せんせとのぼきゅん
『春休みの温泉旅行〜若さの証明編』

あ、お子さまは回れ右!ですよ(にっこり)




「やっぱり日本人は温泉だね〜」

 昇が『う〜ん』と伸びをする。

「言うなぁ、昇。今年の正月が温泉初体験のクセに」

 からかうように応える直人もまた、気持ちよさそうに身体を伸ばす。



 ここは山間の温泉地。
 やっとほころび始めた桜が、ほんのりとピンクに山肌を染めている。

 正月の旅行で利用して以来、すっかり二人のお気に入りとなったところ。

 温泉地そのものは、多くの旅館が建ち並び、町の中心は土産物屋や外湯で賑わっているのだが、彼らが投宿しているところは、そんな中心地から少し離れた山肌に、張り付くように建っている。



 学生が春休みの今頃は、この静かな旅館にも女子大生のグループなどが泊まっていて、どうやらちらっと見かけた直人と昇が気になるらしく、部屋の外を歩けばやたらと視界に入ってくる。


 そんなわけで、お気に入りの一つである渓谷の露天風呂にもなかなか足が伸ばせないのだが…。


「でも、ここにこんないい部屋があったなんて知らなかった」
「ああ、正月は予約がいっぱいで取れなかったからな」


 ちゃぷん…と、いかにも癒し系な水音がしているのは、彼らが泊まっている部屋の庭先だ。

 岩を丁寧に組んで作り上げた…これがいったい『露天風呂』以外の何物であろう…というほどこれ見よがしな『露天風呂』。


「部屋に露天風呂だなんて、ほんと、贅沢〜」

 夕暮れになると、庭先の鮮やかな苔をぼんやりと浮かび上がらせるように、照明が入る。

 水音と二人の話し声以外何も聞こえない空間。

 風呂から立ち上る豊富な湯気が、控えめにライティングされた庭にソフトフォーカスをかけて、雰囲気作りに一役買っている。


「部屋の露天風呂の利点は、何といっても時間を気にせずに入れるところだな」
「ほんと、ほんと」

 直人が水音も立てずにスッと隣に張り付いた。


「それに、いちいち浴衣を着なくても、布団から直行できる」
「……ええっと、そう、だね」

 腕が腰に回る。


「しかも、湯上がり後すぐに布団に直行もOKだ」
「………ま、まあ、ね」

 しどろもどろに相づちを打つ隙間、いつの間にか横抱きで膝の上に乗せられていた。
 正月に続き、またしても浮力の魔力にやられたか。


「な、なおとっ」

 ひっついているのは気持ちがいいのだが、やっぱりこの体勢は恥ずかしい。
 それに何といっても不安定で集中出来ないのだ。

「何だ? 昇」
「こ、このカッコ、やだ」
「どうして」

 どうして…と聞かれても、まさか『集中出来ないから』とは言えない。

「この体勢はお気に入りなんだがな」

 にやっと直人が笑ってみせる。

「どこがっ? なんでっ?」

「だってほら…」

 言葉と同時に右手がスッと足の間を撫でる。

「…っ」

「こんな風に…」

 言葉の途中で唇が喉元を這い上がる。

「…んっ」

「ここも…」

 肩を抱いていたはずの左手は、いつの間にか脇から胸へと回されていて、器用な指先が小さな尖りを探り当てる。

「…あ…ん」

「ほら、ここも…」

 足の間を這っていた右手はいつの間にか目的の場所にたどりついて、早速好き勝手に動いている。


「どう? この格好は、こんな風に昇の全身を一度に愛してやれる、便利な体勢だろう? しかも。こんな風に…」

「や…っ」

 徐々に強く加えられていく刺激に、殺しきれない声が漏れる。

「堪えている昇の可愛い顔を見ながら…」

 そういいつつ、触れるか触れないかのところまで唇を寄せてみる。

「キスをしながら…」
 
 …ふと、昇自身を執拗に可愛がっていた手が離れる。

「ん、やぁ…なお、と…」

 上りつめる瞬間をはぐらかされて、思わず捩ってしまった腰をギュッと抱き寄せられた。

 けれど、引き続き与えられたのは、なんだかもどかしい刺激だけ。

「…ど…して…?」

 いきなりはぐらかされてしまった熱が、出口を求めて身体の中をうねる。

「なに?」

 なに…と聞かれても、何と言えばいいのだ。



 二人が『こういうこと』をするのは長期休暇の時だけで、去年の夏から今まで、『数をこなした』わけではない。
 
 だが、そんな中でも、直人はいつでも昇を甘やかすように抱くばかりで、こんな風に焦らされたり、意地悪そうな瞳でのぞき込まれたことはない。

「…ねっ、もう…っ」

 堪らず無意識の言葉が漏れる。

「もう、何?」

 けれど、直人の言葉は遊びを続けるように耳のあたりを彷徨い、再開されたその手の動きも言葉の調子に合わせるように『手遊び』の域を出ようとしない。

「して欲しいこと、言ってごらん、昇」

 その言葉に『信じられない』とばかりに昇の瞳が見開かれる。

「…そ、そんなこと……っん」

