「がんばれ、隆也!」
*「夏の軽井沢合宿」のお話ですv
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「葵、僕を抱いて」 ほんの20日ほど会わなかっただけなのに、いつの間にか目線が同じ高さに近づいてきている、聖陵のアイドルの一人、麻生隆也の再会第一声はこれだった。 「……。ごめん。良く理解できなかったんだけど」 そう、僕の脳が理解を拒否したんだ。 隆也はにっこりと笑った。 「僕を抱いて欲しいんだ」 「隆也…もしかして、熱ある?」 そう言った僕の手を、隆也はそっと取り、自分の頬に当てた。 「うん…。葵の側にいると、ドキドキして熱くなる」 「ね…寝てたほうがいいんじゃない」 「じゃ、一緒に寝て」 最初から迫られていたけれど、僕たちの間隔はますます狭まり、密着していく。 8月末の管弦楽部・校外合宿。 僕たちは聖陵の軽井沢校舎に来ていた。 交通事情のせいで一日遅れの参加となったヴァイオリン奏者の隆也は、僕をみるなり『抱いて』と言ったのだ。 「ね、一緒に寝ようよ」 「あのね、まだ昼だよ」 …そうとちゃうやろーーーーーっ! 葵っ! …あああ、思わず自分で突っ込んでしもた…。 「じゃ、夜まで我慢する」 「あのね、待ってもらってもね、ぼ、僕には、す、好きな人がいるから」 「悟先輩だろ?」 わ、わかってるやんか。 「葵はもう、抱いてもらった?」 「な、なななななな何をいっって…」 「もしかして、浮気になるから…とか心配してる?」 そんな心配せえへんーーーーーーーーっ! 「大丈夫。僕が葵を抱くって言うなら、浮気が成立しちゃうけど、悟先輩に抱かれてる葵が、僕を抱くんだから、それは浮気じゃないよ」 「?」 その論法、おかしないか? …って、論法の解析してる場合とちゃうーーーーっ! 「あ、あのね、隆也。落ち着こう。落ち着いて話し合おう」 「うん」 またしても隆也はにっこりと笑う。 「どうして僕が、その…隆也を…」 「僕、葵のことが好き。好きだから抱かれたい」 「だ、だからぁ、好きって言ってくれるのは嬉しいけど…」 「葵は僕のこと、嫌いなんだ…。やっぱり、あんな酷いコトしたぼくのことなんか…嫌いだよね…」 隆也は俯いて、グスッと鼻を鳴らす。 「ちょ、ちょっとまった。そんなことない、隆也のこと嫌いだなんて思ってない。好きだよ。大好きだよ」 泣かれては大変、と、慌てて取り繕った僕に、隆也は満面の笑みを返してくれた。 「嬉しいっ」 隆也は全身で僕に抱きついてきた。 「ね、ね、抱いて」 わーーーーーーーーっ! やめーーーーーーーっ! 「葵も男なら、抱いてみたいとか思わない?」 思わへんっ、絶対思わへんっ。 「そりゃぁ、悟先輩を見て『抱きたい』とは思わないだろうけどねぇ」 う、わぁぁぁ…。鳥肌がでるぅ。 「僕ならいいでしょ? お手頃なサイズだと思うよ」 サイズの問題やないーー! 「…どうしても、ダメ?」 僕は必死でコクコクと頷く。 「しょうがないな…。僕、牛乳きらいなんだけど、我慢するよ」 は? いきなり牛乳とは、これいかに。 「夏休みで2cm背が伸びたんだ。葵って167cmくらいだよね」 「う、うん…」 でも、僕かって、5mmくらいは伸びた……はず。 「僕、このまま順調にいくと、卒業前には175くらいにはなれそうだから…」 隆也は僕を見て、ニッと笑った。 「その時は『浮気』になっちゃうけど、しょうがないよね」 …人間、根本の性格はそう簡単には変わらんのやな…。 あまりの恐怖に、すっかり関西弁に戻ってしもた、僕やった…。 |
10万Hits記念感謝祭「がんばれ、隆也!」 END
Variation:緑深い山里に、葵を呼ぶ笛の音が…。→*「清けき笛の音の郷」へ*