そして、朝。





 何だか聞き慣れないアラームの音がしたような気がして、僕はぼんやりと目を開けた。

 部屋の中に満ちているのは、朝の光…。

 僕は悟の腕の中。それは悟が京都に来てから、昨日までの朝と同じ。

「おはよう、葵」

 まだぼんやりしたままで顔をあげると、そこにはすっきりとした悟の笑顔。

「おは…よ…」

 あれ…? 何だか声が掠れてる…。
 僕は『コホン』と一つ咳をする。

「だいじょうぶ?」

 悟が背中をさすってくれる。

「うん…だいじょう…ぶ」

 まだ掠れてる。

 次に僕は、ゴシゴシと目を擦る。
 何だか瞼も腫れぼったい気がする。

「こら、そんなに擦っちゃダメ」

 悟が僕の手を、目から引き剥がす。

「あ…」

 ベッドが揺れた瞬間に、僕は腰のあたりに違和感を感じた。
 だるい…。何だかすごくだるい…。

 そう思ったとき、悟が僕の身体をぎゅうっと抱きしめた。
 そして、温かい手が僕の背中から腰へ落ちる。

「身体、大丈夫? 痛いところ、ある?」

 痛いところ…?
 ………。

 僕はそこで一気に目が覚めた。

 昨夜、僕たち、ついに…。
 うわぁぁぁぁ…。

「どうした? 葵」

 どうした…って言われても、そんなん…。

 僕が顔を伏せたままでいると、悟は不安そうな声を出した。

「気分悪い? ごめん、昨夜無茶してしまったから…」

 む…無茶やったのか…あれって。
 そりゃ、無茶かもしれん…。だって、あんなのがあんなことになってあんなとこに…。

 ひえー、顔から火がでそうや〜。

「葵…?」

 悟の心配そうな声が降ってくる。

 そのあまりに不安そうな声に、僕は仕方なく、おずおずと顔をあげる。
 だって…どんな顔すればいいのか、わかんないから…。

 ほんの少し目があうと、悟は安心したように微笑んだ。

 それを見て、僕も…ホッとする。

「さっき、昇に電話したんだ。今夜、帰るからって…」

 悟が僕の髪を手で梳きながら言う。

 僕が小さく頷いて、部屋はまた、静かになる。
 僅かに聞こえるのは、空調の機械音だけで…。

「いつもでも…一緒にいような…葵」
 
 ふいに悟が言った。

 僕は答える代わりに、強く、強くしがみついた。




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