはちょっと危険かもって気がした。

 この学校、ケダモノだらけだし。

 でもきっと、同室の3人はあのお姫様をがっちりガードする騎士が選ばれてるに違いない。


 そんな『まるで少女』な彼の意外な話を教えてくれたのは、リハーサル後に話をした管弦楽部長…そう、白雪姫の王子様だ。

『あの子、夏になる前くらいに漸く笑うようになったんですよ』…と。

 あれだけのルックスと頭の良さで、しかも新入生総代とくれば注目の的なんだけど、彼はいつもうつむき加減で、同室者の背中にひっそりと隠れているような子だったんだそう。

 自分から話すこともなくて、掛けられた言葉に返事をするだけ。

 もちろん笑う事なんてこれっぽっちもなくて、ついには『誰があの子を最初に笑わせるか』って、童話にあったようなネタでトトカルチョ――相変わらず生徒会主催だ――が行われるくらい。

 そんな周囲の『ネタ半分の気遣い』に漸く彼が応えて初めて笑った時には、その可愛らしさにノックアウトされたヤツらの屍累々だったらしい。

 そして漸く笑った彼は、生来の質は『明るく優しい子』だったようで、周囲に心を開いてからは、まさに『アイドル一直線』。

 特に夏休み明けからのこの1ヶ月間は、彼の周囲はまさに『彼氏に立候補したいオトコたちが群がる』って状態だったんだそうだ。

 相変わらずだよ、このガッコ。

 そんな状況になった彼のことを、王子様は『僕も、立場を最大限に利用して守ってましたけど、彼、ああ見えて結構芯が強いみたいですし、なにより『客観的かつ冷静に物事を見る』ってことに長けていて、案外大丈夫かな…って気がしてます。ただ、力技で来られると、あの体格だからヤバイと思うんですが、その点は同室のヤツらががっちりガードしているみたいです』って言ってた。

 ちなみに、学年も違うし部活って接点もない王子様に、『夏前から接点あったの?』って聞いたんだけど。

 彼は生徒会の執行部員だそうで、文化部会を担当しているから、話はしていたそう。
 ただし、必要事項だけ…だけれど。

 しかも、学年始めにはクラス委員長から『今年はお前とあの子のコンビで打って出るからな』と、演劇コンクールのことを耳に入れられていたので、気をつけて見ていたり、同室の子に話を聞いたりしていたんだそうだ。

『このひと月でせっかく懐いてくれたんで、僕も彼のことをこれからも見守っていけたらな…って思ってます』

 そう言って、王子様は優しく微笑んだ。
 うーん、やっぱりとんでもない包容力だな。

 ちなみに王子様は、かつて、僕の親友の恋敵だった時期があったりして。
  

☆ .。.:*・゜
 


 それから2年が過ぎ…。

 去年の彼はかぐや姫。和装もやたらと可愛かった。
 ほんと、姫って感じで。
 
 今年は不思議の国のアリス――もちろんアリス役だ。
 ミニスカが何の違和感もないってところがコワい。

 普通、男子が『少年』から脱皮して男臭くなり始めるこの時期だというのに、彼はちっとも変わっていなくて、そこだけ時が止まっているような愛くるしさだった。

 何月生まれか知らないけれど、18歳になる学年にはとてもじゃないけど見えない。

 まあ、僕も似たようなことを周囲から言われてるけど。


 そして、最高学年の今年、彼は生徒会副会長になっていた。

 同級生はもちろん、下級生からの信頼も絶大で学院一の人気者だそう。

 いつも誰にでも優しく明るくて、入学してから暫くの『笑わない彼』なんて、もう誰も覚えていないって、クマ先生も嬉しそうに笑ってた。

『国立最高学府』の超難関を目指して猛勉強中らしいけど、直人先生によれば、『あいつは寝てても受かるだろ』…だって。


 それでも努力を怠らない彼は、大きな夢を持っているんだと聞いた。

 子供の頃からの夢で、それを叶えるために一生懸命なんだって。

 ただ、ある意味東大へ入るよりも『狭き門』な『そこ』への道のりは、遠くて険しい。

 頼るべきものをもたない彼を、先生たちは全力で支えていて、そしてそれは多分、ここを卒業した後も、彼が独り立ちするまで続くだろう。

 境遇にめげず必死で頑張る彼と、それを支える先生たちの思いが報われる日が必ず来ると、僕は信じている。


                     ☆★☆


 演劇コンクールの翌日。

 聖陵祭コンサート、リハーサル開始直前の音楽ホール。
 1階客席は、並んで整理券をゲットして、しかも抽選を勝ち抜いた人たちで埋め尽くされている。

 2階客席は関係者オンリーで、僕たち指導OBや先生、生徒会役員なんかが見守っている。

『あ! 雪姫、ここに居たんだ。探したぞ』

 そんな言葉が耳に入って、視線を巡らせた僕の視界に、遠く入ったのは、あの彼だった。

 制服姿でも少女のような彼。雪姫って呼ばれてるんだ。
 なんかめっちゃ似合うし。

『だから、その呼び方するなってば〜』

 抗議する姿すら可愛らしい。

『はいはい、副会長。ちょっと舞台袖まで来て欲しいって、管弦楽部長が呼んでるから』

『え。それを早く言ってよ』

 雪姫様は、慌てて出て行った。
 呼びに来たヤツは、ちゃっかり肩なんか抱いてるし。


 


 そして、それからどれくらい経っただろう。

『あの子、夢をかなえたよ』

 恩師からそう教えてもらって、僕は本当に嬉しくて、いつか会えたら良いなあって思ったんだけど、同じ『クルー』でも、乗客と接点無い方だからなあ…。

 客室乗務員の先輩とすら、滅多に機内で会えることはないくらいだし。

 うーん、残念。

 ってか、先生方の話によると、彼はどうやら『雪姫様のまま』で大人になってしまったらしい。

 パイロットスーツ、めっちゃ似合わなさそうだけど…。


END

2016.4.1 UP

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