2007あーちゃん誕生日企画

君愛2から約3年後。さらにさらに大人になったあーちゃんをどうぞ(*^_^*)

〜あーちゃんの聖陵祭
あーちゃん、高2の聖陵祭




 9月に入ってからというもの、僕の親友のご機嫌は下降線を辿る一方だ。

 どうやら本人には自覚がなさそうなんだけど、学内でも女の子たちが『ここのところ、浅井くんが不機嫌で近寄りにくい』ってざわめいてる。

 僕は彼の『この手の不機嫌』には慣れているから何とも思わないんだけど、普段は『そこそこフェミニスト』な祐介だから、彼女たちには結構な違和感なのかもしれない。

 僕にまで『浅井くん、なんかあったの?』って聞いて来るんだけど、まさか本当のことを言うわけにもいかなくて。

 そう、僕にはわかってるんだ。祐介のご機嫌斜めの理由が。



 10月初旬に行われる僕たちの母校の文化祭である『聖陵祭』。
 その目玉である『演劇コンクール』で、よりによって藤原くんと初瀬くんがコンビを組んじゃったんだ。

 去年のゴールデンカップル『アニーと司』が卒業してしまった今年は、俄然藤原くんと初瀬くんのコンビに注目が集まってるらしい。

 彼らは学年が違うから、来年はクラス割りの関係でコンビが組める可能性は低い。だから余計、今回は盛り上がっているんだとか。

 でもって、そんな聖陵の情報をあれこれ僕らにリークしてくれているのは、僕らが高1の時に高3だった、コントラバスの本山先輩。

 先輩はちょうど今、教育実習で母校・聖陵学院へ戻っていて、教科は英語なんだけど、クラス担当がたまたま藤原くんのクラスにあたっちゃったものだから、毎日のように練習の様子とかを携帯のカメラやムービーに収めて祐介に送りつけてくるんだ。

 祐介としても、なかなか会うことのできない藤原くんの可愛い姿をムービーなんかで見られるのは嬉しいことなんだけど、ただ、その送られてくるシーンっていうか…。

 ほら、劇の練習だから、その、そう言うシーンも数々あるわけで、またよりによって本山先輩ってば、そう言うシーンを選りすぐって送ってくるみたいで…。

 まあ、それも仕方がないといえばそうなのかもしれない。
 だって本山先輩ってば、藤原くんのこと相当気に入ってたみたいで、管弦楽部の送別会の時なんて、お膝抱っこして離さなかったくらいだもんね。

 で、その後どうやら誰かから祐介と藤原くんのことを聞いちゃったらしくて、その結果がこれっていうわけ。

 早い話が、『腹いせ』ってヤツだ。
 ふふっ、先輩も大人げないんだから〜。

 そうそう、演目は何かっていうと、これがまた『ロミオとジュリエット』だったりするわけ。
 もちろんロミオが初瀬くんでジュリエットが藤原くんなのは言うまでもないけど。


 ちなみに今年の教職員組は『白雪姫』らしいんだけど、そうなると当然白雪姫は翼ちゃんで、王子さまは光安先生。
 で、きっと魔女は院長先生だと思うんだな。

 昇の情報によると、今回出番が少ないので光安先生は結構ご機嫌なんだとか。
 反対に今年も不機嫌垂れまくりは翼ちゃんで、7人の小人役の先生たちはそんな翼ちゃんを構い倒せるってことで猛烈に張り切ってるらしい。

 楽しみだな、聖陵祭。



                   ☆ .。.:*・゜



 コンクールの練習もたけなわの9月のとある日。
 陽もとっぷりと暮れた、すでに放課後とは言い難い、聖陵学院高等学校の校舎内にまだ残っているのは、メインのキャストと演出陣。
 そして、教師からその役目を押しつけられた監督役の教育実習生だ。


「本山先生」

 彰久は生徒時代の本山を知っている所為か、なかなか『先生』とは呼び辛そうにしているのだが、入れ替わりの入学だった初瀬英彦にとっては今回初めて会った『先輩』なので、『先生』と呼ぶことになんの違和感もない。