 言えない…と言おうとしたのに、いきなりこめかみを舐められて言葉を飲み込む。

 微妙に外された愛撫が堪らない。

「ほら、昇、言わないとこのままになるぞ。辛いだろう…ん?」

「…ふ…ぁ」

「強情張らずにねだってみろ」

「…や…っ」

「どこをどんな風にして欲しい?」

「そ、んな…」

「その可愛い口でねだれば何でもしてやるぞ」

「なおと…っ」

「なんだ?」



「お、オヤジくさいっ」



 瞬間、直人の瞳がキラッと光る。

「ほう…」

「…う」


 つい、言ってしまった。

 今回の旅行で、その一言はタブーだったのに…。

 だが…。


「昇は17も歳上の恋人はいやか?」

 直人の口から漏れたのは、意外にも気弱な言葉。

「もっと若い恋人に乗り換えるのなら今のうちだぞ」

「な、直人っ」

 本気でそんなことを言っているのだろうかと、昇の瞳が一気に潤む。

「今のうち…って…」

 今のうちなら乗り換えられてもかまわないと言う意味なのだろうか?

 だが、その疑問を言葉にすることは出来なかった。

 激しい口づけで塞がれた唇は、もうそれっきり言葉らしい言葉を発することなく、ただ、翻弄されるがままに艶めいた息を零すだけになってしまったのだから…。

                       


この桜からちょっぴり大人の世界へトリップv



「すまないな、昇。私もまだ若いんでね、つい…」

 すぅすぅと、柔らかな寝息を立てて眠る、ずっと年下の恋人の耳にそっと囁いてみる。


『もう、ダメ…』


 あのあと、そんな言葉が昇の口から漏れるまで責め立ててしまった。
 いや、そんな言葉を聞いてもなお、止めることなく抱き続けた。
 もとより、止める気など最初からなかったのかもしれない。


「悪いがな、例えお前が乗り換えると言いだしても、それだけは聞いてやれないから」


 最後はほとんど失神状態で眠りについてしまった昇だが、その寝息は意外なほど安らいでいて、ほんのちょっぴり罪悪感を感じないでもなかった直人を安心させる。

 

 いつの間にやら、夜はとっぷりと更けて、静寂を僅かに揺するのは、庭先に絶え間なく湧く湯の音だけ。



 起こさないようにそっとその身体を腕に抱き込むと、昇はその小作りな鼻先を直人の胸元にすり寄せてきた。

 何もかもが愛おしくて、堪らない。


「覚悟しておけよ、昇。大人が本気になったら、怖いんだからな…」


 春休みの旅行は、まだ始まったばかり…。



END


いや〜、すみませんでした(ぺこり)
オヤジくさいえっちって難しいですね〜(悟なら簡単なのに/笑)


さて、今回はお二方から爆笑ネタをいただきましたv

『先生、思う存分、その若さを昇くんに思い知らせてあげてくださいな。
んで、昇くんの腰を立たなくさせて「ふ、私もまだ若いな…」と(笑)
そして「言動がオヤジくさい」と、昇くんからカウンターパンチを喰らって欲しい』

提供 by 食堂のさゆりちゃん(別名:まつさま/笑)


そして、神崎さまの爆笑ネタは…。

『「若さでアタック」ということは、鄙びた山奥の温泉へ、車も通れないような山道を
二人で2時間ぐらいかけて登っていって、センセが疲れ果てて、
着いた途端眠り込んでしまい、にょぼるが一人淋しく怒りながら、露天風呂7箇所制覇にアタック!
とかやるってヤツですか?!』

先生〜、これでは『若さの証明』になりません〜(笑)


以上、のぼきゅん、喘いでいるだけのSSでした(^^ゞ
バックで戻ってねv














































































「や、あ…っ」
追い上げられて迎える絶頂はこれで何度目だろう。
激しく突き上げてくる直人の動きに翻弄されて、昇はすでに意識を飛ばしかかっている。
湯の中でのぼせるまで絡み合っていたのはほんの序の口だった。
その後、ふわふわと夢現のまま連れ込まれた布団の中で、
また数えられないほど求められ、身体を繋ぎ…。
「…っ」
身体が軋むほど抱きしめられ、その衝撃でほんの少し取り戻した「思考」の片隅で、
昇は直人の解放を知る。
漸く止まった動きの中で、胸の奥だけが激しく鼓動を残している。
…このまま意識を手放せば、そのまま眠れる…。
昇はそう思った。
だが…。
「まだだぞ、昇」
……今のは空耳か? 幻聴か?
「まさかこれで寝かせてもらえるなんて思ってないだろうな? ん?」
……この体力はいったいどこから来るのか。
その時、昇の頭によぎったのは『絶倫』の二文字。
…ちょっとくらい若くなくてもいいかも…なんて思ってしまったことは、
絶対絶対ナイショだ…。


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