2002年バレンタイン企画

君の愛を奏でて
「優しい気持ちのスタートライン」

☆生徒会サイド☆




「おい、大貴、集まり具合はどうだ?」

 生徒会室に足を踏み入れるなり、ここ、聖陵学院高等学校の生徒会長、浦河真路(うらかわ・まさみち)は、俺…横山大貴…に聞いた。

「すっごい出足だぞ。やっぱ、アイドル効果かな?」
 
 俺が手にしているのは、所謂『投票用紙』ってやつだ。
 むろん、『役員投票』とかそんな大それたもんじゃあない。

 この時期といえば…そう、バレンタインだ。

 ここ聖陵学院は…昔からなんだそうだが…どうしてだか、この類の『娯楽』が盛んだ。

『人気投票』なんてのは日常茶飯事。
 何か事があるごとに、こうやっていろんな『お楽しみ』が催されるんだ。

 最近のヒットは、来月卒業する先輩方が最後にやった『奈月葵の中間試験の順位当て』だった。

 そういや、あれって、院長と悟が当てたよな…。
 商品は『奈月葵くんと半日デート権』だったけど、あの二人、マジでデートしたんだろうか?
 今夜、寮に帰ったら悟に聞いてやろう。





「1位予想って相変わらず光安先生がダントツか?」

 真路が俺の手から用紙の束を取りながらいう。

「まあな。けど、今回、悟と守がかなりいい線来てるぞ」
「やっぱりな〜。今年は波乱がありそうだってみんな思ってるからな」
「特に悟な」

 そう、俺と同室の桐生悟。
 現・管弦楽部長のヤツは、去年までこの『娯楽』にエントリーは必ずしていたものの、そんなに上位ではなかったんだ。
 そう、だいたい7位とか8位くらい…だったかな?
 なにしろ、チョコを受け取るようなヤツに見えなかったからな。

 それが今年はどうだ?
 やたらと雰囲気は柔らかくなったし、よく笑うようになったし…。

 俺としては、これは絶対『恋心のなせるワザ』と睨んでいるんだけど、未だに相手の特定には至っていない。

 大本命はあの子なんだけどなぁ…。
 デートしたんだろうか…? 半日デート権で…。





「お、やっぱり奈月がぴったりつけてるな」
 
 用紙を一枚ずつ検分しながら真路がいうので、俺も用紙を覗き込む。

 なるほど…。奈月はだいたい4位か5位あたりの予想が多い。

「でもさ、こいつはちょっと数が読めないよな。もらうってより、もらいたい…方だもんな」
「確かにな〜」

 奈月にチョコをもらうヤツっているんだろうか?
 
 それがもし悟だったら…。

「そうそう、奈月が駅前でチョコ買ったって知ってるか?」

『悟×奈月』の文字がグルグルと渦巻いていた俺の妄想は、真路の言葉で遮られた。

「え? 奈月がチョコ?」
「ああ、なんでも3Dのクマのチョコらしいぜ」
「一個だけ?」
「もちろん」

 真路は得意そうに椅子の背もたれにふんぞり返る。

「一個だけのチョコ。それを受け取るヤツは誰か…」

 ニヤッと笑う真路。

「そいつが奈月の本命だろうな」

 奈月の本命…。

「でもさ、奈月って…」
「そう、浅井とデキてるって噂だよな」

 そうなんだ。ここでいつも俺の妄想は挫折する。
 奈月は浅井とデキてるって、みんないうんだ。

 確かに奈月と浅井はいつ見ても一緒にいる。
 反対に、奈月と悟が一緒にいるところなんて、少なくとも俺は一度も見たことがない。

 管弦楽部のヤツにそれとなく聞いてみたことはあるんだけど、そいつらも、『伴奏とか以外で二人が二人だけでいるのは見たことがない』って言うんだ。
 
 じゃあ、悟の相手は誰だ?

『正真正銘』の1年生で管弦楽部であることだけは間違いないと思うんだけど…。



「今度のバレンタイン、面白くなりそうだな」

 真路の言葉に、俺は大きく頷く。
 奈月が誰にチョコを渡すのか?
 
 俺は密かに、その相手が悟であればいいと願っているんだけれど…。






『聞いたか? 奈月って、浅井にチョコ渡したらしいぜ』
『マジっ?』
『1−Dの連中、大騒ぎしてたぞ。二人っきりになった生物実験室でキスまでしてたって話だ』
『うわ〜、やるねぇ、一年坊主』
『これで、奈月と浅井の関係は確定だな』
『陰で泣いてるヤツ、多いだろうなぁ〜』
『お前だって泣いてるんじゃねーの?』
『え? わかる?』


 2月14日。昼休みの教室に飛び込んできたのはこんな情報だった。

 奈月がチョコを渡したのは、やっぱり浅井…。

 誰かが脳天気に『やっぱ、部活中でもあいつらいい雰囲気?』って、悟に聞いたんだけど、悟はさして興味もない様子で『さあ…。ジッと見てるわけじゃないから…』って答えてて…。

 …やっぱり奈月じゃなかったのか…。

 悟の机やロッカーには、奈月からでないチョコばかりが山積みになっていて…。

 なんだかおもしろくないや。






 その日の放課後、俺たち生徒会役員は、エントリーしている10人の生徒と教職員のチョコ数えに奔走した。
 事前に協力を依頼しているから、混乱なく集計は終わったんだけど…。


 結果は大番狂わせ。
 光安先生の8年連続TOP記録が破られ、スーパーアイドルが1位の座に君臨した。

 


 そして、夜。
 またしても消灯点呼間際に帰ってきた悟は、なんだか変だった。
 ここのところ、ずっと様子は安定していたのに。

 満足とも不満足ともつかない、微妙な表情をしてるんだ。
 おまけになんだかやたらと艶っぽいし…。




 
 さらに、悟の異変はそれから約1週間続いた。

 夜、寮の部屋で机に向かう時間がいつもより少し長いんだ。

 悟の勉強方法は、短時間集中型。

 もちろん同じ課題を俺と悟が『よーいどん』で始めたら、圧倒的に悟の方が早い。

 なのに、どうしてそんなにノートを開けてる時間が長いんだ?


 気になった俺は、そっと悟の背後に回り、ノートを覗き込んだ。

 え? ええっ? なんだこれっ?
 1年の課題じゃないかっ。
 どうして悟がこんなものをっ。


 は…っ。
 まさか、恋人の課題をやってるとか…?

 『あの』桐生悟に課題をやらせるヤツが、この世にいるなんて…。 

 お前、もしかして、そいつにメロメロ?

 う〜!
 こうなったら絶対っノートの主を突き止めてやるっ。


「悟、早く風呂行って来いよ」
「あ、うん。そうだな」
 
 ちょうど課題が終わったらしく、悟はパタンとノートを閉じた。

 よっしゃ、悟が風呂に行ってる間に確かめてやるぞっ。

 ほら、悟、さっさと風呂にいきやがれ。

「大貴は?」

 ほぇ?

「大貴もまだだろう?」
「あ、うん」
「一緒に行こう」

 え、それはちょっと…。

「や、俺、今日はシャワーにしとくわ」
「何言ってるんだ。風邪気味だろ? こんな寒い日にシャワーだけなんてダメだ。しっかり暖まってさっさと寝ないと」

 うう…。悟…。お前って何て友達思いなんだ…。

「さ、行くぞ」
「…お〜」

 くっっっっそう…。ノートの持ち主は誰だよぉぉぉ。。



 

END


大貴くん、またしても真実はお預けです(笑)

バックで戻る前にチョコも食べてってねv