「お、初瀬」

「つかぬ事をお伺いしますが」

「なんだ?」

 辺りを憚るように声を潜めた英彦に、本山もまた、耳を寄せて来て声を潜めた。

「違っていたら申しわけありません。もしかして今、藤原先輩の写真、もしくは動画をどこかへ送信されませんでしたか?」

 ここのところ気にはなっていたのだ。練習風景を携帯に収めては、何やら嬉しそうに、メールを打っているであろうその姿が。

 そして、そんな英彦を、本山は面白そうに眺めている。

「ふーん、さすがだな初瀬。藤原のボディガードって噂は嘘じゃないんだ」

「ええ。その他に、SP・守り役・付き人・守護霊…などなど、色々と言われていますが」

 誰に何を言われてもなんとも思わない。自分でこうと決めたことなのだから。

「なるほどな」

 揶揄の言葉にも動じる様子のない、頼もしい後輩にニヤッと笑って見せて、教師のタマゴは正直に告白した。

「確かに藤原の写真、もしくは動画を送ったぞ」

 それがどうしたと言わんばかりに気障にウィンクしてみせる本山に、英彦は呆れたようにため息をついた。

「ということなら、相手はズバリ、浅井祐介先輩」

 ビシッと指さされ、本山はわざとらしく目を見開いて見せる。

「おお〜、わかってるじゃないか〜。ってことは、お前も藤原と浅井のこと、知ってるってわけだな」

「ええ、まあ一通りは」

 一通りも二通りも、流れた涙のわけまでも全部知っているのだが、それを言う必要はないだろう。

「っていうより、当事者の一部だったんじゃないか? もしかして」

 守護霊たるものが知らないはずがなかろうと匂わせてみれば、案の定英彦は慌てる様子もない。それどころか…。

「否定はしませんが、先生はどうなんですか? 在校中は随分藤原先輩を可愛がっておられたという話も先輩方から聞いていますし」

 しっかりと反論してくれるではないか。
 もちろん本山もそれで慌てるタマではないが。

「俺か? もちろん俺はめちゃくちゃ藤原を可愛がっていたさ。 ただな、あの当時の藤原はまだ中1で、後輩っていうよりは愛玩動物のノリだったんだよなあ。小さくて可愛くてふわふわしてて、お膝抱っこにぴったりサイズでさあ。まあ少なくとも肉欲が湧くような対象ではなかったな」

 この言葉に初めて英彦の表情が変わった。

「ってことは、今はそうだってことですか?」

 だが間髪入れずの突っ込みにも、やはり本山はどこ吹く風…だ。

「あの当時よりはな。ともかく、会わなかった3年半の間にこんなに成長して美少年になってるとは思わなかったわけだ」 

 背丈はそんなに変わってないみたいだけどな…と、彰久が聞いたら顔を真っ赤にして怒りそうなこと――実際彼は3年半の間に10cm近く伸びているのだ。それでも165なのだが――を、付け足して、本山は腕を組んでうんうんと頷いている。


「で、それが浅井先輩への動画の送信となんの関係が」

「…お前なあ〜。ほんと、噂通り食えないヤツだなあ」

 と言いつつ、言葉とは裏腹にえらく嬉しそうな本山センセは、英彦にずいっと顔を近づけて、にんまりと笑った。

「それ、わかってて聞いてるだろ」

「…ええ、まあ」

 確かにだいたいの想像はついているけれど。

「いいよ、ボディガードの初瀬くんには、特別に教えてやるよ」

 言いながらガシッと英彦の肩を掴んでみれば、聖陵時代から群を抜いて大柄だった自分とほぼ同等の体格を持っていて、高1のクセにちょっと育ち過ぎじゃねーか…なんて、ぶつくさとお門違いの文句を垂れながら、その身体を物陰へと引きずり込んだ。


「つまり、久々に再会した藤原がこうも好みに育っていてだな、これはチャンスだと思ってみれば、なんとすでに売約済みだって言うじゃないか。しかもそれが浅井…だぜ? 驚いたのなんの」

「そんなに驚きですか?」

 悔しいが、お似合いと言えばお似合いなのに。

「そりゃそうだろ? だって俺、浅井は奈月とできてると思ってたからな」

「ああ、なるほど」

 というか、今でも大半の関係者はそう思っているだろう。
 だいたい彰久が祐介とどうのこうのと言う話も、そう大っぴらに出回っている話ではない。 
  
 この、管弦楽部OBがどこからそのネタを仕入れてきたのか知らないが。


「ってさ、浅井と奈月って、いつ別れたんだ? ここにいる間か? それとも大学に行ってからか?」

 いや、それ以前に最初からつき合っていたわけではないのですが…とはわざわざ言えなくて、英彦は軽く首を傾げて見せた。

「さあ、そのあたりはさっぱり」

 もちろん、さっぱり…というわけではないのだが、その件に関しては自分はあくまでも部外者であって当事者ではないので、人に『実はこれこれこうでした』と話せるわけもなく、無責任に口にはできない。

「にしても先生。このこと、藤原先輩は知ってるんですか?」

 自分とのラブシーンの数々を、よりによって最愛の人に送りつけられているとは。

「知ってるわけないじゃん。知れたら俺、藤原に恨まれるじゃないかよ」

「なら、どうして…」

 はっきり言って、英彦としても勘弁して欲しいところなのだ。
 先輩としては、とても尊敬できるあの人を、無闇に煽って欲しくない。
 
 まあ、今頃そんなことで動じる二人ではないだろうが…。


「そうだなあ…、ま、可愛さ余って憎さ百倍ってとこか」

 無責任に言い放ち、あはは…と笑い飛ばしてひらひらと手を振ると、本山は彰久の元へ駆け寄って『藤原〜、今日も可愛かったぜ〜!』なんて言いながら抱き上げているではないか。

