〜お化け屋敷〜

その後





 竜千代さんから事の真相らしきものを聞いた後、僕らは栗山先生の家(今は誰も住んでいないので、由紀さんたちが管理してくれている)に帰ってきたんだけど、葵はしばらくボーッとしていた。



「葵、大丈夫?」

 そう言うと、ぼんやりと僕を見返してきた。
 まさか、魂抜かれちゃったとか言わないよな。


「イチゴ飴なら、また明日買いに行こう」
 
 お化け屋敷を走って出てきた後、葵の手にイチゴ飴がなかったんだ。
 きっと、暗闇の中で落としたんだろう。
 僕のはさっき、由紀さんにあげて来てしまったし。


「うん…」

 それでも葵はまだぼんやりとしている。


「疲れたろ? 寝ようか」

 座り込んでいる葵を抱き起こして立たせる。


「…うん」


 2階の葵の部屋。
 手触りのいいタオルケットをはがして布団の上に葵を座らせると、葵は漸く口を開いた。



「…あの人、ずっとあのままなのかなぁ?」

 あの人?

「誰のこと?」

 僕は葵の隣に座って、その身体を抱き寄せる。

「僕がさっき話した人」

 人って…。

「あれって、人じゃないんじゃない」

 そう言うと、葵は悲しそうな顔をして首を振った。

「僕、あの人の気持ちわかるんだ」
「あおい…」

「相手の気持ちが確かめられないまま、自分の気持ちだけどんどん大きくなって…。確かめたいのに確かめられない。確かめたせいで、永遠にその人を失ってしまったらどうしようと思うと、もう、なんにも考えられなくなってしまって……」


 それは、去年の秋の、葵の気持ち…?

 僕の気持ちを確かめることが出来ずに、命まで落としそうになった葵の、強くて深い想い…。


 僕は堪らなくなって、葵を膝の上に抱き上げた。


「僕も、あの時みんなに助けてもらわなかったら、あの人のように、ずっと彷徨うことになってたかも知れな…」


 その言葉を最後まで言わせるのはイヤだった。

 強引に言葉を唇で遮り、深く長いキスを続けて、葵の身体が弛緩するのを確かめてから漸く僕はその唇を離す。


「あの時、葵にもしものことがあっても、葵が一人で彷徨い続けることなんてないさ」

「さとる…?」


 見上げてくる潤んだ瞳は、僕の身体に簡単に火をつける。


「その時は、僕も一緒だ」


 葵の頬に、一筋涙が伝った。

 誰にも渡さない、絶対離さない。
 たとえ、葵が逃げようとしても…。 
 




 浴衣の胸元に手を差し入れて、探り当てた敏感な部分をそっと撫でると、葵は白い喉を晒して小さく喘ぐ。

 そのまま少し動かすだけで、簡単に浴衣の胸元は開き、葵の鎖骨から肩が露わになる。

 そこへ口づけて、少し歯を立ててみると、葵は僕の頭をしっかり抱いて、小さく身体を震わせた。


「葵を絶対一人になんかさせないから…」


 そう耳元に埋め込みながら、葵の帯を解き、晒される綺麗な肢体にキスの雨を降らせる。


「…うん…。一人に、しない…で…」


 葵が快感に耐えるように途切れ途切れ紡ぎ出す言葉が、今夜も僕の理性を簡単に吹き飛ばす。

 葵…。僕を迎えて…。

 いつまでも、僕たちは二人で一つ。
 心も身体も、二人で一つ。



いやいや、まだまだ。
風鈴にタッチ!