このまま朝まで抱いていて
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僕は真っ白なバスローブに包まれて、ベッドの端に腰掛けていた。 送り火の火が落ち、京都の街にネオンサインの灯りが戻る。 シャワーを浴びた僕の体を、コンサート後の心地よい疲労感が覆う。 『パタン』 浴室のドアの音がした。 僕の心臓は少しだけ早く打っていたけれど、それが急に跳ね上がる。 悟の体温がすぐ側にやってきた。 「葵…」 静かだけれど、強さのこもる、僕の大好きな声。 「悟…」 僕は顔を上げられずに、俯いたまま、そっと頭をもたせかけた。 「こっち向いて」 手だけが添えられる。 親指でスッと頬をなぞられ、僕の体がピクッと震える。 「葵の顔、見せて」 耳元で囁かれて、またピクッと震える。 僕は恐る恐る顔を上げる。 瞬間、悟が息を詰めたのがわかった。 僕は抱きしめられ、そのまま悟の体の下になる。 悟の柔らかい唇が、僕を追い上げてくる。 僕は唇を噛みしめて、耐える。 声を…出さないように。 僕は、自分に絡みつく温もりを追っていた。 暖かい…悟…。 いつの間にか僕たちを隔てるバスローブは取り払われ、その温もりをもっともっと近くに感じたくて、しがみつく。 「怖い…?」 悟が囁いた。 僕は悟の瞳を探した。 すごく恥ずかしかったけれど、目を見て『もう大丈夫』と悟に伝えたかったから。 「悟が…欲しい」 悟は僕の胸に顔を落とした。 「僕も、葵が欲しい…」 「…………っ……」 シーツを握りしめる僕の指を、悟の指がすくう。 そのまま指を絡めて強く握りしめる。 「葵…声、出して」 僕はいやいやをするように、首を弱く振る。 悟は僕を追いつめる指の動きを止めて、小さく僕にキスをした。 「…さ、とる…」 僕は、上がってしまった息の間で、漸く好きな人の名を呼ぶ。 「我慢しなくていいんだよ。僕は葵の声が聞きたい」 僕はもう一度、首を振る。 ダメだ…一度声を出してしまうと、僕はもう、きっと、見失ってしまう。 自分も、悟も。 そして、きっと、あの時の恐怖に飲み込まれてしまう。 悟の温かい手を忘れて、あの時に戻ってしまう。 「あっ…!」 いきなり動いた悟の指に、僕は思わず声を上げてしまった。 「大丈夫、僕がずっと抱きしめているから」 まるで僕が怖れていることを見透かすようだ。 「だから、声を聞かせて…」 言葉通り、僕をしっかりと抱き留めながら、再び悟の指が僕を追い上げにかかる。 「ん……っ」 それでも声を閉ざそうとする僕。 悟はもう一度僕にキスをすると、柔らかい声色で囁いた。 「葵、少しだけ、我慢して」 僕の腰のあたりがふわりと浮いた。 「どこまでも、一緒に行こう」 悟の言葉と同時に、僕の全身に衝撃が走った。 「い…っ! あっ…」 僅かに意識をよぎる悪夢。 反り返る僕の体を、悟が追いかけて抱きしめる。 「あおい…あおい…愛してる」 告げられる愛の言葉が、僕を悪夢から引き離す。 悟がゆっくりと僕の中に満ちてくる。 やがて優しく揺すられる僕の体。 体中に悟を感じて、いつの間にか僕は小さく声を上げ続けていた。 「葵…一つになれたね」 悟の言葉に、多分、僕は、微笑んだ。 悟…。 このまま朝まで…。 |
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