2004あーちゃん誕生日企画

君愛2から約2年後。ちょっぴり大人になったあーちゃんをどうぞ(*^_^*)

〜あーちゃんの聖陵祭〜
あーちゃん、高1の聖陵祭




「こら、藤原。ちょっとじっとしてろって」
「でも、先輩。くすぐったいです〜」
「すぐすむから」
「とか何とか言いながら、さっきから全然進んでないじゃないですか〜」
「それにしても、お前ってほんとに細っこいな」
「あー、どこ触ってんですかっ」


 堪りかねた僕が身を捩ると、隣から救いの声がかかった。

「ほら〜、いいかげんにしておかないと、先輩に言いつけちゃうよ〜」

 声の主は宮階先輩。この春卒業した奈月先輩の跡を継いで、管楽器セクションリーダーを務めるホルンの首席奏者だ。


「え〜、それは勘弁っ。先輩に知られたら殺されちゃうよ」
「だったら、さっさと藤原くんの仮縫い、済ませてあげてね」
「へ〜い」


 消灯1時間前。
 僕と宮階先輩は、3−A委員長の部屋で衣装の仮縫い中なんだ。
 



 毎年10月に行われる聖陵祭。

 そのメインイベントとも言われている高等部による演劇コンクール。

 高等部に進学した今年、初参加になる僕は漠然と『音響とか照明とかおもしろそうだな』って、頭っからスタッフになることを決めてかかってたんだけど、蓋を開けてみればとんでもないことが待ちかまえていた。

 なんと、僕自身が、舞台に立つ羽目になっちゃったんだ…。

 ほんと、『無責任に見て楽しむ立場』だった去年までが懐かしい。


 過去4年間、演劇コンクールは聖陵史上稀にみる黄金期だったっていうのは、卒業生も在校生も等しく認めるところ。

 つまり、悟先輩たち兄弟が高等部に上がった年から、去年、奈月先輩や浅井先輩が最上級生になるまでの4年間、それはすごい盛り上がりだったんだ。

 最初の1年は、僕はまだ入学していなかったから、話でしか知らないんだけど、次の年の『春琴抄』で奈月先輩が周囲を圧倒した舞台から去年まで、商業演劇も真っ青な出来のものから、つまんないテレビのお笑い番組なんて吹き飛んでしまいそうなほど気合いの入ったコメディまで、全部の舞台が永久保存版だと言えるほどの凄さだったんだ。


 特に一昨年からは、当時の生徒会と院長先生の陰謀で『教職員組』まで参加になって、それはもう、大騒ぎ。

 結局その年も、去年も、奈月先輩のクラスが優勝をさらったんだけど、今年は奈月先輩が卒業しちゃったから…ってことで、『教職員組』が本気で優勝を狙ってくる…っていうもっぱらの噂。

 今年も主演だろう光安先生は、『誰がそんなもの本気で狙うか』って、相変わらず憮然としてるけど、松山先生との不動のカップルはすでに聖陵の伝統になりつつあって、主演カップル以外の先生方は超ノリノリなものだから、これは案外…なんて、僕も思っているところ。




