きみにすべてを 2


ちょいとばかりR−18でございますので、ご注意をばv




 ふと、腕の中の温もりが身じろいだ。

 広いベッドの中、僕が背中抱きしているのは、何よりも大切な…僕の半身…僕の弟…僕の恋人。

 触れ合う素肌の、しっとりとした温もりが心地よい。

 相変わらず、葵は一度熟睡してしまうと半端なことでは目を覚まさない。

 今だって…。

 こうしてクルッとひっくり返して正面から抱いても…ほら、やっぱりぐっすりお休みだ。



 そろそろ夜が明け始める。
 クリスマスの朝だ。

 去年の今日も、こうして僕は葵を抱いて眠っていた。

 あれから1年。

 その間にも僕たちは色々な壁に直面し、その都度悩み、もがき、必死になって、最良と思われる道を探し続けた。

 そして、やっと葵を僕たちの弟として公にすることができて…。

 それまでの葵の想いの色々を考えると、今でも胸が潰れそうになる。

 けれど、こうして腕の中で安らいだ寝息を立てる葵を見ているだけで、気持ちが凪いで、幸せが体中に溢れてくる。


 葵…。僕の大切な弟。そして恋人。


 この関係は、それこそ誰にも告げられないけれど、2人がこの先もずっと一緒にいられるようにするためならば、僕はこの『兄弟』という隠れ蓑を最大限に利用するつもりでいる。

 それが、どれほど世間を欺くことになるか…なんて、どうでもいい。

 葵を守るためならば、僕は嘘だって平気でつくだろう。

 何もかも、葵との『これから』のため。

 いつでも葵が幸せでいられるように、僕はこの手で葵を守っていく。




「う…ん…」

 小さく身じろいだ葵をキュッと抱きしめる。

「…ふ…」

 それだけで、熱い吐息を漏らした葵に、僕は簡単に煽られる。


 昨日、僕たち管弦楽部は一年でもっとも大きな行事――定期演奏会を終えた。

 管弦楽部全体の出来は言うまでもないけれど、僕自身も、今の段階でできることはすべて出し切ったつもりで、また明日からは新しい目標に向かって努力していこうと思っている。


