このまま朝まで抱いていて〜悟サイド





 葵はベッドの端に腰掛けていた。

 精霊を送った後、シャワーを浴びて、真っ白なバスローブに包まれて。

 僕はその隣に静かに腰を下ろす。

「葵…」
 静かに呼んでみる。
「悟…」
 葵は顔を上げずに、頭をもたせかけてきた。

「こっち向いて」
 頬に手だけを添えて、言う。
 親指でスッと頬をなぞると、葵がピクッと震える。

「葵の顔、見せて」
 耳元で囁やくと、またピクッと震える。

 恐る恐る上げた葵の顔はほんのりと朱に染まり、すでに目が潤んだ状態になっていた。

「……!」

 そのあまりの可愛らしさに、僕は息を詰めた。

 暴走しそうになる自分を心中できつく叱り、力加減を忘れてしまったかのようにぎこちなく葵を抱きしめる。
 そしてそのまま倒れ込む。

 耳を甘く噛み、唇と舌とで、葵の白いうなじから、瞼、耳、頬、鼻、顎、喉、へとゆっくり気持ちを伝えていく。

 バズローブの紐を解き、ゆっくりと布を剥ぐ。

 露わになる細い肩に、僕の鼓動は跳ね上がる。

 葵がしがみついてきた。

「怖い…?」
 不安になって訊ねてみる。

 もし、頷かれてしまったらどうしようか。
 もう、僕の心も、身体も止められない。

 葵のすべてを手に入れるまで、もうこの身体を離すことなんか出来ない。

 葵は少し体を離し、じっと僕の目を見つめてきた。
 目元がほんのりと染まった。

「悟が…欲しい」

 そう告げた葵の眼は透き通るように月光を映した。
 今夜は満月も、送り火のオレンジ色に染まったまま。
 深い水の底に誘い込まれるような錯覚。 
 ……このまま水底に沈んでもいい……。

 葵の言葉は、僕を完全に熱くした。
 僕はうっとりと葵の胸に顔を埋める。

「僕も、葵が欲しい…」

 僕は唇に葵の胸の敏感な部分を含んだ。
 舌先であやすように舐め取り、時折きつく吸い上げると、葵の身体は正直にその感想を伝えてくる。

 時間をかけてゆっくりと追い上げていくと、緊張していた葵の身体に変化が起こり始めた。

 葵が感じている…。
 それだけで、涙が出そうなほど嬉しくなる。

 僕は胸への愛撫はそのままに、葵自身にそっと触れた。
 その瞬間、葵はビクッと身体を揺らせた。

 身を引くような仕種を見せた葵の身体を強く抱き留め、同時に強く握り込む。

 葵の口から吐息だけが漏れた。

 声を…上げようとしない…。
 僕は葵を追いつめた。
 それでも葵は、恐ろしいほどの忍耐で声を閉ざす。

「…………っ……」
 シーツを握りしめる葵の指を、僕は葵を抱き留めていた腕を離し、すくい取った。
 そのまま指を絡めて強く握りしめる。

「葵…声、出して」
 葵はいやいやをするように、首を弱く振る。
 僕は葵自身を追いつめていた右手の指の動きを止めて、小さくその口にキスをした。

「…さ、とる…」
 葵は、上がってしまった息の間で、漸く僕の名を呼ぶ。

「我慢しなくていいんだよ。僕は葵の声が聞きたい」
 そう言っても、葵はまだ弱々しく首を振る。 

 感じてしまうことに対する抵抗感なのだろうか…?
 それとも…。
 葵…何を怖がってる…?

「あっ…!」
 やっと声が聞けた。不意打ちを食らわせた僕の指に、葵は身を捩る。

「大丈夫、僕がずっと抱きしめているから」
 怖いことなんて、何もない。 
 思い出すことなんて、何もない。

「だから、声を聞かせて…」
 僕はもう一度葵をしっかりと抱き留めながら、再び葵の欲望を育てるように追い上げにかかる。

「ん……っ」
 それでも声を閉ざそうとする葵。

 葵の限界が近いように感じた僕は、その手を離し、更に奥を目指した。
 僕自身を受け入れてもらう場所を…。

「…っ…」
 眉を寄せた葵の表情に、僅かに罪悪感がよぎる。
 どんなに優しくしても、苦痛を与えることに変わりはない。

 でも、僕はもう…やめることなど出来なかった。
 葵に何の言葉もかけずに、その首筋をペロッと舐めた。

「ひぁ…」
 僅かに力の抜けた瞬間を狙って、僕は指を進める。 
 そして、その指を増やし、少しでも苦痛が和らぐことを願って優しく解していく。

 僕はもう一度、葵に深くキスをした。そして、囁く。
「葵、少しだけ、我慢して」

 少しだけ、ほんの少しだけ。
 すぐに気持ちよくなれるようにしてあげるから。

 葵の腰を持ち上げて、僕はその身体を拓かせるようにして、自分の方に引き寄せた。
 そして、スラッと伸びたしなやかな足を、僕の身体に絡めさせる。

「どこまでも、一緒に行こう」
 そう言って、僕は自分の欲望のすべてを葵に向けた。

「い…っ! あっ…」
 葵の眼が見開かれた。
 一瞬その瞳に落ちる暗い影。 
 反り返り、逃げようとする葵の体を、追いかけて抱きしめる。

「あおい…あおい…愛してる」
 葵…今君を抱いているのは僕だ。 
 愛しているから抱いてるんだ。
 僕だけを感じて…。何もかも、忘れて…。

「葵…息、吐いて」
 息を詰めてしまう葵にそっと言ってみる。

 葵は言われたとおりにしようとしているようだが、思ったようにいかないらしい。
 浅い息を何度も繰り返して苦しそうに胸が上下する。

 このままでは葵が弱ってしまう。
 可哀相だと思ったが、僕はグッと腰を突き上げた。

「は…あ…っ」
 途端に押し出される葵の息。

 全身に回っていた力が少し緩んだのを感じて、僕はゆっくりと自分のすべてを葵の中に埋めて行く。

 葵が安心したような息をついた。
 それを合図に、僕は葵を労るように動き始める。
 その間も絶え間なく葵自身を愛撫しながら。

 そして僕は、葵の中に暖かくきつく包まれて、自分を見失いそうなほどの快感に翻弄される。

 いつの間にか葵は小さく声を上げ始めた。
 細く消え入りそうな、けれど艶やかな声。

「葵…一つになれたね」

 そう言うと、葵は、微笑んだ。 

 やがて僕の歯止めが利かなくなり、動きが激しさを増しても、葵はそれを全身で受けとめてくれた。

『葵の気持ちが離れたら…』

 ふと、訊ねられた言葉が頭の隅をよぎった。

 そんなことは、させない。
 僕は、どんなことをしてでも葵を繋ぎ止める。  
 そう、閉じこめてでも…。

 そして僕と葵は、同時に駈け昇った…。

 葵…。
 このまま朝まで…離さない…。




END


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