先生と昇の温泉旅行





「え? 温泉?」
「そう、温泉だ」

 昇が直人からそう言われたのは、京都へ向かう新幹線の中だった。

 クリスマスのあとすぐに葵と栗山が京都へ帰り、年末には悟、守、そして香奈子が京都へ向かった。

 そして昇たちは、最後に京都へ向かったのだが…。

「1泊2日だけどな。静かでいいところを知ってるんだ」

 上機嫌で話す直人を見て、昇は『う〜ん』と首を捻る。
 その様子に直人は怪訝な顔を見せる。

「なんだ?昇は温泉嫌いか?」

 そして、温泉嫌いの日本人など聞いたことがないぞ…と呟き、まあ、昇は日本人には見えないけどな…と続け、最後に、でも中身は根っからの日本人だからなぁ…と一人で完結してみせる。 

「えっと」
「ん?なんだ?」

 優しい顔向ける直人に、相変わらず昇は、まだよくわからない…といった表情のままだ。

 それもそのはず…。

「僕、温泉って行ったことない」
 と、昇は言ったのだ。

「なに〜?」

「だってさ、聖陵へ入ってからは旅行なんて行く暇ないし、行ったのは修学旅行だけだし、小学校の頃は旅行って言えば、フランスだとかウィーンだとか、行きたくないのにあの人のところに連れて行かれてさぁ…」

 そう言ってしゅんと俯いた昇の頭を直人は優しく撫でる。

「そうか…。じゃあ、これからは私といろんなところへ行こう」
「…ホントに?」

 昇はまだ怪訝そうな表情を崩さない。

「でも、直人ってば忙しいじゃん。休み中だって部活あるしさ…」

「そうだな、確かに忙しいな。 だが、正月は休みだし、春だって部活はないぞ。 もっとも今年の春はお前たちが修学旅行へ行くから無理だがな」

 そう、3ヶ月後に3年になる昇たちは、春休み早々に修学旅行へ行くことになっているのだ。

「修学旅行か…。そう言えば悟が今から萎れてるんだ」
「悟が?どうして」
「4泊5日も葵と離れるからじゃない?」

 言ってから二人で呆れる。

「悟ってば、ホントに葵にベッタリなんだから」 
「私だって、昇にベッタリだぞ」

 そう言いつつ耳元に唇を寄せてくる直人。

「ちょっと、なおと…っ」

 そう、ここは新幹線の中だ……。


おわり

…なわけないっしょv

(2001.11.24UP)


え? バックで戻る? ふふっ