 それに、明後日からは演奏旅行もある。

 これは、言ってみれば『管弦楽部の修学旅行』のようなもので、数年に一回、不定期で行われるのだが、大概は海外や国内の大物OBが招聘してくれるものだ。

 今回も海外数カ所でOBが激しい招聘合戦を繰り広げ、結局、香港で手広く事業をやっている人物――2期生らしい――が、演奏旅行のすべてを負担してくれることになった。

 僕たち3年生はすでに役から退いているから気楽なものだけれど、葵は現部長の浅井や副部長の茅野と共に、準備作業にも追われていたから、かなり疲れている。

 本人は疲れていないと言い張るのだけれど、じゃあ、なんで昨夜はベッドに入るなり熟睡だったんだ…と、突っ込みたいところだが、本人は未だに夢の中だ。

 しかも、腕の中で散々甘えた仕草で僕を煽っておきながら、キスの最中に寝てしまったんだっ。

 どうしてくれよう…。

 不意に強い衝動に駆られ、目の前の、葵の細い肩に小さく噛みついてみた。

 もちろん、柔らかく…だけれど。


「…ん…」


 少しは刺激になったのか、葵が身を捩った。

 葵の肩から唇を離さないままに、そっと柔らかい肌を辿り、胸の小さな尖りを舐める。

「…くぅ…」

 子犬が甘えるような声をあげた葵に、僕のどこかがプツッと音を立てた。

 もう、我慢なんてしないからな。

 葵、覚悟して。


 柔らかく舐めていたものをキュッと吸い上げ、もう片方を指で摘み上げると、葵がうっすらと目を開いた。


「…さと…る?」

「ん? 何?」

 唇を離さないままに返事をしたのが刺激になったのか、ビクッと身体を振るわせて葵が小さく喘いだ。


「ど…した…の?」

 まだ少し、眠りの中に取り込まれているらしき葵は、無防備な視線を僕に向けてくる。

「別にどうもしないよ。ただ、葵が美味しそうだから食べてるだけ。だから葵は寝ててもいいよ」

 やっぱり唇は離さないまま、片手をスルッと腰から下へと落とせば、さすがに葵も目をぱちりと開いた。


「…や…あ、んっ」

 いきなり握り込まれた刺激に、甘ったるい声が上がり、自分の出した声に葵は紅くなる。

「ちょ…っと、待っ…」

「ダメ」

「なん…で」

 いきなり全力疾走を始めようとしている僕についてこられなくて、葵は懸命に僕を宥めようとするのだけど、それも逆効果だとわかっているのだろうか。


「お仕置きしなきゃ…だからな」

 葵が目を瞠った。

「え? えええっ? なんのお仕置きっ?」

 すっかり覚醒したらしい。
 確かに、寝起きもそんなに悪い方ではないからな。


「そりゃ決まってるだろう。父さんが来てたこと、教えてくれなかったんだからな」

 本当はそんなことどうでもいいんだけれど。

「え〜! だってそれは僕のせいじゃ…」

「だめ。僕たちの間では隠し事なし…だろ?」

 これは本当。
 何もかも知っていたいと言うのはエゴだとわかっているけれど、でも、すべてを知っていたい。


「そんなああああ」

「それと、昨夜散々僕を煽っておきながら、さっさと寝てしまったこと」

 これが一番許し難い。

「…へ? 煽っ……た?」

「そう」

 ジッと見つめると、葵は視線を泳がせて、『あ、煽った覚えは…』なんて、ごにょごにょ言っている。

 そんな葵に、僕がふと表情を緩めて微笑むと、葵も表情も少し弛む。

 もしかして、許してもらったと思ってる?

 甘いね、葵。


「いいよ、許してあげる」

 言った途端に、葵がホッとした様子で可愛く微笑んだ。

「ただし」

『えっ?!』と、言わんばかりに見開かれる真っ黒な瞳。

「責任は取ってもらうよ」

「えええええええええっ!?」


『それって同じことじゃないのっ』とか『ちょっと待って、悟っ、落ち着いて話し合おうっ』とか、葵の無駄な抵抗は続いたけれど、僕はお構いなしに、葵の左足を自分の肩に担ぎ上げた。

 同時に可愛い唇も塞いでしまう。

 すぐに舌を差し入れて、暖かい口の中で葵の小さな舌を掴まえて吸い上げると、それだけで抵抗の何割かは止んだ。

 それでもまだ、納得し切れていないのだろう、細い足は小さくもがいているのだけれど、足の間に差し入れた手で、僕を受け入れてもらう場所をそっと撫でると、観念したかのように抵抗が止んだ。

 そして、細い腕が僕の首に回されて、キュッと引き寄せられる。

 可愛い…葵…。
 





「や…あ…っ……んっ…」

 頭を振る葵の目尻から涙が散らばる。

 限界を訴えて、小さな口が、『もう…ダメ…』と繰り返す。

 その度僕は、揺さぶりを小さくして葵の限界を引き延ばしにかかる。

 緩やかに、殊更緩やかに。


「さと…る…っ」

 焦らしにかかった僕を、小さく喘いだ葵が、涙の幕が張った瞳で咎めるように見返してくる。

 けれど、それすら僕には扇情的で。


「まだ、ダメだよ」

 ゆっくりと、間隔をとって、けれど的確に葵の弱いところを突いてやると、その度に葵の細い指は僕の背中に食い込み、足はギュッと僕の腰に絡みつく。

 それらがすべて、『焦らさないで』と告げているのを知りながら、僕はそれでも葵を緩やかに追いつめる。

 それはもちろん、僕自身をも追いつめることになるのだが、今はともかく、終わりの時を先延ばしにして、少しでも長く、葵と一つでいたい。


 相変わらず僕の中は葵に対する醜い独占欲で溢れているけれど、それすらも『兄弟』という格好の隠れ蓑の中に詰め込んで、僕は、葵を守り、愛し抜く。

 僕のすべてをかけて。


「やっ、あ…っ」

 突然強く押し入ると、掠れた声を上げて葵の身体が跳ねた。

 それをグッと強く抱き込んで、今度は激しく追い込みをかける。


 濡れた声、濡れた肌、濡れた音。


 葵の身体が固くなり、その強い締め付けに、僕は葵の限界を知る。

 仕方ない。いかせてあげるよ。

 でも、これで終わりじゃないからね。


 Merry Christmas,Aoi……….


 僕はこれからもずっと、この手を握って生きていく。




END

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