「藤原、ちょっと右手あげてくれ」
「はーい」

 はあ…それにしても情けないカッコ…。

 でも、まるで人形状態の僕と違って、隣では宮階先輩が『スカートはもう少し短い方がいい』だとか『袖はもっと膨らませて』とか注文を出している。

 …それにしても、先輩、めっちゃ可愛い…。

 僕は正直言って、自分のこんな姿、鏡で見る勇気なんてとてもじゃないけど、ない。

 唯一の救いは、『絶対見に来る!』って言ってた先輩が、大学の学内オーディションの日と重なったから来られなくなったってこと。

 こんな情けない姿晒しちゃったら、これから先、ずっとネタにされちゃうよ…。
 


「さ、出来た。藤原、苦しいところはないか?」

 んーと…。

「はい、大丈夫みたいです」
「よっし、脱いでいいぞ」
「はーい」

 はあ…やっと脱げる…。


「二人とも頑張ってくれよ。なにしろうちのクラスは『男役の目玉がいない』ってハンデを背負ってるんだからな」

 委員長の言葉に、仮縫いの針をはずしながら、3年の先輩が答えた。

「カワイコちゃんの双璧はGETしたんだけど、相手役がいない…ってのはまったくネックだよな。おまけにB組には新ゴールデンカップルがいるからな」

 このカワイコちゃんの双璧っていうのは、不本意ながら、宮階先輩と僕のことらしい。
 もっとも宮階先輩は全然気にしてないみたいだけど。

 ちなみに『新ゴールデンカップル』っていうのは、アニー先輩と佐倉先輩のこと。

 去年も組んでたんだけど、何しろ去年はまだ『奈月先輩と浅井先輩』っていう伝説のカップルがいたから、割を食っちゃったんだよね。

 でも、『今年は違う』って、アニー先輩なんて異様に気合い入っちゃってすごいんだ。

 ただでさえ、管弦楽部長って立場に忙殺されてるのに、セリフなんて1日で頭に入れちゃったらしいし。


 はあ、セリフと言えば…。やっぱ覚えなきゃいけないんだよね…。

 うちのクラスの演目は――言うのも恥ずかしいんだけど――『赤毛のアン』。

 もちろんアンは宮階先輩。
 で、僕はと言うと、アンの親友のダイアナって役。

 どうせやらなきゃいけないんだから…と思って、僕は真面目に原作を読んでみたんだけれど、渡された台本を見て、目が点になった。

 いくら『アン』の宮階先輩に釣り合うだけの『ギルバート』役の生徒がいないからって、これはあんまりだと思う…。

 オールA組オリジナルの『赤毛のアン』は、なんと、アンとダイアナの『道ならぬ恋物語』に書き換えられていたんだっ!

 で、僕はてっきり宮階先輩からクレームがでると思っていたんだけど…。

 いざというときにはものすごく頼りになる宮階先輩も、普段はこれでもかっていうくらい、超天然さんだから…。

『へえ〜、おもしろそうだねぇ。がんばろうね、藤原くん』

 って、にっこり微笑まれておしまいになった。

 ほんと、先輩が来られなくってよかった…。



                    ☆ .。.:*・゜



 ついに聖陵祭の当日がやって来た。

 異様に気合いの入っていたアニー先輩の舞台も、『誰がそんなもの本気で狙うか』って言ってたわりには超熱演だった光安先生の舞台もめちゃくちゃ盛り上がった。

 そして、くじ運のまずさで最後の登場になった僕たちのとんでもない『赤毛のアン』は、さぞかしこの盛り上がりに水を差すことになるだろうと思っていたんだけれど…。


 女装同士のラブシーンでここまで盛り上がれる学校って…ホント、普通じゃないって…。


 そして、脱力しながら舞台を降りた僕を、袖で待っていたのは…。


「せっ、先輩っ。どうしてっ?!」

 そこには「来られない」と言っていたはずの、浅井先輩の姿。

「オーディション、予定より早く終わったんだ。で、駆けつけてみれば、ちょうど間に合ったってことで…」

 …って言いながら、先輩っ、今笑ったでしょっ!
 あー! しかも携帯で写真撮った〜!


「やだー! 先輩っ、その写真、消去っ!」
「だーめ。これは待ち受け画面に登録…っと」
「ぎゃー」


 舞台袖で騒ぐ僕たちの後ろで、奈月先輩がクスクス笑っていたのを知ったのは、もう少し後のことだった…。



END


高校2年生編も読む?


このお話、2004年以来毎年限定UPしてますが、
限定でなく、常時UPにできる日ってくるんでしょうか…(汗)

…って書いていたのですが、やっと常時公開の日がやってきました(笑)
よかったね、祐介(*^m^*)

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