 まったく懲りない教師のタマゴである。

 あれがもし、本物の教師になって来年ここへ現れたら…と思うと、なんだかため息もさらに憂鬱になりそうな気がする。

 こうなったら、英語科に空きがでないのを願うばかりだ…と、英彦は心の中で呟いて、抱き上げられてもがいている彰久の救出に向かった。



                   ☆ .。.:*・゜



 件名『メイク・衣装合わせ』

 そんなメールが祐介の元にやってきたのは聖陵祭まであと数日に迫ったある日の夕方のこと。もちろん差出人は本山先輩。

 眉間に深い皺を刻んだ祐介が、ずいっと僕に携帯を差し出して、無言で何かを促す。

 はいはい、見てくれって言うんだね。ここんところ、過激な画像が続いたからなあ。

 って、メールを開いてみれば…。

「…うわっ、びっじ〜ん!」

 や、メイクって怖い。

 僕自身、過去にCMのモデルなんて情けないことをやった経験から、メイクでどれだけ顔が変わるか…というのは知ってるんだけど、それにしてもこれは凄い。っていうか、ちょっとヤバイ。

 去年の『赤毛のアン』のダイアナ役の時は、メイクと言えばちょっとしたアイメイクと口紅くらいで、どっちかっていうと衣装の可愛らしさに重点を置いてたところがあったんだ。
 珠生も藤原くんも、素の可愛らしさで勝負!って感じで凄く似合っていたし。

 ところが、僕が開いてみたメールには、強烈に美人なジュリエットが貼り付けられていて、これはちょっとクラッとくるなあ…なんて。

 だいたいこの、おでこ丸出しに引き詰めたロングヘアーってのが普段の藤原くんとのギャップを余計に深くしていて、正直、知らずに見たら僕だって藤原くんだとはわからないかも知れない。
 高2になった今でも、実年齢よりはかなり幼く見える顔立ちなのに、これはヘタしたら二十歳くらいに見えるし。
 
 そうだ、これ、僕の携帯に転送してあとで悟に見せよう。
 多分…というか、絶対わかんないはず。
 ふふっ、びっくりするぞー、悟。


「え…? 美人?」

 あ、祐介いたんだっけ。

「あ、うん、すっごい美人」

「…見せて」

 手のひらを出して、携帯返せってポーズだけど…。

「や、あのさ、祐介は見ない方がいいんじゃないかなあ〜とか」

「どうしてだよ」

「うーんと…」

「いいから見せろってば」

 って、僕の手から携帯をひったくり、液晶画面に目を落とした瞬間。

 …祐介ってば、なんで鼻押さえてるわけ?
 顔赤いの、ちょっと不気味なんですけどー。
 


 もちろん僕たちは、聖陵祭を見に行った。
 初日は一応校内行事なので、卒業生と言えどおいそれとは入校できないのだけれど、僕たちには『コンサートを控えた管弦楽部の指導補助』という大義名分があるからね。

 そしてその後、聖陵祭の代休の二日間、祐介が音信不通になったのは……言うまでもない?



END

TONTOさまからいただきました!
あーちゃん@デコだしジュリエットはこちらから!

高校3年生編も読む?


おまけの後日談

あおい:初瀬くん、演劇コンクール初体験、お疲れさま〜。

ひでひこ:ありがとうございます。ほんと、疲れました。あんなに大変なものだとは思ってませんでした。

あおい:でも、主演男優賞だろ? がんばった甲斐、あったじゃんv

ひでひこ:…はあ、まあ…。

あおい:で、藤原くんはついに主演女優賞だって?

ひでひこ:はい。去年は助演女優賞だったんで、出世したな…なんてみんなに言われてがっくりされてました。

あおい:あはは、可哀相に〜。

ひでひこ:でも、その後の新聞部のインタビューで、『こうなったら来年は主演男優賞を狙う』って宣言されてましたよ。

あおい:藤原くんが?

ひでひこ:はい。実は現在の中等部生徒会の副会長が、学院史上もっともちびっ子って言われている可愛い子なんですよ。で、藤原先輩は来年その子が高等部に上がってきて、クラスが一緒になれば、その子と組んで男役をやろうって腹づもりのようなんですけど…。

あおい:…でもそれってさ、ヘタしたら『赤毛のアン』の再演…なんてことに…。

ひでひこ:…ですよね。今度はアン役で主演女優賞ってことになるかと…。

あおい:…ま、その方が誰かさんが荒れなくて助かるけどね…。

ひでひこ:…激しく同感です……。



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